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マーリィはやはり恐ろしいのじゃ

ようこそなのじゃ。

本日三話目の更新なのじゃ(3/3)。

少しでも楽しんで頂けたら至上の喜びなのじゃ。


 わらわとラーリは木から塀に乗り移る。前世のイメージで考える塀よりかなり分厚いのじゃが、これは塀を薄くするためのブロックなどがない所為じゃな。

「他の子らに見つかると面倒ゆえ、この庭木で隠れるあたりで待機なのじゃ」

「なるほど、さっき準備したケータを煮込むようイェジーに言ってたのは皆をくりやに行かせるためか」

「うむ、そうなのじゃ」


 確かに皆南瓜に興味津々で周囲にいた子ら全員が厨について行っておったのじゃ。毎日薄い穀物粥ばかりだった所にあらわれた南瓜ゆえ皆が興味津々で当然なのじゃ。そして厨からこの庭木はほぼ見えぬゆえ発見される率は極めて低い、慎重に慎重を重ねた心配りなのじゃ。わらわは凄いのう。

 なにも考えずに頼んだことは黙っておくことにするのじゃ。


 そんなやりとりをしておると相変わらずの下品の怒声などが聞こえてくる。チンピラどもはラーリと話をしてから来るゆえ、ラーリはこの汚い怒鳴り声を聞いたことが殆どない筈なのじゃ。いいように操るための作為の一部なのじゃろう。

 ラーリを横目で見ると唇を噛みしめておるので多分正解なのじゃ。


 話しておることが全て聞こえてくる訳ではないのじゃが基本大声ゆえ大抵は聞こえてくるのじゃ。熱を出して寝込んでるガキもいるんだろ、などと言っておるのう。誰も寝込んでなぞ、ではないのじゃ、わらわのことなのじゃ。昨日のことが即時素通しで伝わっておるのじゃな。ラーリを見ると目を伏せた。まあ仕方ないのじゃ。


 それにしても毎日やって来ても本来あんまり意味はないのじゃ。敢えて言うならマーリィがいなければそのまま孤児院に上がり込んで来るであろうと言う脅しでマーリィの動きを塞いでおると言うことなのじゃろう。

 マーリィはチンピラの脅しを全く気にせず柳に風で受け流しておる様子ゆえ毎日来るチンピラもお疲れさまなのじゃ。


 怒声が間遠くなりそろそろ悪態も打ち止めで引き上げかのうと思った所でチンピラのうちの一人がキレたような大声で脅し始めた。

「おうコラ、あんま舐めてるとコイツで手前もガキどもも膾に刻むぞオラ! 俺は冒険者上がりで血ぃ見るのは慣れてんだぞコラ」

 頭が悪そうな脅し文句じゃが、本当に刃物を抜きおったのか? わらわはバッと立ち上がる。ラーリも立ち上がって飛び出そうとしておる。先々を考えるとマーリィに見えない所で始末をつけたいと考えておったが已むを得ぬのじゃ。

 と覚悟を決めた瞬間参道横の社務所から派手な打撃音とともにチンピラが転がり出てくる。鼻血であろうか血も舞い、チンピラは顔を押さえて参道でのたうつ。


 何事か判らず硬直したわらわたちの視界にいつも通り優雅に歩くマーリィが現れたのじゃ。こちらからは後ろ姿になるゆえ表情なぞは見えぬのじゃが全くいつもと変わらない穏やかな雰囲気ゆえ、残りのチンピラ二人が遅れて出て来て警戒するようにマーリィを遠巻きにしておるのがなにか滑稽にみえるのじゃ。

