9.何処
門を潜る直前に意識を失った俺は意識を取り戻す。
目を開くとそこには、何処かの王宮の光景が広がった。
見た事ない程立派な内装。
20人の鎧を着た兵士が綺麗に列を作って並び。
俺の正面には立派な椅子に座る1人の女。
長い赤い髪に、恐ろしく整った顔立ち。恐らくここで一番偉い人間だろう。
てか、どういう状況だよ…コレ。
俺はさっきまでコロシアムにいて…。
俺の左右に兵士が二人、俺の首元に剣を突きつける。
俺の両手首には手錠がされて、身動きが取れないようにされていた。
まるで死刑を受ける直前の人間だ。
「目を覚ましたぞ!」
「貴様は何者だ!何を理由にここに侵入していた!」
右の兵士が俺に問う。相当怒っている。
「え?いや…。」
頭は混乱状態。
いきなり侵入とか言われてもよく分からない。
ここは何処だ?
そもそもこれは現実?いや夢の可能性も捨てきれないな。
「早く答えろ!首を切り落とされたいのか!」
右の兵士の剣先がチクッと少し首に刺さる。
剣先が触れた部分からほんの少し血が流れ、痛みを感じた。
おいおい、マジかよ。
夢の可能性がなくなる。
「ちょっ!ちょっとタンマ!」
現実?現実か、コレ。いや、現実っぽいな!
痛覚もしっかりあったし。よく考えたら、いやよく考えなくてもこんなリアルな夢あるはずない。
現実…。
ってことは、これって絶対ヤバい状況だよな。
意識を取り戻したばかりでまだ眠っていた細胞と脳が急ピッチで働き出す。
「あと10秒以内に質問の答えを出さなければ、本当に首を切り落とすぞ!」
し、質問?
確かここに侵入した訳だったか。
「7秒前!」
知らねーよ!
俺は門に吸い込まれて気づいたらここに居ただけなんだ、自分の意思でここに侵入した訳じゃないんだよ。
「5秒前!」
素直にそう言えば
気づいたらここにいましたって言えば信じて貰えるか?
……。
いや、無理だ。
少し考えてみたけど信じて貰える想像が出来ない。
いきなり現れた怪しい奴の言うことなんか普通に考えて信用されない。
俺が逆の立場だったら信用しない。
「あと3秒!」
どうすればいい。
この状況を脱するためには、何をすればいい。何が最善だ。
嘘を吐く?でもどんな嘘なら許されるんだ?
「残り2、1…」
駄目だ。焦りもあって何も思い付かない。
俺、今度こそ本当に死ぬのか。
「0。時間切れだ!」
兵士が剣を振り上げる。
その瞬間、正面に座っていた赤髪の女が立ち上がった。
「やめなさい。」
女が言う。
すると、ピタッと兵士の手は止まり剣が止まる。
兵士はまるで、何か見えない力に押さえつけられているようだった。
何だ。何が起こってる。
「女王陛下!何故止めるのですか!」
「黙りなさい。」
「…!」
女王陛下と呼ばれるその女は俺の元へとゆっくりと足を進める。
そして俺との距離約1m。
香水の強い香りが俺の鼻に届く。
やべー状況なのに、この人を近くで見た瞬間思ってしまう。
いや、どんな状況でもこの人を近くで見た世の男は皆思うだろう…
この人めっちゃ美人やん。
「剣をしまいなさい。」
女は俺に剣を突きつける兵士に言う。
さっきまで色々言っていた兵士は何も言わずに剣をしまった。
そして、女は俺のことを見る。
「私はこのハルサメ国の女王、サラ・バージサス。
貴様にはまず、名前を問う。
答えなさい。」
女王は俺にそう言った。
その瞬間。
ビーン。
と低い音が頭に響き、俺の意思と関係なく、勝手に口が動き出す。
「ハルナ・ファーシナル」
何だ、コレ。
「ハルナ・ファーシナル…。聞いたことない名だ。
この辺の者ではないな?
何処から来たか答えなさい。」
「エクレア王国」
なんなんだよ、コレ。
勝手に…勝手に口が動くぞ。
「エクレア王国…。」
エクレア王国の名前を聞いて、気のせいかもしれないけど女王の表情が少しだけ変わった気がした。
「そうか。じゃあ、本題。
何故この王宮に許可なく侵入したのか答えなさい。」
ビーン。
「分からない。気づいたらここにいた」
「…。」
俺の答えを聞いた女王は少し考える仕草を取って近くの兵士を呼ぶ。
「ヤーベを連れて来きて」
サラは兵士にそう言う。
命令を受けた1人の兵士は走って何処かに向かう。
そして3分程で戻って来た。しかし、1人でではない、兵士は60歳程の男を連れて戻って来た。
「女王陛下何のご用件でしょう。」
兵士に連れて来られた男が言う。
「ヤーベ、この者を覗いて欲しい。」
サラは俺を指差し、ヤーベに言う
「分かりました」
ヤーベは頷き、俺の頭に手を伸ばす。
何かやられるのか?
俺は少し身構える。
「そう警戒するな。少し覗くだけだ」
「覗くって何をだよ」
「記憶だ」
ヤーベはそう言い、目を瞑りながら俺の頭に手を当てる。
記憶を覗くだと?
俺のただの勉強不足なだけかもしれないけど、他人の記憶を覗く魔法なんて聞いたことないぞ。
「では、始めます。」
そして、時間にして30秒程だろうか。
ヤーベは目を開き、一回大きく深呼吸をした。
どうやら終わったらしい。
「この者…。恐らく、強制転移魔法でここに飛ばされてますね。」
「強制転移魔法?
そんな高度な魔法を使う者がいるの…。
それに何のために。」
「それは魔法を使った本人にしか分かりません。」
女王は俺の顔を見る。
「…。分かったわ。手錠を外してあげて」
兵士にそう言い、俺の手首を拘束していた手錠が外される。
俺が無罪なのを分かってくれたらしい。
自由になった自分の手を頬に当ててスリスリする。
あー。自由って素晴らしい。
「申し訳なかったわね。ハルナ・ファーシナル。」
「無罪を分かって貰えて良かったです」
手錠が外れた。
俺の王宮侵入も無罪だと分かって貰えた。
でも、問題は解決した訳ではない。
ここが何処なのか。
俺はエクレア王国に帰らなけばならない。
ウェスザンスにリベンジするためにも、アキナのためにも。
なので、俺は聞いてみる事にする。
「ここは何処ですか?
エクレア王国に帰りたいんだけど、ここからエクレア王国ってどのくらいの距離ですか?」
俺がそう言うと、女王は難しそうな顔をする。
何か引っかかることでもあるのだろうか。
少しの間を空けて、サラは重そうな口を開いた。
「申し訳ないけど。
あなたはエクレア王国には帰れないわ。」
「え?」
サラの口からは出たのは俺にとって衝撃的内容だった。
帰れない?エクレア王国に?
「じょ、冗談っすか?」
「冗談じゃないわ。」
女王は真剣な顔をする。
冗談を付いているようには見えない。
「何で」
理由を問う。
「黒煙組って聞いたことあるかしら。」
誰かの名前?それとも、建物の名前?何かの組織名?
分からない。
黒煙組、聞いたことない単語だった。
「まぁ知らないのも当然よね。
この国の出来事がエクレア王国に届く訳ないもの。」
「何なんっすか。黒煙組って」
「いいわ。詳しく教えて上げるから来なさい。」
そう言って女王は別の部屋と俺を案内し
俺はエクレア王国に行けない理由、黒煙組について教えて貰うことになった。
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