麻葉陰子
注意書き
文体よく言われますが超へたくそです。
カタンカタン…
と電車の音がなる、今日も今日とてジャパンは平和な日々を送ってる。
桜を散り終わり、微妙に暑くなってる春の終わり。
私こと麻葉陰子は通学のため駅で電車待ちである、待ち時間はスマホのゲームで一人孤独に時間を潰す。
「フヒヒッ…」
自分の笑い声に内心引きながらも私は淡々とデイリークエストを消化してく、笑い方からもわかると思うが私は絵に描いたような陰キャラだ。
大きく丸を二つ並べたようなメガネの中には大きなクマを付けた濁った目。
片目だけ隠れるように変な伸び方した前髪と産まれてから一切染めてない長い髪を両サイドで三つ編みにして肩から前に垂らし。
制服は色気なんぞ皆無な黒のセーラーでしかもスカートは膝下を超えるくらい長い…なんで私は校則で制服自由な高校を選んでまでこんなの着てんだよ…仕方ないだろ?だってオシャレとか知らんし、他の制服あんなん完全陽キャラしか着れませんわ。
陽キャラってホントすごい。
プシュッ、ガチャ…
などと脳内自傷をやってるといつのまにか地獄へのお迎えたる電車様が御到着である、あーもう帰りたい、これ絶対全国のみんな同じ気持ちだよね?
さすがに大都会みたいにギュウギュウに押し合いするくらい混んでるわけでも無く、かといって座れる座席が残ってないくらいには人が入ってる車内に下を向きながら入場する、なんでかって?知らない人と目合わせたくないし。
私が入り口近くの定位置に移動すると見計らったように扉が閉まり電車が動き出す。
窓の外から見えるいろんな形のビルの群れ、見ても頭に入らない広告、天まで立ち昇る光の柱、どっか海外行きの飛行機がなんか火を吹いてビルに突っ込む、摩天楼とはこういう風景を形容してるんだろうな〜昔の人達は何を見てこんな言葉を作ったのかな?
…いや、ちょっと待って?なんか今現代日本にはあり得ない変な風景が映らなかったか?
私が通り過ぎた景色を再確認しようとしたその時
「ウヒャウ!?」
誰かが私のスカートごしに私のお尻を触ってる!?
うん、おっさんの痴漢さんだ。
すぐにわかったはいいもののいざ触られると気持ち悪さとか周りの目とかそういうのがグルグル回って対処ができないものだ、と言ってもこのおっさんには毎日お尻触られてるのでパニックにはなってない、うん成長してるね陰子!!
けど、そろそろ抵抗くらいしたほうがいいんだけどね!でもさ?もし抵抗してなりふり構わず本番されたり、通報してこの人の人生メチャクチャにしたらとか、こんな不細工な陰湿女に性的興奮をしてくれてると思うと…などとそんな妄想しながら結局坂月学園までの道行きをオッサンに延々と尻を撫で回されながらの登校になった。
これ中学の時から毎日なんだぜ?
坂月学園の教室に入り自分の席に着席と同時に
「インコォ〜宿題写させて〜!!」
などと言って問答無用で私の鞄を開け宿題のプリントを取り出す褐色金髪ギャル鬼灯リゼちゃんに抵抗する間も無く強奪され。
教室内で硬球でキャッチボールしてた男子どもの流れ弾が顔面に命中し鼻血を出し、遅れて「ふグゥ!?」と言ったのがツボに入ったのか爆笑しだす女子グループにスマホでパシャパシャ撮られてSNSに拡散された。
散々過ぎないか今日?まだ朝やぞ?
『アハハハハハハ!!』
教室内が爆笑に包まれる。
と言っても仕方ないのである。
麻葉陰子に友達はいない、てか産まれてからできたことがない、友達がいないと言うことは味方がいないと言う事で、つまりは周りが赤の他人か敵しかいないと言うクソッタレな状況という事で、つまり、つまり…あの…あれだよ…。
「ウッ、ヒグッ…グスッ…」
アカン、寂しさで泣きたくなってきた、どうしよう泣こうかな?
泣いたら同情して誰かフレンズに…
「うわー泣いたわアイツ」
「小学生かよ…」
「もう帰れよ異臭女」
鬼畜かよ!?あと異臭…?異臭ゥ!?いやいや衣類は香り付き洗剤に柔軟剤使ってるしシャンプーも石鹸も匂い付きの使ってますよ!?
などと内心の怒りとは裏腹に顔面は涙腺がオーバーリミットして涙がポタポタ溢れ身体は震え出す!!
あ、もう限界、ダレカタスケテ。
「ちょっとみんな、陰子ちゃんイジメは駄目だっていつも言ってるよね!?」
突如凛とした声が響き渡る。
亜麻色の真っ直ぐな髪を両サイドの髪を一房ずつ三つ編みにし、それを頭の後ろで大きな黒いリボンで結ぶ、いわゆるクラウンハーフアップなんて高等なヘアセットをし、意志の強い瞳、整った健康的なプロポーション、ザ・クラスの美少女にして私のクラス委員長西園寺飛鳥ちゃんが教室の入り口に立っていた。
救いの女神の鶴の一声で教室内の罵声と嘲笑が一斉に鳴り止む。
今来たばかりの救いの女神こと飛鳥ちゃんはそのままツカツカと歩を進めると私の席の前に来て、みんなの方を見ながら
「もう私も言い飽きたけど、私のクラスでイジメは絶対に許しません!!イジメたら先生に報告して許可を貰い、また一人ずつタイマンで、暴力でわからせるからね!!」
〝また〟の部分で教室中が震え上がった。
実際一度クラスの大半の奴らは彼女に〝わからされている〟のだ。
飛鳥ちゃんつおい…。
クラスの皆が渋々と私から身体を背けた。
「あ、あにょ…飛鳥…ちゅあん?」
最悪な事に私の声である、滑舌死んでるのかしら私
「ん?」
と気持ち悪い呼びかけにも爽やかな笑顔で振り向いてくれる私の女神様天使様菩薩様聖女様ぁ〜!!
