おしゃべりしながらのんびり旅なのじゃ
明けましておめでとうございます。
旧年中は、と言いましても投稿を始めたのが12月になってからですので一月弱程度ですが拙作にお付き合い頂きましてありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。少しでも楽しんで頂けるなら幸いです。
書きため分は既に何度かゼロになっており、今も無い状態ですので二話投稿は近々停まるかと思いますが、毎日更新は出来得る限りやりたいと思っております。
本日二話更新予定。こちらは一話目(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
ゴンゼイキョルトには一泊しか滞在せず翌朝にはすぐに立ったのはわらわが何の気なしに商会の招待を受けたりせぬように、と言う理由だったらしいのじゃ。過保護じゃの。
買い物なぞは着いた日の午後で済んでおったゆえ、別にどうでもいいのじゃがの。
ちなみに食材や調味料を見歩いて品揃えや値段の傾向を確認しただけでなく、上着を一着買ったのじゃ。イセンキョーを出る頃はまだ秋であったのじゃが、もはや冬の初めなのじゃ。
余り深く考えず羊毛のもこもこした丈の長いセーターのような上着をあがなったのじゃ。本当はこの上から風を通さない上着を更に着るようなのじゃが、一枚皮のしっかりした外套をもっておるゆえそれでよいことにしたのじゃ。
こう、重ね着なぞをするのもよいのじゃが皆で集まっておしくら饅頭状態になることが孤児院の防寒術であったのじゃ。寝るときも何人かずつ集まって寝ておったのじゃが、たまに寝相の悪いものもおって大変であったのじゃ。
ラーリや孤児院の皆は元気でやっておるかのう。
ちょっとだけしんみりとしつつも、わらわは乗ってるだけゆえ馬車の旅は順調に続くのじゃ。
「どうかしたの、ミチカ」
「うむ。なんでもないのじゃ。ちょっとばかり物思いに耽っておっただけなのじゃ」
問いかけてきたモリエを見やる。馬車の揺れが小さくなっておるゆえモリエは器用に矢作をしておるのじゃ。狩りの時なぞは仕留めた獲物から鏃を回収しておるのじゃが豚鬼戦ではほとんど回収できなかったそうなのじゃ。今はゴンゼイキョルトで仕入れてきた新しい鏃で加工しておるところ、と言うわけなのじゃ。
そんなモリエの服装を見ると毛織りの上下の服の上からなめし革の上着を着込み、鋲を打って強化してある硬化革の胸当てなぞを着けておる。そしてマフラーと外套なのじゃ。他にも毛皮の裏打ちがされた耳当てつきの帽子や手袋、毛皮の短衣など寒いところで狩りをするための装備も背負子に入れてあるそうなのじゃ。
質実剛健な冒険者風ファッションじゃな。地味目であることには疑いがないのじゃが、結構あったかそうなのじゃ。革の上着の袖には紐が通してあって絞れるようになっておったりと工夫が見えるのじゃ。
服装というものは地位と職業によって大きく変わるものなのじゃが、わらわも冒険者としての服装なぞを考えねばならぬのじゃろう。そのときにはモリエを参考にするのじゃ。
いや、魔術師のガントは長衣の上に皮のジャケットっぽい上着を着ておるだけじゃの。あちらを参考にすべきなのかも知れぬのじゃ。
「冒険者の服装というものはだいたいモリエのようなものなのかえ?」
「うーん、懐事情もあるからねー。まああたしは鉄胸甲や鎖帷子は重そうだから要らないけどね」
なるほど、金属鎧は高いのじゃな。しかし確かに重たいというのは大きなデメリットなのじゃ。わらわも要らぬのじゃ。
「あとあたしの装備が地味なのは斥候仕事と狩りのためだね。派手な色に染めた皮革を使ってる人も多いよ」
