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気遣いは無用です

お立ち寄り下さりありがとうございます。今回は短めです。

男性は胸を押さえながら呆然とした様子で、麻里を見ている。


「あの、本当に申し訳ございませんでした。前を見ていなくて」


前どころか何も見ていなかったのだが、少し見栄を張るぐらいは許してもらいたい。

麻里は頭を下げた。その拍子に痛みでくらりと眩暈がする。


今回の怪我は少しひどいレベルみたい。マスターに氷を貰おう。


眩暈をやり過ごして、ゆっくりと頭を起こし、麻里はまだ立ち尽くす男性に声をかけた。


「大丈夫ですか?」


麻里の衝撃がこれだけなのだ。相手も無傷ではないはずだ。

現に、相手はまだ胸を押さえたままだ。ふと麻里は思い至った。

肋骨は折れやすい。ひょっとして――


「大丈夫ですか!?息が苦しくなったりしていません?」


詰め寄る麻里に男性は少しのけ反り、瞬きを繰り返し、ようやく返事を返してきた。


「大丈夫です。その、血が出ています…」


男性の長い指が麻里の痛い場所を指し示す。

麻里は笑った。同時に痛みが増したが、まぁ、堪えられる程度だ。


「ああ、やっぱり切れちゃってますか?この痛みはそれぐらいだろうなと思ったんです」


男性は目を見開いて、動揺を露わにしている。

麻里は何とか彼を安心させようと、笑顔で言い続けた。


「とにかく私の方は大丈夫です。そちらは本当に大丈夫ですか?」


彼は目を瞬かせ、頷いているが、どうも心もとなく感じる。まだ驚きから立ち直れないのか、ぼんやりした印象がぬぐえない。


血を見て動揺して、ご自分の状況を把握できていないんじゃないかしら


そんな疑問を覚えた麻里はどうしたものかと考えを巡らせようとしたものの、頭の痛みのせいか考えがまとまらない。

そうしているうちに、彼が動き出した。


「あの、知り合いの医者に診てもらいましょう。顔に傷が残っては」


ポケットから取り出したスマホで今にも連絡を取りそうな気配に麻里は慌てて遮った。


「大丈夫です!たとえ跡が残ってもそもそも代り映えしない顔ですから!」


口に出すことが哀しい事実を、とにかく言い募ってみたが、男性の顔は全く納得していない。

スマホは握られたままだ。

長年の経験から、麻里にはこの出血はすぐに止まると分かっている。病院は色々な意味で恥ずかしい。どうして怪我をしたのか尋ねられることを思えば、痛みに耐える方を選びたい。

麻里は手を変えることにした。


「あの、すぐそこに私の行きつけの珈琲屋さんがあるんです。この辺でぶつかったとき、いつもそこで応急処置をしてもらっているんです」


男性は目を瞠った。

珈琲屋と応急処置の結びつきは意外なものだったのだろうか。

まぁ、普通はあり得ない結びつきでも、麻里の現実では結びついているのだから、仕方ない。

スマホから彼の意識が逸れたことを見て取った麻里は、その隙にお店への道を歩き出した。

彼は勢いに呑まれたようで、すんなり麻里の後についてくる。


ふぅ、何とかなりそう。だけど…


一先ず大ごとにならずに済んだことに安心して、つい仄暗い本心が脳裏をよぎった。


18世紀は、30分は遠ざかってしまった…


自業自得と溜息をつき、幾分足取りが重いことを感じながら、麻里は男性をお店へと案内したのだった。




お読み下さりありがとうございました。1話目にお立ち寄り下さいました方、評価を付けて下さった方、本当にありがとうございました。精進いたします。よろしくお願いいたします。

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