カード
第二話 カード
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例えば、普段からスマートフォンを使っている人に、「お前今日からスマートフォン禁止な」なんて言って取り上げてみようか。まず、生活の一部となっていることは間違いないため、その人にとっては「お前今日から食事禁止な」と言われているに等しい。
では、奪われるのではなく、与えられた場合はどうなるだろうか。
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「今日からあなた達にはカードを渡します」
朝早くから司令室に呼ばれた衣愛と詩織の二人は、ひなこにそう言われ、黒いカードを渡された。
「このカードがあると、行きたい場所にいつでも行けるわ。使い方は、ドアの前でカードをかざして、行きたい場所の名前を思えば行けるから。と言っても、ドアからドアへ移動になるから、ドアのない場所には行けないし、ドアがない場合は限りなく近いドアへの移動になるわ」
「…なんかあれだね、どこでも移動出来るピンク色のドアみたいだね」
「何を言ってるのよあなたは…」
「え?しおりん知らない?あの超有名なあの漫画を知らないの?」
「私は図書館には資料を探す程度にしか寄らないから、漫画なんて読まないわね」
「へ〜、しおりんって真面目だよね。じゃあ、タイトル教えてあげるから、今度読むといいよ。えっとね、タイトルはたしか…ドラ」
「暇があれば読んでみるわ」
「最後まで言ってないんだけど!?」
「続けてもいいかしら?」
「ひなちゃんは知ってるよね!あの超有名な漫画!青いたぬ」
「続けてもいいかしら?」
カチャ
「続けてください!」
「…今になってこのカードを渡したのは意味があります。まず一つはそろそろあなた達にも、危険度の高い仕事がまわり始めたからです」
「これまでの仕事は簡単だったからね」
「どっかの誰かさんのせいで難易度が上がったりしたけどね」
「どこの誰のせいだ!」
「………はぁ」
「どうしたのしおりん?お腹痛い?」
「頭が痛いわ」
「あ、じゃあ保健室行こっか。あそこのベッド寝やすくていいん」
スッ、ファサッ
「…ふぇ?」
「…」
「あら、上手に避けますね。スカートの止めてあるリボンのところにピンポイントにナイフを当てるように避けるなんて凄いじゃないですか。………次は刺しますよ」
「………ごめんなさい!」
「はいよく出来ました。…詩織は?」
「…ごめんなさい」
「そうですね、よく出来ました。では続けますね。二つ目は純粋にあなた達に預けると好き勝手に使いそうだから渡すのが怖かったんです」
「…なるほど、この馬鹿なら使いそうですね」
「はい!私いろんな所に行きます!」
「素直でよろしい。でも、あまり勝手には使わないでね。少しくらいは許しますが、頻繁には使わないように」
「はい!ありがとうございます!」
「話は以上です。二人とも下がっていいわよ」
「失礼しました!」
「…」
ドアを閉めて二人が退室する。そして後ろから急に声が聞こえる。
「今日の二人はなかなか素直に話を聞いていたね、ひなこ」
「あなたいつからいたの?」
「安心していい。二人にカードを渡すところからしか見ていない」
「全部見ていたのね」
「そうなるかな。じゃあ始めようか、いつものアレを」
「…なに?ヤりたいの?」
「君がいいと言うならね」
「…意地悪……先にそこのスカート片付けて」
「分かったよ…おや?二枚?」
梨衣はくすりと笑いながら、二人のスカート片付けた。
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「今日はあんまり怒られなかったね」
「あたしは怒られてないわよ」
「パンツ丸出しで言っても説得力ないなぁ」
「…あたしもやられてたのね……」
「気づいてなかったの?」
「うるさいわね…まあいいわ、私は部屋に戻って着替えてから早速これを使うわ」
「私も!一緒に行かない?しおりん?」
「行かないわよ。あなたといると余計なトラブルにあうから嫌よ」
「え〜?いつ私がトラブルに巻き込んだ!」
「基本いつもよ。細かい日時とか知りたい?」
「え!?細かい日時まで覚えてるの!?なんかあれだね、たまに陰湿だよね、しおりんって」
「…まずは五ヵ月前の作戦であなたが関係のない人に銃をむけたところから話せばいいかしら?」
「うわああああ!聞きたくない聞きたくない!本当に話始めないでよ!というか本当に覚えてるの!?」
「そうね。あなたのミスであたしもきつめの処分をくらったし、覚えていてもいいんじゃないかしら?」
「…うわぁ……めんどく」
「ひなこの指示がないままにターゲットに近づき刺殺し、周りに関係のない人がいたにも関わらずさらに二人目を射殺。三人目のターゲットと間違えて関係のない人に銃を向け、発砲寸前のところを」