あ、キモいな私。
「…ぁ、ありがとぅ、ござい、ましゅ…ふひひ」
いけね、噛んだ、しかも二回も…おまけになんだ〝ふひひ〟って、変質者か私は?
「はぁ…陰子ちゃんあのね?イジメはイジメる奴が一番悪いんだけど、陰子ちゃんの場合は明らかに陰子ちゃん自身にも問題が、ってちょっと陰子ちゃん鼻血!?」
あ、忘れてた。
その後、教室で硬球投げ合ってたソフトボール部の男子数名が先生の許可を得た飛鳥ちゃんにボコられるなどしながら私の学校での一日は平穏に過ぎていった。
放課後、レッツ帰宅!!
人生で最高の瞬間てこの帰宅行為が多分ベスト30位には間違いなく入ってると思う。
地獄たる学園生活からの解・放!!アァァァ〜生きてますわ〜私!!
帰りのホームルームになっても貸した宿題プリントは帰ってこないで先生から叱られようとも、罰として書類の山運ばされて転ぼうとも、帰りの電車内でまたオッサンに痴漢されようとも電車から出ると同時に小学生たちからお尻叩かれながら「インコ菌移ったー!」と言われそのまま鬼ごっこ始まったとしても私は生きている!!
メンタル強いよね私!!
「フヒヒ〜帰ったらイベント〜!次の配布誰かな〜?」
などと気持ち悪い笑みを浮かべながら家に帰る私、その途中
「ゥアァアァアアアアア!!逃げろ、バケモノだ逃げろぉ!!」
何台もの車のブレーキ音、ぶつかる音、逃げ惑う人々、ガソリンの火が付いたせいか燃え上がった大通り一帯
「ゴフゥ、ゴォォォォオオオオ!!」
「ギギッ、ギヒッギヒッ!!」
その中をドスンッ、ドスンッと周囲を揺らしながら車を蹴り飛ばしながら行進するのは腐臭を撒き散らす身の丈5m以上の腐った肌の岩の大剣を持った巨漢とその周りを取り囲み共に進むこれまた腐臭がする醜い十数体の小人達。
「…なんだろ、オークとゴブリン?みたいな?」
自然とそんな名前が出てきたが無論現代日本にいるはずが無い、ああ、今日の朝見た光の柱で異界から来た感じかな?
ま、そこまで考えたけど結局日本にいるはず無い、無いので私は
「…ま、いっか!イベントイベント、配布キャラはどなたかな〜!」
スルーしてスキップしながら帰ることにした。
いやだって、警察なり自衛隊がなんとかするでしょ?
日本やぞ?
むしろ手を出したらなんか作戦の邪魔になったーとか、国家機密を知ったから死ねとかありそうじゃん?
いや私に関しては最後のは無いかな。
特に死臭もしないし、よく見ても死体無し、避難民も速度的に安全に逃げれそう、完璧!!
絶叫はあちこちで聞こえるが安全に逃げてるなら私の出番は無い
そうして下手くそな歌を唄いながら私が歩みを進めていると
「おがぁざん〜!おがぁざんどこぉ〜!!」
男の子が一人オーク達の行軍の正面ど真ん中に歩み出てきてしまった、ハイ定・番!!
馬鹿なのかな?
死にたいのかな?
私はちらっとオークとゴブリン達を一瞥する、距離的に100mほどか?
オークの速度はかなり遅いが一歩の歩幅がかなり広い、ゴブリン達もそれに合わせてるのか結構速いな、つまり距離的にあと数分くらいであの男の子ミンチになる、ヤバイですね!
まぁ、気づいてなさげだし、方向的に男の子の方に向かってなさそうだけどね。
とりあえず私がさっさと手を引いて避難させれば間に合うかな?
そういうわけで軽く走りながら男の子に近付き
「ふぇ?」
そのまま抱え上げ、さぁ逃げようかーと振り向いたら
「ゲヒヒ、ニゲソコネタ?ニゲソコネタ?」
当然のようにゴブリンが先回りしてた。
意外と早いな、てか…この子声デカ過ぎたんだよなぁ…そりゃ気づきますわな。
じゃあ反対に突っ切れば?
「オイ!ガキダ!!ガキガニヒキ!!」
「ゲヒヒウマソウ!ウマソウ!!」
「オレガサキ!!オレガイチバン!!」
ワーォ、周り囲まれてるやん…。
「お姉ちゃん!!コワイよぅ!コワイよぅ!!」
怖いかコレ?
「…え、えっと、キミ、な、名前は?」
「ふぇ?シ、シロウです!?」
いきなりこの状況で名前聞かれたらそりゃこんな反応なるわな。
にしてもシロウか…あーダメだヤル気モリモリ湧いてくる名前だわ!!
