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game  作者: ash
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Ⅱ  メール

Ⅱ メール



しばらく呆然と拳銃とにらめっこしていた雅嗣であったが、落ち着きを取り戻し始めた。ドラマや漫画で見たことがある。警官がよく持っているリボルバー式の拳銃だ。いったい誰がこんなものを送りつけてきたというのか。エイプリルフールには早すぎるが誰かクラスメイトの悪戯だろうか。見たこともなければ、モデルガンすら手にしたことのない雅嗣にとっては本物かどうか確かめようがない。このまま眺めていても仕方がないので床に転がっている拳銃を手に取ってみる。想像よりも軽く小さい。こんなもので簡単に人が殺せてしまうのか。そう思うと人の命なんてあっけないものだ。

軽くタオルにくるみ直し机の上に載せると同封されていた封筒が目に入った。封筒があったことをすっかり忘れていた。自分で考えている以上に動揺していることに気づくと逆に雅嗣は冷静さを取り戻すことができた。そこで何か差出人の手がかりがないと封筒を調べてみた。どこにでもある真っ白な封筒で宛名には雅嗣の名があるが、やはり差出人の名前は書いてない。中には便箋が一枚入っていた。パソコンで書かれた無機質な文章が書かれた

「佐川雅嗣へ。まずは送られた銃が本物であることを信じてもらう必要がある。明日のニュースを確認しろ。隣の区で警官が襲われ拳銃を奪われた事件が報道されるはずだ。本物だと分かり次第下記のアドレスにメールしろ。警察に通報するなど軽はずみな行動をすれば貴様の命はないと思え。」

威圧的な文面の下にはメールアドレスが記載されているだけで差出人を推測できるような手がかりはなかった。


「おっ兄貴今日は早いね。」

朝起きてリビングへと行くと弟の俊二がトーストをかじっているところたった。部活の朝練でもあるのだろうかすでに身支度が整い小奇麗な髪形が目につく。いったい誰が何の目的でこんなものをと考えているうちにあっという間に夜が明けてしまったのでいつもよりも早いが朝食を取りにリビングへと降りてきたのだ。

「まぁな。」

適当に返事をするとテーブルの上にある朝刊をつかみ一面を確認するがどこにもそんな記事はない。何だやっぱり誰かの悪戯だったのか、人騒がせなことをしやがる、犯人は敦か悠斗に違いない。ほっとすると急に眠気が襲ってきた。これも受験戦争の一貫なのだとしたら効果はばっちりだ。

「あらっおはよう。今日は早いのね。今、朝食準備するわね。」

母親は雅嗣がリビングにいることを確認するとにこやかにキッチンへと向かい、フライパンを火にかけ始めた。

「なぁ兄貴。最近母さんやけに機嫌がいいと思わないか。」

そういわれれば確かにそうだ。朝から鼻歌まで歌って朝食を作っている母親なんてここ数年見た記憶がない。

「どうやら父さんが愛人と別れたらしいんだ。」

弟は顔を近づけながら囁くように報告した。近くで見ると俊二の顔は整っているものの、まだあどけなさを残したように眼は好奇心に満ち光をともし輝いている。

「なるほどな。確かに最近帰りも早いし家にいることが多いな。」

両親は子供を無知だと思い込んでいるが、二人とも親が不倫をしていることぐらいとっくに気づいている。そのせいでここ数年両親の仲が悪いことも分かっていたが、知らないふりを続けてきた。相手は秘書の須藤という女性で数回見かけたことがあるがほとんど面識はない。容姿はいかにも知的美人秘書といった印象で、今時秘書に手を出すなんて三流小説ですら使わないような設定だ。ただ、あの父親が長く秘書として使っているのだからそれなりに仕事ができるのだろう。彼女以外の側近たちの入れ替わりはかなり激しい。

「そういえば兄貴少し顔色悪いね。勉強のしすぎなんじゃない。兄貴は頭いいんだからそんなに頑張らなくても大丈夫だよ。」

俊二はなぜか昔から雅嗣のことを評価しているようだった。明らかに自分のほうが成績は良いのだが嫌味などではなく暖かく励ましてくれる。その純粋さにいつも戸惑ってしまう。雅嗣はすっと俊二から顔を離しながら朝刊をテーブルに置いた。

