ギルマスとの会談なのじゃ
こんにちは。
二月ですね。短いのであっという間に過ぎるイメージがあります。ですがその分大事に過ごしたいものです。
色々と話すことはあるのじゃが、まずは今下で書類を作ってもらっておる修道会への納付などについてなのじゃ。後で裁可が要るはずゆえの。
「ははっ、そのお年で修道会の総長と言うのは相当に珍しいんじゃないですか」
「珍しいと言うよりはあり得ぬと思うのじゃ」
修道会の責任者であることを話すと大受けされたのじゃ。苦情はリーディンまでなのじゃ!
そして実務的な部分で修道会の責任者としてわらわが自分で裁可を下さねばならぬところもあるようなのじゃ。認可印に使う印章を作っておかねばならぬゆえ、わらわの方のやるべきリストに加えておくのじゃ。
神殿で会った冒険者たち、パードとレイデであったかの、彼らが言っておった冒険者協会も祈祷治療をして欲しいと言っておったことを一応通しておくのじゃ。まあ祈祷師がおらぬゆえ厳しいと言う神殿の事情もあるのじゃが。
「そう言えばその冒険者協会の大会合じゃったか、その集まりはどこで行うのじゃ?」
「メルデンカシナですね。あの国とは昔から折り合いが悪いのですが、冒険者協会の支部同士も仲が悪くてですねえ。ちょっと憂鬱です」
メルデンカシナ王国、別名島王国はここから北西の方に浮かぶ島国でその本島にはダンジョンが多くあることで有名であったはずなのじゃ。そして島国らしく海運が盛んで北方諸国群における洋上の覇者の地位をここジープラント王国と争っておるのじゃ。
無論これはマーリィ知識なのじゃ。ジープラント王国の立場で書かれた書物などがありそうゆえ後で探して読んでみてもよいのじゃ。
しかしまあ好都合なのじゃ。
そのまま口に出したのじゃ。
「それは好都合なのじゃ」
「えっ、今僕仲が良くないって言いましたよね?」
「言うたであろう。ここには祈祷師がおらぬのじゃ。しかしジープラント王国以外の国であれば数は限られておるのじゃろうが冒険者をしておる祈祷師や祝祷師がおるのじゃ」
ん、まだピンと来ておらぬのかや。怪訝な顔をしておるのじゃ。
「其方は会合に行ったついでに引き抜いてくるのじゃ。極めて重要な任務なのじゃ。そしておるとは言っても貴重な人材ゆえ仲がよい支部から引き抜くのは気が咎めるのじゃが仲が悪いなら気にせず引き抜ける限り引き抜いてくればよいのじゃ」
「なるほど。成功したら恨まれそうですが、メルデンカシナ相手なら気になりませんね」
「制度上問題ないか確かめねばならぬのじゃが人を寄せる為の施策という名目で、わらわの修道会に所属を移せば上納金を通常の一割から五分に引き下げる、なぞと言ったことが出来ると思うのじゃ。あとは報酬として祈祷の伝授を行うとしてそれに出せる祈祷を書き出しておくのじゃ」
人を動かすにはそれなりの利か理が必要なものじゃからの。ちゃんとした組織を持つ修道会でないことを活かさせてもらうのじゃ。
ギルマスも腕を組んで考えておるのじゃ。そして考え終わったのか腕をほどきニヤリと笑ったのじゃ。
「その上納金引き下げはさっき言ってました冒険者協会での祈祷治療に従事してくれた月の分だけと言うことにしましょう。無論、治療に対する報酬も出しますし、引き下げる分は修道会や神殿への礼としての寄付で多少は補填します。こちらでも優遇策が幾つか準備出来ないか考えましょう」
どの程度祈祷師の必要性を認めておるか分からんかったのじゃが、なかなかに重要視しておるようなのじゃ。
「メルデンカシナで引き抜くのがうまく行く行かぬに関わらず、じゃ、仲の良いところにも一人二人回してもらえぬか頼んでおくのじゃぞ」
「そうですね。引き抜きよりもその方がうまく行くかも知れません」
「まあ、実際のところは任せるのじゃ。神殿の方でもそう言う依頼を近隣の国へ回せぬか訊いてみておくのじゃ」