「じ、じゃあシロウくん?今から、お姉さんが、イイってね?言うまで、目を、閉じてて?」
「や、やだー!!」
「えっ!?どして!?」
「お姉ちゃんのがアヤシイもん!!絶対ボクにいやらしい事するもん!!」
「ふぁ!?そ、そこをなんとか!!すぐ済むから?ね?」
「ヤー!!」
そこからは暴れるシロウ君の手足からの一方的な攻撃と理不尽な罵倒の嵐だ。
ツライ。
てか想定外なんだが…いやたしかに滑舌おかしいし流暢に喋らない私が悪いんだが…おまけに…ゴブリンどもまで
「エッ、ナンカアノオンナヤバクネ?」
「ドウミテモフシンシャダロ…」
「サカリスギダロ…アイツダケハサワルナヨ?」
「ナンカヘンナビョーキツイテソウダシナ?」
お前ら鏡見なよ!?
絶対お前らよりはマシだからな…いや、対して変わらんか。
それでも冷や汗浮かべながら笑顔でシロウ君を説得してると。
ズンっ!!
と地面が揺れた、私とサキちゃんとゴブリンたちが一斉に影が覆う、見上げると5メーター超えの腐った肌の巨漢が私達を見下ろしてた。
そいつは私と目が合うと
「グォォォォオオオオオオオオ!!!」
とクッソうるさい爆音と共にいきなり岩の大剣を私達に振り下ろした。
ズドンッ!!
とまるで爆弾でも爆発させたような音とともに周囲のコンクリートがめくれ上がり、周囲に土煙が巻き起こる、当然ゴブリン達も空中に叩き上げられ無様に落下する。
オークの大剣の一撃はコンクリートの大地に小型のクレーターを作り出していた。
そんな光景を、私は近くのビルの屋上でつまらなそうに見ていた。
いや、だってデカイ奴が大剣持って振り下ろしたらクレーターとか見飽きたつうか、火や氷くらい出せばいいのにね?
あ、それもマンネリか?
シロウ君は私の後ろで「あれ?あれぇ?」と首を左右交互に確認しながら混乱していた。
断じて手は出してない、私みたいな女に抱かれたトラウマとか植え付けるとか陰子そんな事しないよ?
「とりあえず、アイツらが過ぎ去ったら、注意して、そこの、ドア開けて、階段、くだって?」
ホントごめんね滑舌悪すぎだわ私。
「う、うん」
それでもシロウ君は素直に言う事聞いてくれた。
「じ、じゃ、そゆことで…うひひ」
と気持ち悪く私はその場を後にしようと…
「お姉ちゃんお名前は?」
と質問してきたが、どうせすぐに政府の人達お得意の記憶操作や情報操作が入って忘れるし、万一思い出されても困る。
いや、シロウ君がね?
無視する事もできたけど、ただ私の〝存在理由〟となった人と偶然に同じ名前の彼には何となく言ってみたくなった。
「…正義の味方…」
そう言って、私はさっさと階段を降りて家路に着いた。
境内を抜け、正面に見える神社を迂回して裏にある入り口から我が家に侵入する。
「た、ただいまー…あ、誰もいないか…」
誰に言ってんだ私、いやでも帰ってきたら言いたいじゃん?
ただいまって。
麻葉陰子に家族はいない、この神社もとある筋からの借り家だ。
特に指定されてないローファーを脱ぎ並べて、トボトボと居間に入り黒いセーラー服を脱ぎハンガーに引っ掛けて、そのままお風呂に直行して下着やら脱ぎ去り三つ編みを解き、眼鏡を外す。
キュガ、シャアァァァ…
と熱いシャワーを浴びる、今日あったことを反芻する。
飛鳥ちゃんに助けられた、シロウ君を助けた、加点。
それ以外、いっぱい馬鹿にされた、減点。
思い出しても怒りは無く眼から涙が流れ出る。
「そんにゃに、変かな、私…」
また噛んだ。
お風呂から上がると浴衣を着て、居間に戻ろうとすると居間に気配を感じた。
「…敵意も殺意も無い、気配を殺してる感じも無いし…あぁ、アレか…」
私はガックリと肩を落としながら居間に進んだ、最悪だ、せっかくシャワー浴びてスッキリしたばかりなのに。
戸を横に引き居間に入ると
「君が麻葉陰子君だね?」
と挨拶も無しに話しかけられた。
男性、切れ長の目、ストイックな佇まい、見事な七三分けに眼鏡、スーツをキッチリ着こなして、いかにも冷酷系エリート上司風だ、押し倒したら多分ネコになる系だね、オーケー知らない人だ。
え?不法侵入者?
「ぅえ?だ、だれですかぁ!?し、師匠は?」
「すまないが影狼さんは今日は別件でね、それとその反応からして君が麻葉陰子君で間違い無いな、今日から君の管理官になる鬼頭京治だ覚えておきたまえ」
そう言って鬼頭さんは不法侵入の詫びも入れずに淡々と自己紹介をする。
いや、てか不法侵入をまずはですね?
「え、えっとぉ…い、家に上がる時は…」
「本題に入ろう、政府からの任務を持ってきた、本日早朝〝ゲート〟が開いた。接続世界は不明、そこから何体かの怪異が日本に侵入した」
無視かい人の話聞け、いや喋るの遅い私が悪いんだが。
「あ、はい…」
「なんだねその反応は?ヤル気はあるのか?まぁいい、侵入と同時に認識妨害の結界を張り予知してたポイントに自衛隊の集中砲火を開始、6時間ほど戦闘があったが、敵の数千体に及ぶ小型敵勢体群の大半を削ることには成功したがメインの一体の大型敵勢体には目立ったダメージは与えられず逃亡を許したそうだ、まったく何のために税金で養ってるんだか…」
うっわ〜初対面の印象より百倍嫌味だよこの人…怖いなぁ、今日からこんな人が上司とかやだよぅやだよぅママ〜!!
