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のじゃのじゃ転生譚 ~のじゃ語尾チート少女のあんまり冒険しない冒険者生活  作者: 七井
第四章 冒険者見習ののじゃのじゃ少女
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『鳥籠と熊』亭なのじゃ

こんにちは。

旧正月なのであけましておめでとうございます?

今日もよろしくお願いします。


「俺たちの昔馴染みがやってる店だ。あんまり期待するなよ」

「其方を含めて大食らい揃いゆえ知り合いの店の方が安心なのじゃ」

「てゆーか、どうしてジーダルさんの奢りで昼飯なんてことになってるんだよっ」

 騒がしいのじゃ。セイジェさんとモリエがそれぞれ一人ずつ双子を確保したことでなんとか無事到着なのじゃ。

 ジーダルが言うた割に洒落た雰囲気の食事処なのじゃ。看板には銅の細い薄板で鳥籠のような図案が表現されておる。そして看板の木地の鳥籠の内側になる部分に熊の、外側に小鳥たちの絵がこれは墨かインクで描かれておるのじゃ。

 店名もその図案の下に書かれており、『鳥籠と熊』亭なのじゃ。


「店主は熊みたいよ」

 セイジェさんが看板に興味を持って見入っておったわらわにそう声を掛け、入店を促したのじゃ。

「おう、来たぜ」

 洒落た店であるというのにジーダルが乱暴な挨拶をしておるのじゃ。しかし流石に給仕のお姉さんは慣れたもので「いらっしゃいませ」と客を迎える挨拶を返すのじゃが、それを後ろから止める声が入ったのじゃ。

「ああ、ジーダルに挨拶なんて不要だ。岩塩でも投げつけてやれ」

 そう言いながら確かに熊のような大柄な男が出てきたのじゃ。調理服とエプロンを付けた熊さんなのじゃが、歩き方からして片足が義足のようなのじゃ。

 それは兎も角、岩塩を投げつけるとは初めて聞いた言い回しなのじゃ。痛そうじゃの。


「今日は世話を掛けます、ベアル」

「ベア、元気だった? 今日はジーダルの奢りで来たわー」

 顔見知りらしいセイジェさんとベルゾが挨拶を交わしておるのじゃ。

「ああ、今日は若い連中を連れてくるとベルゾから聞いてたがこんなかわいい女の子たちが主とは思っていなかったぞ」

「大丈夫だ、よく食うからな。て言うか驚かせるつもりだったがベルゾから聞いてたのか」

 そんなことを言っておるジーダルにベルゾが特大のため息を漏らしたのじゃ。

「いいですか、ジーダル。この店は酒と食事を出す店なので本来は夕方からの営業で、しかも九人は結構な人数です。言っておかなければ食事できるわけがないでしょう」


 ああ、そんなものなのか、なぞと言っておるジーダルの耳をセイジェさんが抓り上げ、ベルゾと熊さんが肩をすくめておるのじゃ。

「オルンよ、其方はジーダルに憧れておる様なのじゃが冒険者としてなら兎も角、ああいう面は真似をせぬようにの」

「うん、ガンに愛想尽かされたら困るからね」

「なんで俺に飛び火してるんだよっ」

 わらわとモリエがオルンに注意を喚起しておる横ではガントが腕を組んで頷いておるのじゃ。双子等も真似をして腕を組んで頷いておるのは面白いの。

 オルン本人は兎も角周りには心当たりがあるようなのじゃ。


「おっとわりい。こいつはベアル、脚をやるまでは俺たちとパーティを組んでいた元冒険者だ。もう四年も前になるからオルンたちも見たことはないな」

 ジーダルがそう簡単に紹介してくれたのじゃ。

「ベアルだ、よろしくな。ジーダルの紹介だと不安を感じるかも知れんから一応言っておくとちゃんと調理師匠合の正調理師鑑札はもらってるからな」

「ベアはね、実家の料理屋さんでしっかり仕込まれててパーティの食事番だったのよ。冒険者を退いたあともこのお店を出すまで一年くらいはずっと実家で修行してたし」

 セイジェさんのフォローに首を傾げると、引退冒険者が料理も出来ないくせに塩漬け肉と酒くらいしか出せない食堂や酒場を始めて当然のようにすぐ潰してしまう、と言うのは冒険者あるあるなのじゃそうなのじゃ。なるほどのう。


 しかし、そのあるあるではなく別のことでなるほどのう、と熊のような体格の料理人を見上げたのじゃ。

「一つ疑問が解消されたのじゃ」

「ん、なんだい?」

「ジーダルが正面で攻撃を捌いておったのじゃが、本来はジーダルも動き回って攻撃する軽戦士の型であろう? ベアルさんが正面を担当する重戦士じゃったのじゃな」

「ああ、そうだ。だが、ベアルくらいの腕前がないと俺が剣で捌いた方が安定するんだ」

 返事はジーダルから来たのじゃ。確かに代わりは簡単におらぬであろうの。

「カピタン相手には二人して出入りしておったが確かに下手がおるよりその方がよさそうではあったのじゃ」

「そう言うことだな。ベアルが退いた後は大分苦労したぜ」

 ジーダルは肩をすくめ、そして熊さんはなにやら不思議そうな顔をしてわらわを見ておるのじゃ。


「ああ、こっちのお客さんの方も紹介しなくちゃな。オルンがリーダーの雪の椿は今伸び盛りのパーティだ。兄妹が二組だな。有望株だぜ。そしてこっちの得体の知れないお嬢ちゃんがミチカで、得体の知れないお嬢ちゃんだ」

