冒険者の歴史にまた一頁なのじゃ
こんにちは。
今日も一話更新です。
現状、内容とタイトル間の齟齬が大きくなっていたのを看板だけ付け替える対応でタイトル変更致しました。
これからもよろしくして頂けると幸いです。
「ええっと、続けていいですよね。さっきの話から続けて言えば他の商業組合や余裕のある匠合も見習いの見習いとして孤児を受け入れて小さな仕事を回してやってくれたら助かるのです。ですが、やってるのが冒険者協会だけなのは制度として出来るのが冒険者だけだからなんです」
「ふむふむなのじゃ」
「商業組合には規約の変更などを求めてみようとは思います。大本になる大憲章がどうなっているのか確認しないといけませんがね」
いろいろな決まり事あるのじゃ。組合や匠合の制度に関する取り決めは帝国時代に定められたその所謂大憲章に依っておるのじゃ。もはや裏付けを行う帝国がないゆえ権威しかないのじゃが、実体がない権威ゆえ手出しが難しいとマーリィから習ったことがあるのじゃ。
「で、なぜ冒険者協会は出来るのか、なのです。貴族や騎士の子弟、時には当主が冒険者になりたいと言ってきたとき身分証としての鑑札を振り出すことは出来ないですよね。冒険者ではなくて商人や職人の場合も」
ギルマスは茶を飲んで一拍置いたのじゃ。
「ですが、冒険者協会だけはそれを行える特例が定められているんです。規約には詳細がわからないテンイッシャーと言う人たちに対応できるようと記されてますがね。兎に角その特例で出自不明としたまま登録鑑札を振り出せるんですよ」
「ああ、なるほどなのじゃ。わらわの鑑札もその特例で出自不明として振り出しておるゆえ年齢についても不問なのじゃな」
やっと話が繋がったのじゃ。うむうむ。
「そうです。ですので普通は十二歳で鑑札を見習い鑑札と取り替えます。希望があれば冒険者鑑札を取り消して他の見習いになってもらったりもしますね」
「それで、なにが問題なのじゃ?」
「特例で振り出した鑑札はそのあとは普通の鑑札の扱いなのです。見習い鑑札ではありません。見習い鑑札は昇級についてなど制限する規定があるのですが」
そこでジーダルが吹き出して笑い出したのじゃ。セイジェさんも笑いをこらえておるのじゃ。
「ぶはは、じゃああの魔漿石と角で九級かうっかりしたら銀板だな」
「見習いになる前に文字級とか歴史に残りそうね」
「歴史に残りそう、と言いますか規約上の問題が本当にないのか確かめないといけません。冬の間に冒険者協会の北方諸国群全体の大会合がありますのでそこに持ち込む案件となります。それまで昇級については保留とさせてください」
「あ、ああ構わぬのじゃ。と言うかあれでそんなにあがるのかえ?」
「まずクズ魔漿石じゃなく普通の魔漿石を単独で採ってこれる時点で六級か七級になりますね」
「そして指揮個体に率いられた豚鬼の集団って奴を想定したとき、普通それは軍曹一体と十から十五体程度の豚鬼からなる部隊だ」
ギルマスとジーダルがそう言うとそれにベルゾが続けるのじゃ。
「最悪の場合、その部隊が二つ連合して三十体ですね。交易商はしっかりしてますからそこまでのリスクを計算して隊を組んでいます。あの時の護衛の数はミチカを入れずに二十四人でしたね、見習いの双子たちを含んでいますが。十五体相手なら問題なく、三十体の場合も切り抜けることが出来るそう言う計算です」
「護衛が二十を越えない場合はこっちが出発を拒否する場合もある。十五体相手で損耗が出るのは頂けないからな」
「最悪の想定の十倍以上であった訳かえ。其方等よくがんばったのう。いや、其方等は当然として他の連中かの」
ほう、と感心するわらわの額をジーダルが指ではじく。痛いのじゃ。
「お前のあの魔法のおかげだ」
そういえば<賦活>も使ったのじゃ。<賦活>による継戦能力の向上は侮れぬものなのじゃ。
「ふむ、魔力が枯渇するまでがんばった甲斐があるのじゃ」
「魔力の枯渇は最悪生命に関わります!」
「最後には走って逃げるって選択肢もあるものよ。気絶して寝てては逃げることさえ出来ないわ」
フルボッコなのじゃ。まあ確かに気を失っておってはなにも出来ぬのじゃから間違いなく失策なのじゃが。
「あれは魔漿石の買い取りをしている職員でも呆れる数なわけです。そして当然なのですが豚鬼大尉の角の評価は高いですよ。A級に届くかどうかはわかりませんが九級には行くと思います。とは言っても見習いに準じると判断されたら四級で、十五歳になるまでは五級以降はお預けですが」
「うむ、それで全く構わぬのじゃ」
「特例を利用した制度ではなく規約を変更して見習いの見習いを正規の制度に出来るよう働きかけるつもりです。それが通った場合は鑑札の交換などがあるかも知れませんね」
「正規の制度化されれば他の組合なぞに働きかけるとき通りやすかろうの」
「無論、そういう意図です」