「ごめんなさい!しおりんは最高のかわいい女の子です!それにひきかえ私は使えない女です!ごめんなさい!」
「分かればよろしい。ついて来ないで」
「あの、部屋の方向同じ」
「さらに先月あなたが作戦中に飽きて近くに落ちてたエロ本を片手に足を広げてもう片方の手を」
「なんで知ってるの!?いやあのついて行かないです!大人しくここで座って待ってます!」
「そうね。十五分後に行動の許可を与えるわ」
「ありがたき幸せ!」
「…はぁ、目と耳を塞いで正座で三十分待機。自分で正確に数えて三十分後以降行動の許可を与える」
「了解であります!」
そう言って衣愛は黒いニーソを脱ぎ自分の目を塞ぎ、ポケットに入れていたイヤホンと音楽再生機器で耳を塞いだ。イヤホンから音楽が大きく聞こえるので、音量を最大まで上げたのだろう。ここまでやるかと思ったが、やれと言ったらやる子なので、そこは扱いやすい。
「…………十分くらい、なら……バレないわよね」
そう言って詩織は足を広げて自分のパンツを脱いだ。
「あの時、部屋に梨衣の気配もあったし…今なら、大丈夫……ん、ふぅ……い、あ…はぁ♡」
「すんすん、くんくん…あれ?なんかいい匂いがする。これは…なんだろ?」
「!?」
「なんかこの匂い好きかも。しおりんの匂いに似てる」
「……犬かこいつは…」
なんだか今自分でやっている事が馬鹿らしくなり、詩織はパンツを履いて、その場を立ち去った。
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「やっぱ、移動のカード楽ね。どこにでもタダでいけるし、移動時間も短縮されるし、いいことしかないわ」
詩織はもらったカードを使い、買い物に来ていた。
「服と本は買ったし、あとはどこかでお茶でもしようかしら」
詩織は近くの喫茶店でコーヒーを頼み、先程購入した本を読んでいた。
衣愛から離れた自由時間がこんなに気持ちのいいものなのかと、詩織は一人の時間を存分に満喫した。
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「…よし、三十分経った!」
イヤホンを耳から外し、ニーソを取ると、そこに詩織はいなかった。
「ええ〜?ホントにいないのぉ?」
詩織なら待ってくれていると当たり前のように思っていたが、現実にはそこに詩織はいなく、衣愛が一人変態的な格好で待機していただけだった。
「ううぅ…まあでも?このカードがあればしおりんの場所なんてすぐ行けるもんね」
衣愛はカードを使い、詩織の所に行こうとしたが、手を止め考えた。
「もしも私が行かなかったら、しおりん寂しくて私の所に来てくれるかも!」
根拠のない自信はどこから来たのか、衣愛はそこから先、部屋で詩織が来るのをずっと待っていた。
「大丈夫、来てくれる。不安で来てくれないだけ。大丈夫。コンドームもちゃんと五つは用意した」
わけのわからないことを言いながら。
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その夜、衣愛は詩織に問いただした。
「どうしてあのまま放置したの!私の所に帰らなかったの!ちゃんとゴムも五つ用意したのに!」
「なんであのまま放置されないと思ったの?あなたの所に帰ると思ったの?そもそもあなた生えてないでしょ」
「え?放置するために置いて行ったの!?」
あらゆることが逆の二人の会話が噛み合うはずもなく、二人はわけのわからない状態へおちいっている。
「分かった!とりあえずエッチの時はゴムなしでいいってことだね!」
「そんな話はしてない!というか危ないからゴムはしろ!」
「え?しおりんとヤってもいいの?」
「あたしじゃあないから!あんたが誰かとエッチする時の話よ!ないでしょうけど!」
「しおりん以外とは考えられないもんね!」
「うがああああああああぁぁぁ!」
愉快ないつも通りの情景に、とうとう詩織は叫び出す。
「あああぁぁ……ん…うん……疲れた」
どうやら疲れたらしい。
「ん…むり、もう…むり……」
「し、しおりん?」
「や、も、むり。しおりん寝る」
「しおりん!?」
「お酒飲んで寝る」
「私達まだ未成年だよ!?」
「いい…心は二十歳」
「少なくとも体は十代だよ!」
全てを諦め、無の境地に思わぬ形で入り込んだが、これは別の無の境地だろう。
「お酒屋さん」
カードをドアにかざし、場所を指定する。
「だめぇ!ごめんなさい!謝るから、謝るから正気に戻って!」
「お酒屋さん行こぉ?今日はしおりんのおごりだぁ」
「ごめ、ごめんなさいいぃ!助けてぇ、リリィ、ひなちゃんんん!」
「ん?あ、そうね。みんないた方が楽しいものね。じゃあいくぞぉ」
「やっぱりだめええぇ!」
衣愛は、詩織が壊れた姿を誰にも教えてはいけないと確信した。




