102話 見知った顔
ロクサーヌと分かれた後、スカーレットは店の中へと戻りユーリ達にエルの無事を説明していた。
「ロクサーヌの話を聞いて、私が推測するに、エル様は知人に会いに行かれたようです。エル様は護衛の術も持ち合わせていますし恐らく無事でしょう」
「はぁ!? 何を言っているのスカーレット!? だからってそんな――――」
淡々と言葉を並べるスカーレットに対し、怒りを抑えられないセリーヌ。しかしそんな彼女をユーリは真顔で口を挟み静止する。
「――――大丈夫。エルはそんなに弱くない。自分の身くらい自分で守れるよ」
ユーリは自らの修行をつけてくれたエルの強さの一端を理解していた。現にユーリはエルに対して一撃も与える事は出来なかったのだ。
「ユーリ、あなたまで……!」
「落ち着いて下さいセリーヌさん。ユーリさんはこの状況で考えもなしにこんな事を言うとは思えません。だから大丈夫です……!」
この場にエルがいたのなら、『果たしてそうだろうか……?』とツッコミを入れそうな話ではあったが、怒りの矛先をユーリに向けるセリーヌを、ボンズは必死に説得した。
「それじゃあエルは、絶対戻って来る……?」
「えぇ勿論です。エル様は私達を置いて消えてしまわれるような方ではありません」
心配そうに話すリリィにスカーレットは真剣な表情で返す。その言葉を受けセリーヌも落ち着きを取り戻し、皆の気持ちは"エルの帰りを待つ"という事に決まった。
スカーレットはエルの行方を凡そ理解出来た事と、皆を納得させられた事と、ロクサーヌとの関係を上手くはぐらかせた事、それら三つの意味でホッと胸を撫で下ろしたが、それと同時に不可解な点に気が付いた。
(そういえば、ロクサーヌはジャペンの外でエル様と出会ったと言っていた。話の流れから察するにエル様と分かれたのは夜になってから。その時間は既に門が閉じられ、結界も張られていたはず……。ならロクサーヌはどうやってジャペンに入ったの……?)
スカーレットが不審に思っているロクサーヌの侵入経路。彼女がいくら考えようとも答えの出ない謎である。
それもそのはず、ロクサーヌは特にこれといった策を講じていなかったのだ。
ロクサーヌは何も考えず、当たり前のように、門以外の場所からただ普通にジャペンへ入っただけだった。
だが、ふにゃ丸の話にもあった通り、街には結界がはられていた。本来であればロクサーヌがジャペンに入る事は不可能。無理矢理にでも侵入を図れば、たちまち身体は木っ端微塵になっていた事だろう。
ならば何故、ロクサーヌはジャペンへ入る事が出来たのか。それはスカーレットが見えている情報だけでは、一生をかけても辿り着けないものだった。
つまり、スカーレットやロクサーヌ、ユーリ達やエルですら知らない所で起きた事が原因という事である。
◇
ロクサーヌがエルのギャル講座を受け、ユーリ達が門番との一悶着の末、途方に暮れていた頃。
ジャペンの門前は誰もおらず、もぬけの殻となっていた。
そこへ一人の女性が姿を現した。
「うーん。何だか凄く立派な門ねぇ……。ココしか入口はないの〜?」
巨人族でも優に潜れそうな門を見上げ、女性は思案顔を浮かべる。
「まぁいいわぁ〜。とりあえず中に入りましょ〜」
そんな独り言を呟きながら、彼女は堂々と門に手を触れる。
「――――いやっ……! いったぁ〜い……。何よもぅ〜」
彼女が門に触れた途端、バチッと電流が走り、彼女の手を弾き返した。
「何よこれ〜、結界〜? 私〜痛いのは嫌なんだよねぇ〜」
痺れる手を押さえながら、彼女はのんびりとした口調で結界の核を探し始める。
「あった〜。あれが核ねぇ〜? 全くも〜、許さないんだからぁ〜」
そう言うと、彼女は街の四方の空中に設置されている結界の核に向かって手を鉄砲に見立てて照準を合わせる。そして片目を瞑った状態で口を開く。
「バーン……バンバンバーン……!」
彼女が銃声を模した声を発すると、指先から桃色の波動が四つの結界の核へと一直線に放たれた。そして目にも止まらぬ速さで核まで到達した波動は、一瞬にして核を桃色の光で包み込んだ。
「ふっ。――――んふっ。これで街を囲む結界は無くなったわぁ〜」
彼女は銃口――――ではなく、ただの指先に息を吹きかけると、微笑みながら結界の核を見つめた。
すると核は徐々に熱を持ち始め、遂には桃色の光の中で音もなく爆散した。
「さぁ〜て、邪魔な結界も無くなった事だし~、お邪魔しようかなぁ〜」
そして彼女はゆっくりと門の勝手口からジャペンへと侵入した。
この一連の出来事が、ジャペンの結界が効果を失い、ロクサーヌが無策で侵入出来た真相だった。
◇
そして現在。
そんな事を知る由もないスカーレットは様々な考えを巡らせていた。
(結界を破るには核を破壊するしかない。だが、ロクサーヌにそんな素振りは無かった。なら一体誰が……? もしや、私達の他に魔族が……?)