「はい目玉焼きとトースト。俊ちゃん牛乳もきちんと飲みなさいね。」

母親は雅嗣の前に皿を置くが目線は俊二を向いたままだ。

「そうだ母さん。また勝手に部屋掃除したでしょ。なんで俺の部屋だけ勝手にするのさ。」

雅嗣の部屋には勝手に入ることはあっても、掃除をしたり世話をすることはほとんどない。俊二は嫌がっているが母親は俊二にベッタリだ。スポーツも勉強もでき、人懐っこい性格の俊二が可愛くて仕方がないのだろう。どことなく顔つきも雅嗣は父親似で彫りが深く男らしいが、俊二は母親似で目が大きく髪もくせ毛で女性的な印象だ。

「そりゃ俊二が自分で掃除しないからだろ。」

俺が嫌味を言うと俊二は「やろうとは思ってたんだ。なのに先こされちゃったんだよ。」とふてくされながらテレビをつけた。こうやってすぐすねるところも母親には可愛いのだろう。

「うわっ。おっかない事件だな。警官が襲われたんだって。」

雅嗣は飲んでいた牛乳を思わず噴き出しそうになるのを堪え、俊二の目線の先に目をやると、確かに隣の区で警官が襲われ拳銃を奪われたと報道されている。

もう一度朝刊を確認すると二面に確かに事件が載っていた。

「怖い世の中だね。警官が襲われるなんて。やっぱり拳銃が目的かなぁ。」

俊二の澄んだ声は雅嗣をあっさりと通過していく。雅嗣はしばらく呆然としていたがトーストを口に押し込むと自分の部屋に駆け込んだ。


拳銃はおそらく本物だ。差出人にメールをするべきか。いや、まず拳銃をなんとかしなくては。雅嗣は無造作に机の上に置かれていた拳銃を手に取るとタオルに包み直した。このまま部屋においておいたのでは母親が見つけてしまうかもしれない。しかし、持ち歩くのも誰かの目に付く危険が高い。警察に引き渡すべきだろうか。

今この決断一つでこの後人生が大きく左右される。自分のなすべきことを順序立てて頭の中に整理していく。

差出人は警官を襲うような奴だ。もし警察に駆け込むとすると、こちちの住所や氏名がばれているのだから何かしらの報復される可能性が高い。まずは拳銃を隠し、メールをして相手の出方を見るほうが得策だろうか。

時計の針は躊躇なく進み学校へ向かう時間が迫ってきた。雅嗣は一旦差出人の言うとおりにすることを腹に決め部屋の中を見渡す。どこに隠すのが安全だろう。基本的に母親は部屋に入ってくることはあっても勝手に掃除したりましてや物色することはない。しかし、万が一のことも考えられる。

しばらく部屋中をうろうろ徘徊しながら頭を抱えていた雅嗣だったがふと表情に光がさした。そうだ。安全な隠し場所があったではないか。机に駆け寄ると引き出しを無心で開け閉めし始める。今まで使ったことはなかったが初めてこの机を買ってくれた父親に感謝した。


当たり前だが学校への電車の中でも授業中であっても頭の中は拳銃のことで頭が一杯だった。隠し場所を確保したことで一旦落ち着いたものの誰がなんのためにあんな物を送りつけてきたのかさっぱり分からなかった。さすがに受験戦争だといったって警官を襲ってまで拳銃を奪い送りつけて動揺を誘おうとする奴なんかいるはずがない。クラスメイトたちは今は自分のことでいっぱいいっぱいのはずだ。それ以外で考えられるのは。

やはりあのバイク関係だろうか。


雅嗣は一つ思い当たる節があった。だが誰かに相談することはできない。校則違反であるとか親に内緒であるとかそういったことではない。法を犯しているのだ。

きっかけは偶然だった。たまたま通りかかったコンビニに鍵がかかったまま放置されているバイクを見つけ深く考えずに盗難したのだ。バイクが欲しかったわけではなく刺激が欲しかったのだ。

