奇跡の生還
銃で撃たれたはずのツェツェグだが、奇跡的に生還する。そこに待ち受けていたものとは?
感動の最終回。
「ツェツェグ、ツェツェグ!」
「………………………………」
「おい、わかるかい、ツェツェグ?」
「う、う、うう」まぶしくて目を開けられない。
「どこ? 病院?」
「そうよ。目を覚ましたようだね」
「あっ、ケイトおばさん」
「良かった。良かったわ。ほんとうに」
養母のケイトは、ツェツェグの手を握りしめて、泣き出した。
「あれ、わたし。どうしてここに?」
「気球が墜落して、湖に落ちたのよ。たまたま近くでボートに乗っていた人があなたを救って病院に連れて行ってくれて、助かったの。でも集中治療室に1ヶ月ぐらいいて、その間気を失っていたのよ」
ツェツェグは頭が混乱していたが、40秒ほど考えてようやく状況を理解できた。
「そうだったんだぁ。わたし」「ホント、よかった。助かって」ケイトはツェツェグを強く抱きしめた。
「あ、アレン叔父さんは?」
「………………」
「え? まさか」
「亡くなったわ」
「そんな」
「気球に乗っていた人のうち、乗組員二人がパラシュートで脱出して助かり、それ以外ではあなただけが生き残ったのよ」
「そうなの?そんなのイヤ!」
ケイトは涙がほほにつたいながら言った。
「あなただけでも生きてくれて良かった」
「でも」
「ううん」
「いいのよ」
そこへ医師が入ってきた。
「ツェツェグさんの意識が戻って良かったですね。徐々にリハビリしていきましょう。腕を骨折している以外は、他に外傷はないですし、そうですね、2ヶ月もあれば退院できるでしょう」
「本当に、本当にありがとうございます、先生」
金髪の男性医師は笑顔でツェツェグに話しかけた。
「気球が墜落してパラシュートなしで助かるなんて奇跡ですね。元気になって元の生活に戻れますからね」「うん」
そして医師が部屋から出ていった。
「ケイト叔母さん」
「なんだい?」
「わたし、夢をみてたみたい」
「そうなの?どんな」
「気球に乗っていろんなところを旅する」
「あら、いいわね」
「ううん。そこで会った人たちは皆苦しそうだった」
「本当に?」
「畑が海の水で流されたり、川がなくなって水を汲みに遠くまで行ったり、わたしくらいの子が毎日働かされてたり、何もしてないのによその悪いやつらが家に捕まえにきたり、それでわたしは銃で撃たれたんだ」「ええ?そうだったのね。 でも、そんなにはっきり覚えているなんて変ね」
「うん」
「気を失っている間に別の世界に行っていたのかしら」
「うん、そんな気がする」
「それでその旅は、一人で行ったのかい?」
「ううん。クオッカとワラビーとウォンバットと一緒だったの」
「あらら、そこはちゃんと地元の動物たちなのね」
ケイトは微笑んだ。
すると、義理のきょうだいのエフレムとカタリナが部屋に入ってきた。
「ツェツェグ、良かったぁ」
「生き返ったのね」
「う、うん」
「アレンお義父さんは死んでしまったけど、これからは今まで以上に皆で力を合わせて生きていこう」
「いこう!」
「ふふふ」
ツェツェグがふと思い出し笑いした。
「これ、みんなで歌おう」
「え、おねぇちゃん、なあに?」
「チェチェクレ チェチェ コフィンサ コフィンサ ランガ カカ シランガ クム アデンデ クム アデンデ ヘイ!」
ケイトは驚いて目をまるくしていた。
「たまげたわ」
「すげーなツェツェグ。どこでそんなクールな曲を知ったんだい?」
「おねぇちゃん。歌おう。教えて」
「ふふふ。いくよ。せーの!」
気つけば夕日は沈み、窓の外は満天の星空が広がっていた。
おわり