第2章 新生活 ~the new days~
1・入学式
~出会い~
春、新生活、四月五日。
私はこの日が来るのが楽しみだった。
新しい制服に今までと変わらない親友、そして、初めて会う人。
四月からは普通に暮らせてるからきっとこれからも大丈夫だと思う。
「お~い、雪花~、行くぞ~」
ハジメの声で家を出る。中学時代から変わらない日常。
私はこの時、この日常が後三年は続くと思っていた。
ハジメの後ろには新しい制服が似合う弥生がいる。
「おはよう、二人とも」
「おう、つーか、俺ら以外にもそういう普通の態度取れば友達ぐらい普通に出来るんじゃないのか?」
「おはよ、確かにそうよね。なんで、私たち以外には内気な子から暗い子になっちゃうの?」
「何度も言ってるんだけどそういう性格なの」
「「はぁ」」
二人そろってのため息は私のことが原因でついているのにもかかわらず苦笑を誘われてしまう。
そんなこんなで、三人で学校に向かう。
「そういや、新入生代表の挨拶はお前なの?」
「違うよ、たしか、特例試験を受けた子が私より点数上だったの」
「特例試験なんかやったの?」
「えっとね、理事長のせいで入試を休んだから特別に受けさせたら合格しちゃったらしいの」
「へ~」
「そんなことあるものなのね」
「小説みたいだよね?」
「「ん?」」
私の言葉に二人の顔がこっちを見て何かを思い出したようになった。
あっ。
「そういえば雪花、私の小説の感想は?」
「俺の絵の感想は?」
「あ、え~と。ねぇ?」
読み終わってはいたんだけど、まだ、深く読んでないから観想は言いづらい状況だった。
笑ってごまかしながら、私は急いで二人から逃げ、二人は私を追ってきた。こんな何気ない鬼ごっこも半年近いほどやってなかった。
ちょっと、駆け足で来たら予想よりずいぶんと早い時間についてしまった。
「どうしよっか?」
「しおり貰って、もう座ってるんもありだな?」
「じゃあそうしよっ」
三人でしおりを貰って同じ方向の席に行く。
と、ここで、
「もしかして、二人も特別クラスなの?」
「そうだよ」
「言ってなかったっけ?」
初耳だった。
「ひどいよ、ちゃんと教えてよね」
私はぶつくさ文句を言ってるうちに、席についた。
「あれ、椅子三つしかないよ」
「ほんとだ」
「俺、確認してくるわ」
そういってハジメはさっさと行ってしまった。
「落ち着きがないね」
「彼女としてふがいないわ」
「くす」
「あはは」
二人して変わらないハジメについて笑いあった。
少ししてハジメが戻ってくると、
「何でも、代表挨拶者は向こうに座るんだってさ」
「「へー」」
二人して納得した。
「では、時間もあるし、小説と絵の感想でも聞こうじゃないか」
「え…と、言わなきゃ駄目?」
「「駄目」」
二人の厳しい目に気後れしながら、
「まだ、一回軽く読んだだけだからそんなに沢山言えないと思うけど、えっとね――」
「と言う感じか…な」
十五分近く話してて、いつの間にか人は増えていた。
「そっか、結構私と注目点が違ったりするのね」
「そうなの?」
「うん、でも、嫌な意味じゃないわ。新鮮な感じがするわね」
「そうだな、俺も此処まで細かい点を言われるとは思わなかったし、挿絵が必要って部分を改めて思った箇所が出来たしな」
二人が私の意見に悩まされてるのは申し訳なくて、
「その、我が儘な読者でごめんね」
二人は目を点にしながら、
「違う、違う、さらにやりがいとか良い構想が出来たから感謝してるのよ」
「そうそう、俺たちだけじゃ気付かないところもあったしな」
「なら、よかった」
それから二人はちょっと私のことを忘れて、内容に集中した。
ほんの二、三分したら壮年の男性の声で、
「えー、皆さんご静粛に、ただいまより私立葉桜学園高等部の入学式をはじめたいと思います」
ざわめいていた場内は静まり返り、引き続き壮年の声で演目が言われていった。
「理事長より、入学許可宣言、及び、挨拶」
凛とした格好のどこかで見たことある若い女性が壇上に上がる。
「あれ?」
壇上の女性をどこかで見たこと、いや、会った事があるような感じがする。声に気付いた美月が訊ねてきた。
「どうしたの?」
「ううん、あの理事長をどこかで見たことがあるような気がして」
「気のせいじゃない?あっ、もしかしたら入試とかで見かけたんじゃない?」
「うん、きっとそうだよね」