バイクはビッグスクーターで右手のグリップをひねるだけでギア操作の必要はなく、予想通りすぐ乗りこなすことができた。自分が良識という一線を越え誰にも言えない悪事を犯したという罪悪感がなんとも言えないほど刺激的で心地よく、また感じたことのないスピード感と顔に受ける痛いほどの空気圧。体験する全ての事が体の芯を焦がすほどに燃やした。しばらく乗り回したあと駅にでも放置しようと考えていたがこの興奮を快感を手放すことができないと思い駅の近所にあるつぶれた工場に向かった。ここであれば隠しておいても見つかることもあまりないだろうし、もし発見されたとしても自分に行きつく手がかりも少ないはずだ。

その後は息がつまり胸が押しつけられるような閉塞感に襲われる度、人生になんの希望も見えず目の前に広がる無限の闇に絶望を抱く度、雅嗣はバイクに乗るようになっていた。


「今朝のニュースみた?隣の区で警官襲われたってよ。」

昼休み敦が悠斗に昨日と同じ質問をする。

「拳銃が奪われた事件だろ。見たけど俺にはこの程度の事件が入試にでるとは思えないな。」

悠斗は顔を上げることもなく食事を続ける。

「そうじゃないよ。もしかしたらすぐそばに拳銃をもった奴がいるかもしれないんだぜ。」

敦のにやけ面に2・3発拳をおみまいしてやりたくなったが話に乗らないわけにはいかない。

「確かに想像するのは面白いな。拳銃か。少しわくわくするな。」

悠斗が箸を置き眉を寄せた顔を上げる。

「わくわく?ぞっとの間違いじゃないのか?」

雅嗣も箸を置き二人を見据えて話を続ける。

「街を歩いていても後ろからいきなり撃たれるかもしれないし、学校にいきなり乗り込んできて銃を乱射するかもしれない。今このありきたりで平凡な毎日をぶっ壊してくれるかもしれないんだろ。」

二人は雅嗣から眼をそらし「ああ。」だとか「そうだね。」など適当にあいづちをうち話題を午後の体育授業に変えた。



授業を終え学校から駅へ向かう。さびれた商店街を歩きながら雅嗣の頭の中に疑問が浮かんだ。

はたしてバイクを盗まれたからといって拳銃を送りつけたりするだろうか。そもそも拳銃を送りつけるという回りくどい方法をとる理由が見つからない。もっと直接的に警察に通報するとかバイクを取り返すとかしたほうがよっぽど早いはずだ。

一度疑問が浮かぶと頭の中にべったりとこびりつき、

すぐに家に向かいたいという感情を侵食していった。雅嗣は机の中に自分の心臓を置いてきたような、今にもその心臓が握りつぶされてしまうのではないかという焦燥感に駆られながらも電車を降りると自転車をいつもとは違う道に向かい走らせた。


ある。

いつもと同じように通りからは見えない位置にひっそりとしかし確実にバイクは置かれていた。近づいて確認するが特に何も変化はみられない。


一度疑問が解消されるとまた新たな疑問が浮かぶ。頭がショートしそうだ。

解らない。

いったい誰が何のために。

雅嗣の頭の中は混沌が支配していた。


足早に家に入ると一目散に自分の部屋へと駆け込む。そこで一呼吸整えると机の引き出しを操作し拳銃を取り出した。包んであったタオルも外し直に手に取ると金属の冷たさが雅嗣の頭を冷やし、徐々に混沌が鎮圧され秩序が生まれていく。


拳銃を引き出しに戻すとパソコンを立ち上げる。悩んでいたって仕方がない行動を起こさなくては。メールしよう。そこから犯人の手掛かりを掴んでやる。

『ニュースを確認した。確かにこの拳銃は本物のようだ。目的が知りたい。  佐川雅嗣』


返信が来たのは夜の8時を回ってからだった。おそらく相手は平日仕事や学校があり自由にメールができるようになるのがこの時間であることがわかる。文面から相手がどういった人間であるか分析するんだ。雅嗣は見えざる敵に対峙するため平静さを失わぬようメールを確認する。


『信じてもらえたようだな。目的は簡単だ。その拳銃で佐川嗣・良子 両名を殺害しろ。さもなければ貴様の命は無いと思え。』


返信を確認した雅嗣の顔には笑みが浮かんでいた。


『了解した。殺害の詳細はこちらで決定したいができれば決行日についてはそちらで判断してもらいたい。』


その後いくつかメールをやり取りしその日は穏やかに眠りについた。



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