盤上遊戯を嗜むのじゃ
こんにちは。
こちら本日二話目です(2/2)。
少しでも楽しんで読んでいただけると幸いです。
「護衛分はラードで揚げ焼きにしてバターも不要なのじゃ」
「わかったー。ラードってそれはそれで美味しそうね」
うむ、当然美味なのじゃ。護衛たちは概ね大食らいゆえ二枚ずつ用意するゆえ溶かしバターなぞ準備するのは面倒なのじゃ。
出来上がった料理は順次双子たちが持って行くのじゃ。自信はあるのじゃが好評であるとよいの。人によっては不評なのじゃが、酸っぱめのジャムをつけて食べるのも美味しいゆえ試して欲しいものなのじゃ。
「ねー、この料理なんて言うの?」
おっと、そうじゃったの。父さま風ビフカツ、パルミジャーノ抜きなのじゃが……。まあよいのじゃ。
「仔牛のカツレツで頼むのじゃ」
「りょーかい! もっていくねー」
うむ、任せたのじゃ。まあ名前は適当でよいとするのじゃ。
ちなみにモリエと双子等は試食もしたのに賄いで一枚ずつ食べておるのじゃ。わらわはもうよいかの。
モリエは賄い分で味付けを少し変えたり焼き時間の調整をしてみたりしておるのじゃ。研究熱心でよいことなのじゃ。
わらわはデザートの準備といくのじゃ。
とは言っても卵に蜂蜜を入れて混ぜるのとクレーム・シャンティイを作る位なのじゃが。
なんとなく甘い卵焼きを食べたくなったのじゃがすこしお菓子っぽく甘い蜂蜜入りオムレツにクリームやジャムを添えることにしたのじゃ。小麦粉を入れた方が安上がりなのじゃがわらわの甘い卵焼き風のものが食べたいという欲望が優先なのじゃ。
ああ、幸せなのじゃ。ちなみに己の分だけは薄焼きにしてくるくると巻き簡単卵焼き風にしたのじゃ。モリエも真似しておったが流石に一発でうまくできるものではないのじゃ。
空っぽの皿とともに帰ってきた双子等によると仔牛のカツレツは興奮気味なレベルで好評だったそうなのじゃ。甘い卵は単純に卵の使い方に驚かれておったようじゃの。それもまた良しなのじゃ。
酒肴は牛肉に余裕が出たゆえ<経時>を駆使してフライパンでローストビーフ風に調理し、サラダの上にローストビーフを広げてソースをかけたものにしたのじゃ。ソースは肉汁に玉葱のすり下ろしと食感を考えてスライスしたものを入れて、葡萄酒とジャムを加えて煮詰めて作ったものなのじゃ。
うむ、悪くないのじゃ。
食後はガントに誘われて宿のロビーにあったチェスのような盤上遊戯を嗜む。いやはや調理の後片づけが<洗浄>で簡単に済むのはすごいことなのじゃ。
ちなみに前世のドイツでボードゲームが盛んであったのと同じ、冬が厳しく人が家に篭もると言う理由でジープラント王国ではこのチェスのようなものやそれを子供向きにしたゲームがよく遊ばれておるそうなのじゃ。
では前世のゲームをパクって大儲けとはいかぬかの、いやさ逆じゃの。盤上遊戯を楽しむ土壌が既にあるゆえ新奇なゲームは直ぐに売り上げに繋がるはずなのじゃ。実際に売ったりするかどうかはともかく名作ゲームのルールを思い出しておくことにするのじゃ。
ガントの腕前なのじゃが、基本は出来ておるし筋は悪くないのじゃ。しかし性格が出るものでの、先のことを考えすぎて逆に一手か二手遅れるのじゃ。あと見切りが早いのも善し悪しじゃの。
ストールベリ王国ではジープラント王国ほど庶民に余裕がないゆえかそこまで盤上遊戯が盛んなわけではなかったのじゃが孤児院にも手作りの遊戯盤があったのじゃ。わらわはマーリィにボコボコに負けた記憶しかないのじゃが、マーリィ以外に早々負けるような腕前ではないのじゃ。
いろいろとしゃべりながら他のものとも対戦したのじゃ。しゃべった内容は料理のことが多かったのじゃ。
歴史というものは案外難しくあっての、己が身の丈で判断しがちなのじゃ。要はわらわやオルンたちにとっては生まれたときよりジープラント王国は豊かで強い国であるゆえずっとそうであったように錯覚するのじゃが実際は内憂外患の時代が長く先代の治世でやっと安定した時代を迎えておるのじゃ。年寄りであれば混乱の時代を覚えておるものも多いのじゃ。
ゆえに文化の成長はまだまだであって庶民が口にする調理の水準は遅れておるのではないか、と言うのがわらわの料理が大好評である理由としてガントが推測したものなのじゃ。一定の納得は得られるの。
盤上遊戯の方は双子が案外手強いのじゃ。基本に甘いところはあるのじゃが攻めを重視したスタイルはうっかり後手に回ると押し切られる危険があるのじゃ。オルンは良くも悪くも基本に忠実じゃの。ガントに比べると粘りがあるのじゃがこちらの読みから外れることがないゆえ負けようがないのじゃ。モリエは守りを重視しておるのじゃが、その分手が遅いの。遅くなる分を補う何かが必要なのじゃ。
それぞれの打ち筋があっておもしろいものなのじゃ。
盛り上がっておったら他の護衛や商人さんたちも混じってきたのじゃ。盤上遊戯が盛んであるというのは確かなことのようなのじゃ。
護衛たちはどことなく己の戦闘スタイルに寄った打ち筋をするようじゃの。商人さんたちは年の功でなかなかの強敵なのじゃ。
そして結論としてはマーリィの強さは異常の水準にあったということなのじゃ。いやマーリィ以外には負けぬ、と言ったが本当に負けなかったのじゃ。マーリィは年端もいかぬ子供に対して大人げなかったのではないかの。
エインさん以外の商人さんたちや護衛たちとも結構打ち解けておったのじゃが、こうして一緒に遊ぶと一入なのじゃ。
しかし、この旅も後二日かそこらで終わりとなるのじゃ。少し寂しく感じるの。
読んでいただきありがとうございます。