にしても説明を聞いた感じ帰宅中に出くわしたアレらだな間違いなく。
おっと、話に集中しよう。
「敵勢体のデータはこっちの書類にまとめてある、好きに読みたまえ」
ドサっとテーブルに投げ渡される書類。
オイ?早速雑に来ましたね?
まぁ、いいや、えー何々…。
『オーク 体長5m 表皮は激しく腐敗しているが、重火器、戦車による射撃等でも軽微な損傷は与えられるが瞬く間に再生する為致命傷が与えられず、逆に所持してる岩石の大剣による〜(以下省略、要は再生能力アリ、知能はそれなり、馬鹿力、武器は岩の大剣、敵勢体群のリーダー)』
『ゴブリン(以下省略、要はオーク取り巻き、細かい作業ができないオークの指、武装は現地調達の建築材などだがそれでも銃器を回避して自衛隊から負傷者を結構出したそうだ、こっちは数千体ほどいたがアサルトライフルとかでかなり掃討したらしい、残数十数体、やりますな自衛隊)』
さて、堅っ苦しくて用件だけ脳内で抜粋したが…。
全部仮称じゃないあたり本物か。
ゲートが開いた、つまり異界のどっかから来た侵入者、侵略者だ。
さて、オークといえば薄い本の竿役要員だが、有名な原典によれば拷問されたエルフの成れの果てで邪悪な魔術師の傀儡らしい。
戦車の砲撃を瞬く間に修復するという事は文献上のエルフの成れの果て、オマケに5mの体格的に複数体のエルフの魔術器官を組み込んでオーク化でもさせたのかしらね?
そうでもなきゃそんな再生力はありえないし、漫画じゃあるまいし〝あんなトロい速度〟で振り下ろした剣が小クレーター作れんわな。
つまり、再生以外でも魔術を使えると考えるべきか。
まぁ私はエルフなんて資料でしか知らないから全部憶測なんだが。
だが、もし異界のうち俗に言う〝ファンタジー系〟世界なんて最近確立した世界がこの世界に接続して住人を送ることは不可能だ、即座に存在ロストする。
だから出所の世界は北欧神話世界か地獄魔界か?
だが北欧神話世界だとしても明らかにルーンが…。
いやサンプル一例でどこまで想像してんねん私、ここまで来ると妄想の域だ意味が無い。
私が読み終わるのを確認すると鬼頭さんは
「敵勢体群は今現在東に進行中、十中八九この国の結界を破壊して完全にゲートを開き固定する気とのことだ、さて麻葉くん何か質問は?」
「…は、はい、し、死傷者はいますか?」
と聞くと、鬼頭さんまたつまらなそうに…いやいや、あなた私の管理官=公務員でしょうが?
国民の生死でイラつくなよ…。
「いや、いない、自衛隊の腑抜けどもが攻撃が効かないと判断したら即座に避難誘導を始めたからな、おかげ様で自衛隊からも国民からも軽い火傷を負ったくらいで死人はゼロだ」
それは良かった、いや素直に思う。
鬼頭さんは凄いイラついてるけど。
「そ、それで私は、な、何を?」
「ふん、決まってるだろう、君は今までそれ以外やってこなかっただろ…ゲートから侵入してきた怪異の駆除、それが日本政府から君への依頼だ」
ピンポンパンポーン!!
ではそろそろ私の正体を明かそう、誰も期待しちゃいなかったがね!!
そうこの麻葉陰子は何を隠そう日本国の特別部隊〝影鬼〟(所属人員は小3から私だけ)の一員!!
安倍晴明の子孫である陰陽師であり!!
風魔小太郎、猿飛佐助などの有名忍者の血を引く忍びの者、すなわち陰陽忍者麻葉陰子なのだ!!
設定考えたやつ馬鹿だろ。
いや自分の出自言って恥ずかしくなるとかホントなんなんだ?
私脳内でこれ確認する度に五度は死にたくなるぜ?
つうか陰陽忍者ってダッサ、クッソダサい!!
吸血忍者なんとかのパクリかよ、今時このネーミングセンスは無いよなぁ…影狼師匠め…。
とかなんとか脳内で悶絶しながら鬼頭さんの車の助手席からもう夜中の街並みを眺める。
私は後部座席のがいいって言ったのに監視のためだとの事、横に冷徹そうなエリートお兄さんがいる恐怖をそんなに味合わせたいか?
しかも昼間着てた制服また着てさ?
もう帰りたい。
だが、私が帰宅してシャワー浴びてる間にかなりの距離移動したから車で送ってくれるんだって。
わー鬼頭さんやっさしぃー!!
影狼師匠なら「走って追いついてパパッと殺ってこい」だよ?
だから婚期逃して数百年も経つんだよなぁ。
だけど30分鬼頭さんの横とかも陰キャの私には同じくらい地獄なんだよね…。
「麻葉陰子…キミは」
ビクッと肩が跳ね上がる、驚いた!!いきなり喋り出さないでよ鬼頭さん!?
「は、はい!!?」
「キミは今まで類を見ない一人で軍隊として登録されている存在だ、通り名は〝陰陽忍者〟〝黒烏〟〝四凶刀〟〝印無き風葬者〟など様々だが…」
「陰陽忍者は無しで!!」
「お!?おう…」
「あ…しゅ、しゅいましぇん…」
いきなり私がデカイ声出したせいか鬼頭さんを驚かせてしまった。
つうかなんか私の知らないあだ名ばかりなんだが!?
