収納空間にぽぽいと収納するのじゃ
いらっしゃいませ♪
平常運行で本日更新一話目です(1/2)。
次回は21時予定となっております。
収納。
頭の中で収納空間の出納機能をONにして思考ポインタで対象指定を行い、わらわは『収納』を実行したのじゃ。めんどくさく表現したのじゃが、実際は相手を見ながら頭の中で選んでポンッなのじゃ。
まず最初の対象は一番後ろを歩いている手首を骨折しておるチンピラなのじゃ。対象指定するときにただの『チンピラ』としか考えずにやるのが肝なのじゃ。
視界の外側に『ーチンピラを取得。収納空間に収納。チンピラ(1)』とログメッセージが表示されそれを脳が認識する。視界内に表示されてはログ内容が多いとき五月蠅くなるのは確かなのじゃが視界の外側の文字は脳内に直接語りかけられておるようで多少の違和感があるのじゃ。まあ慣れるしかないのじゃ。
続いて次のチンピラをさっさと収納。収納空間内のスタック表示がチンピラ(2)になったのじゃ。
これは南瓜の収穫の許可待ち中にハーブ類を千切りながら検証しておいたのじゃ。ここではノンと呼ばれておるディルっぽいハーブで実験したのじゃが千切ったり茎を折り曲げたりして区別を付け、そしてそれを認識しながら収納すればスタックされず個別に収納されたのじゃ。葉の千切れたノン、茎の折れたノン、と言うログ表記での。そして区別を考えずに収納すればノン(5)と言う風にスタックされたのじゃ。(5)は五本のノンと言う意味じゃが、取り出してみると全く同じものが五本出てきたのじゃ。普通に収穫したノンと一緒に先の実験で使った葉の千切れたものや茎の折れたものも収納したのじゃが、全部寸分変わらぬ普通のノンになっておったのじゃ。
これは少し気持ち悪いのじゃが間違いなく使い道も多そうであるゆえしっかり検証してみたのじゃ。結論としては二つのやり方が見つかったのじゃ。
まず一つ目は収納する個別のものを認識しない、或いはわらわが一般形を規定しながら取得すると収納対象そのものではなく標準化されたものが取得、収納されるのじゃ。小石というものは丸くて手のひらより小さいものじゃ、と考えながら石を拾えば拾ったすべてが考えたとおりの丸石の形で収納されたのじゃ。うむ、少し気持ち悪いのじゃ。
もう一つは収納したものを一番上、スタックのラベル位置に置きそれに残りを重ねていく方法なのじゃ。このやり方ではすべてが一番上に入れたものと同じものになるのじゃ。茎を折ったノンを収納空間に放り込んだあといろんなコンディションにしたノンを五本ほどその下に重ねたのじゃが合計六本全く同じ茎の折れたノンが出てきたのじゃ。正直ものすごく気持ち悪いのじゃ。しかし有用性は高いゆえ我慢なのじゃ。
スタック同士を重ねて一つのスタックにする場合は上にしたラベル位置のものに統合されるのも確認したのじゃ。うーむ便利なのじゃ。
痛い痛いと泣き言を言っておったのが収納されて静かになったゆえやっと先頭を歩いておった最後のチンピラが異常に気づいて振り返る。そしてついて来ておったはずの二人がわき道もないのにおらぬことに驚愕したのじゃ。
「隊列を組んでる集団を狙撃する場合、一番後列の者からスナイプすれば前を行く他の者に気づかれず数を減らすことが出来るんだよ。逆に先頭を最初に撃つと後ろに続いていた全員が狙撃を認識して散らばるので面倒だよね。役に立つこともあるかも知れないから憶えておくといいよ、三千香ちゃん」
「いや、役に立つようなことがあってはその方が困るのじゃ」
前世での父さまとの何気ない会話を思い出してほっこりするのじゃ。いや、ほっこりするような内容じゃない気もするのじゃ。
しかし父さまのことを思い出してふふっと笑いを漏らす。
