98話 新たな可能性
俺はロクサーヌの目的を問うた。すると彼女は怒らないでと前置きをした上で、自らの夢について語り始めた。
最中、彼女の口から"世界征服"という言葉を聞き、俺は戸惑ったが、それはどうやら言葉通りの意味ではないようだ。
「楽しいことで埋め尽くす……? ちょっと意味がわからないのだが?」
「え、わかんないー? あーしはさ、楽しいとか可愛いとか、そういう気持ちって種族とか関係なく、世界共通だと思うんだよねっ」
――あぁ、なるほど。
確か現代にもそんな言葉があったような気がするな……。
それに"可愛い"って言葉は、世界に最も広まった日本語だとも言われていたな。
「なら、つまり貴様は人間達を襲い、殺したりせず、楽しいことで世界征服をする。そういう事だな?」
俺が確認の意味も込めて、そう聞くとロクサーヌはこくりと頷いた。
「うん……。やっぱエルピの真意とは真逆だから、おこだよね……? でもあーし、人間を殺したりなんかしたくないんだよね……」
「それは俺も同じだ。俺も人間を殺したくはない」
「そ、そーだよねっ……! 魔族が人間を殺すなんて当たり前の事だもんねっ……! あーしが間違って…………。え……? 今なんて……?」
ロクサーヌは俺の話を聞いていなかったのか、それとも予想していなかった答えが返ってきた為に動揺したのか、明るく取り繕って言葉を並べた。
しかし、すぐにその間違いに気が付き、俺に再度その言葉を求めた。
「だから……。俺も人間を殺したくないと言ったんだ。当然だろ? 俺は元々人間だぞ?」
「そっか……。そうだよね……。あーしも一緒……。あーしのママもパパも人間。あーしも元々は人間だった……。そりゃあ……殺したくないに決まってるじゃんねぇー……! うぇぇーん……!」
漸く俺の言葉を理解したのか、ロクサーヌはポロポロと涙を零しながら呟くと、最後には俺に抱き着いて、声を上げながら号泣し始めた。
俺は優しく彼女の頭を撫でて、口を開いた。
「俺は貴様の想いがよくわかった。貴様も俺の真意に気が付いたか?」
「ううっ……。ぅん……。ちゃんとわかったよー……。エルピは、あーしと同じ気持ちだったよー。ふぇーん……」
俺の小さな胸の中で泣きじゃくるロクサーヌは、まるで子供のようだった。
――よかった。これでロクサーヌとは戦わずに済みそうだな。
それにしても五芒星の一角であるロクサーヌが、こんな想いを秘めていたなんてな。
その後、暫く泣き続けるロクサーヌが落ち着くのを待つこと数分。漸く泣き止んだ彼女は、顔を上げ口を開いた。
「エルピ、ありがとね。あーしの夢、笑わないで聞いてくれて」
「誰が笑うか。貴様の夢は俺と同じだ。どんな手を使ってでも、必ず叶えるべきものだ」
「そーだよね……! エルピがそう言ってくれただけで、あーし元気出てきたよ! さっきまでマジぴえんって感じだったけど、話してよかった!」
「そうか。――――して、ロクサーヌよ。貴様はこのジャペンで一体何をしようとしていたんだ? それについてはまだ何も聞いていないぞ?」
俺がそう言うと、ロクサーヌは自らの頭を軽く叩き舌を出すと「あ、そだったね。てへっ……!」と言った。そして彼女は、その計画について説明を始めた。
「ここジャペンはねー、人間の領土の中で一番死霊が集まる所なんだー!」
「そう……なのか?」
「そー! だってすぐ近くにドロロン大霊園があるっしょー? そこには沢山の魂がふわふわ集まってて、マジやばみーって感じなんだよねー!」
――ドロロン大霊園……。
何という壊滅的なネーミングセンス……。
それに加えて、さっきまで凹んでたから大人しかったけど、落ち着いてきたらまたギャル語がちらほらと……。
聞き逃さないようにしないとな……。
「でね、でね! あーし、いい事思いついちゃってさー! 聞きたい? 聞きたい?」
「あぁ、聞きたいね。何なら俺は、ずっとそれを聞いているのだが?」
「あれー、そうだっけー? まぁいいじゃん! でね、あーしが思い付いたのは、その死霊ちゃん達を使ってー、街ごとぜーんぶ使った"お化け屋敷"をする事なんだよねっ! 名付けて『恐怖の夜』! いいっしょ!?」
「あぁー……」
――ロクサーヌは人間達を楽しませようとしているんだよな……?