それにしても、なのじゃ。とわらわは続けるのじゃ。
「其方が祈祷師のおることの有用性を理解しておるようで話が早かったのじゃ。おらぬのが当たり前であったようゆえ話が成り立つか心配しておったのじゃ」
「ジーダルさんたちのローゲンキョルトでの活動報告書にも祈祷師の重要性が書かれています。さっき言っていたパード君も報告書と要望書を上げてきていますよ。彼は祈祷治療を見て衝撃を受けたようですね。他からも生活魔法と祈祷の区別が付いていないような報告書は結構来てますが」
「冒険者とは案外筆まめなものなのじゃな」
意外な話なのじゃ。そしてそう言った末端からの報告書がギルマスのところまであがって来ておるのも驚きなのじゃ。
「ジーダルさんのは純粋に仕事ですね。正式な依頼をしたものです。有益と見なされたらダンジョン攻略を目指す冒険者のために資料室で読める形式にまとめることになりますね」
「ほう。なるほどのう。読み物としても面白そうなのじゃ」
ちょっと読みたいのじゃ。
「書いたのはベルゾさんですけどね」
「当然じゃな」
「他の人のはですね、自主的な報告書も有用性などが認められたら昇級の査定に加算されますので皆結構書いてくれますよ。緊急性があるものなどは報償も出ることがありますし」
ロビーにはそのための貸し出し用筆記用具もあるそうなのじゃ。手間だけで査定が上がる可能性があるならば書くものもおるであろうの。
「なるほどのう。そう言えばなのじゃが……」
さっき資料室で話した子ども等への読み書き教室ができぬかと言った話をするのじゃ。読み書きの重要性が丁度分かる話であったからの。
これに関してはかなり悩んでおる様子なのじゃ。読み書きを教えるという点に関しては前向きであったのじゃが。
「見習いの見習いは強制参加、見習いは希望者参加の形式にすれば質の悪い自称後見人たちから引き剥がす取っ掛かりにもなりますね」
なるほどなのじゃ。そちらも懸案事項であったのじゃ。
しかしその分反発もあり得ることとなる訳じゃな。
「教師役は事務職員や資料室の職員に割り振るとして他の冒険者に睨みの利く人も必要ですね」
「では読み書きだけでのうてじゃ、体力づくりや体術の基礎訓練も子ども等にまとめて指導することにするのじゃ。その教官役と言うことにすれば強面の輩を一緒に動かすことも自然に見えるのじゃ」
「悪くないですね。では……」
しばらくの話し合いの結果、取り敢えずは今朝子ども等を引率しておった職員や資料室の職員などを含めた準備部会を立ち上げることとなったのじゃ。子ども等の扱いに関する問題に冒険者側から関わっておるジーダルと提案者であるわらわにも参加要請を出すとのことなのじゃ。提案しておいて逃げるわけにも行かぬゆえ構わぬのじゃが、わらわのような子どもを会議に参加させることに躊躇いがないのじゃ、このギルマス。
「読み書きを教えたり職業訓練を施すことの成果が出ましたら冒険者協会の仕事に限定するのではなく行政府や神殿というかミチカさんの修道会に引き継ぎたいと言う面もあります」
「それは流石にすぐすぐに成果の出ることでなし、確約は出来ぬのじゃ」
「まあ、そのあたりを含めて話し合うための準備部会です」
まず教室自体をやるかどうかからなのじゃからな。今ギルマスと二人でこれ以上話しておっても仕方あらぬのじゃ。
「それはそうとしてなのじゃ。会議に出るのはよいのじゃが、一つだけ注文があるのじゃ」
真剣な顔で指を一本立ててわらわはギルマスを見るのじゃ。
「なんでしょう?」
「会議用の椅子では絶対に高さが合わぬゆえわらわ用の椅子にはクッションを幾つか準備しておくのじゃ」
今座っておる長椅子の座面を手で叩きながらそう言うわらわにギルマスも真面目な表情で頷いたのじゃ。
「重要ですね。指示しておきます」
「うむ、頼むのじゃ」
重要事項なのじゃ。うむ。
お読みいただきありがとうございました。