全部ボツで、無いわマジで。
ダサいし。
「で、できれば…ただの…陰子で」
「い、陰子だな、わかったそう呼ぼう、陰子、だが私は君にそれほどの戦力があるとは正直思えない」
ですよねー。
「家系的にも君は有名な政治家や大企業のトップ、もっと遡れば皇族とも血縁関係がある、よっぽどのコネがあるんだろ?だからこそ一人の特別部隊なんて認められたんだろうさ」
いや、残念ながらその人達に面と向かって「ゴミクズ役立たずの生ゴミさっさと死んでくれ」ってフルオーケストラで言われて放逐されましたよ?
私の髪に隠れた表情は多分鬼頭さんの想像の百倍白けてる。
いつのまにか街並みはところどころ燃えてる家屋が増えてきて夜中でもかなり明るくなってきた。
となると目的地まで近づいてきたな。
てか、これはオーク達がやったんだろうか?
発火、爆発系の魔術もお得意…?
いや、魔力では無く大量の呪力が撒き散らされてるから単純に追撃部隊が遠距離からやらかしたんだな、隠蔽部隊の人達もあとが大変だな、さっさと片付けて彼らをはやくお家に帰れるようにしてあげよう。
何より私がはやく帰りたい!!切実に!!
「だが、君が数々の実績を残してるのも確かだ、で、だ?」
車が目的地手前で突如急ブレーキを踏む、当然私は車のダッシュボードに鼻をぶつける。
「ぅぎゃ!?」
本日2回目の陰子の鼻血タイムです。
を、意にも介さず鬼頭さんはシートベルトを外し、右手で私を壁ドン、左手で私の胸倉を掴み上げ歪んだ笑みを私に近づける。
こんなプロポーズってある!?
「あるんだろ?何か数々の怪異を屠ってきた何かが、教えたまえよ?」
ハイハイ野心家エリートキャラ乙!!
この前ラノベかエロゲで見たばっかだわ!!
あとそんなもん…どれだ!?
「…え、えっと」
「見りゃわかる、お前ごとき貧弱な娘が怪異を倒せるわけが無い、だが政府と影狼さんはお前に任せた、なら答えは簡単だ。お前は影狼さんから何か特別な〝武器〟を貰っている筈だ?そうだろ?なぁ?そうなんだろ!?」
「え、え…え?」
「トボけるなよ、早く教えろ、そして私に渡せ!!わかってんだよ、昼間からお前を見てた、お前は周囲の攻撃に一切無抵抗だった、つまり影狼さんからお前に渡された〝武器〟は人間相手には使えないモノなんだ、そうだろ?つぅぅまぁぁぁりぃィィィ?!」
ドゴッ!!
と私の頭がかなりの力でダッシュボードに打ち付けられた。
鼻とか額から血が出る。
そのまま鬼頭さんは続けて私の頭をダッシュボードに打ち付けた。
何度も、何度も。
ヤバイダッシュボードに恋しそう。
あ、パン咥えて走ってないからやっぱパスで。
「こういう風に私に何されても抵抗はできないだろぉ!?ホラ、ホラホラ、速く教えて渡せばやめてやる、さぁ?どうだ?速くしろ!!」
ゴッ!!ゴッ!!ゴッ!!
とさらに激しく私の頭をダッシュボードに打ち付ける。
あ、眼鏡にヒビ入った。
そのまましばらくの間、鬼頭さんによる尋問が続いた。
なんでも(以下は私の頭がダッシュボードに何度もぶつけられるBGMと一緒にお楽しみください)
「私はもっと上に行きたい、だが政府は一向に私に手柄になるような事件を任せてくれない」
「そこに自衛隊でも勝てなかった怪異だ」
「そして以前から不審に思われてたお前だ」
「天啓を感じたよ、あ、これを上手く使って出世しろってな」
「貴様じゃその〝武器〟も間違い無く宝の持ち腐れだ」
「だから速く私にその〝武器〟を渡して事故死してくれ、影狼さんにもお前から譲り受けたって涙ながらに説明するからさぁ!!」
会って1日でかなり理解が深まったね鬼頭さん!!
にしても、これかなり血出てきたな、そろそろ失血死ライン?
「オイ、聴いてんのか!?お前が渡すまでやめ」
ズドンッ!!!
と突如として車の外から爆発音、いや地面への衝突音が撒き散らされ、鬼頭さんのセリフは途切れ、車は爆風でひっくり返った。
車は数回転後に正常な上下を取り戻し、私と鬼頭さんは外を確認する。
腐敗臭を撒き散らす腐った皮の巨大なオークと十数体のゴブリン達がコチラを見ていた。
「っ!?クソが、まだコイツからっ」
「鬼頭さん、失礼します」
私は即座に鬼頭さんの背中に右手を回して抱え上げるとドアを開けて飛び出す。
次の瞬間、私達が乗っていた車にドデカイ岩の大剣が投げ込まれて爆発炎上。
いや〜危なかったね〜あんなん食らったら死ぬわ畜生!!
