7.強者
「貴様は魔法という物を理解していない。
ゆえに弱い。」
ウェスザンスが俺に言う。
「決めつけんな。魔法のことは多少理解してるつもりだわ」
「貴様は知らない。
魔法を理解するということを」
ウェスザンスはそう言うと、ファイアボールを生成させる。
ただのファイアボールかと最初は思ったが違った。
ウェスザンスが生成させたファイアボールはみるみると大きく。
見た事ない程の大きさのファイアボールへと成長。
「何だよこれ…。」
そして収縮されていく。
まるで力を凝縮させるかのように、今度は小さく小さく。
最終的には俺のファイアボールと同じくらい、または俺のやつより少しだけ大きいサイズのファイアボールになる。
「魔法を理解すれば、ただのファイアボールも強力な魔法となる」
ウェスザンスがファイアボールを放つ。
放たれたファイアボールは俺の真横を通過。
コロシアムの建物の一部を破壊する。
建物の崩壊音と同時に観客の悲鳴が聞こえて来る。
「本当にファイアボールかよ…。」
見たことがない威力。
これがstage1の魔法…?
少なくても、今までの人生で見て来た魔法の中で、トップレベルの威力のものだった。
エグすぎる。
「これが王者の力…。」
シンプルにヤバい。
ヤバすぎる。
俺はこいつを甘く見ていた?
いや、甘くみていた訳じゃない。
分かっていた、理解してるつもりだった。
こいつがやばいってことを。
優勝経験者だ、ヤバいに決まってる。
でも、こいつは俺の想定していた強さを超えまくっている。
「降参しろ。」
ウェスザンスが俺に言う。
降参…だと?
「貴様は私には勝てない。」
降参。
その言葉を聞いて俺の中に選択肢が増えてしまう。
そうか、降参すればいいのか。
ずっと頭から消していた選択肢。
今回は運が悪かった。
そうだ、運が悪かったんだ。
王者とあたるなんて運が悪いとしか言えない。
今回は諦めてまた次回頑張ればいいじゃないか。
言ってしまおう。
言って早く楽になろう。
そして
「降さ…。」
俺が降参してしまおうと思った時。
思い出す。
アキナを。アキナの言葉を。
⦅絶対優勝して来いよ!⦆
「アキナ…。」
観客席を見ると、心配そうな顔をして俺を見るアキナの姿が見えた。
そうだった…。
次回頑張ろうじゃない。
俺は降参する訳にはいかない。
「何度も言わせるな。
貴様じゃ私には勝てない。」
俺には守らないといけない人がいるんだ。
俺は魔力を高める。
やるしかない。
たとえ無謀だとしても、降参などと自分から諦めたりする選択肢は取らない。
「…そうか。
無謀にも戦う道を選ぶか。
弱い上に正常な判断も出来ないとは、救いようがないな。」
アキナには1日でも早く贅沢させてやりたい。
幸せに生きて欲しい。
あいつはもう十分苦しんだ。
自分のためにも、アキナのためにも。
次じゃない…。
今勝つんだ!!
「『輪廻の理踏み外し。
混沌が世界を包み込む。
絶望砕く力を我に。』」
俺は呟く。
「…。」
そして、空から太陽が消える。
代わりに月が現れる。
俺の周りには無数の光の玉が浮かび上がり
俺の手元に弓と矢の形をした魔力が生成される。
「『輪混絶』」
弓を引く。
魔力で出来た矢が地面を削りながらウェスザンスに飛んでいく。
自分でも想像を超える威力の魔法。
「これは…」
stage5の魔法。
アキナに特訓を付き合って貰って1年。
俺が手にした魔法。
ずっと表情を変えなかったウェスザンスが少し表情を崩す。
ウェスザンスは魔力を纏い防御を固めると、俺の輪混絶を避けずに受ける。
ウェスザンスと俺の魔法が衝突。
砂埃が舞い。
視界が悪く。
ウェスザンスの姿が確認出来ない。
「うぅ…。」
流石stage5。
一発撃っただけで魔力をほとんど持っていかれた。
俺はその場で目まいを起こす。
魔力切れだ。
徐々に砂埃が落ち着き、視界が良くなっていく。
良くなった視界には一つの人影が浮かび上がる。
最悪だ…
「知らない魔法だ。stage5の魔法か?」
砂埃が落ち着いて、片腕を負傷したウェスザンスが俺の視界に映る。
倒せなかった。
stage5の魔法でも。
stage5の魔法でもウェスザンスは倒せていなかった。
「ただの馬鹿なガキだと思っていたが…。」
俺は立ち上がろうとする。
しかし、目まいが激しくて上手く立てない。
クソ。体が思ったように動かない。
早く立って態勢を整えろ。
早くしないとウェスザンスの攻撃が来るぞ。
「貴様に興味が湧いた」
早く立たないと。
まだいけるだろ。
まだ戦えるだろ。
「世界を知れ」
ウェスザンスがそう言うと、俺の足元から無数の黒い手が出現する。
突然出現した黒い手は俺が身動き出来ないように、俺の体を縛る。
「世界は強者の誕生を待っている」
そして今度は俺の背後に門が出現する。
黒くて、大きな門だ。
「何だよ、コレ!」
「ハルナ!」
アキナが観客席から俺の名前を叫ぶ
「アキナ!」
門が開き。
門は俺を吸い込んでいく。
抵抗したくても黒い手が邪魔して抵抗出来ない。
「クソ!!」
「『異門』」
ウェスザンスがそう言うと
門は俺を完全に吸い込む。
俺を吸い込むと門の扉は閉まる。
「ハルナぁぁぁぁぁ!!」
観客も、司会者も。
それを見ていた他の参加者も。
この場に居た者全てが、今目の前で起こったことを理解出来ていなっかた。
何が起こったか分からない。
静まり返ったコロシアム、アキナが俺の名前を叫ぶ声だけが響いた。
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