残念ながら役に立っておるのでよしとするのじゃ。実際は三人まとめて収納しても問題なかったのじゃが気分的には役に立ったのじゃ。
っと忘れないうちにキョロキョロしておる驚き顔のラストチンピラも収納なのじゃ。
ーチンピラを取得。収納空間に収納。チンピラ(3)
一つ目のやり方、標準化して取得する方法をとったためこの三人のチンピラはわらわの考える標準的なチンピラという全く同じ姿形で収納されスタックされておるのじゃ。個性を持った人間としては収納された時点で死んだと言ってよいじゃろう。
そう考えたわらわは胸に手を当ててみる。小さいのじゃ。まあまだ十歳なので未来があるのじゃ。ではなくてなのじゃ、三人を始末しても己の気持ちに波が立っておらぬことを確認したのじゃ。うむ、大丈夫。人として大丈夫かどうかは判らぬが兎に角大丈夫なのじゃ。
そのまま収納空間のチンピラ(3)を思考タップする。意識を集中すれば思考に従って収納空間の各種機能を扱えるのじゃ。とはいえ今はまだ集中に気を取られるゆえ他の行動を行いながら扱えるよう要訓練なのじゃ。脳内予定表に書き込んでおくのじゃ。
作業を選択してタップされたチンピラ(3)は収納空間内での自動解体機能でぽっと複数のスタックに分かれる。服や短剣などの装備類の他、クズ魔漿石|(3)や肉、皮、骨、血液など各種も表示される。肉や内臓は更に解体できるようじゃが無視じゃ無視。流石に間違って何かに使ったりしては気持ち悪いのでチンピラの肉などは収納空間内で即廃棄なのじゃ。収納空間の表示域の下の方で経験値やポテンシャルが微増したようじゃが確か収納空間に成長性も求めたはずゆえそれ関連かのう。とりあえず後回しなのじゃ。
そしてクズ魔漿石なのじゃが魔物をはじめ魔力を持った存在からは魔漿石が採れるのじゃ、無論人間からも。これは知識としては知っておったが前世の知識があるとやっぱりびっくりなのじゃ。クズ魔漿石は価値が低いはずなのじゃがよくは判らぬゆえ罪を憎んで魔漿石を憎まずの精神でこれは廃棄せずにおいておくのじゃ。
確認作業をさっと終わらせ、塀から道側に飛び降りるのじゃ。うぅ、いつもより動き回っておるゆえおなかの減りがつらいのじゃ。
そして降りてこぬラーリを見上げると一瞬の躊躇いの後、意を決したように飛び降りてくる。高いのが怖いのではなくわらわか。考えてみれば最後の一人を収納する前にうっかり笑みをこぼした気がするのじゃ。笑って人を消す女か、おお怖い。確かに怖いのじゃ。
「わらわは『人消しの魔女』なのじゃ。そう言ったであろう」
怖がられてももう後戻りはする方法が思いつかない地点まで進んできてしまっておるのじゃ。
ラーリの硬い表情も凍り付いたレベルまで進んでしまったのじゃ。
「おまえは! いやアーネは」
感情が溢れそうになっておるがなにをどう表現すればよいのか判らぬ、といった顔なのじゃ。
「もし、なにを代償にしようとも孤児院の子どもらを救いたい、と祈願う者がおるのならばそれはアーネかも知れぬ。わらわはそう思うのじゃ」
わらわも言うべき言葉が見つからず誤魔化すようなことを言って、チンピラどもが向かっていた方向に歩き出す。
「今日中に始末をつけるのじゃ。もう冬は近い、きちんと食えぬままではちいさい子らが冬を越すのは難しくなろう」
「あ、ああ」
ラーリも内心は判らぬがついて来たのじゃ。目的地が判らぬゆえ来てくれなかったらまず探すところからだったのじゃ。
助かったのじゃ、セーフなのじゃ、と安堵に胸をなで下ろしてとぼとぼと並んで歩きながらラーリに尋ねる。
「まずはクードンとやらの根城の確認からなのじゃ。クードンがおるかおらぬかも判るとよいのじゃが」
お読みいただきありがとうございます。