どこか、納得できないまま、理事長の方に顔を向けた。
理事長が一礼をするとまばらながら場内から拍手がもれた。
「私は私立葉桜学園総理事長を務める羽月葉子と申します。ただいまより、諸君らをこの学園の生徒であると宣言します」
何と言うか、圧倒的カリスマ性でいきなり生徒の心をつかんでしまう凄い女性だった。拍手も壇上に上がって一礼した時と、今では決定的に違った。
「さて、堅苦しい挨拶はこのぐらいにしてと」
急に砕けたしゃべり方になったのにもみんな驚いていた。けど、だらしないしゃべり方じゃなくて、聞いてて嫌じゃない優しい声だった。
「私は少し前に通り魔に刺されました。しかし、ある少年が助けてくれたのです」
私はこの話を知っていた。ある少年とはメル友になった四方君のことだ。
「彼はその日が入試なのに私を助け、病院までついてきてくれました。皆さんは、自分の一生を決めるかもしれない日に見ず知らず人を助けられますか?」
場内がざわめく。私はどうだろうか。
「私はそこで人を助ける善人なれとは言いません。けれど、見捨てる冷たい奴になれとも言いません。ただ、自分が後悔しても自分がやったことに責任を、誇りを持てる人間になれといいたいのです。自分のやったことにせめて、自分だけが納得できる人になってください。最後の方は個人的主観が入ってしまいましたが、これで私の挨拶を終わりにします」
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
ここまで大きな拍手をこのような式典で聞いたのは初めてだった。
拍手が鳴り止むと壮年の方が、
「次は、新入生代表挨拶。特別クラス詩月四方」
「はい」
想像通り、すらりとしたインテリっぽい男の子。彼が詩月君。
「我々、新入生一同は、今日のすばらしき日を胸に、三年間精一杯、走り抜けていくことを、誓います。新入生代表、詩月四方」
カッコいい。私は正直にそう思った。
美月は私のそんな思いに気付いたのか、
「アタックしなよ」と、言ってきた。
ここで、メールしてるんだよと言ったら何を言われるかわかったものじゃないから伏せておく。
この学校の入学式は長い。なぜかと言うと、卒業式みたいに担任の教師が生徒の名前を全員呼ぶからだ。私たちのクラスは一番最後で、人の名前を聴く時間は暇だった。美月達はさっきの続きをひそひそと話していて、私はチラチラと詩月君を見ていた。
やっと、私たちの番になり、担任の若い女性から名前が呼ばれた。
「特別クラス、準首席、如月雪花」
「はい」
緊張して声が裏返ってしまった。
恥ずかしくて詩月君に目をやると、一瞬だけ目があった。私は恥ずかしくなって急いで目をそらした。凄く失礼な事をした。自己嫌悪だ。
そんな僅かな間のあと、
「特別クラス、首席、詩月四方」
「はい」
さっきの挨拶のときと変わる事のない堂々とした姿勢に私は尊敬した。見つめてるのがばれないように、視線はチラチラと送る。
私は、多分詩月君に恋してる。と、そんなことを思っていた。
「特別クラス、絵画特待生、睦月ハジメ」
「はい」
ハジメも結構堂々としている。それにしても、絵画で特別クラスに入ったのは知らなかった。
「特別クラス、文学特待生、弥生美月」
「はい」
凛とした格好がものすごく綺麗で、羨ましかった。
「以上で全新入生の紹介を終わります。一堂起立、礼」
それから少し退屈な話があって、私の高校生活最初で最後の式典は終わった。
アリーナを退場してすぐの所で、
「ねえ、詩月君を待たない?」
二人は私の提案に驚きながら、嬉しそうに、
「そっか、そっか、雪花にもやっと春が来たか。あいつはカッコ良かったし、堂々としてるから、良いと思うぞ」
「私も賛成だわ。これからはクラスでデートね」
勝手に納得されても困るけど、私が惚れてしまったのは事実だから否定も出来なかった。そんなこんなでからかわれていると後ろから、
「初めまして、お三方。詩月四方です」
振り向くと詩月君は笑顔でそこにいた。
私たちはそれぞれ、初めましてと言って、四人で雑談しながら教室に向かう。
詩月君が私たちの顔と名前を確認して、
「えっと、貴方が睦月君で、貴女が弥生さんで、キミが雪花?」
その台詞に二人が食いついた。
「えっ、何で雪花には名前で呼び捨てなの?」
「どういう関係?」
その勢いに気圧されて、私に向かって一言。