しかし、神殿の力が弱く孤児院を運営できぬと言うジープラント王国の国内事情に起因するゆえ国際的な会議では多少難しいかも知れぬのじゃ。奴隷制度の廃止に伴う孤児の発生に対応する、と言う題目で行けるのかの。
「では僕はもう仕事に戻りますね」
「うむ、昼餉を馳走になり感謝するのじゃ」
軽く手を振ってギルマスは去ったのじゃ。
「何となく得体の知れぬ男じゃの。それでこそギルマスと言ったとこかの」
「うん、まあよくわからんおっさんさ。ただ強いぞ」
「それは何となく感じたのじゃ。しかしまず強さが基準とはジーダルらしい話なのじゃ」
さて、と昼を過ぎた程度ゆえ商業組合に回るかのう。それとも宿探しを先にしておくべきかの。
「そう言えば其方等はどういうところで暮らしておるのかえ?」
「昔からずっと一緒の宿だ。部屋や家を借りたり買ったりしてもいいんだが、もう慣れちまってよ」
「一年契約を継続して借り切りしてるからメイド付きの部屋を借りてるようなものだけどね」
ほう、いい宿なのじゃな。
「私とセイジェは一部屋ずつ借りてますが、ジーダルは二間続きの部屋です」
「いや、俺が贅沢してるみたいに言うなよ。話し合いに使ったり酒飲んだり、盤上遊戯で対戦したりって使うからよ、むしろ俺の個人の部屋じゃねえんじゃねえかと」
ぶつぶつ言うジーダルを置いておいてセイジェさんが訊いてくるのじゃ。
「ミチカちゃんは宿を探してるの? 私たちと一緒の宿に泊まる?」
「探してはおるのじゃが、そんな上等な宿でなくともよいのじゃ」
「宿は良いところの方がいいですよ」
確かにそれはそうじゃの。しかしのう。
「身軽さが失われるのじゃが、港近くの倉庫か石窯のある厨房のある家か多少容量のある物件を借りたいと思っておるのじゃ。それまでの繋ぎでよいのじゃ」
「それでいいのですか?」
ん、ベルゾの質問の意味がとれず、一瞬考えるのじゃ。
「うむ。父が亡くなっておるゆえ急いで中央に帰っても何の当てもないのじゃ」
設定上の話であったのじゃ。危うくわからぬところであったのじゃ。正直魔漿石の代金で船賃程度は楽にあるであろうしの。
「じゃあもうずっとこっちにいましょう!」
セイジェさんにかいぐりかいぐりされるのじゃ。
「先々のことはわからぬのじゃが、少なくとも普通の見習いの年齢まではここにおると思うのじゃ」
「少なくとも一年となると確かに借家も悪くないな」
「なんで当座の宿は商業組合の方で紹介してもらおうと思っておるのじゃ」
「ま、条件に合うところがなきゃ俺たちの宿に来な。最悪ベルゾを俺の部屋のソファに寝かして部屋を空けてやるしよ」
ジーダルがそう言うと顔をしかめながらベルゾがささっと紙に略地図と宿の名前を記して渡してくれたのじゃ。
「我々の名前を出せばすぐ伝えてくれますので。もし不在でも待っていてくださいね」
「もしもの時には世話になるのじゃ。感謝するのじゃ」
では行くとするかの。冒険者登録をしに朝から来たというのにもう昼過ぎなのじゃ。時間を食いすぎたのじゃ。
「ああ待て」
立ち上がりかけたわらわをジーダルが止める。出足を挫かれた気分なのじゃ。
「なんなのじゃ」
「明後日オルンたちに冒険者装備を扱ってる店を紹介してもらうって言ってただろ。それに俺もつき合うからな」
「なんじゃ、仲間に入りたいのか。寂しん坊じゃのう」
セイジェさんがぷっと吹き出したのじゃ。ジーダルは唸りながら反論するが、まあそんなものなのじゃ。
「あいつ等の行きつけの店や工房は駆け出し向けの筈だ。そこまで悪くはないけどよ」
まあそれはそうであろうの。しかし、わらわは実際大した装備が要るわけでもないゆえ構わぬのじゃが。
「ああ、ミチカのって言うよりオルンたちの為だな。豚鬼の魔漿石であいつ等も稼いだはずだから俺らの行きつけのとこに顔を繋いでおいてやろうと思ってな」
「なるほどなのじゃ。そう言う理由なら否やあろう筈もないのじゃ」
後輩思いなことなのじゃ。感心感心、なのじゃ。
「この冬は休息期間と決めてるんだけど、その所為で暇なのよ」
「一部の不心得ものの所為で冒険者間に不穏な空気があると聞いて、こうやって支部の中を知り合いに挨拶しながらうろつき回ってるだけですからね」
「それもまあ立派な心がけなのじゃ。脇が甘そうなジーダルにわざわざ着いて来る其方等も含めての」
ジーダルはフンッと鼻を鳴らすのじゃ。まあ二人に護られておる自覚はあるのじゃろう。
で、まあわらわは立ち上がり辞去するのじゃ。
「ではの。明後日は昼前にここのロビー集合で昼を摂りながら買い物のことを話して店に行く予定だったのじゃ。その昼食は頼りになる先輩冒険者に集ることにするゆえよろしく頼むのじゃ」
「あはは。確かにそれはジーダルが教えていた心得だわ」
「おう、じゃあまたな」
食堂に三人組をおいてわらわは商業組合へと出発なのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。