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夏のホラー参加作品

寿命が尽きるその日まで


墓参りの帰り市の中心部にあるイベント会場に寄る。


寄ると言ってもこちらが本命で墓参りがついでなんだけどな。


イベント会場は過疎が進み限界市町村まで秒読みと言われてる市の、どこにこれ程の人が居たのかと思うほど沢山の人が集まっていた。


殆ど全員が俺を含め爺婆ではあるのだが。


死ぬなら住み慣れた故郷で死にたいって言う婆さんや、今更他の街に移り住みたく無いって言う爺さん、それに俺のような仕事でこの街を離れられない爺婆共だ。


子供を授かった親やこれから授かるであろう若者たちは、福利厚生が行き届いている都会に行ってしまう。


俺の子も孫も都会に行ったきり帰って来ない。


でもまあこれから行われるイベントは、子供には見せられない物だからそれでも良いのか。


行われるのは死刑囚の死刑執行。


22世紀の半ばになっても日本は、共産主義国や独裁国家のように死刑制度が残っていた。


死刑執行をイベントにしてしまっているから、見せしめとして民衆に死刑執行を見学させている共産国や独裁国側に近寄っているような気もする。


近寄っていると言われる共産国や独裁国を含む全世界の国々からは、日本の死刑制度が一番残酷だと言われていて、各国政府は自国民に日本に仕事でも旅行でも訪日したときに、絶対に犯罪に手を染めるなと言い聞かせているらしい。


そもそも何故21世紀半ばまで死刑が行なわれていた拘置所や刑務所で刑が執行させず、こんな限界市町村間近の市で死刑が執り行われるのかと言うと。


発端は死刑囚が自分が死刑判決をくだされるような残酷な犯罪を行った癖に、死刑は法律違反だと裁判所に訴えた事にある。


死刑囚の訴えは直ぐに却下されたがその時に、何故被害者は死刑囚が死刑を執行されるのをあの世で待たなければならないのか? という疑問の声が上がり、被害者が眠る墓がある自治体で被害者が現世に戻って来るお盆に刑が執り行われるように法が改正された。


死刑執行がイベントになったのは、最初に死刑執行が行われたある自治体で、自治体の担当者が悪ノリした結果らしい。


この街のイベント会場で死刑が執行される死刑囚は、この街に墓がある被害者の殺害に関与した加害者って訳だ。 


何でも、20世紀の終わり頃から21世紀の半ばまである週刊誌に連載された、山賊団を描いた漫画の幹部キャラクター「並」って男を名乗り、手下にメールや電話で指示を出して強盗事件を繰り返させ、最後には強盗殺人事件を犯させた強盗団のボスだった男。


そんな奴の死刑だから一瞬で終わる死刑方法では無く、死に至るまで時間の掛かる方法で刑が執行される。


今回は火あぶりの刑。


会場に死刑執行を執り行う係官、まぁアンドロイドなんだが、の声が響き渡った。


「死刑囚が会場に入ります。


皆様、罵声でもってお迎えください」


「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」


会場全体から唸りのような「殺せ!」の声が湧き上がる。


コールドスリープから解凍された死刑囚が護送車から引きずり出され、火あぶりにする為の丸太に括り付けられた。


死刑囚には3つの処置がされていると聞く。


1つ目は刑を執行している途中で狂わないようにする処置。


2つ目は心臓麻痺などで執行途中に勝手に死なないようにする処置。


3つ目は痛みや苦しさから自殺を企てても実行出来なくする処置だ。


死刑囚が括り付けられた丸太が会場の真ん中に立てられ、丸太の下に焚き木が積み上げられた。


会場中に死刑囚の叫び声が響く。


「一思いに殺してくれー! 頼むよー! もう嫌だー!」


死刑囚の叫び声に被せるようにアンドロイドの死刑執行官の声が響く。


「執行開始!」


丸太の下に積み上げられた焚き木に火が付けられる。


「熱いー! 助けてくれー! 一思いに殺してくれー! 熱いー!」


死刑囚の悲鳴と死刑執行を見学する観衆の罵声が会場全体に響き渡った。


「「「殺せ! 殺せ!」」」


死刑執行にもルールがあり、執行官の「開始」の宣言から20分以内に死刑囚が絶命しない場合、執行が一時取りやめになって死刑囚の傷の手当が行われてから後日再開される。


叫んでいたから気が付かなかったがもう20分経ったらしい。


燃える焚き木と丸太に白い消火剤が噴射され、執行官が刑の中止を宣言した。


「執行から20分経ちましたので刑を一時中断し、後日再開いたします」


丸太に括り付けられていた死刑囚の拘束が解かれ、コールドスリープの処置が施され護送車に運び込まれる。


死刑囚を乗せた護送車が会場から走り去るのを見届けた執行官のアンドロイドが、会場に詰めかけた見物人に語りかけた。


「死刑執行は一時中断します。


再開は来年のお盆になります。


また来年お会いしましょう」


日本の死刑執行方法が世界一残酷と言われる謂れは、見物人には1年に1回のイベントだが、死刑囚にとっては次に目覚めさせられた日、感覚的に翌日に死刑が再開される事による。


死刑囚は自分の寿命が尽きるその日まで、毎日毎日何度でも、死刑執行を繰り返させられるって訳だ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 死刑になる者が複数の人を殺していて、その被害者の出身地がそれぞれ違う市町村だったら、殺人犯は同じ年にそれぞれの市町村をたらいまわしにされるのでしょうね。 そして何倍もの苦しみを……。
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