更に色々聞くのじゃ
こんにちは。
今日も一話更新です。
よろしくお願いいたします。
「まず普通の獣の皮や肉だけど、これは本当は取り扱いが違うの。魔物や魔獣と明確に棲み分けているわけもないし、狼なんかは討伐依頼が出ることもあるし、仕事中に狩れたものを持ってくる分には構わないわ。でも、専門的に魔獣ではない獣を狩る場合は狩猟人匠合か狩り場を管理している役所の鑑札が必要になるわね」
無断で入ることがそもそも禁止されていたり狩猟行為が禁止あるいは制限されていたりする禁足地の類の狩猟許可などは冒険者協会ではなく狩猟人匠合で申請する必要があるそうなのじゃ。まあ面倒ではあるが違う職業の範囲であれば仕方ないことであるのじゃ。
「雪の椿のモリエちゃんは狩猟人の鑑札を持ってたわね。確か、罠猟もできるちゃんとした奴」
ほう、流石なのじゃ。狩人になる予定はないのじゃが何かあったらモリエに訊くのじゃ。
「で、魔物の素材と魔漿石ね。素材はその買い取りカウンターで査定して買い取っているわ。けど、そこで売らずに直接工房や商人と取り引きしてもいいの」
そこでメーレは一息つき、続ける。
「でも魔漿石は違うの。冒険者協会は魔漿石の買い取りに関して優先権を持っているのよ。個人的なやり取りくらいなら問題ないけど基本的には冒険者協会と取引してね」
この魔漿石の流通に占める役割の大きさが冒険者、あるいは冒険者協会が社会的に認められておる理由のひとつなのじゃ。
「クズ魔漿石も買い取るけど、自由に取り引きしてもいいことになっているわ。あと魔法使いなら自分で使う分とか確保するのも問題ないわ。ダンジョンによっては持って入るのを登録する必要があるけどね」
「ふむ、ダンジョンのそれはどう言ったことなのじゃ?」
ああ、と微笑んでメーレさんは答えるのじゃ。
「このあたりにダンジョンはないから説明してなかったわね。説明するけど実際に行くことになったら現場の協会でちゃんと話を聞いてね」
「うむ、分かったのじゃ」
「管理されたダンジョンは入宮料を管理している冒険者協会が徴収しているわ。そして入宮料が安い代わりに中で得たものを協会が全部買い上げる、勿論適価でよ、と言うダンジョンと、入宮料はすごく高いけど中で手に入ったものは全部自分のものになるダンジョンがあるの」
納得なのじゃ。
「前者であれば持ち込むものをしっかり登録しておかねば揉めるのじゃな。そしてどちらにせよ入宮料や規則を現地の協会で聞いておかねばならぬ訳なのじゃ」
「そういうこと。まあ魔漿石はどちらにしても協会に売ってもらうんだけど後者ならダンジョンがない分相場が割高なマインキョルトまで持ち帰って売ればお得よね」
入宮料が安いのは大体初級者向けのダンジョンなのじゃが、そうではなく魔鉱など重要な素材が多く出るダンジョンの場合もあるそうなのじゃ。入宮料が高額な方はそれを十分ペイできるくらい稼げる中級以上向け、となっておるわけなのじゃ。
あと、割に合わないダンジョンを氾濫防止のために攻略するのは協会から報酬の出るお仕事になったりもするそうなのじゃ。
「えーっと、次は依頼について、そして見習いはまずは大怪我せずに依頼をこなすことが一番の仕事なんだけど一応昇級についても、かな」
「よろしくご教授願うのじゃ」
まあ依頼の請負に面倒なことはないのじゃ。掲示板に掲げられておる依頼はどちらかというと急ぎの仕事で、掲示板以外に依頼が記載された薄い木札が大量に並んでおる棚もあるのじゃ。どちらにせよそれを窓口で手続きして必要なら依頼主への紹介状をもらって行くことになるのじゃ。
「私たち窓口の職員に聞いてみるのが一番ね。条件に合う依頼を紹介するわ。そしてなるべく担当を決めてもらえれば効率よく紹介できるようになるわね。こちらから実力や人柄を見て勧める依頼もあるし」
階級による受注制限は結構雑なのじゃが、見習い用の依頼だけはきちんと選別されておるのじゃ。一、二級の見習い仕事は猫洗いなどの街の人のお手伝いやお使いじゃな。