とかなんとか思ってたら次は十数体のゴブリン達が各々鉄パイプやら角材やら現地調達丸出しな武器を掲げて全員で突撃してくる。
攻撃力2300くらいありそう。
「ちぃ、クソがァ!!」
鬼頭さんは懐から取り出した銃で応戦を開始した。
おそらく対怪異用に特殊加工した弾が装填されているはずだ。
乾いた音が何度かしたが、大半は外したか急所の外に当たったか、避けられ結局弾切れまでゴブリンを一体も減らせなかったようだ。
実体を持った怪異には生半可な武装じゃ傷を与えるのは難しいのだ。
…いや、てか、私に任された任務じゃなかったの?
なんで鬼頭さんが応戦してるんだろう?
責任感?だとしたら実はかなり良い上司なのかな?
そんなわけないか…。
んじゃ、とりあえずさっさと片付けますか。
あ、そうだ確認しておかないとね。
「鬼頭さん、あなたは人を殺したことありますか?」
***
鬼を見た。
人ではない鬼を見た。
「鬼頭さん、あなたは人を殺したことありますか?」
と麻葉陰子は私、鬼頭京治に質問した。
意味不明だ、この場でそれがどんな意味がある?
相手は異界の怪異、それも自衛隊でどうにもならなかった怪物だぞ?
それとも私を殺そうと言うのか、は?コイツが?今の今まで私になんの抵抗もできず頭部を何度も車内に叩き付けられていただけの女が?
「無いな、今回が初だよ…だが、それも今回は未遂になりそうだがな…」
事実だ。
私は今の今まで殺人なんてした事はない、別段人を殺そうが罪悪感を感じる気はサラサラないが、今日のコレに関しては完全に足がつかないと考え、リスクと報酬を天秤にかけて天秤が上回っただけなのだ。
「そですか、なら…助けますね」
そう麻葉陰子は素っ気なく言い放ち、突撃してくるゴブリン達に当然のように歩いて行った。
「なっ!?貴様は何を言っているんだ!?相手は銃火器すらマトモに効かない怪異だぞ!?今日の貴様を見て私はある程度理解している、貴様にアレらは倒せない!!」
だが陰子は止まらない、黒いセーラー服を靡かせながら途中で両肩の三つ編みが自然と解けていき、大きな眼鏡を外すとそのまま自分の影に落とす。
チャポン
と奇妙な音がした。
「ちっ、実力差もわからないシロウトか、夢見がちな中学生かよ!?」
相手は銃火器の掃射でも死ぬか怪しい怪物どもだぞ?
だが丁度いい、ゴブリンどもの餌になるか肉便器になるか知らんが時間稼ぎ結構だ、その間に私は退却させて貰おう。
影狼さんからどんな〝武器〟を託されていようがアイツじゃ話にならないからな。
だが、せめてどんな〝武器〟かくらい拝ませて…
次の瞬間、数十体のゴブリンのうち三体の頭部に呪符とそれを固定する為に苦無が叩き込まれた。
叩き込まれたゴブリンは身体がブクブクと膨れ上がりゴポッ、パンっという音と共に同時に爆散し、周囲が赤い血煙に覆われた。
「…………は?」
ほんの一瞬の動作だった。
長いスカートを横からたくし上げ、太腿のホルダーに仕込んでいた苦無と腕から呪符を抜き出し、それぞれ両手の指の間に挟んで正確にゴブリン達の頭部に叩き込んだ後、すぐさま口の前で指の印を組み「爆符」と唱えたのだ。
それなりに訓練で鍛えた私ですら事が終わった後にしばらく思考しないと何をしたのか把握ができないほどの絶速。
「ギッ!?」
「ナンダ!?」
「ドウシタ!?ナニガオコッテル!?」
あまりに一瞬で爆散死した仲間に気づけず血煙の中で混乱が生じるゴブリン達。
麻葉陰子はペースを崩さず血煙に歩み寄り、途中で自分の影の上に手をかざした。
「おいで、月詠村正…」
すると影の中から影が浮かび上がるように緋い、まるで血をぶちまけたような緋色の羽織と、それを被せらた刀が生えてくる。
麻葉陰子はそれを目で見る事すらせず、その緋色の衣をを羽織ると何かしらの術式が発動したのか、腕と足に現代的なアームガードとレッグガードが彼女の手足に装着され、刀を鞘から抜き出す。
「…っ!?」
瞬間背筋から脂汗が止めどなく溢れ出す。
いくら自分が刀剣の専門で無くとも解ることがある。
(なんだあれは!?…あの刀は!?)
周囲一帯が呪われたのだ、あの刀は世界全てを殺したいのだ、だから見よあの刀身を!!
月光の如き美しくも冥府が如き紫紺の輝きを!!
これが妖刀と言わずして何と言う!?
抜刀と同時に麻葉陰子は駆け出し血煙に飛び込む。
紫紺の輝きが流星のごとき尾を引きながら、蛇のように霧の中で舞い踊った。
ズチュ!!ザシュ!!ブシュ!!
悲鳴すら上がらなかった、血煙が晴れると麻葉陰子は、ビュンっと刀に付いた血を振り払う。
ゴブリン達の首には頭が載ってなく、彼らの頭は中空から同時に落下して、ボテボテと不快な音を立てた。
「…一瞬で?」
なんだ?何が起こっている?
今まで無抵抗で私に嬲られていた小娘がなぜ?