「どうしたスカーレット?」
ひたすらに思案し続けるスカーレットを気にかけ、ユーリが声を掛ける。そして彼女は、彼らにも意見を聞こうと口を開いた。
「それが……どうしても腑に落ちない事が――――」
刹那――――店内にいた人々が次々とその場に倒れ始めた。そしてそれはユーリ達も同様に。但し、スカーレットだけを除いて。
「…………っ!? 皆さん、どうしたのですか!? しっかりしてください……!!」
静まり返った店内にスカーレットの声が木霊する。そんな中、もう一つの音が混ざり始める。
コツ……コツ……コツ……コツ……
その音はヒールを履いた女性の足音だった。そしてその足音は徐々にスカーレットへと近付く。だが、スカーレットは突然の出来事に動揺し、その足音に気が付けないでいた。
「あらぁ……? あなたもしかしてスカーレットじゃなぁ〜い? 久しぶりねぇ。元気だったぁ〜?」
そしてヒールを履いた女性はスカーレットの背後で立ち止まり、声を掛けた。
「ふっ……。そういう事か。全てが繋がったぞ……。結界が破られ、ロクサーヌが侵入出来た事も、ここにいる人達が突然倒れてしまった事も、私だけが無事である事もな――――マゼンタ……!!」
そしてスカーレットは全てを悟った様子で後ろを振り返り、彼女の名を呼んだ。
「あらぁ、覚えていてくれたの〜? 嬉しいわぁ〜? さすがは元同僚ね〜」
「忘れるはずがないだろう……。お前は自らの子を私に預けた挙句、魔王城を突然飛び出し行方を眩ませたクソ女だからな……!」
「んっふふ……。ひどい言い方ぁ……。私泣いちゃうわよ〜?」
スカーレットに睨み付けられ暴言を浴びせられるも、全く気にしていない様子で泣き真似を始めるマゼンタ。そんな彼女にスカーレットは不快感を募らせる。
「チッ……。悪びれもせずにふざけた事を……。お前は本当に変わらんな?」
「変わったわよ〜。だってあれからもう十年よ〜?」
「どこがだよ……。くそ忌々しい女め……」
そう言いながらスカーレットが睨み付けているマゼンタの外見は、ふわっとした桃色の髪に大きく潤んだ瞳、豊満な胸を惜しげも無く見せ付ける露出度の高い服に身を包んでいた。そしてその口調からも彼女からは柔らかい印象を受ける。
「そういえば、スカーレット〜。あなたに預けた子……えっと〜名前何だっけ〜?」
「チッ……。自分の子の名前も忘れているのか……。お前の子の名は、エル様だ。お前が名付けたんだろうが、クソ女……」
「あ〜そうそう〜。そのエルくんは、元気にやってる〜?」
自らの子の名を聞き、思い出したかのような素振りを見せるマゼンタ。スカーレットの目付きはより一層鋭さを増した。
「よくもまぁそんな事を……。しかも他人行儀に……。胸糞悪いからお前には教えてやらん」
「え〜何でよ〜、私の子……いいえ。私と"魔王様"の子なのに〜!」
突如としてスカーレットの前に現れた女性マゼンタ。
その正体は、スカーレットの元同僚であり、エルの実の母親だった。
果たして、彼女の目的は一体何なのか。
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