四級までの見習い用依頼の大体は城市の中で完結しており、薬草の納品なぞ少数の例外が近場までの採集依頼になっておるのじゃ。城市の中でも倉庫のネズミ退治なぞはその中に魔鼠が混じっておる可能性がありはするのじゃが。
ただ、見習いと言えどパーティを組めばサーデとマーセの様に普通に戦闘のある依頼に参加できてしまうのじゃ。
その方式でダンジョンがある土地の冒険者見習いはダンジョンからの戦利品を多く持ち帰るためのポーターとして先達の冒険者につき従ってダンジョン内に潜るのが主な仕事らしいのじゃ。ラーリが本当に冒険者見習いになるのならばローケンキョーでダンジョン内の荷物持ちになるのじゃろう。大丈夫かのう。
質の悪い冒険者の中にはそういうポーターとして連れて入った見習いを囮として使ったりするそうなのじゃ。
「なるほど、彼奴等が見習いを脅して言うこと聞かせようとするのはダンジョンではないにしろそういう用途を考えておったからなのじゃな」
「えっ、ああ、うん。ソウダネー」
それ以外があるようじゃの。……。十歳の少女には言えぬようなことであるのじゃな。潰しておけばよかったかのう。
「そ、それでね。階級の昇級について説明するね。依頼の達成評価や協会への貢献度、これは依頼の達成も貢献なんだけどそれ以外の素材や魔漿石の買い取り評価とか協会が依頼した仕事への従事や協力とか、いろんなことが評価対象になるわ」
「買い取りカウンターで買い取ってもらってそれが評価になるのはお得なのじゃ」
「魔漿石の取り扱いは冒険者協会の事業としての根幹だからね。素材もおまけって言うほどじゃないのよ」
「なるほどなのじゃ」
そうやってポイントを貯めて、貯まったら審査となるそうなのじゃ。評価の実際の数字や昇級に必要な数字は未公開なのじゃが昇級が近づいてきたらそれは教えてくれるそうなのじゃ。
六級まではポイントが貯まって素行に問題がなければそのまま昇級で、七級からは試験があるのじゃが戦闘力の試験ゆえ戦闘での実績が充分なら九級までは試験免除で昇級となるのじゃ。要はA級からが実際に試験がある範囲なのじゃ。数字級と文字級でひとつの壁があるのじゃと。
オルン等は今回の旅で昇級したのかのう。豚鬼の魔漿石を貰っておったし特にオルンは軍曹の角を得ておったからの。
「そう言えば活動する土地を移動したりした場合はどうなるのじゃ」
「協会に申請したら支部間の逓信通函でちゃんとやり取りするから心配無用よ。ここから西方域とか中央だと時間は掛かるけどね。ざっとした情報は鑑札の裏や紹介状に符丁で書き込むけど評価の数字なんかは公式な書簡でのやり取りが必要なの」
「なるほどなのじゃ」
「面倒なら昇級してすぐ移動すれば持ち越しがなくてもそんなに損しないわね。素行の評価なんかが最初からになるけど」
「活動本拠のお引っ越しじゃない移動の場合はお出かけ先の協会で言っておいてくれれば大丈夫ね。例えばオルンくんたちは護衛の依頼を受けてメイゼルキョルトへ行ってそこの協会で依頼完了の報告をしているわ。その依頼の達成評価はオルンくんたちが帰ってくるより前にこっちに届いてるわね」
「なるほどのう。国を越えた支部間にもそれだけの繋がりがあるのじゃな」
「でもまあ国境を越えてると街道の危険度や国の間の情勢で連絡は滞ることがあるわ」
「それはそうじゃの」
「見習いに最初に説明しておくのはこれくらいかしら。実際は普通より大分説明したのだけどね。ふふっ、ミチカちゃんと話していると春に十一歳だってことを忘れがちになるわ」
「まあ旅空で育ったゆえ世慣れておるのじゃ。常識が抜けておるところもあるのじゃがの」
そう言うことにしておいてもらうのじゃ。
「丁寧な説明、ありがたく思うのじゃ。今日は持ってきた狼の皮でも査定してもらって帰るつもりなのじゃが、依頼を探しに来たときにはメーレさんに頼みたいのじゃ」
「まあ、ありがとう」
メーレさんのにっこりとした笑顔でちょっと幸せ気分なのじゃ。
なにやらカウンターの向こう側の職員がわらわの方を見たりしておるのじゃが、深くは考えぬのじゃ。訓練場での野次馬には職員も多かったゆえその関係じゃろうがの。
お読みいただきありがとうございました。