疑問が次から次へと出てくるが、次の瞬間私はさらに恐怖を感じた。
麻葉陰子が斬り落とした頭はそれぞれがまだ動いていた。
それらは互いに何か言い合っていたが、もはや肺が無いので声が出ていなかった。
いや、それにすら気づいていない様子だった。
麻葉陰子の眼は髪に隠れて見ることはできないが、少しだけ首を上に向けているのでソイツを観察しているのだろうと言うことがわかった。
身の丈5mを越す腐った肌の巨漢のオークは麻葉陰子を見つめ驚愕と共に、ゆっくりと口を開いた。
「…オマエハキョウ我ガ剣ニテ粉砕シタハズノ…」
「…あ、喋れ、たん、ですね?」
一瞬、場の空気が微妙な感じになる。
オークも少し気まずくなったのが口を閉ざした。
どうやら喋れない風に装いたかったようだ。
いや、私も思ったが…そこはカッコよく他に返し言葉とかあるのでは?
だが、もう隠す必要が無いと判断したのかオークは再び口を開く。
「…オマエノヨウナ強者ガコノセカイニモイルノダナ…」
「自衛隊の、人達は…弱かった?」
麻葉陰子は物怖じせずに対話を始めた。
「否…ダガ、ワレニハオヨバン」
「二つ、確認、させてください…あなた方は、何故…この世界へ?」
「イエヌ、ワガアルジ、偉大ナル魔王様ノホコル四獄ノ王、血唄ノラウラ様ノ名ニキズガツク…」
オークはそう言うと大股で歩み出し、私に眼を向けすらせず、投げつけた岩の大剣を掴みとり引き抜いた。
「魔王…その配下の四獄の王?…血唄のラウラ…わかりました、目的は…聞きません」
いや聞け!?むしろそこを何としても聞くべきだろ!?
「では二つ目、これだけは絶対、答えて…あなたは、こちらで人を…殺しましたか?」
空気が一瞬張り詰めた。コレは麻葉陰子の殺気か?
無論オークも感じたのか麻葉陰子を睨みつけながら答える。
「否、コノセカイノ戦士ハユウノウデナ、ヒトツモクビヲオトセナンダ…ダガ、ワガ配下タチハ…」
ググっとオークの大剣を持つ手に膨大な力が入ると、次の瞬間オークは麻葉陰子に飛びかかり上段より斬りかかった。
「キサマラニコロサレツクシタガナァ!!!」
ガキィン!!
と麻葉陰子の紫紺の刀とオークの岩の大剣がぶつかり合う。
「どぅわぁ!?」
私はついつい間抜けな声を出す。
二つのぶつかり合いから発生した異常な衝撃葉が私を含めた周囲一帯を吹っ飛ばしたのだ。
だが、オークの攻撃は終わらない、上段が防がれるやいなや、即座に後方に下がり再び構え直し、そのまま再び斬りかかる。
ガキン!!ガンッ!!キンッ!!!
と麻葉陰子はある時は受け止め、またある時は大きく跳躍し回避、またある時は大剣を受け流しながら懐に入りオークの巨体を袈裟斬りにしていく。
力は圧倒的にオークが有利だったが、速度、剣術のレベルは麻葉陰子とは天地の差があった。
だが、オークはその再生能力により腐った肌は即座に回復し致命傷には至らない。
それでも構わず麻葉陰子は隙ができるたびにあらゆる角度から攻撃を加え続けた。
ガキンっ!!!
とほんの数十秒間で六十を超える打ち合いをした後麻葉陰子はわざとオークの大剣に刀を当てその衝撃で後退し距離を取る。
「やはり、魔界の、術式…」
「ホゥ…ナニヲムダナ攻撃ヲクリカエシテイルカトオモエバ、マダシラベテイタノカ…娘ヨ!!トウソウヲタノシメ!!」
「楽しみ、ません…それと、貴方の魔術は、風による破壊力の増強、自己治癒の二つ、だけです…手は、割れました…降参、してください」
つまりわざと距離を再び取ったのは完全に相手の性能を見切ったからか、どこまでも異常な奴だ麻葉陰子…。
そして近接戦でも分が無く、術式戦でも手札が割れ分が無くなれば結果は嫌が応にもわかる。
ましてや自己治癒による再生も術者の魔力限界まで攻撃を加え続ければいずれ終わる。
麻葉陰子はそう言う無駄な戦いを避けたいのだろう。
だが、オークは諦めない。
「クビヒトツ取レネバ冥府デヤツラニアワスカオガナイノデナ!!トモニキテモラウゾ娘ェ!!」
続けて倒れるように上半身を低く地面に下げるとそのまま5mの巨体で全体重を乗せた渾身のショルダータックルを繰り出した。
「すいません、行けません」
麻葉陰子は冷静に札を一枚取り出すとそれを中空に投げ打ち人差し指と中指で五芒星を切る。
それは巨大な守護結界を構築し、オークの渾身のショルダータックルを易々と受け止めた。
「あの娘…なんて呪力なんだ!?」
異常な体術、剣術に加え、呪術まで桁違いにも程がある。
本来守護結界自体複数人でようやく構築可能な術式を呪符一枚で、一瞬で、あの強度で、あんな巨大な結界を構築するのは異常だった。
「ギッ、グゥ!!ヌゥゥゥ!!」
だがそれでもオークは諦めない、コイツ自身の戦士の矜持なのかもしれない。
「もう、諦めて、投降、しましょ?…誰も、殺してない、なら私は殺し、ません…」
守護結界は依然ヒビ一つ入らない、決着は明らかだった。
だが、そうはならないのが世の常だ。
「ククッ、フ、ハハハハハハハハハハ!!!」
オークは笑った、高らかに、そのままオークはさらにありったけの力を込めて肩を守護結界を超えて内部にめり込ませた。
麻葉陰子は特段驚いた風も無く、そのままさらに呪符をいくつか指の間に用意して侵入と同時に捕縛なり封印する気が伺えた。
次の瞬間、オークの大剣の表面に大量の青い文字群が浮かび上がり、そのまま結界にめり込ませた肩の箇所に下から振り上げるように滑り込ませ振り抜くと、その直線上に地面を抉り取るように結界の内部に巨大な風の刃が出現し、
ビュオッ!!