だとしたらその方法は間違っている気がするなぁ……。
それにホラーナイトはもう既に、関西の某テーマパークで毎年開催されてるんだよなぁ……。
「反応うっす! 何、どしたの? もしかしてあーしの計画がスゴすぎて言葉が出ない感じ!? ね、そーっしょ!?」
「違う……。まず、ロクサーヌはお化け屋敷を知っているのだな」
「まぁね! ママがどちゃくそアガる屋敷が異世界にはあるんだよーって教えてくれたんだよねっ! そこはお化けっていう死人達が人間を脅かして楽しんでもらう所らしいじゃん? そんな楽しいんだったら街全体でやろーよって話! わかる!?」
そう話すロクサーヌの目はキラキラと輝いていて、まるで夏休み初日の子供のようにはしゃいでいた。
「はぁ……。今から俺はかなり酷な事を言うぞ? まず、貴様が言いたい事はわかる。だが、異世界のお化け屋敷で脅かして来るお化けは全て作り物だ。そこに来る人間達はそれがわかっているから楽しめる。本物の死霊を目の前にして人間達は楽しめると思うか?」
「えー? 楽しめるっしょ? だってあーしの死霊ちゃん達、どちゃくそかわちいもん!」
「そう思っているのは貴様だけだ、ロクサーヌ……。基本的に人間は、霊を怖がる」
「それマ……!? だとしたらあーしの計画オワタじゃん……」
俺の話を聞き、ロクサーヌは酷く落胆し肩を落とす。彼女はいい事をしようとしていただけに、何とも度し難い結果となってしまった。
「まぁでもやろうとしている事はいいと思うぞ。全て作り物という前提がある上で、街全体を使ったホラーナイトは大成功を収めている例も異世界にはあるしな」
「マ……!? それヤバくない!? あーし、超行きたいんですけど……!!」
「残念ながら行けない。だから貴様は、ジャペンから部下を引き上げて魔王城へ帰るのだ。貴様の夢は必ず俺が叶えてやるから……」
「えー……。もう……わかったよー。あーあ。せっかく死んだ人達の魂を呼び戻して、蘇らせてあげようと思ったのになー。死んだ人に会えたら、絶対嬉しいのにー」
ロクサーヌは俺に帰るように命令され、頬を膨らませていじけていた。そしてそんな彼女から聞き捨てならない言葉を聞き、俺は何度目かわからない動揺を見せた。
「い……今、貴様何と……?」
「えー? だからー死んだ人達の魂を――――」
「貴様……もしかして死んだ人間を蘇らせる事が出来るのか……?」
俺はロクサーヌの言葉を遮って、再度、ハッキリさせたい所を強調した。
「死んで間もない人とか、身体から抜けた魂が世界に残っているなら確実に呼び戻せるよー? ただ、死人としてだから、肉が無くなって骸骨だったり、腐敗してゾンビになったりはするけどねー」
「じゃ、じゃあ……!! 人工的に作り出した物を依代として、そこに魂を移す事は可能か……!?」
俺はロクサーヌが魂を呼び戻し、死体に定着させる事が出来ると言質をとると、身を乗り出して彼女に迫った。
「ひゃっ……!? で、出来るよ、多分……? さすがにただの石とかじゃ無理ぽだけど、核として魔石を埋め込んだりすれば……?」
「本当だな……!?」
「う、うん……。てか、エルピ、近いよ……? ちゅ、チュー出来ちゃう距離だから……コレ……」
「あぁ……! もしそれが本当に可能なら、キスでも何でもしてやる……!」
「は、はぃー……!? エルピ、それはヤバすぎだってガチで……!!」
俺はロクサーヌにとんでもない事を口走ってしまったが、そんな事すらも気付けない程に浮き足立っていた。
――もし俺が考えている事が可能となれば、俺とロクサーヌの夢に、ぐっと近付くかもしれない……!
いや、確実に種族間の和解の糸口になるはずだ……!!
「そうと決まれば、こんな所で油を売っている場合ではないな。俺は少しここを離れるから、貴様はさっさと部下達を連れて魔王城へ戻るのだぞ!」
「えぇー!? そんな急に……!? てかあーしの家をこんな所って……! ――――ちょっ……エルピー!?」
俺はそのままロクサーヌの呼び掛けにも応じず、部屋を飛び出し、アイツの元へと【瞬間移動】した。
◇
そして、ギャル部屋に取り残されたロクサーヌは、指先で唇に触れ、顔を赤くしていた。
「エルピ……あーしとチューしてもいいとか……。これは、責任……取ってもらわないとだよね。ママ……?」
そう言うとロクサーヌは空を見るように、天井を見上げた。
「ふぅ……。さてとっ! とりまエルピの命令通り、死体ちゃん達を回収しないとだねっ!」
そしてロクサーヌも、エルに遅れること数分。家を飛び出し、夜のジャペンへと向かうのだった。
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