警邏隊の屯所までおでかけなのじゃ
こんにちは。
今日も一話更新です。よろしくお願いします。
「ふむ、どこにおるのじゃ?」
「……。屯所の留置房だ」
言いよどむだけの理由がありそうなのじゃ。
「昨日他の隊の隊員が誰何したところ切りかかってきたんで反撃で切り倒したってことになってる。そいつ等は死体を運ばせて持ち帰ってきたつもりだったが息があったので房に入れてある。息はあったがあのままじゃそう長くないだろう」
その他の隊の隊員とやらが怪しいのかその怪我人が不審なのかなんにせよ面倒な気配なのじゃ。そのまま死なせておけば面倒が少なそうじゃのにわざわざ治療を依頼してくるこの隊長は少し興深い人物なのじゃ。
しかし、問題は二つあるのじゃ。
「神殿が請け負っておる隊員の治療とは別になるゆえ謝礼の寄付は別に要ることになるのじゃ。しかも大怪我であれば魔漿石もの」
「ああ、それは当然だ。俺の個人的な支払いで頼む」
ふむ、即答なのじゃ。問題は一つクリアなのじゃ。
「そして警邏隊の屯所とやらはどこにあるのじゃ。行き帰りにかかる時間でほれ、待たせておる連中を更に待たせるのか怪我人の方を待たせるのか決めねばならぬのじゃ」
わらわはほれ、とリーダから説明を受けておった冒険者と警邏隊員どもを指したのじゃ。
「えっ?」
なぜか驚きが帰ってきたのじゃ。ゲノールからだけでなく聞いておったほかのものからもなのじゃ。
わらわも吃驚だったのじゃが、傍に控えておったマードが答えを教えてくれたのじゃ。
「マーティエ、広場を挟んで正面の旧キョルトが警邏隊の北面支隊の屯所ですよ」
徒歩三十秒だったのじゃ!
「ああ、マインキョルトに来たのは最近のことなのか」
「うむ、一昨日城市に入ったばかりなのじゃ」
神殿は元々の格式が高いゆえ城館のある中央広場に面して建っておったのじゃが、マインキョルトの拡大に伴い城館は別のところに移転し神殿前の広場は中央広場からただの広場になったそうなのじゃ。
そしてその旧城館を改修して警邏隊の北面支隊六隊が使っておるそうなのじゃ。元が総督府がおかれておった城館だけあって広く、隊員たちの宿舎や訓練場なぞも備えた本格的な支隊本部のようなのじゃ。
まあ兎も角、であれば、なのじゃ。
「既に待ってもらっておって悪いのじゃが、怪我人を治してくるまでもう暫し待っていただきたいのじゃが……」
「冒険者同士なんだからもっと気楽に、って言ったのはお嬢ちゃんの方だろ。俺らは急いでないから行って来なよ」
なかなか男前なことを言うものなのじゃ。
「感謝するのじゃ。では案内するのじゃっといかん。マードよ、相済まぬのじゃが治癒の権杖は預かりものゆえ神殿から持ち出してはいかぬのじゃ。預けるゆえリーディンに謝意と共に返却を頼みたいのじゃ」
確かめてはおらぬが借り物じゃからな。なかなか良いものであったゆえ名残は惜しいのじゃが。
「はい、確かに預かりました」
マードは布を出してきて丁寧に受け取ったのじゃ。うむ、やはり持ち出さなくて良かったようなのじゃ。
「ではすぐ戻るのじゃ。それまでにリーダから話を聞いて修得したい生活魔法を決めておくとよいのじゃ」
わらわはそう言いおいてゲノールと警邏隊の駐屯所へ向かうのじゃ。
「これ、警邏隊! 急ぎ足すぎるのじゃ」
「おっとすまない。マーティエが小さいことを忘れてた」
後ろからずっと見ておった分際でそれかえ。失礼な奴なのじゃ。
しかし、本当に三十秒もかからず駐屯所の門に到着なのじゃ。そして軽く手を挙げるゲノールと共に門衛たちが守る門を通過なのじゃ。甘い警備なのじゃ。
「今日の施設警備はその怪我人を連れてきた奴らの隊とは別だ」
警備っぷりへの不審じゃったのじゃが、違うように取られたのじゃ。
ちなみにここでの一週が六日で、隊が六隊あるゆえ基本楽な任務である施設警備の日が週に一日、休みの日も一日あるそうなのじゃ。更に夜勤の夜回りが一日あってその日は昼の間は半休で待機なのじゃ。つまり主任務の市中の警邏活動に就くのが三日、夜警が一日、施設警備が一日と言う勤務形態になっておるそうなのじゃ。
ちなみに神殿に治療に来るのは休みの日だそうなのじゃ。
「おい、ゲノール!」
話をしながら留置房へ向かっておると少し偉そうな警邏隊の制服の男が声を掛けてきたのじゃ。
「今日は非番だったはずだがそんな女の子どもを連れてなにをやっておる」
「支隊長、俺の隊が神殿で魔法の治療を受けてるのは知ってますよね。こちらは今日の治療をしてくれたマーティエです。そして」
ゲノールは少し小声に続けたのじゃ。
「あの怪我をしている囚人を治療してもらうんです」
「ありゃ確かに死体を転がしておくわけにも行かず持って帰ってきたが、生きてるとは思わなかったって感じだったがよ」
支隊長も声を低めて応えておるのじゃ。なにやら内部に問題がありそうなのじゃが、まあ流石にそんなのにかかわり合いになる気はないのじゃ。
「第一治せるのか? ありゃ上級ポーションでも無理だぞ」
「それに関しては成算があるから頼んで来てもらってるんです」
疑いの目をわらわに向ける支隊長に対してゲノールは自信を持って言い切ったのじゃ。ふむ、信頼には応えねばならぬのじゃ。
「此処で言葉を重ねても無意味ゆえ、とっとと怪我人のところに通すのじゃ」
「ああそうだな。こっちだ」
歩き始めるゲノールについて行くのじゃ。支隊長も着いてくるようなのじゃ。
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