一瞬何か過ぎ去ったかのような音と共に風の刃が過ぎ去った街並みのビル群が直線上にえぐり取られていた。
麻葉陰子は一瞬驚愕したような表情をしていたが、一瞬の後には影も形も残らなかった。
オークは息切れしながらも岩の大剣を杖代わりに腰を落とす。
魔力を使い切ったのだろう、肩の部位を自己治癒する魔力も残っている様子はなかった。
「ハァ、ハァ…コレゾワガ魔剣、カツテエルフダッタ頃ヨリキタエタル必殺ノ…」
そのまま腐った肌のオークの戦士は戦いの終わりを告げるように息を吐き出し、
「じゃあ次は、こちらの番、ですね」
ズドドッ!!
とオークの巨大な両手足に苦無と共に大量の呪符が貼り付き。
「爆」
合図と共に爆散した。
「ッ!?グォォオオオオオオオオ!!?」
「忠告は、しました」
驚愕するオークと私をよそに術者は風の斬撃の跡地とは別の方向から現れた。
回避、いや、おそらく途中から自分のダミーで!?
オークは突如手足を失い、地面に落下しようとするが、それすらスローモーションの様に状況はオークにとって悪化していく。
「説得不可により…すいません、もう、終わらせます、冥罰付呪」
麻葉陰子が紫紺の刀身を撫でるとそこに呪詛が浮かび上がる。
すると刀身はやがて黒い炎に呑まれ消失していき、やがて刀身を失う。
麻葉陰子は低く刀だった物を構えると落下するオークに疾走を開始する。
ゴボッ!!
世界が溺れる音が聞こえた。
「汝、六足にして四翼なる盲目の犬、四凶の名において我を呪い、来たれ渾沌の神よ」
ゴボッ、ゴボゴボッ!!
やがて疾走麻葉陰子の刀の柄より黒く、濁り、この世の全ての呪詛を混ぜ合わせたような黒水が凄まじい勢いで溢れ出すが、それらは地に滴り落ちることなく、全長数キロに及ぶ巨大な刀のような形状となり麻葉陰子と並走する。
私は見た、この黒水の中で嗤う獣をを。
そして恐怖したアレは凶神を世界に呼んだのだ。
やがて、麻葉陰子と言う緋色の凶星は落下するオークに肉薄し、その真下に潜り込む。
「私は呪いでできている。
されど悲哀無く、憤怒無く、憎悪無く我が敵を呪い、我は呪われん───【渾沌招来・犬牙相制】」
ズバンッ!!
と麻葉陰子は身を捻りながら真上のオークの巨体を黒水の刃で正中線上に一線する。
『ガヒッ!!ギャハッ!?ギャハハハハハハ!!!』
そして黒水の中に居た物たちは解き放たれる。
ソイツらは万を超える翼の生えた流体の黒い犬であり、あるモノは手足が無く、あるモノは目が無く、あるモノは耳が無く、あるモノは内蔵が、尾が、皮が、身体が無かった。
だが万を超えるソイツらは牙だけは共通していた。
ソイツらは嗤いながら鮫の群れのように左右に分断されたオークの身体をメチャクチャに食らいつき、引きちぎり、引き裂いていき、瞬く間にその身を黒水の中に飲み込んでいくと再び麻葉陰子の刀の柄に戻り、元どおりの紫紺の刀に姿を変えた。
麻葉陰子はそれを確認すると影の中から浮かび上がってきた鞘を掴み、静かに納刀した。
「だから言ったのに、降参して、ください、って」
夜風が吹き、今まで長い髪で隠していた麻葉陰子の眼を曝け出す。
鋭利な刃物のような、或いは幾多の戦いを潜り抜けた者特有の戦の空虚と重い感情を込めた眼、その瞳に夜空のような青みがかった眼光を灯したその顔は怖ろしいほど美しい。
だからこそ思ったのだ。
ああ、この娘は人で無く鬼なのだと。
***
辺りを見回す、四凶の回収は完了、敵勢力全滅。
鬼頭さんは無事、よっし!!問題無いな!!
…いや、問題しか無いな殺す必要は無かった。
話のわかりそうな人だったから説得したんだが、先に明らかに死体だったゴブリン達を斬殺したのがまずかった。
いや、そりゃそうだ、リビングデッドだとしても仲間は仲間だ。
あのオーク自身もまぁ原典通りならエルフのリビングデッドだしね…でも、まぁ、やっぱ殺す必要無かったかな…。
ふっ、と視線を腰を抜かしてかなり時間が経った鬼頭さんに向ける。
ビクッ、とすぐに気づいたようだ、このオッさん可愛いな。
「ケガは、無いですか?」
なるたけ優しく問いかける。
あー、甘い声のイケボになりたい!!
鬼頭さんは呆けたようにコクコク、と頷く。
「では、撤収、します」
そして帰ろうとした時、私の後ろに灰と共にヒラヒラと何かが舞い落ちる。
桜の花弁?
咲いてる時期はかなり前にすぎたはずだけど…。
暫く考えてる間に桜の花弁は光る粒子となって消えていった。
読みにくい駄文ですいません