[閑話]あれは少女の姿をした悪魔なのじゃ
こんにちは。
本日二話更新の二話目です(2/2)。
「あの娘は悪魔だ。少女の容をしているが」
そんなことを言ってる仲間にセイジェはため息と共にツッコむ。
「まーたそんなことを言ってる。その悪魔にご飯作ってもらったりしておいてさー」
「ああ、旨かったな。いやあんな旨い飯を人間が作れるわけがない」
「そんなこと言うならこのちゅろすとか言う悪魔のお菓子は分けてあげないわよ」
「いやそれは困る」
ベルゾは駅馬車の中でじゃれ合う仲間たちにため息をこぼし、しかし自分もチュロスを貰おうと手を差し出す。
駅馬車は箱型の馬車としてはかなり小さいがその分速く、そして乗る場合の運賃は高い。駅逓として公的書簡を乗せて走るのが本義の駅馬車だけが街道を走らせることが出来るのだ。他の馬車には制限があるが実際のところ馬換えを行わない普通の馬車は走らせても休息時間が長くなるだけなのだが。
ベルゾは表面に筋が入った不思議な菓子を食べつつ、瓢の薬酒で口を湿す。美味い。固い表面としっとりした内側の歯応えの違いなどを堪能しながらしばし無言で食べたあと、重々しく口を開く。
「悪魔かどうかは別として、普通の子どもではないな」
「ベル、口に食べかす着いてるわよ。てゆーかあの大魔術、いや祈祷だったわね、あれを見て普通の子どもだなんて言う奴がいたらそっちの方がびっくりするわよ!」
冒険中は頼れる仲間なのだが、一旦仕事から上がると何処かボケている。そんな仲間たちについついツッコミを入れてしまうセイジェは仕事中より忙しいかも知れない。
そう考えながらジーダルはチュロスの最後のひとかけを口に放り込み、黙考する。
あの少女、ミチカを初めて見たのはメーゼルキョルトを出て一日目の護衛同士の顔合わせの時だった。
後輩の駆け出し冒険者として見知っているオルンたちに連れられてやって来たが、このあたりでは見ない明るい金髪が兎に角目立っていた。出自を聞いて納得したが、冒険者見習いになるには身体が小さくジーダルはかなり不安を覚えたものだ。
不安と言えばジーダルにとってはオルンたち雪の椿というパーティもまた不安材料だったのだ。妹たちを連れた兄妹パーティに感じる不安としては普通と逆で実はオルンとガントの兄たちの方が多少不安なのだ。
モリエの弓の腕前は確かで、だからこそ豚鬼戦でも片翼の遊撃対策を任せることができた。双子たちはまだ見習いの年齢だがそれを考えると二人の連携はしっかりしており、短槍と言う武器の選択もいい。
しかしガントは魔術師として勉強はしているが慣れ、経験が足りていない。以前にジーダルたちと雪の椿は一緒に組んで依頼をこなしたことがあるが、その時はベルゾが逐次使う魔術を指示していた。
逆に言えば指示さえあれば魔力量が少なくて兼業戦士に過ぎないベルゾより使える魔術師なのであって、生き延びて判断力を身につければいい魔術師になるだろう。
魔術師が生き延びれるかどうかは仲間にかかっており、仲間が生き残れるかは支援する魔術師にかかる。普通の魔術師とはそう言ったものだ。
そしてオルンはいい奴で、ジーダルを慕ってくれているかわいい後輩なのだがジーダルを真似たような戦闘スタイルがあまり本人に合っているとは思えないのだ。
ジーダルは軽めの鎧に盾なしの剣一振りで戦う、本来遊撃の軽戦士なのだがパーティの構成もあって剣技で相手の攻撃を捌くことで前衛としての立ち回りもこなす。そしてそれはあくまでそれだけの技量があってこその立ち回りなのだ。
そのあたりについてはオルンに多少の忠告もしているが戦闘スタイルを変えるというのも難しいことで試行錯誤しているようだが形にはなっていない。
そう言う不安があるパーティだから豚鬼の襲撃の時ジーダルは心の中で祈った。他の護衛はそこそこ経験のある連中でサルゲントに率いられた十や二十程度の豚鬼と小鬼なら凌げるだろうがオルンたちは、と祈らざる得なかったのだが現実は遙かに非情だった。
森の端に見えるのは百を越える軍勢で、つまりサルゲントどころではない上位種の指揮個体が存在し、この軍勢相手に防衛戦をしなければならないのだ。
オルンたちだけではなく他の護衛たちもどれだけ生き延びれることであろうか。ジーダルが潰えた祈りと望みを飲み込み指示を出そうとしたときに奇跡が起こったのだ。
意味は伝わるが言葉として留めておくことの出来ない不思議な名前の大魔法が陣地を構築し、活力が湧き出てくる恐ろしいほどの力を与えてくれたのだ。
奇跡、そう言う他はない。
いや冒険者は神に縋るような人間じゃない、さっき祈ったのもチャラだ。あれは悪魔だ。その自分の論法におかしさを覚えながらジーダルは戦った。
ベルゾを遊撃対策で離していたため再生持ちに苦労させられたがそれもミチカが雷弾で始末を付けた。
全くすごい悪魔だ。女神と呼んでも差し支えがない。
ちなみに魔法名がわからないのはベルゾが他の魔術師たちと話した結果聖字と呼ばれる魔法的な文字で綴られているのだろうと推測していた。正直ジーダルにはよくわからなかったが。
その後の全く知らないような料理を作りまくる姿などを思い返し、パーティの仲間たちに尋ねてみた。
「なあ、見習い、実際には年齢的に見習いの見習いだけどよ、普通の見習いとして薬草摘んだり猫を洗ったりして平穏に過ごしてくれると思うか?」
「ありえないでしょ」
「不可能」
即答した仲間二人にため息を返す。
「だよなあ」
しかし、あの悪魔との再会が楽しみでもある。ジーダルはそう思いながら車窓からの景色へと視線を逃した。
お読みいただきありがとうございました。
今日まで冬休みの方も多いかと思います。お気をつけて新年のお仕事頑張ってください。