 わらわは飛び出しかけておった身体を戻し姿勢を低くする。いつでも飛び出せる体勢になりながら待機なのじゃ。ラーリにも手で合図なのじゃ。

 参道に転がるチンピラにマーリィが近づいたと思ったら枯れ木の折れるような音がしたのじゃ。短剣を手放しておらなんだチンピラの右手首をマーリィが踏み折ったのじゃ。


 ひっと息を飲む残りのチンピラ二人を見やりながら踏んだ足を戻しいつも通りゆったりとしているのに何か変な口調で話しだす。声を荒げるより怖いのじゃ。説教するときもいつもと変わらず笑みを絶やさないのじゃがそれが怖かったものなのじゃ。

「正当防衛でありますね。刃物抜くのはいけないです。そして貴方たちは如何するです」

「はん。じゃあ衛兵詰め所にでも行ってくるか? お前が行ってくる間俺たちが留守番してやろうか。俺らが見えないときもよぉ、見てる奴はいるからさあ。親切な俺たちが来てやるぜ」

 キレて刃物を持ち出すバカに比べると賢いコイツがリーダー格なのじゃろう。マーリィの一人しかいないと言う弱点を判っておるのじゃ。


 とは言えマーリィは射殺さんばかりのチンピラの視線も何とも思わぬようで穏やかに笑っておる。こちらからは顔は見えぬが絶対にいつも通りニコニコしておるのじゃ。

「お、おう、今日の所は引き上げだ。おめえもいつまでも転がってねえで立ちやがれ、医者には連れてってやるからよ」

 一応凄んだ後転がったバカを無理矢理立たせて引き上げるようじゃ。相変わらずのチンピラ歩法が彼奴らの見栄なんじゃろうか。


「申し訳ないですね。礼拝所が閉まっているですので喜捨が受け取れないです。ですので治療の祈祷もできないですよ。お大事に」

 マーリィはチンピラたちの背中にそう声をかける。何かおかしいのじゃ。声をかけられて一瞬ビクッとしたチンピラたちがそのまま振り向くことなく出て行くのを見送った後、マーリィも踵を返そうとしたが振り返りチンピラがのたうっていたあたりの参道に<洗浄>をかける。鼻血で汚れたからのう。それだけでなく彼奴漏らしたのかも知れん。であれば確かに<洗浄>已む無しなのじゃ。うむうむ。

 便利そうじゃし、<洗浄>を初めとした生活魔法は修得したいところなのじゃ。


 <洗浄>をかけたマーリィは改めて社務所に戻る。振り向くときなにか一瞬こちらを見たような気がしたのじゃが気のせいなのじゃ。気のせいと言うことにしておくのじゃ。

 すぐに塀の外の道をチンピラが戻ってくる筈ゆえ意識と体勢をそちらへ向け直す、ラーリも同様じゃが表情が硬いのじゃ。自称元冒険者が無様すぎたことにショックを受けたのじゃろうか。などと思っておったらラーリが低く抑えた声で言うた。

「マーリィが外出したらすぐ知らせに来いって言われてた。俺が奴が言ってた見てる奴だ。畜生」

 悔しさの滲む声色なのじゃ。今のやりとりを見ておれば、マーリィのいない孤児院に押し入った彼奴らがなにをするのか悪い想像しかできぬからのう。

「最悪なことはまだなにも起こっておらぬし、其方はもう孤児院の子らを裏切らぬ。ゆえに気に病む必要はないのじゃ」

 今から役に立って貰うつもりもあるのじゃしな。などと内心を少し隠したやりとりをしている間にチンピラどもの頭がわらわたちの眼下を過ぎようとする。


 行きに比べて歩みが遅いのは鼻血を出して骨折した右手を左手で大事に支えながら歩いておる一名の所為なのじゃ。此奴だけはチンピラ歩法でなくなっておる、全くチンピラ界の恥曝しなのじゃ。そう言うルールであるのかは知らぬのじゃがな。


 っと、チンピラに関する考察などどうでもいいゆえ、さっさと始めることにするのじゃ。



お付き合いいただきありがとうございました。

明日からはまた二話更新予定です。まだ少し書き溜め分があるので……。

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