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サーカスガール  作者: shane
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東トルク

白い綿がきれいに一面に咲いた畑に着いたツェツェグは、異様な雰囲気を感じ取る。

畑を所有する夫婦もどこかよそよそしい中、打ち解けるも、何度も当局の取り締まりがあった。

ツェツェグは得意の馬を使って戦うも....

 雲ひとつない空、ツェツェグが乗っていた気球は畑に着陸した。あたりは一面に白い綿が咲いていた。


「うわぁ、きれい。雪が積もっているみたい」


 ところが、あたりを見回してみても人の気配はなかった。

「誰もいない。どうしたんだろう」


 しばらく歩いていると、遠くのほうに人がいるように見えた。ツェツェグは走って、その人を目がけて向かっていった。するとスカーフをしたアセムという名の色白で鼻の高い婦人が綿を手で摘んでいた。


「なにしてるの?」「………」

 アセムはツェツェグをチラッと見て、黙って作業を続けた。

「大変そう。ねぇ、手伝うよ」「……….」


 ツェツェグはアセムの動きを見よう見まねで綿を摘むのをやってみた。

「う、これ硬いね。くぅ。難しい」

「いいのよ。ありがとう」

「でも」

 アセムはツェツェグが畑にいるのがどうも邪魔なようだった。そこへガッチリとした大きな男がやってきた。

「おい、アセムどうした?」

「ううん、何でもない」

 男はティルバルというアセムの旦那だった。

「この娘は?」

「わからない。急に来たのよ」

「どこの子だい?」

「遠くから気球できたんだ」

「そうか。でもここは危険だから、早く帰りなさい」

「ええ、そうなの?」


「いつ誰に連れてかれるかもわからない。早く離れたほうがいい」


「う、うん」

 そうしているうちに畑に向かって車がやってきた。止まると、中から制服を来た大人の男二人がものすごい形相で向かってきた。

「おい、こんなところで集まって何しているんだ!!」

「何もしていないです」

「3人以上は集まってはいけないという規則があるのを忘れたのか!」

「いえ」

「何だ、その娘は? ん、変な髪型、外国人に見えるが。お前らの親戚か?」

「……」

「さては亡命を手助けしやがったな。いつかは悪いことすると思ってたんだ、貴様は!」

 すると、男二人は、警棒を取り出し、ティルバルに殴りかかった。

「ちょっと、やめてください」

 激しく何度も何度も殴って、全身血まみれになっていった。


「このやろぉ」

 それを見ていたツェツェグは怒った。

「おい、ガキ、捕まりたくなかったら、とっとと消えろ!」

「なにおー!」

 するとツェツェグは素早く一人の男の前方にしゃがみ、足を勢いよく蹴り上げ、金玉に見事に命中した。「ううっ、いってぇ」


 男は激しく痛み、息ができずうずくまった。


「おい、大丈夫か?」

 もう一人の男が両腕を後ろから持ち上げて上下に動かして、なんとか息できるように整えた。


「さぁ、連れていくぞ」

 もう一人の男がツェツェグを肩から引き寄せようとした瞬間、ツェツェグは腕をつかみ、思いっきり噛み付いた。

「いっってぇー」

 腕から血が吹き出した。

「このガキ、捕まえてやる」

「やなこった。べーっだ」

ツェツェグは走って逃げた。

「くそ、痛てぇ。戻るぞ。病院いこう」

「ああ。覚えとけ。今度はぶっ殺してやる!」

 2人の男は、車に乗って戻っていった。


 アセムとツェツェグは二人がかりでティルバルを運び、どうにか家に帰った。土とレンガで造られた平屋の簡素な家だった。部屋には絨毯がしいてあった。


 しばらくして、止血もでき、なんとかティルバルは話せるようになった。

「お嬢ちゃん、すまない。助けてくれて」

「ううんいいの」

「もう終わりだね」

「ああ」


 ツェツェグは意味を理解できなかった。

「どうして?」

「この地域は本当に危険なのよ」

「白いきれいなお花がたくてんあったのにぃ?」

「そうよ、綿を生産しているけど、もうほとんど私たちは他の民族に支配されているの」

「みんぞく?」

「肌の色とか顔が違うのはわかる?」

「うん。知ってるよ」

「意地悪なのがいて、この地域の人をたくさん連れて行ったのよ」

「どこに?」

「牢屋とかに」

「ええ?」

「何も悪いことしていないのに。本当にひどいのよ」

「さっきのやつたちも悪そうだったね」


「あれがコウアンという警察なんだよ」

 ティルバルが言った。


「ええ?あれで」

「昔は平和だったの。みんな、貧しいけど、心は優しくて、歌を歌ったり、踊りを踊ったり。でもある日からよその地域から人がたくさん入ってきて、私達の仲間をいい加減な理由でどんどん連れて行ったの。特に若い男を。それから私達が祈りを捧げるために集まるモスクという建物も取り壊したのよ」

 アセムは目に涙を浮かべていた。

「そうなんだ。ひどいね。ゆるせないよ!」


「そうね。ごめん。どうぞ、召し上がれ」アセムはハンカチで涙を拭うと、チャイとポシュカル、ナッツを差し出した。「うん、すごくおいしい」


「良かったわ。お口にあって」


すると、突然家の外に車が止まる音がした。2,3分後、ドアを激しく叩く音がした。

「おい、開けろ!」

「外国人のガキ女もいるだろう」

「開けないと収容所と再教育センター送りだぞ!」

「その後は病院で臓器を取り上げるからな!」

「ガキ女は都市部に売り飛ばしてやる。数年後には売春婦かな、へへへ」

 さっきの畑では2人であったが、声から5人以上いるようだった。

「大丈夫よ」

 アセムはツェツェグを抱きしめていた。


 次の瞬間、鍵を破壊して連中が部屋に入ってきた。

「いたな。クソガキ。今度は逃さんぞ!」

「わたしを捕まえられると思ってんの?」

 ツェツェグが立ち上がった。

「おお、コイツは活きがいいから、臓器が高くうれそうだなぁ」


 男たちがツェツェグを捕まえようとした瞬間、ツェツェグは部屋の奥へ走り出し、窓を割って、外に逃げた。

「そんなことをしても無駄だ。追え!」

 しかし、ツェツェグはすばしっこくて、男たちは追いつけない。

「どこいった。探せ」

「まだ遠くにはいってないはずだ」


すると、

「ここだよー きみたち」

 ツェツェグは2つ隣の家の馬に乗っていた。

「なんだと!」


ツェツェグを乗せた馬は猛スピードで走り出し、連中を突き飛ばした。

「うわぁ。なんだ」

「いてぇ」

 馬は逃げる男たちを追い回した。

「わるいことをして、いじめるやつはゆるさない!」


 ツェツェグは、アセムの頭に黒い布を覆い被せて連れていこうとする男たちに気づき、それを阻止しようと追いかけて、勢いよく馬がアセムの家の柵を飛び越えようとしたその瞬間、


パァーン!


 ピストルの音とともにツェツェグは高く跳ねとばされ、背中から地面に落ちた。


「うわぁぁぁぁぁぁん」



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