「僕との事は言ってなかったんだね」
「ごめんなさい」
と、謝った。
「僕らは四月からメールしてて、それで、二人の事を聞いたんだ」
私は、ああ、また地雷踏んだ。と思った。
案の定
「メール?雪花が?そんな積極的なの初めて」
「だな。この内気がメールしてるとは思わなかった」
詩月君が困っていたので、
「ね、積もる話もあるから、早く教室行こう」
私の言葉に二人は納得したのか、適当な話題をしながら教室に向かった。
教室に着き、荷物を置いた瞬間、
「じゃあ、二人の馴れ初めを話してもらおうじゃないか」
やっと、冷静になった美月がハジメを静止するように、
「まぁ、まぁ、まずは自己紹介からでしょうよ。さっきはごめんね、親友にいきなり仲の良い男の子が出来てたんでびっくりしたの。私は弥生美月、小説を書いててその実力を認められて特待生になったの。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
美月が差し出した手を握り二人は握手した。
次に、口を開いたのはハジメだった。
「俺は睦月ハジメ。絵の実力を認められて特待生になったんだ。睦月って言われると女っぽいから、ハジメって呼んでくれ。よろしくな」
「よろしくお願いします。ハジメ君」
詩月君が握手に答えようとしたら、ハジメは手を引いた。驚いた顔の詩月君に、
「これから三年間一緒なんだ、敬語は無しにしようぜ。後呼び捨ててでオッケーだ」
「そうで…、そうだな。よろしくハジメ」
二人は握手ってよりはもっとがっちりした手の握り方をした。
ここでお鉢は私に回ってきた。
「私は、如月雪花です。ちょっと勉強が出来たから特待生になれました。よろしくお願いします」
詩月君は握手を返さないで、
「僕も敬語をやめたんだから、雪花ももっと気軽に話してよ」
「でも…」
「フェアにね?」
「う…うん。あらためてよろしく、えっと…四方君?」
「そうそう、そっちの方がいいな。出来れば呼び捨ての方がいいんだけど、まあ、これから何とかなるかな。こちらこそ、あらためてよろしく雪花」
「「ひゅーひゅー」」
二人の冷やかしも気になって、恥ずかしかったけど、それ以上に好きな人と手をつなぐのは嬉しかった。
今度は四方君が、
「僕は詩月四方。さっき葉子さんの話に出てきた少年で、そのおかげでここの特例試験を受けて、晴れて入学できたんだ。よろしく」
最初にその名前に突っ込んだのは美月だ。
「えっと、葉子さん?」
違和感はないけれど、四方君は理事長を名前で呼んでいる。
「あっ」
四方君はやばいと言う顔をした。
「白状しなさいよ。理事長とどういう関係?」
さっき始めてあったはずなのに中々聞きづらい質問をする美月と、それをにやけながらみてるハジメ。二人とももういつものペースだった。
「それはだな」
「毎夜毎夜、若い性欲を発散させろって私たちの寝室に来て私たちをとっかえひっかえ使って遊んでる関係よ」
ピシ。
場が固まると言うのはこういうことを言うのかもしれない。
その声の女性はさっき私たちの名前を読んでいた人。つまり担任の先生が教室の入口でニヤニヤしていた。多分、ハジメに近い性格だと思う。絶対そうだ。あの顔…いたずらっ子だ。
先生に対し詩月君が
「ほ、蛍さん、何てこと言うんですか。確かに僕はそっちの家に泊まりましたけど一日だけじゃないですか」
詩月君の必死の訴えは、美月に新しい興味を与えただけだった。
「えっ、先生の事も名前で読んでるわ。それに、泊まったって」
初めて会う人にするような態度じゃないなと思いつつも、凄く楽しそうな美月は輝いている。
無論、良い意味ではないのだけれど。
それに対し、詩月君はかなりテンパっている。
そしてハジメも、蛍さんと呼ばれた女性と同じようにニヤニヤしている。
パン。
「はい、そこまで」
何かでものをたたく音がした方向に、頭を抑えている蛍さんと、ファイルを持った理事長がいた。
「まったく、みんな仲良いわね。四方君だけ中学違うからどうなるかと思ったけど大丈夫そうね。それにしても、この愚妹は、私が来るまでにこのクラスの説明しといってって言ったのに。まったく。はい、席着いて」
理事長の威勢のいい号令で私たちは席につく。その間、終始頭を痛そうに頭を撫でていた蛍さんは面白かった。私はこれからのクラスが楽しいと確信できた。
