神殿もいろいろ忙しいのじゃ
こんにちは。
今日も一話更新です。
よろしくお願いします。
「お客さんかの。今日は警邏隊の祈祷治療の日ゆえちょっと混んでおるのじゃ」
マードが声を掛けようとしておったがわらわが先に声を出したのじゃ。
「あ、ああ。しかしそんなこともしてるんだ、神殿って」
「うん、あのちょっと聞きたいことがあって」
オルンたちと同じくらいの年頃の若い冒険者なのじゃ。男女二人なのはカップルでパーティなのか生活魔法に興味を持ったのがパーティ内でこの二人であったのか、どっちであろうの。ちょっとだけ気になるのじゃ。
「見たところ冒険者じゃな。わらわは今は神殿の聖務としてここにおるのじゃが、普段は冒険者ゆえ御同業なのじゃ。ゆえに楽にするがよいのじゃ」
治療の手を止めてちょっと緊張気味の若い冒険者にそう言ってやったのじゃ。のじゃが、なぜか余計に固まったのじゃ。
「じゃ、じゃあやっぱり」
「うん、魔法を使う金髪の幼女だもん、間違いないよ」
冒険者協会でのやらかしが広まっておるようなのじゃ。しかしこの美少女に対して幼女はないのじゃ、幼女は。
「生活魔法に関してであれば、治療はもうすぐ終わりゆえそれまで待っておいてくれぬかのう。手続きなぞに関してはリーダに説明してもらうゆえの」
あまり治療の手を止めておくわけにもいかぬゆえそう言ってリーダに目配せするのじゃ。頷いたリーダが冒険者たちに近づいて話をし出すのじゃ。このリーダもちゃんと空気が読めるゆえ接客には向いておるのじゃ。
うむ、警邏隊の副官よりは使える男なのじゃ。
礼拝所の中に並ぶ長椅子に冒険者たちを座らせて説明しだしておるのを横目で確認しつつ魔法治療の再開なのじゃ。
「お待たせしたのじゃ」
待たせた警邏隊員には謝罪しておくのじゃ。
「いやいや、構わねえよ。えーとマーティエは冒険者なんだな」
「わらわの年齢で独り立ちするには冒険者になるしかないのじゃ。ほれ、治療完了なのじゃ」
なるべく重い怪我のものから順番に、と言うのは魔力が足りぬようになった場合軽傷者は打ち切りと言うことなのじゃろう。なんにせよその順番ゆえもう軽傷のものばかりなのじゃ。
<軽癒>より軽い魔力で行けそうなのじゃが今日のところは確実に定量化された魔法陣を使いこなすことを優先なのじゃ。
「本当だ。痛くねえ、ありがとよ。いや神さまにも感謝するぜ」
治療が終わったものを神像の前へ送りだして次のものの治療にかかるのじゃ。と、しておると確認のためか後ろから見ておった隊長のゲノールが訊いてきたのじゃ。
「さっきあっちの冒険者に言ってた生活魔法ってのはなんだい」
「ふむ。最近冒険者の間で修得しに来るものが増えておるようなのじゃが、神殿で教えておる簡単な祈祷なのじゃ。余り魔力が要らぬ、生活に便利な魔法じゃな」
治療しつつ背後のゲノールに答えるのじゃ。
「特に人気なのは<洗浄>で皿洗いから洗濯、湯浴みの代わりにまでなる便利な魔法なのじゃ。其方等も相当に汗くさいゆえ<洗浄>を覚えた方が少しはもてるようになるかも知れぬと思うのじゃ」
わらわがそう言うと、男臭いのが自分の魅力だなぞと莫迦なことを言いつつ興味津々な警邏隊員どもが生まれたのじゃ。魔力が低くともクズ魔漿石で充分補え得ることを言い添えつつ、興味があるものは冒険者たちと共にリーダの話を聞いておくように指示しておいたのじゃ。
治療を進めるわらわの背後でゲノールが副官になにやら命じ、副官はリーダに話を聞く連中に加わったのじゃ。
「さっき言った通り、神殿での魔法治療のおかげでうちの隊はポーションを使わずに済んでんだ。ポーションの場合は今治してもらってる程度の怪我はもったいないから舐めとけって言う話だがな」
なるほどのう。それで休まれて隊員の稼働率下がったり、無理をさせた結果失策が起こったりのブラック企業めいた問題に繋がるのじゃな。このゲノールの隊は神殿のおかげでホワイトなのじゃが。
「なんで隊に役立つもんなら隊の経費で修得費用を一部負担してやろうと言うわけだ」
本当にホワイトなのじゃ。逆に胡散臭いのじゃ。まあただの言いがかりなのじゃが。
「<遠声>は大声を出すだけの魔法なのじゃが、部隊を率いる立場のものには便利なのじゃ。<光明>は似たような魔法具も出回っておるじゃろうが自分で使えるとやはり便利なのじゃ。<光明>を石ころにかけて投げるような使い方は魔法具の角灯なぞではできぬからの」
「ふむ、それとさっき言っていた<洗浄>か」
魔法治療の手は休めずやりとりしておるのじゃ。<治癒>というか<軽癒>はもう完璧なのじゃ、おそらく。
「<早足>も便利なのじゃが、これはわらわ的にはきちんと魔力を扱えた方がいいと思うのじゃ。伝令は使えるといいとは思うのじゃがな」
よし、全員治療完了なのじゃ! お仕事終わりなのじゃ。
「うむ、今回も諸神の恩寵あって恙なく祝福を終えたのじゃ。良き民のために働く其方等に言祝ぎを」
「諸神に祈りと喜びを。神殿の厚意に感謝を」
定型文のやりとりなのじゃ。わらわは初めてなのじゃがゲノールは慣れたものなのじゃろう。
しかし、そのあとなにやら口ごもっておるのじゃ。
「どうしたのじゃ」
「マーティエ、もう一人診て欲しい怪我人がいるんだ」
わらわの問いに気を決してゲノールはそう答えたのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。