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game  作者: ash
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Ⅲ.決行

Ⅲ.決行


 

あっけないものだ。バイクを盗んだ時のほうがよっぽど興奮した。警察の事情聴取をうけながら雅嗣はどこか虚無感のようなものを抱いていた。

「雅嗣君。もう一度学校を出てから家に着くまでのことを説明してもらえるかい?」

三度目になる質問に雅嗣は淡々と答える。

「はい。その日は学校を出るとコンビニで筆記用具を買って、いつも通り電車に乗り自宅からの最寄り駅で降りました。その駅の構内にある書店で参考書を買って自転車で帰りました。帰ると自宅の前にパトカーが停まっていたので驚いて駆け込むとすでに父と母はカバーのようなものがかぶされていて。・・・亡くなっていました。」

うつむき加減に顔を伏せしばらくためを作った後、いかにも怪訝な顔という顔を作り刑事に質問をする。

「さっきから同じ質問をされてますがもしかして僕は犯人だと疑われているんですか?」

若い刑事は優しく微笑みながら弁解した。

「いやただ確認しているだけだよ。雅嗣君が帰宅したのは17時7分。通報があったのが事件発生直後の16時38分で雅嗣君は丁度電車に乗っていた時にあたるね。それはこのレシートが証明してくれている。」

そういって刑事が見せた2枚のレシートはさっき雅嗣が財布から取り出し渡したコンビニと書店の物だ。時間はコンビニが16時9分、書店が16時48分となっている。学校から自宅まで徒歩・電車・自転車を使って約50分だからどんなに急いでも16時30分ごろに発生した事件に関与しようがない。

そう雅嗣のアリバイは完璧だ。学校帰りのコンビニと書店で買い物をすることで完全犯罪を成し遂げたのだ。

「ご両親は最近なにかトラブルに巻き込まれていたとか誰かと喧嘩していたりしなかったかい?」

刑事が雅嗣の顔を覗き込む。ここでも少しためを作り苦悩を浮かべた表情で答える。

「わかりません。特に父親はほとんど家にはいなかったので。」

下手になにか偽証するよりもここは正直答えておいたほうが得策だろう。


しかし、正直帰宅した時にすでにパトカーが到着していることには少し驚いた。近隣の住人が銃声を聞いてすぐに通報したのかと思ったがそうではなかった。

通報したのは俊二だった。

父親と母親を銃殺したあの瞬間に弟は自宅の2階にいたのだ。そしてすぐに警察に通報したため正確な事件発生時間が判明したのだ。

その事実を知ったとき氷のように冷たくやわらかな肌で全身を抱きしめられたような感覚だった。俊二は毎日部活がありそんな早い時間には自宅にいるはずはなかったのだ。

しかしたまたまその日は体調が悪く学校を早退し部屋で休んでいたのだ。


両親を殺害することは決心していたことなのでなんのためらいもなく引き金を引けたが、もしあの時俊二もあの場にいたらと想像するとまた冷気を感じた。きっと躊躇してしまっただろう。そこで計画は崩れてしまったかもしれない。だが俊二は幸か不幸か2階の部屋にいたため銃声を聞いただけだったのだ。弟を殺さずに済んだ。そのことが少しずつ冷気を薄れさせていった。

いや、考えようによっては俊二のおかげで事件発生時間が明確となりアリバイがより完璧になったのだ。

そうだ。なにも臆することはない。自分が捕まることなどありえないのだから。


警察を出ると叔父が迎えに来ていてその日はホテルに泊まることになった。車には先に事情聴取をさんざんされた俊二が憔悴し切った表情で座っていた。叔父はこちらを気遣うよういくつか言葉をかけてくる。だが、叔父の内心は二人のことではなくこれからのことでいっぱいのはずだ。専務であり親族である叔父が亡き社長に代わり就任することは火を見るよりも明らかなのだ。父親はその独善的な手腕で経営を盛りたて、時に非情にも側近を切り捨てる。そんなカリスマ性をもった独裁者であった。叔父の時雄は父の唯一の兄弟であり会社でも権力者であることには間違いないが、父親に比べ人当たりがよくそれなりに人望はあるものの際立てて仕事ができるわけではなかった。そんな叔父を父親はあまり重要視せず自分から遠ざけているようにも見えた。