「さて、まずは私たちの自己紹介をしましょう。私は羽月葉子です。ここの理事兼このクラスの担任で、羽月グループの会長もやっています。出来れば理事長じゃなくて、葉子と呼んでください。よろしくお願いします」
「えっと、アタシは葉子の妹で、このクラスの副担任だよ。グループでは葉子の秘書やってるの。アタシも蛍って呼んでね。よろしく」
二人のそれなりに対称的な挨拶が済んで私たちがもう一度自己紹介をしたら、このクラスの説明が入った。
「本来このクラスは、芸能人や著名人のためにあるクラスです。芸能活動や睦月君、弥生さんのような方の執筆活動のために普通の勉強には力を入れてません。しかし、今年からは首席をこのクラスにいれ、主に勉学の得意分野を極める形で海外に留学できるまでに鍛えようとも思っています。もし、貴方たちが行きたい場所があるなら私たちがどんな事をしてでも入れます。その代わり、夢と誇りを忘れたら、即刻退学といたします」
す、すごい。ちょっと、現実では言いそうに無い台詞なのに凄く似合ってる。カッコいい人だ
「もう、そんなに脅さなくてもね」
何と言うか微妙に二人のテンションがかみ合ってない気がするけどそれがまた楽しい。
「さて、私たちからはこんなところね。今日は解散にします。えっと、じゃあ、如月さん、号令お願いします」
えっ。私。
「き、起立。気をつけ、礼」
「「さようなら」」
と言い終わるや否や蛍さんが、
「今日これから用事ある人いる?」
と言い出した。葉子さんもなんか笑顔で私たちを見てる。
四人はそれぞれ「平気」、「大丈夫」と口にした。
それを見た蛍さんはニカっと笑って、
「よし、明日は休みだし今日は四方の家で泊りがけのパーティーね」
「はっ?」
無論最初に反応したのは四方君だ。
「いいじゃない、面白そうね」
「ああ、色々といい機会じゃないか」
私の幼馴染は乗り気だ。葉子さんの方に眼をやると、こっちと目が合い、
「このクラスは留学を考えて設定してあるから、みんなが揃ってるときにパーティーをするのは賛成よ」
葉子さんも乗り気だった。
「ほらほら、首席と準首席は?」
蛍さんに急かされ、
「四方君の…迷惑にならないなら、その、や…やりたいです」
「おー、エロイな」ゴン「ぐえ」
美月の鉄建が炸裂した。けれど美月は涼しい顔だった。
「ラブラブね」
「美人姉妹なのになんでアタシたちもてないの?」
「高嶺の花過ぎるのよ」
それぞれに言いたい放題言われた。一人は即効で悶絶したけど。
四方君は顔を少し赤らめながら、
「その言い方はずるい。拒否できないだろ」
その一言に周りから冷やかしが入ったけど私はそれどころじゃないほど嬉しかった。
四方君はもう一度、ため息をつき、
「じゃあ、夕方六時に羽月さんたちは来てください。それで、三人は五時半過ぎに学校にきてくれるか。迎えに行くから」
「う…うん」
「よし、部屋片付けたりしないとな。そういや蛍さん、何するの?」
「うーん、この時期囲み料理は、焼肉かお好み焼きね」
「どちらにしても、鉄板無いからお願いしていいですか?」
「えー、おーもーいー」
蛍さんの不満をかき消すかのように、さっき聞こえたようにパンと音がした。
「道具も材料も私たちが用意するから貴方たちは純粋に楽しみなさい。ね?」
私たちは口々に「ありがとうございます」と、言っていったん別れた。
ちなみに、その間蛍さんは頭を抱えてうずくまっていた。
葉子さんは結構容赦ない性格みたいだ。
羽月姉妹と四方君と別れて幼馴染三人組になった私達は私の家に向かう。
「ねぇ、二人は時間までどうするの?」
「雪花の家でいいんじゃない?」
「俺も賛成」
二人は時間までうちで時間をつぶす気満々だった。
高校入学式の日に何故私達は両親が近くにいないかと言うと、私の母さんは看護師で不定期な生活をしていて、父さんは船乗りで世界をまたに駆ける身。ハジメの両親は考古学者で世界中を飛び回っている。美月の両親は医者で病院に泊まりこんでる日が多い。つまり、私達は同い年の子からは羨ましがられる様な生活をしている。
だから、こういう日も常に三人でいるのが当たり前になってきている。
私の家に着くとハジメは、
「チャリ貸してくれ、着替えてくる」
と言って、さっさと行ってしまった。
美月は、
「私も着替えるね。部屋貸してね」
