えんぴつだけはあの頃のままに
5年ぶりに出逢った〝りっちゃん〟は、視線を交わせば体中が固まってしまう程に、綺麗になっていた。こんなダサい僕が話しかけちゃいけない人なんじゃ、そう卑屈になってしまう位に、
眩しかった。
だけど、
言葉に詰まる僕に見せたその八重歯は、あの頃の、
小学4年生のままだった。
僕はポケットに手を入れ、それを掴んだ。するとあの日の記憶が蘇る。
なんで、あんな事を……
*
「おん? お前何、苺柄の鉛筆使ってんだよ。気ぃ持ち悪りっ」
「別にっ、好きで使ってる訳じゃ、ないし」
「ああ! 高梨と同じの! ラブラブじゃーん! ウハハ、お前らあ」
「違えよお! 嫌々に決まってるだろ? こ、こんなのはな……」
焦った僕はそれを教室の窓から外へと投げてしまった。
それは筆箱を忘れた日にりっちゃんが貸してくれた鉛筆だった。返さなくてもいいと言ったから、その日から毎日使っていたんだ。
彼女とは1年生からずっと同じクラスで、不思議と隣の席になる事も多かった。物静かな女の子だったけど、話しかけるとすぐに笑顔になるんだ。
いつも白い歯を見せて。
その一週間後に彼女は親の都合で転校してしまった。結局一言も言葉を交わす事はなかった。
高校の入学の日に名簿を見た時は驚いた。高梨李沙。胸がざわついた。
廊下で見つけたのは明るい声で女友達とじゃれ合う姿だった。一瞬こっちを見た気がしたけど、目を逸らしてしまったのは僕の方……
でも次の日。
学校の近くの駅を降りた所でばったり。初めに声をかけたのはあっち。
「俊くん、だよね? 覚えてる?」
言葉に詰まりながら頷く僕に、彼女は白い歯をみせた。それはあの頃と同じ笑顔だった。
「まさか同じ高こ――」
「あのさ!」
不器用に彼女の言葉を遮ってしまう僕。でも、言わなきゃって、
「これ、返すよ」
僕は俯き様に制服から一本の鉛筆を取り出した。
「それって、もしかして」
「……あの」
準備していたのに、言葉が出て来ない。情けない僕に、彼女はフッと吹き出した。
「ずっと持ってたの? 確かあの時」
「ゴメン! あの後中庭を何度も探したんだ。謝ろうと思ったけど、転校しちゃったでしょ? それで」
「そうだったんだ……」
ずっと心残りだった。だって、
「……ごめん」
初恋だったから。
「私ね」
彼女は躊躇いがちに口を開いた。
「ずっと好きだったんだよ? 小学校の時、俊くんの事」
僕は顔を上げた。
すると彼女は体を背けて歩き出した。
「行こ? 遅刻するよ?」
僕は慌てて追いかけた。
鉛筆は胸にしまって。
読んでくれてありがとう。
「えんぴつ」をテーマに出来た作品ですけども、えんぴつと言う小学校の時にお隣の席の人とのいろんなドラマ(笑)を私は思い出しました。そういう記憶を掘り起こさせてくれて感謝しています。