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たがためにほしはふる

作者: nanoka*



小さな雨音のように、こつん、と、窓際に置かれた瓶に星がひとつ落ちた。

きらりと光ったそれを見て、私は紅茶でもいれようかな、と、立ち上がるのだ。


---


ちょっとだけ昔のお話。

とある村に、小さな女の子がいました。


星がよく見えるその村には昔から伝わる不思議なものがありました。

それは、誰かが自分のしたことで幸せな気持ちになると星が降る、というものでした。


村に住む人たちはみんな、窓際に瓶を置いていて、夜になると時々、その瓶に小さな星が降るのです。

その星は甘くて食べられるもので、放っておくと次の日の夜には消えてしまいます。


女の子はその甘い星が大好きでした。


人のために何かをして、喜んでもらえて、その上、甘い砂糖のようなものがもらえるのです。

こんなうれしいことはありません。


だから女の子は、人のために何かをして、たくさんたくさんもらおうとがんばったのです。


何かお手伝いできることはありませんか?

おばあちゃん、荷物を持ってあげますね!

お母さん、何かできることはある?


たくさんの人にありがとうと言われて幸せな気持ちで部屋に戻り、夜になると瓶をわくわくして覗くと、星が降ってきました。

あたたかい牛乳に入れて飲むと、やさしくて甘くて幸せな気持ちになりました。


次の日も女の子はがんばりました。

村のたくさんの人に声をかけました。


満たされた気持ちで、部屋に戻って瓶を覗くと、今日は星がありませんでした。おかしいなあ。がんばりが足りなかったのかな。


また次の日も、その次の日も同じようにがんばりました。

でも、女の子の瓶には星が降りませんでした。


どうしてなんだろう。何がだめなんだろう。

泣きながら歩いていると、この前から荷物を運ぶのを手伝っているおばあちゃんに会いました。


けれど、おばあちゃんは荷物を全然持っていませんでした。

女の子を見つけたおばあちゃんは慌てて、小さなカバンを重そうに持ち始めました。


それで女の子は気がついたのです。

小さな星がほしかった自分のために、みんながお手伝いをさせようとしてくれていたこと。

そして、自分がしていたのは人のためではなく、星がほしい自分のためだったこと。

そして、そんな自分のためにわざとお手伝いをさせてくれたみんなのところに星が降っていたことを知ったのでした。


次の日からは、女の子は、人のため、と思うことをやめました。


私がやりたいからやる。荷物の大変そうな人は私が見ていられないからやる。自分の気持ちを満たすためにやりました。人のため、なんて言いながら結局は自分がしたいことを選んでいるのだと気がついたからです。


そうしていくと、不思議なことに、また時々、窓際の瓶に星が降ってくるようになりました。


---


そういえば今日は、家の前に植えていた花がとてもきれいに咲いたのだった。

もしそれを見た誰かが幸せな気持ちになっていたりしたのかな、なんて。想像をする。

私が今日したことが、誰をどんなふうに幸せにしたかはわからないのだけれど。

どこかの誰かにもらったありがとうの星を、私は紅茶に溶かして甘い幸せをもらうのだ。

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