と言って、私の部屋に入っていった。私の部屋には常に美月の服が数着あり、美月の部屋には私の服が数着ある。手ぶらで泊まりにいけるように二人が決めた約束だった。
私は制服のまま冷蔵庫を見て昼食のメニューを考える。冷蔵庫には卵、カニカマ、昨日の野菜炒め。これで作るならアレしかない。材料を出して、下準備を終える頃になって美月が着替え終わった。
美月は興味心身に聞いてきた。
「雪花ー、お昼は何?」
「んー、かに玉と、炒飯。でも、デザートがないからハジメに何か頼んでもらえる?」
「いいよー」
「じゃあ、着替えてくるね」
「いってらっしゃい」
私はさっさと部屋に行き、ジャージを来て台所に向かう。こう言っちゃ何だけど、美月は料理があまりうまくない。何かされる前に私が何とかしたいというのが本音だ。台所に着いたとき美月はまだ電話をしていて、結構ホッとした。
それから、料理を作り出す。途中美月が真面目な声で、
「ねぇ、もう大丈夫なの?」
美月とハジメが春休みの事…知らないわけないよね。
「うん、最近は平気だよ。心配しないで」
「何言ってるの?私達どれだけ心配したか…。めったに家にいない雪花のおばさんだって結構家に居たんだよ。心配するに決まってるよ」
美月にしては珍しく強い反論。
涙のたまっている美月に私は、
「ごめんね」
としか言えなかった。
「あやまるより、何かあったらちゃんと言ってね?」
「うん、ありがとう」
美月の優しさは嬉しいけど、何があったかなんて判らないのは私も同じだった。でも、美月の言葉は少なからず私に安心を与えた。一人じゃないって教えてくれた。不安の中、心強かった。
バタン。
扉の開く音に私と美月は見つめ合って、
「女の子の秘密よ」
「ええ」
と囁きあった。美月の涙目にハジメが不思議な顔をしたのはいうまでもない話。
昼食をとり、三人でゲームをやって時間をつぶしているとすぐに約束の時間が近づいてきた。私はジャージから普通の服に着替え、三人と学校に向かう。いくら葉子さんが何も要らないといってもやっぱり、何も持っていかないのは悪いからコンビニでジュースとお菓子を買っていった。
学校には五時半より十分近く着いたのに、四方君はもうそこにいた。
「おっ、早かったな」
「待たせてごめんね」
「良いって、良いって。僕も今来たところだから。あっ、荷物持つよ」
「えっ、悪いよ」
「こういうのは男に任せて」
「う…うん」
なんかデートみたいで嬉しい。でも、こういう展開の後は必ず、
「うわ、らぶらぶだな」
「見てるこっちが恥ずかしいわね」
やっぱり、幼馴染のツッコミが入った。
四人で雑談しながら四方君の家に向かう。
「もう葉子さんたち来たの?」
「ああ、二人して下準備してる。葉子さんは判ると思うけど、蛍さんもああ見えて意外となんでもそつ無くこなせるんだ。確か葉子さんは和洋食が得意で、蛍さんは中華とイタリアとインドが得意だったな。三人は?」
「インドって、蛍さんらしいユニークな響きだな。まぁ、俺は作れるけどそこまで得意じゃないな」
「アタシも得意じゃないわね」
その言葉にハジメは私と目を合わせてから、
「いや、美月は料理が下手だ」
と言った。
ゴン。
「ぐえ」
美月の良いストレートが入り悶絶しているハジメを尻目に、
「雪花は料理得意だよ。私たち三人のお弁当とか作ってきてくれるしね」
私はテレながら、
「そ、そんなことないよ。普通の料理しか出来ないよ」
「へー、今度教えてよ。一人暮らしだから基本的な料理くらいできるようになりたいし。あの二人は本格的過ぎてついていけないんだよね」
「う…うん。うまく教えられるか判らないけど任せて」
「やれやれ、やっぱり俺達がいてもらぶらぶだな」
「ね」
復活したハジメと美月にまたからかわれた。
そんなこんなで雑談しながら四方君の家に着くともう宴会の準備が出来ていた。
「あ、来た来た」
「蛍、材料持っていって」
エプロンをつけた羽月さん達が準備してるのを見て手伝いに向かおうとすると、
「良いわよ、自宅に招いたんだから私たちがやるわ」
「ここ、僕の家なんだけど…」
四方君の呟きを聞こえない振りして二人はさっさと準備をした。ものの十分くらいでテーブルには沢山の食材と、飲み物、お菓子、中にはアルコールまで置いてあった。
私達は飲んで、食べて、騒いでこの一時を楽しんだ。
そして、私は眠りについた。
子供たちが寝静まった後。
ガチャ。
「ふう、春先の風はまだ冷たいわね」
