パラオ
ツェツェグたちを乗せた気球はパラオに到着する。そこで出会ったアキコという婦人に連れられ、タロイモを植えることになるが、厳しい現実を知ることに。
出発してからかなり時間が経ち、ツェツェグたちを乗せた気球はある島に着陸した。
「ここはどこなの?」
海が透き通って見えるほどきれいなところであった。
「ちょっとあんたたち!」
後ろから大きな声がした。振り向くと恰幅のいい色黒のアキコという女性が怒って立っていた。
「え?あっ、その」
突然の出来事にツェツェグは動揺してしゃべれなかった。
「変わった髪のお嬢ちゃんと動物たちね。どこかよそからきたのね」
「え、は、はい」
「それで人んちの畑に大きなもので空から飛んでくるとはなんなのかしら」
「なんか、風に吹かれてきてしまったんだ」
「あらあら、のんきだね。じゃあ、ちょっと仕事手伝ってもらうよ。おいで」
ツェツェグは状況を飲み込めないままアキコの後についていった。
30分くらいたっただろうか。
「はい、着いたよ」
そこには畑があり、畑の中には泥がたくさんあった。
「靴を脱いで入んな」
「えっ?」
アキコは苗床を1つツェツェグに渡した。そして泥に植えた。
「こうやってやるんだよ。さぁやってごらん」
「え、はい。こうかな?」
「違う違う。こうだよ」両手のひらでどろを何度も押した。
「こうかな?」
「そうそう。じゃあ他にもあるから、同じようにやって」
近くに停まっているトラックの荷台にたくさんの苗床が置いてあり、アキコはツェツェグにそれを植えろと言う。
「なんで私がやらないといけないの?」
「この島は人手が足りないのさ」
「そうなんだ。大変だね」
アキコとツェツェグはせっせと4時間かけて、トラックの苗床を全部植えた。
「ふう。助かったわ。お腹すいたでしょ。夕飯ごちそうするわ」
気づけばツェツェグは島に来てから、何も食べていなかった。当然腹が減っていた。
「ホントに?やったー!!」ツェツェグは両手を上げてジャンプした。
それを見てアキコが初めて笑った。
それからしばらく歩いていくとアキコの家についた。平屋で緑色の壁で庭の草木は手入れが届いていないのかボーボーに伸びていた。
「靴を脱いで。そっちで座って待ってなさい」
そう言うと、キッチンで何やら料理を始めた。竹のようなものをナタで切っている。そして小さくしたものをツェツェグの前のテーブルに差し出した。
「え?どうするの」
「かじってごらん」
「え、うん....あまーい!」
差し出されたのはサトウキビだった。
空腹で疲労困憊のツェツェグは夢中になってかじり、すいついた。
しばらくするとアキコはベルダッケルというスープを出した。
「あいよ」
ツェツェグはかけこむように食べた。
「うん、おいしい!うん」
「ウチはね、主人も息子も死んじゃっていないんだよ」
「えー、どうして?」
「3年前に大きな台風がきてさ、海に流されちまったんだ」
「海に?」
「そう、漁師だったからね」
「それはかわいそう」
「それで畑もやってたんだけど、人手いなくて、さっきはタロイモを植えるのをお嬢ちゃんに手伝ってもらったんだ」
「そうだったんだぁ」
「島全体が被害に合うほどでね、海のサンゴもたくさん死んだし、畑も多くが海水の塩でやられちまったんだよ」
「サンゴって?」
「ああ、知らないのかね。海の中にいる海藻だよ。ここの海はとてもきれいでね、底まで透き通ってみえるんだよ」
「透き通るなんてすごいね」
「だが、海も畑も今じゃボロボロで、この島はおしまいよ」
自然が破壊されていることをツェツェグはなんとなく理解した。
食事が済むとアキコと歩いて元の気球のところまで戻った。
「家に帰るのかい?」
「ううん、どこにいくかはわからないの」
「おや、変わった子だね。ともかく気をつけな」
ツェツェグは戻ってくるのを待っていたクオッカ、ワラビー、ウォンバットと一緒に気球に乗って出発した。
「楽しかったかい?」
「うん。疲れたけど」
「何をしたんだい?」
「タロイモの苗をたくさん植えたんだよ」
「あのひとはしあわせなのかい?」
「ううん。大変だと思う」