プロローグ
人殺しが日常の男はいつからかこんなことを考えるようになる。こんなクソみたいな日常はもういい。昔聞いた冒険譚のようなこことは違う別の世界へ行きたい。魔法が存在し、誰も踏み入ったことのない秘境を目指し、強大な魔物に挑み、そして宝を手にする。そんな冒険をしてみたい。
毎日、毎日、ひたすら戦場に出ては何百と人を殺す。戦場で人を殺すことでしか食って行けない。こんな日々はもう御免だ。
この世界では国と国同士の争いが絶えない。常にどこかの戦場で戦争が行われている。人を殺すことしか能が無い男は、こことは違う世界のことを思わない日はなかった。
男は戦場の中心にいた。左手を潰されているが両手剣を片手で操り、群がる敵兵を切り伏せて行く。最後の1人になった敵兵は恐怖のあまり腰を抜かしている。
「っ強すぎるバケモノこっちに来るなー!」
男から距離を取ろうとするが腰が抜けて上手く足に力が入らない。這いつくばりながら男から逃れようと必死に逃げている。
「頼む見逃してくれ!!」
「‥‥」
男は兵士に近づいていく。
「まだ、まだ死ねない。エナ‥君にまだ何も伝えられてない」
「‥‥」
男はあたりにいた敵兵を殲滅した。男の周りにはおびただしい数の死体が転がり赤黒い血だまりがいくつもできていた。男の足元には真っ赤に染まった紙切れを大事そうに握る死体が横たわっていた。
「‥‥まただ」
今日だけで何人が俺の目の前で命乞いをした?何故見逃さなかった?、こうすることでしか俺は生きていく方法を知らないからだ。物心ついた時には既に傭兵団に雑用係として犬のような扱いを受けていた。
恐らく金に困っていた俺の父と母が俺を傭兵団に売ったのだろう。生きていくために必死だった俺は人として大切な、何かを得られずにいるのだと思う。
「見つけたぞ漆黒の傭兵団の生き残りダンテだな?」
気づくと周りにかなり貧相な武装をした賞金稼ぎだと思われる者たちが、ダンテを取り囲むようにして武器を構えて立っていた。
「何の用だ?」
「知らないのか?お前の首にはとんでもない額の懸賞金がかけられてるんだぜ?」
「初耳だな」
「流石は漆黒の傭兵団の元隊長と言ったところだな。懸賞金の額が他とは比べものにならねえ。ん?見たところ左腕が使い物にならねえようだな。こいつはラッキーだ。」
「悪いが俺らは今、金に困ってんだお前に恨みはねえがここで死んでくれ」
こいつらも俺と同じだ。人を殺すことでしか生きて行けない人種。数は‥‥弓5、槍3、剣7、か。今度は俺が殺されるばんなのか?。素直に殺されるつもりは無いがな。
「っ!?なんて殺気だ。おいお前ら手負いだからって油断するなよ。弓は距離を取り俺の合図で奴に浴びせろ。残りは決して一人で奴に近づくな一瞬で斬られるぞ!!」
賞金稼ぎたちが頭の指示のもと陣形を作っていく。
「撃て!!」
大量の矢がダンテに向かって降り注ぐ。ダンテは両手剣を横に振りぬいて弓部隊に向かって投げた。ダンテが投げた両手剣は空気を切り裂く白銀の閃光に姿を変えて弓部隊を襲い縦に重なっていた賞金稼ぎの連中2人を腰から上下に両断させた。
すかさずダンテは極限まで研ぎ澄まされた集中力で振り注ぐ矢を最小限の動きで躱す。躱しきれない矢は右手の手甲で弾く。それでも間に合わない矢は致命傷だけは避ける。
「今だ楽にしてやれ!!」
矢を受けたダンテを見た賞金稼ぎの1人がダンテにとどめを刺そうと1人で突っ込んで行く。ダンテは致命傷だけは避けたものの、矢が右足の大腿部に突き刺さっているさらに左手も使えない。普段ならばこの程度の数に押されることは絶対にないが状況は絶望的だ。賞金稼ぎの1人がダンテの心臓を狙って槍を突き出した。
「くらえ!」
「がふ!?‥‥ぐぇ」
心臓を狙って突き出されたやりを半身になり躱す。それと同時に右拳で賞金稼ぎの顎を撃ち抜く。膝から崩れ落ちる相手から槍を奪い、もたれかかって来たところを槍の先端で喉を切り裂いた。
吹き出す返り血を浴びながらも次の攻撃に備える。続けて前方から3人、剣を上段に構えて一斉に振り下ろす。槍を横に持ち替えて頭上に構えて剣を受け止めた。
「何!?」
「お前らあいつらが抑えている間にやれ!」
3人の賞金稼ぎが剣に体重を乗せ決してダンテを逃すまいと力を強める。さらに命令された賞金稼ぎ2人がダンテを挟むように前後から迫る。
ダンテは身体の力を一気に抜き重力に任せて身体を落下させる。背中が地面につく寸前で槍を回転させ賞金稼ぎ3人の足首を深く切りつけた。痛みに耐えかねた賞金稼ぎたちはその場で尻餅をついて足首を抑えて蹲っている。
ダンテはすぐに体制を整えると足首を抑えている賞金稼ぎ3人に槍でとどめをさす。そして懐に隠していた投げナイフを取り出し素早く槍と持ち替え、前から迫る賞金稼ぎにナイフを投擲する。そしてナイフを投擲したと同時に後ろに振り向く。ナイフに反応できず前方にいた賞金稼ぎの額に深々と突き刺さる。
後ろから接近した賞金稼ぎはダンテの首目掛け剣を横に振る。ダンテは振るわれた剣の腹を下から手甲でかち上げる。両腕が剣とともに上に弾かれ、致命的な隙ができる。ダンテは、隙だらけの賞金稼ぎから剣を奪い賞金稼ぎの両腕を斬りとばした。
「ありえねぇ既にぼろぼろだった男に仲間が一瞬で8人も‥‥だがそろそろ効いてくるはずだ」
傭兵の頭と思われる男がにやけ始めた。
「なんだ?何がおかしい?」
「何がおかしいかだって?まだ気づかねえのかよ?どんだけ鈍感なんだお前は猛毒だよ、普通はこいつを食らったら一瞬でお陀仏のはずなんだが」
傭兵の頭が矢に猛毒を塗って見せた
「っ!?‥‥かはっ!」
血を吐き出し身体の感覚が無くなっていく。ダンテは沈みゆく意識の最後に生まれ変われたのならこの世界とは違う別の世界で生きたい。そして叶うのなら冒険者として世界を旅したいそう願った。
‥‥‥ここはどこだ?暗くてよく見えない‥‥そうだ!!俺は賞金目当ての傭兵たちに毒で殺されたはずだ。なぜ俺は生きている?。解毒されて生け捕りにされているのか?。身体がうまく動かせない。苦しい‥‥体が圧迫されている。‥‥なんだ?急に明るく‥‥‥
「おぎゃー!おぎゃー!」