葉子は煙草に火をつけながら呟いた。
「ふ~」
紫煙が上がるのとほぼ同時に、
ガチャ、と蛍も外に出てきた。
「う~、頭イタイ。ガンガンする」
「呑みすぎよ。気をつけないと」
「若いから良いでしょ」
「そうね」
そういいながら葉子は次の煙草に火をつける。
「それ何本目?」
「二本目よ。ちゃんと健康には気をつけてるわ」
僅かな静寂のあと、蛍は口を開いた。
「もし、煙草が退屈しのぎの一環なら、あの二人の事聞かせて。まだ聞いたことないからさ」
「画家と精神科医?」
「そうそう。駄目?」
「良いわよ。そうね、あの二人は私の知ってる時代では世界規模で代表的な逃眠病の権威で、今と同じく二人は一緒に居たわ。画家は逃眠病患者の絵を書き続け、その絵を本人に見せ『現実でもこれぐらい幸せな顔が出来るように生きろ』と逃眠病患者を奮い立たせ、精神科医は逃眠病患者だけでなく逃眠病患者の家族の話も聞いて二人三脚で現実に呼び戻そうとしていたわ。ちなみに、お父様が姫の事を知ったのは画家の絵が原因なの」
「へー、そうなんだ」
「でも、二人だけじゃ解決には遠すぎ、終わってしまった。二人が本当に起こしたかったのは姫。もし、そこにお父様が加われば何とかなるかもしれない…と思うのは私の自分勝手な思い込みかもしれない。でも賭けてみたいの。ふふ、今日はやけに饒舌になったみたい。酔ってるのかしら」
「ははは、良いじゃない。最後の宴会なんだしさ」
「それもそうね。もう一ヶ月切った今、くよくよ悩んでも仕方ないわね」
「葉子が蒔いた種はアタシたちが何とかする。だから、どんどん蒔いてちょうだい」
「頼もしいわね」
「当然、もう肩を並べるほど大きくなったんだからね。アタシにもソレちょうだい?」
「吸ったことあるの?」
「無いけど、同じ土俵に立ちたいから体験する」
「はぁ、子供じゃないんだから。文句言わないでよね。はい」
煙草を受け取った蛍は慣れない手つきで口にくわえ、火をつけ、そして一息…。
「スー、グエホ、ゲホオゲホ」
「ほら、無理するから」
「ゲホ、ゴホ。ハー、後一ヶ月で絶対に吸えるようになる」
「変な目標もってもしょうがないのに」
「女のプライドよ」
「はいはい」
夜は静かに更けていく。先の見えない未来のように紫煙はユラユラと漂い、空気に闇に溶けて行った。
2・まだ幸せと思えた僅かな日々
~いつもの日常から底に~
もう、桜が散り終わる四月の半ばに入った頃。つまり、僕がこっちに来て一ヶ月くらい経った。こっちに来てから今日までめまぐるしい日が続いている。春休み中は一人暮らしのためのなれない家事。学校が始まってからは家事と勉学と遊び。
充実してる毎日が楽しくてしょうがないとはこういうことを言うんだと思う。
彼女…とはまだ言えないけど、可愛い子とも知り合いになって、今は一緒につるんでいる。
今日は入学して二度目の休日。最初の休日は宴会の翌日でその処理は僕が一人でやって夜まで続いたという苦い思い出が早くも出来上がった。
今日はそんな思い出を忘れるために、雪花とデートのようなものをする約束をしていたから、凄く楽しみだ。昨日の内に準備ができた方から連絡すると約束してたから早速雪花にメールを送る。
――おはよう、こっちは準備できたよ。そっちもオッケーなら返信ちょうだい。
送信。
「ふー」
早くも悪友となった二人の言葉が耳に残ってる。
「あの子奥手だからあなたが攻めなきゃ駄目よ。押しに弱いし、中々脈ありだと思うよ」
「休日にデートでも誘ってみろよ。あいつなら今まで男と並んで歩いたこと無いから、その辺歩くだけでも喜ぶと思うぞ」
と、結構簡単に言ってくれた。
ブゥゥゥン、ブゥゥゥン。
バイブがして雪花からかと思い液晶を覗き込むと、
――差出人:弥生美月
件名:二人でデート中
おはよー、そっちはどう?そろそろ、連絡したかな?こっちは駅前に居るんだけど、余裕があったら合流しない?それとも、二人だけのほうがいいのかな~?あの子は迫ればすぐにキスぐらい出来ると思うから頑張ってー。
「うわ、普段よりテンション高い」
とりあえず、このメールは無視して家事をしながら雪花のメールを待った。
午前十時、洗濯終了。
午前十一時、掃除終了。
午後一時、昼食終了。
………。
午後八時、ブゥゥゥン、ブゥゥゥン。
――今日はどうしたの?結局君たちから連絡来なかったんだけど?
