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1.一攫千金コロシアム

 突然だが、もしもの話をしよう。

 もしも100億ゼニーを手にしたら何をする?


 普段は絶対買わないような高い洋服を買う?

 それともデカい家を買う?

 美女と毎晩デート?それもいい。

 食べきれない程の量の美味い物を食う?それもいい。

 何をしたっていい。

 100億ゼニーなんて一生遊んで暮らしても使えきれない。


 世の中結局金だ。

 金があればなんだって出来るだ。

 人生のどん底からだって這い上がれる。


 「ハルナ選手戦闘不能!」


 一攫千金コロシアム。

 人生を変えることの出来る大会。

 勝って優勝すれば

 100億ゼニーと最強の称号。

 負ければ

 0。何も残らない。 


 「一攫千金コロシアム予選Aブッロク第二戦!勝者トマト選手ぅぅぅぅ!!」

 

 司会者が勝者の名前を叫ぶ。

 それに応えるかのように、トマトは右腕を上げて勝利ポーズを取る。

 勝者に向けて観客からは大きな賞賛の声が聞こえてくる。

 

 俺はその光景を朦朧とする意識の中、眺める事しか出来ない。

 あー、負けたのか。

 また負けちまった。

 100億ゼニーはまたお預けかよ…。


 次こそは絶対勝って、人生変えてやるから


 「待っとけよ…」


 一攫千金コロシアム。

 エクレア王国で年に一度開催されるコロシアム。

 世界各国の強者が己の実力を知るため、金のため、名誉のために参加する。

 コロシアムはトーナメント方式で進められる。

 対戦相手が降参または戦闘不能になるまで試合は続き、過去を遡ると死者も出たなんて話もある。

 それぐらい激しく。マジのやつだ。




 


 **********************************




 とある馬小屋。


 「クソ!トマトの野郎力強すぎだろ。

  あ、イテっ…!」 


 消毒液が傷口に沁みて思わず声が出る。


 「ハルナって馬鹿だよね」


 俺の傷を手当する茶髪ショートの少女、アキナが言う。

 アキナは俺より1歳下の13歳だ。

 調子に乗るから本人には言わないが、結構可愛い顔をしている。

 

 「あ?急に悪口言うなよ」

 「だって馬鹿じゃん。

  絶対優勝なんか出来ないのにコロシアムなんかに出てさ。

  毎回ボロボロになって帰って来るんだもん。」

 「次は絶対優勝してやるよ!」

 「それ。まず予選突破してから言ってよね。」

 「あ…はい。」


 そう。俺はコロシアムで予選を突破して本選に行けたことがない。

 過去3回コロシアムに挑戦した俺はその過去3回全てで予選敗退していた。


 「ねぇ…。」


 アキナはそう呟き、手当する手を止める。


 「コロシアム出るのやめなよ。」

 

 顔を下に向けてアキナが言う。

 重く、真剣なトーンだった。


 「それは無理。俺達には金が必要だろ。」

 

 だが俺にコロシアム出場を辞める気はない。


 「でも…。もう耐えられないよ…」


 震えた声でアキナは呟く。


 「アキナ?」

 

 俺がアキナを呼ぶと、アキナは顔を上げる。

 アキナの表情が俺の目に映る。

 目には涙が浮かび、不安そうな表情をしていた。


 「もう耐えられないよ!」


 アキナは声を上げる。

 

 「毎回毎回ボロボロになって帰って来てさ!

  このままコロシアムに出続けてたら、

  いつか本当に死んじゃうんじゃないかって心配で…。

  ねぇ、ハルナ。

  私、ハルナも居なくなったら嫌だよ…。」

 

 「アキナ…」


 アキナがここまで言うのには訳がある。


 俺は6歳の時に親に捨てられた

 理由は分からない。

 突然だったから。


 捨てられてからは一人で必死に生きて来た。

 生きるためなら盗みもしたし、毎日ゴミを漁って誰かの食い残しを食べて腹を満たす。

 毎日がギリギリだった。


 そんなギリギリの生活を続けて1年が経った頃。

 俺が7歳の時だった。


 俺はアキナと出会った。

 アキナには親が居なかった。いや正確には居たのだけれど、ある男に殺されたのだ。

 

 アキナに聞いた話によると。

 とある日、アキナとアキナの父、母の3人で自宅で過ごしていた時のことだったと言う。


 誰かがアキナの家に訪ねて来た。

 玄関の扉からノックの音が聞こえて

 アキナの父が玄関を開けると、

 そこにはフードを深く被った男が1人立っていた。


 フードの男はいきなりアキナの父に襲い掛かった。

 何の前触れもなく。

 

 アキナはパニック。

 血を流し倒れる父。

 6歳の子供の脳では処理出来ない出来事だった。

 目に映った出来事をアキナの脳が、心が拒絶する。


 そんな状態のアキナにアキナの母は言う。


 ⦅あなただけでも生きて。⦆


 母はそう言うと男の気を引き、アキナを家の裏口から逃がしてくれたらしい。

 家から逃げ出すことに成功したアキナは走った。ただひたすらに。一度も後ろを振り返らないで、前だけを見て。

 靴も履かずに裸足で。

 

 そして、日が沈み。再び日が昇る。

 アキナは家に戻った。

 きっと悪い夢でも見ていたんだ。

 そう自分に言い聞かせながら。


 しかし、現実は非情だ。

 家には血の池が。

 大量の血を流した父と母が倒れていた。


 行き場を失くし、露頭に迷い。

 何も考えられず、ふらふらと街を歩く日々。

 そんな時に俺と出会ったという感じらしい。


 そこからは二人で力を合わせて生きて来た。

 だから、俺とアキナに血の繋がりこそないが

 もう家族みたいな物だった。


 だから、アキナはまた家族を失うのを恐れてるのだ。

 俺が不安にさせてしまっている。


 「大丈夫だよ、俺は死なない」

 「嘘。信じられないよ」

 「本当だって」


 アキナの頭を優しく撫でる。 

 いつもなら気持ち良さそうな顔をして大抵のことは許してくれる。


 「誤魔化そうとしないで」

 「す、すいません」


 今回はそう簡単にはいかないらしい。


 「ねぇ、私大金なんていらない。

  ハルナと一緒なら少ないお金でいいからさ。

  ちゃんとした仕事探そ?ね?」

 

 ちゃんとした仕事か…。

 確かにそれが出来ればそれが一番いいのだろう。


 しかし、俺はまだ14歳。

 この年齢を雇ってくれる所は少ない。

 それに加えて、俺達は幼く捨てられ学校にも行けていない。

 簡単な計算一つでも時間が掛かってしまう。

 そんな奴を雇ってくれるところは更に数少ない。


 今から何か学ぼうと思っても学ぶための教材を買う金がない。


 だから、これしかないんだ

 一攫千金コロシアムしか…。


 「まぁ…。そうだよね。

  ハルナは私のためにも頑張ってくれてる

  私がどうこう言える立場じゃないよね…」

 

 アキナはそう言うと俺に抱き着いてくる。


 「急に何だよ、びっくりするだろ」

 「今日はこうして寝る」

 「いや、寝ずらいって」

 「うるさい」


 これは何を言っても離れてくれそうにないな。

 俺は諦めて、この日はアキナに抱き着かれながら 

 小さなボロボロの馬小屋で二人。

 眠りについた。

 

  

 

 

 

 

 



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