叔父はホテルの部屋まで俊二を送っていくと携帯を片手にせわしなく走り去って行った。


雅嗣はホテルの浴槽につかりながら短くも長かった今日一日を思い返していた。不可能犯罪だといってもトリック自体は陳腐なものだ。バイクを使っただけのこと。コンビニで買い物を済ませた後、学校近くの公園で制服の上にライダージャケットとパンツをはき、前日に用意しておいたバイクの元へと行きフルフェイスのヘルメットをかぶりバイクを走らせ、自宅へと向かう。普段であれば50分かかる道のりも渋滞をものともしないバイクであれば話は違う。16時9分にコンビニで買い物をし、30分もたたないうちに自宅で拳銃を両親に向けることが可能となった。自宅にいた時間はおそらく3分もかからなかったはずだ。ただ目的を果たすことだけを考えていたのであの時2階に警察が潜んでいようが誰がいようが気付くはずもなかった。犯行後すぐに工場にバイクと着替えを置き、最寄りの駅へと向かい書店で何食わぬ顔で買い物をした。実際に何も感じてなどいなかったのだからおそらく自然体であっただろう。あとはいつも通り帰宅しただけだ。


事件から一週間。相変わらず取材陣が自宅に押し掛けワイドショーを賑わせていた。

【株式会社●●代表取締役 佐川夫妻 大胆にも自宅で銃殺】

【就任記者会見 新代表取締役に佐川時雄氏】

【新代表佐川時雄氏、犯行時刻空白の一時間】


しばらくはホテル暮らしが続きそうだ。


雅嗣はホテルで自宅から持ち出したノートパソコンを開くとメールを打った。

相手は計ン銃の送り主に犯行の報告ともう一つあった。

『もうすでに知っているだろうが計画は成功したよ。須藤里佳子さん。俺があんたに気付いていないとでも思っていたのかい?』

それは送り主の正体を暴くことだった。

雅嗣には拳銃の送り主を推測するのは難しい話ではなかった。わざわざ拳銃を送りつけ自分の手ではなく第3者に実行させたのは佐川夫妻が殺害されたとき真っ先に疑われる人物。二人を殺したいほど憎んでいる須藤は殺害の動機がある人物として疑われるのは元愛人であることから間違いない。だからこんな回りくどい方法を選んだのだ。その推測を実証するために雅嗣はある相談を持ちかけた。それは決行日を送り主に決めされること。父親は仕事柄生活が不規則で自宅にいる時間を予想することが難しかった。バイクを使ったアリバイ工作をするためには確実に父親が自宅にいる時間を知る必要がある。息子である雅嗣であれば容易ではないが父親の予定を知ることはできたであろう。しかしあえて送り主に聞くことで、相手が父親のスケジュールを知り得る人物。秘書の須藤だと確信するためだった。須藤は文面を男言葉にしたりと正体を隠すのに必死ではあったが安易に決行日を指定してきた。

そしてもう一人怪しい人物は叔父である佐川時雄。しかし彼はすぐに除外された。なぜなら彼にはアリバイがなかったからだ。決行日を指定した犯人があえて自分のアリバイを作らないは不自然すぎる。


1時間ほど待つが返信がないので再度メールを打つ。

『あんたが誰であろうとそれを明らかにするつもりはない。ただ対等な関係になりたかっただけだ。第一もう目的は達成されただろう?』

5分後須藤から返信が届いた。

『確かに私はあんたが殺したことを知っているのだからこれで対等ね。秘密を共有することで口封じにもなるわね。』

これでmission completeだ。



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