期待して見たメールは美月からだった。理不尽なのは判ってるけど、僕はこのメールに苛立ちを覚えて、また無視をした。
それから、雪花からメールが来たのは一時間後くらいだった。僕がメールを送ってから約十二時間後の返信だった。
――今日はごめんなさい。どうしても、メールを送れる状況じゃなかったの。この埋め合わせは明日絶対にするから、また連絡ください。今日は本当にごめんなさい。あっ、でも、他の人とデートとかそういう色のあることやってたわけじゃないから信じてください。
今日は本当にごめんなさい。
どんな状況だったのか聞きたい。でも、雪花が僕たち三人に内緒で彼氏を作ることなんてどう考えてもなさそうだから、僕は納得して、就寝するまで雪花とメールをした。
午後八時半少し前。
僅かながら状況を察してしまった二人は暗い顔を向き合わせていた。
「ねえ、おかしくない?」
「何が?」
「何で二人から連絡来ないのかな?」
「二人でデートしてるんだろ?」
ハジメの顔は軽口を言うような顔ではなかった。
「本気でそう思ってる?本当は最悪の可能性考えてない?」
「…。でも、もう二週間近く症状は出てないから平気だと思ってるんだが…」
「アタシもそう思ってたい。でも、何らかの理由で二人が今日は会ってないって可能性が高いと思う。だって、あたしたちは親友じゃん。二人とも返事をしないのはおかしいよ。四方も
雪花も二回とも返事返さないんだよ。おか…」
ピピピピピ。突如なるコール音。
「電話だ、えっ、雪花から、も、もしもし?」
『んぐ、ひっく、ぇう、どうしよう?』
「何があったの?」
『んぐ、今日、私、えぐ、ずと、寝でだの。春休み、みたいに、ひっく』
雪花の嗚咽交じりの謝罪の言葉と、ただただ不安になる体の事。二人は聞く事しかできなかった。
―――。
「うん、今日はメールで良いから誤って、また明日にでも埋め合わせすれば良いから、ね?」
『うん、ありがとう。ごめんね。ハジメにも誤っといて。またね』
「ええ、また明日」
ピッ。
「ずいぶん長電話だったな。どうした?いや、最悪な結果か?」
ハジメは察していた。
「ええ、また、眠ってたみたい」
「そうか…」
「雪花、ちゃんと学校来れるのかな?」
「たたき起こしてでも良くしかないだろ?」
「うん、そうね」
「最悪の事を考えて、葉子さんと蛍さんに言っておく?」
「いや、それはきっときっと、おばさんが言ってるはずだろう」
「そうよね、よし、明日寝てたら叩き起こしてでも連れてくわよ」
「違うな、寝てても持ってくだ」
「酷い言いようね」
「親友だから出来る荒技だ」
「あはは、そうね」
二人は笑った。けどそれは作り笑いに近い笑顔だった。
ジリリリリリ、ガチャ。
「ん、ふう」
午前七時。
学校がある日はこの時間に起きないと間に合わない。別に遅刻しても怒られないし、休んでいても卒業が出来るクラスだけど、新しい親友たちと会いたくて今のところは無遅刻無欠席だ。それに、昨日の事もあるからなおさら、今日は学校に行きたかった。
いつも通り、僕がクラスで一番早く教室に着いた。三人は一緒に来るから、それまでは、一人で本を読んだりしている。三人が来るのは大体予鈴ギリギリで、僕が来てから二十分近くある。
でも今日は違った。
三人が来たのは本鈴ギリギリで、来たと言っても教室じゃなく校門にだった。いつもより明らかに遅い。それから五分もしないうちに三人は教室にやってきた。
「おっす、今日も早いな」
「おはよー、今日も私たちが遅いんだって」
「おはよう、待たせてごめんね」
三者三様の挨拶に僕は、
「今日は特別に遅かったけどどうしたの?」
三人の顔が曇る。次に雪花がボソボソと口を開いて、
「え…と、その…ね、恥ずかしいんだけど、その…」
「もしかして?」
「ごめん、寝坊しちゃったの」
少し呆れたが、僕は面白く、
「は、はっははは。雪花も寝坊するんだ。意外だね。昔からたまにしてたの?」
三人は俯いた顔を少し上げてそれぞれ、「うん」とか「そうそう」とか言った。
このときの三人の顔をもっと見ていれば、早い状態で異変に気付いたのかもしれない。けれど、結果的にはここで気付いても何の意味も無かった。
そして、後になって僕はこの言葉がどれだけ三人の心を痛めつけたのかを知る。
そして、この日から雪花の眠りが目立つようになり、一週間が過ぎた。
雪花が授業中に寝てしまったら、軽い居眠りではなく、深く眠るようにり、起こしても起きず、どんどん眠る時間が長くなっていった。
また、ひどい時は朝起きれず、遅刻してくるという日もあった。
学校が終わった後メールや電話をしても出ないことが多いけど、翌日とか、その日の遅い時間に連絡を返してくれるから、もしかしたら、寝ていたのかもしれない。
なら、この間の休みの日も実は寝ていたのではないだろうか?