「ほう、そうなのかえ」
「毛皮の襟を付けた真っ赤な外套を着けてる人を見たことあるよ。目立ちすぎだと思うけど」
悪目立ちなのじゃ、とは思うのじゃが一概に否定はできぬのじゃ。目立つというのは強敵を引き寄せる目印であると同時にそれを凌ぐ実力があるという自負の現れなのじゃ。傾き者の理屈じゃの。
「街着は分からないけど冒険者用の装備とかならマインキョルトでお店に案内したげるよ」
「お前は街着の方を何とかしろよ。いい歳になってきてるんだから」
御者をしておるオルンがそうツッコミを入れる。双子等とおるときは一緒にきゃいきゃいとしておるので十五、六に見えるが実際には十七なのじゃ。ここでの年齢の数え方であれば春に十八となるが要は適齢期、と言うやつなのじゃ。
尤も村に比べて城市だと働いておって婚期が遅くなる女性も多いと聞くのじゃ。ましてや女性冒険者においておや、なのじゃ。
「そんなことをずけずけ言うから兄さんはもてないんだよっ」
「いや別にもてたくねーし。てゆーかお前がもてないって話だろ」
兄妹の微笑ましい口げんかなのじゃ。実際適齢期というならばオルンもそうなのじゃが、自分は冒険者の浮き草稼業ゆえ遅くてもよいと思っておるようなのじゃ。
「モリエはもてると思うのじゃ。と言うかの、オルンはモリエがもてたらもてたで色々文句を言いそうなのじゃ」
「いやいやいや。この口うるさい妹には早く嫁に行って欲しいと思ってるんだぜ」
このシスコンめ、なのじゃ。早く嫁に、と言うのも嘘ではなかろうがそれは危険な冒険者家業からさっさと退いて欲しいと言う意味なのじゃ。
オルンはよいシスコンなのじゃ。
「しかしとりあえず、人の街着に文句を付けるオルンの方の街着を楽しみにしておくのじゃ」
「あはは。兄さんもガンもひどい着た切り雀だよ」
謂われなき雀に対する誹謗中傷なのじゃ。ちゅんちゅん。舌きり雀の話をこの世界で聞いたこともあらぬが、あったとしてもここの言語では舌きり雀とかけた言葉遊びにはならぬのじゃ。
由来不明の冒険者の間で使われる表現じゃと虚を突かれて不審そうな顔をしたわらわに二人が教えてくれたのじゃ。
「オルンくんの方は兎も角、ミチカちゃんとモリエちゃんはうちの嫁に言って仕立屋に案内させようかね」
にこにこと話を聞いていたリーエさんがそう話をまとめたのじゃ。正直ありがたい申し出なのじゃ。
「むしろこちらからお願いしたいのじゃ。わらわもその、着た切り雀じゃからの」
「あー、確かにハーブとか色々詰め込んでるから服なさそう」
背負い袋から出してきた、と言う設定でハーブやらジャムやらと出してきておるからの。少し考えてセーブした方がよいかも知れぬのじゃ。
「本当はヤーガトウムを越えるとき着ておった冬物などもあったのじゃがかさばるゆえ置いてきたのじゃ。<洗浄>があれば着替えはなくともまあ何とかなると思っての」
たまに設定を再確認するのも大事なのじゃ。わらわ自身が結構忘れかけておるからの。おそらくマインキョルトに着けばまた設定を語る機会が多々あるのじゃ。
うむ、リーエさんやモリエもそうだった、と言う顔をしておるのじゃ。
「新しい衣裳を仕立てるのは楽しいゆえ楽しみが増えた程度のことなのじゃ。冒険者としての装備を調えることも楽しみなのじゃ。豚鬼の魔漿石のおかげで懐は温かいしの」
「うん、じゃああたしもミチカに装備を見立てるのを楽しみにしておくね」
笑い飛ばす程度の話、と流してその後は買い物の話で盛り上がったのじゃ。主要街道上の旅は本当に何事もなく進んでいくのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。