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さよなら眠り姫  作者: ♯(絵入)
9/10

終章 逃眠病 ~the escape sleeping sickness~

真理の果て

~一つの可能性~


 雪花が再び眠りについてから二日が過ぎ、僕の指示でいつものメンバーが院内の会議室に集まっている。この二日間の間に雪花の両親、僕の両親に色々と説明した。葉子は姉さんが面倒を見ることでまとまった。

「チクショウ、何なんだよ」

 ハジメの怒りは誰にも、どこにもぶつけられない。

「今から、僕がたどり着いた真理の果てを話す。今までの逃眠病に対する認識が根本から崩れるかもしれないから誰にも話しては無かった。雪花が起きたから話す必要は無いと思ってた。でも、再びこうなったんじゃ…話すしかない」

「真理の果て…って、葉子さんが最後に言ってたアレ?」

 美月は記憶を探り、訊ねる。

「そう。多分僕の考えと同じだから、あの本を見ながら話そう。姉さん、鍵をください」

 姉さんは胸ポケットから鍵を出し渡した。

 僕は本の封を破り、みんなに見せた。本の内容はおびただしいまでの逃眠病に関する資料。現在では違法になる事すらこれには記されてあった。

 しかし、どれも画期的な内容ではなく、あくまでも、実験としての意味合いが強いものばかりだった。

 そして、本に挟まれていた手紙には著者の逃眠病に関する個人的な論文が記されていた。

 多分これが真理の果てだろう。

 僕は読み出した。


 ―――。

 この手紙を読む者がいるならばこの本に記されている逃眠病に関する資料や、これからの手紙の内容は無用なものであるだろう。

 しかし、何かの偶然により、まだ逃眠病が蔓延る世界にこれを読む者が現れる可能性を信じ、この手紙と本を残す。

もし、逃眠病がなくなっている世界ならばこの本の内容は狂人の妄想とし、処分してもらいたい。

 

 逃眠病を調べる者で、ここから先を読む場合、今までの仮定を全て砕くかもしれない内容である。覚悟は良いか?


 私は三十年にわたり逃眠病を調べ、様々な非合法な人体実験もした。人には悪魔、鬼畜、狂人などと呼ばれ、(さげす)まされた。

 ある時、眠り姫の脳波が手に入った。今まで門外不出の最重要機密事項だったはずだ。何でも、画家と精神科医が眠る事になった時に、今までであった中で一番逃眠病に心血を注いでた私に託したそうだ。

 そして、眠り姫の脳波と、他の逃眠病患者の脳波を見比べ愕然とした。この脳波を公表できるはずが無い。今までの全てを壊す事になりかねない。

眠り姫以外の脳波は昼間にはREM睡眠期に入っており、夜には深睡眠期に入っている。しかし、眠り姫の脳波は常に深睡眠期に入っている。

 つまり、逃眠病は二つあったのだ。


 ここからは、私の勝手な憶測である。


 私は精神疾患と言うのは感染する可能性が0ではないと考えている。

 例えば、近くにイライラしている人がいると自分もイライラしてくることや、幸せそうな人を見ると自分も嬉しくなる。それを発展していけば、追い詰めていけば精神疾患も一種の感染病になりえるのではないか?

 そう仮定すると、私は現在多くの人が感染している逃眠病は最大級の精神疾患感染病ではないかと考える。この病気が広まりだす前から、自殺者、ひきこもり、鬱病患者が増えており、それらのほとんどは『現実から逃げたい』と願っていただろう。その時に、この病気が生まれたのはある意味必然ではないか。

 次に、あまり知られていないが、眠り姫の次に逃眠病にかかったとされているのは眠り姫が通っていた学校の同じクラスの生徒である(ここではAとする)。調べたところ、Aはいじめられっこで、成績も良くないし、運動も出来ない。つまり、私の仮定する逃眠病患者の条件に十二分に当てはまるのだ。