それなのに僕は何も知らずにイライラして…。
「明日、二人に聞いてみるかな。教えてくれるか判らないけど」
僕は、人知れずボソリと呟き床についた。
葉月宅。姉妹は顔を合わせながら近況の整理をしていた。
「葉子、姫が眠りだしたよ」
「そうね。割と早かったわね」
「どうするの?」
「彼らに真実を話さないといけないわ。逃眠病、お父様、画家、精神科医、眠り姫…。沢山話さないといけなさそうね」
葉子は次の行動を考える。
「でも、今はおきている時間もあるから末期ではないね」
「もって、今月中かしら」
「多分ね。その間に、アタシに叩き込めることを徹底的に叩き込んで」
蛍は葉子の知識、技術、行動を吸収しようとする。
「ええ、この病をとめるためなら私は何でもするわ」
「頑張ろう、葉子…姉さん」
蛍は葉子に初めて姉と言った。今までの二人の関係は歪だった。
「えっ?」
「頑張ろう、姉さん」
「えっ?えっ?」
「何驚いてんの、葉子はアタシの姉さんだよ。これからも、いつまでも」
でも、終わりが近い。歪なまま終わるのは嫌だと蛍の強い意志が籠った言葉だった。
「ふふふ、ありがとう」
「さて、今後どうするか話しますか?」
「ええ、そうね」
姉妹は今できる事、これからやらなければならないことに向き合う。
一方その頃、ハジメと美月は暗い顔を突き合わせていた。
「ねえ、雪花…最近ひどいよね?」
「ああ」
「これじゃあ、春休みと一緒になっちゃうよ」
「ああ」
美月の問にハジメはうなずくしかできなかった。
その一方でこうも思った。
「四方は知ってるのか?いや、知らないんだろうな」
「多分ね。雪花は結構意地っ張りだから」
「明日にでも俺たちから話してみるか?」
「雪花の前で?」
「いや、夜にでも二人で行こう」
「ええ、そうね。それが今のところ一番良いと思うわ」
少しの静寂の後、ハジメは美月に尋ねた。
「なあ、もし、雪花が眠り続けたらお前はどうする?」
「ちょっと、冗談じゃないわよ、ふざけてんの?」
起こる美月に、ハジメは答えた。
「真面目な話だ。お前が言わないなら俺から言うぞ。俺は雪花の姿を書き続ける。何でって言われたら、そうだな、起きた雪花を見たくなるような、そんな絶世の美女を書き続ける。そうすれば、下心がある奴が起こそうと努力するだろ?」
「…、ア…ハ…ハハハハハハ、呆れた、そんなこと言えるならあんたが純愛小説書いたほうが良いんじゃない?なら、アタシは医者になる。雪花を起こすための医者だから多分、外科以外かな」
二人は雪花の為に生きようと、成長しようと決意する。
でも…。
「でも一番良いのは」
「このまま何も無く、雪花が普通に暮らせることね」
「そうだな」
「まだ期待してて良いよね?」
「まだじゃない、ずっと、期待できるさ」
「フフ、ホントにあんたが純愛小説書いたほうが良いんじゃない?」
「今度書いてみるか、お前のために」
「クサすぎだよ」
「男だからな」
「答えになってないって」
「そうだな」
二人はわずかに笑顔になっていた。
けれど事態は悪くなった。
ついに雪花が起きれず学校に来れなかった。
ある日の朝、遅刻ギリギリにやってきたのは二人だけで、二人とも顔が曇っていた。何事だったかなんて聞かなくてもわかった。そこに居るはずの人が居ないからだ。葉子さんが出席を取った後いつも通り自習になり、葉子さんは退室した。
それを見計らって、二人は僕の前に来た。ハジメはやり場の無い怒りを、美月は不安を持っているのがわかった。最初に口を開いたのはハジメだった。
「なあ、雪花の眠りが普通じゃないってことは何となくわかってるよな?」
予想通りの質問だった。
「ああ、僕は病気だと思っているんだけど…、前からなのか?」
「前からってほど生まれつきじゃないんだ。この前の春休みに入ってすぐの頃にいきなり眠るようになったんだ」
「でも、入学式の日に聞いたら最近は大丈夫って言われて。私たちがもう一度眠りだしたって聞いたのはこの前の休みの日。ちょうど、私がメールを送った日よ。夜八時頃に電話がかかってきて…、また眠ったって…泣いてた」
やっぱり、あの日は眠っていたのか。自分の愚かさにイラつきを覚えた。
「雪花は、病気なのか?」
「わからない。雪花のおばさんも教えてくれなくて」
「そうか」
多分、眠る時間が長くなるなら過眠症の類だと思うんだけど、この場では何もいえない。
考えに神経を集中しているとハジメが、
「もし、雪花が眠ったままになったらどうする?」
最初その質問に怒りを覚えそうになったが、ハジメの顔からして冗談ではないと感じ、こう
答えた。
「僕が起こす。法に触れても、誰かに怨まれても絶対に起こす」
その答えに対し、
「その決心に偽りは無いな?」
普段以上のプレッシャーを感じた。
「当たり前だ」
しばし、睨み合った後、ふっと、顔を緩め、
「俺はお前が雪花の近くに現れてくれてよかったと思うよ。じゃあ、[眠り姫]が来るまでいつも通り過ごすか?」
「[眠り姫]ってあんたねぇ。まあそうね、雪花も来ていきなり葬式みたいな場面だったらイヤだろうしね」
「だな」
そうして、僕たちは四月の間、雪花が来ても来なくてもなるべくいつも通りに過ごした。
けれど、現実というのは残酷で、神様なんかいないんだと思い知らされるには十二分な出来事が今でも続いている。
そう、僕らが起きた雪花にあえたのは五月二日が最後になった。
その日以来、僕は起きた雪花にあっていない。