「な、なんなのじゃ! その紹介はっ。もっとマシな紹介の仕方があろうほどに!」

 全く失礼な奴なのじゃ。プンスカなのじゃ。

「いや他にどう言やいいんだよ。真面目な話」

「かっ、かわいいとか? あ、あとね、舌の肥えた交易商たちを唸らせるほどの料理の腕前よ」

 う、うぬう、なのじゃ。が、自分で自己紹介を考えても胡散臭さをぬぐい去れぬので懸案事項としておくのじゃ。

「ほう、それはすごいな」

 熊さんはそう言ってわらわを見、そしてやはり怪訝な顔をしたあと軽く頭を振って給仕のお姉さんに指示を出したのじゃ。

「入り口で無駄話をしすぎたな。席に案内してやってくれ。俺は厨房に戻る」


「ベアルの料理は久しぶりなので楽しみにしてます」

「世話になるのじゃ」

 皆厨房に戻る熊さんに口々に挨拶して食堂へ向かうのじゃ。そう広い店内ではなくテーブルが四つあるだけなのじゃ。余裕を持って四つのはずなのじゃが、今は二つをわらわたちの為に繋げておるのじゃ。

 調度もなかなか良い品で、本来はテーブル同士の間も余裕があって良い雰囲気の食堂なのじゃ。

 席数が少ないというのは回転率がよいか、単価が高いと言うことなのじゃが、ゆっくり食事と酒を楽しむ場として整えられておるゆえ答えは後者なのじゃ。

「良い店じゃの。少し驚きなのじゃ」

「いい店過ぎて顔を出しづらいんだよ。理由があるときは来ることにしてるがなあ」


「良い機会だったわけなのじゃな」

「そう言うことだからそんな緊張しなくて大丈夫よ。私たちの昔馴染みの店なんだし」

 セイジェさんは緊張しておるオルンとガントにそう優しく言っておるがまあ慣れるまでにもう少し時間が必要そうなのじゃ。双子等は緊張という感情と無縁の存在なのじゃ。モリエは緊張しておるがそれを外に出さない程度には落ち着いておるのじゃ。

 わらわと双子等には茶が、余のものには食前酒が供されておるのじゃ。お茶は西方風の茶なのじゃ。茶器は上品な陶器で淹れ方も器も充分に及第点なのじゃ。


「ミチカ、難しい顔してる」

「いや、茶の味をみておっただけなのじゃ。茶葉も淹れ方も上出来なのじゃ」

 真剣に味を見過ぎたようでモリエのツッコミを受けたのじゃ。

「ミチカは砂糖を入れずに飲んでるから渋いのかと思ったよー」

「というかあたしたちも春には十五なんだからモリエと一緒のお酒で良くない?」

 双子等は砂糖を入れてもらっておったの。茶を淹れてくれた給仕のお姉さんは茶道具やらの載ったワゴンと共にお茶や食前酒のお代わりに備えて待機しておるのじゃ。


「むしろ私はお茶でも良かった。ちょっと強い。兄さんは飲み過ぎないようにね」

 色硝子の杯に入っておるのは琥珀色がかった白葡萄酒なのじゃ。あるいは前世で言うところのシェリー酒のようなものなのじゃろうか。前世の三千香も十八であったゆえお酒については耳学問なのじゃ。海外旅行した折りに現地の法では大丈夫と言われて少し嗜んだことくらいはあるがの。

「甘いけど強いですね、確かに」

 ガントがそう評するが何というか双子等の兄として迂闊よのう。

「えっ、甘いの?」

「兄ちゃんー、ひと口!」


「うふふ、これは私が好きな種類のお酒ね。覚えていてくれたようだわ」

 双子等とガントの争いをどこか遠い目で眺めながらセイジェさんが柔らかく微笑んだのじゃ。普段はきつめの顔つきなのじゃがこういう表情ではくるっと可愛らしさも出てきてギャップ萌えなのじゃの。まあ元が整った美人だからなのじゃが。

「ベルゾの好みだとすげえ苦い薬草酒とそこそこ苦い薬草酒を混ぜ合わせたものになるからな」

「ガントの師匠の薬湯とやらを飲んだ経験上魔術師の好む薬草酒は信用できぬのじゃ。して、ジーダル。其方の好みは?」

「食前酒にどうこう言うような好みはねーよ」

 ジーダルはきゅっと杯を空けてお代わりをもらいつつ、笑ってそう答えたのじゃ。

お読みいただきありがとうございました。

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