 そして、多分異様なまでの感染速度の理由はこうだろう。二人の生徒が眠っていると言う異常事態に興奮し、ある生徒がインターネットを使い全国に広めた。それを面白がったやつがさらに広めた。そして、自分も罹ったと思い込み、そのまま眠る。それの繰り返しで間違いないだろう。それが、世界規模で広まり、小さな不安を持ってる者まで、心が弱くなり眠りにつくのだ。不安を持たない人間はいないだろう。だから、この星は眠りに向かうのだ

 つまり、現在広まっている逃眠病の感染源はAで、ウィルスは過剰なまでのメディアなのだ。


 では、眠り姫のほうはどうだろうか。

 彼女は聞いたところによると、現実から逃げたいとは思っていなかったらしい。

 こうなると、それについての結論はこうしか出せない。

 原因不明。

 つまり、本当に奇病なのだ。

 また、人類以外の動物にも同様の症状が発生している事から、原因不明の奇病という誠に遺憾な結論しか出せず死ぬ私は自分が憎い。


 しかし、私は、一つの方法を生み出した。

 起こせないなら、眠らなければいい。

 その夢が叶い、私には一人の跡取りがいる。

 どうか、彼女が逃眠病を治せる事を祈る。私にはそれしか出来ないのだから。


 これを読んだ者よ、逃眠病が無いのならそれでよい、もし残っているのなら、全世界の考えを変えてでもこの事を公表して欲しい。


 そして、これが僅かばかりの奇跡になる事を祈る。


 羽月四方。

 ―――。


 やっぱり、この男と同じ結論だったか。僕は、落胆だか納得だか分からない感情にふけっていると、驚きを隠せない美月は訊ねてきた。

「これって、本当なの?」

 美月の信じられないって感じの言葉に僕は頷いた。

「これと違うところは、雪花の次に逃眠病に罹った人物だけだ。そいつは、雪花の近所の引きこもり気味の学生だ。仮にBとするかな。Bは春休みにBの両親から雪花が病気で寝てると聞いた。そして、しばらく雪花を見ないことからBの両親はまた眠ってると思い、Bに話した。それからBはインターネットで過剰表現で流し、その後すぐに自分も罹った」

 僕は独自に調べた事を話した。

 僕はだいぶ前からこの考えを持っていた。けれど、これ以上世界を混乱させまいと黙っていた。姉さんも気付いていたが、僕に全権限を任せていた。

「なんか、黙ってられたのはムカついたけど、お前の方がずっと抱え込んでたんだな」

「ごめん、雪花も起きたから話す必要は無いかと思ってたんだ」

「それで、どうするの?」

 ここでどうするのとは、公表するかしないかだろう。

 僕の覚悟は決まっていた。

「逃眠病は精神疾患だと公表はする。けれどそれ以外は公表しない。二つの逃眠病も、Bの存在も、インターネットで広めた事も公表しない。人は知らなくていいことだと思う。今まで通り僕らが逃眠病を治していけばいいだけだ。気の遠くなる作業だけど、僕らしか出来ない。僕は薬の成分を考えて一般に出回れるようにしようと思う。何年かかるかは分からないけどな。みんなはどうする?」

 僕が前向きなのが珍しいのか、三人は驚いた顔をしている。

 そして、ハジメが最初に口を開いた。

「俺も昔、美月と同じ会話をしたよ。そんでこう言った。絵を描き続けるよ。それしか能がないからな」

「そうね、十年前にこんなこと話したわね。でも、私のすることは変わったわ。私は縁を鍛えながら、精神科医よりカウンセラーに集中しようと思う」

「アタシは羽月グループの総力を挙げて逃眠病患者の医療費負担などをするわ。そして、葉子も鍛え上げる。どっちの子供が凄いか勝負よ美月ちゃん」

「望むところです」

 三人はそれぞれ僕に同意してくれ、さらに、雰囲気までいいものにしてくれた。

 僕は三人に感謝してもし足りない。でも、言えるのはこの一言しかない。

 だから僕は三人にこう言う。


「ありがとう、みんな」

 と。


 そうして僕らはまた、動き出す。逃眠病を治すまで、雪花を起こすまで。


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