旅には別れが付きものなのじゃ
本日二話目です。
よいお年を!
今同道しておる交易商五組の中でゴンゼイキョルトで別れるのは二組、その片方は昨日饗応した老夫婦で、彼らはマインキョルトに向かわずジープラント王国の王都、プランテノキョルトへ向かうのじゃそうな。
もう一組はジーダルたちの雇い主でゴンゼイキョルトに大きな倉庫を持つ商会の大番頭なのじゃ。ゴンゼイキョルトをハブにストールベリ王国の王都、ジープラント王国の王都、貿易港であるマインキョルト、の三つの行き先の交易路を持ち、交易品をゴンゼイキョルトで載せ替えて交易しておる大規模な商会なのじゃ。
で、なのじゃ。その大番頭から料理に関しては揚げ物を所望されたのじゃ。まあ異存はないのじゃ。
ゴンゼイキョルト一歩手前の今日の宿泊地は結構大きな町で牛肉などもあがなえたゆえ気楽な揚げ物三昧と参るのじゃ。
とは言え昨日の焼き干しのダシのように頑張ってみるほどのこともないゆえ、簡単に行くのじゃ。
平焼きパンを角切りにして揚げたクルトンと玉葱の素揚げを浮かべた玉葱のスープ。ゆで卵や野菜を牛肉で巻いて揚げた揚げ肉巻き。あとはモリエがメインで作った唐揚げで充分なのじゃ。
商人たちの食事会はそれでよかったのじゃが厨房ではアイオリソースが肉にもよく合う、と言う極秘事項がモリエと双子等にバレてしまったのじゃ。重要な情報ゆえ出し惜しみすることに同意が得られたのは幸いじゃったのじゃ。
一応前日酒肴を出しておるのに翌日は無しともいかぬゆえ作るのじゃ。どうせ油もあるしの。と言うことでふと思いつき鶏皮の唐揚げを作ったのじゃ。モリエと双子等でリサーチしたところ喜んでおったゆえ問題なしなのじゃ。
鶏肉に関する好みは地域差が多少あって日本では脂の乗ったジューシーな肉、部位が好まれるのじゃがどちらかと言えばドライなものを好む国や地域も多いのじゃ。
デザートはチュロスなのじゃ。蜂蜜は輸入品の砂糖に比べると庶民でも手に入るものではあるのじゃが、やはり高価な嗜好品なのじゃ。いや、その感覚が薄れて来ておるの、と反省した振りはしつつ砂糖ではなく節約して蜂蜜を使ったハニーチュロスなのじゃ。
美味しいから仕方ないのじゃ。
チュロスを作る上での唯一の難関は絞り袋の口金なのじゃ。これが星形でのうてはチュロスではないのじゃ、おそらく。
今回は収納空間を利用して銅の食器や道具を分解して作った小さい銅の塊を取り出しその銅塊から空間範囲を星形の口金の形状に合わせて取得して切り出す、と言う言葉にすると面倒な行程を経て作ったものなのじゃ。
マインキョルトではこういう小物を作ってもらえる鍛冶屋なぞを見つけたいものじゃな。
チュロスは数日分のおやつとして量産したゆえ隙のない布陣なのじゃ。あ、当然食事もチュロスも好評だったのじゃ。
そうこうするうちに翌日の昼前にはジープラント王国側の国境の城市ゴンゼイキョルトへ到着なのじゃ。メーセルキョーから国境まで三泊、そして国境からここまで三泊。この間の街道の整備、治安、街道沿いの村や町の設備、その全てに二国間の国勢の差が現れておったのじゃ。
ゴンゼイキョルトも国境の田舎街のはずなのじゃがなかなか立派な城市なのじゃ。
交易商たちの鑑札をちょっと確認されただけで入城なのじゃ。メーセルキョーへは城壁に隙間を作って潜り込んだゆえなにげに初合法的な入城じゃの。まあどうでもよいのじゃ。
馬車停めでここでお別れとなる交易商と護衛と挨拶を交わすのじゃ。まだ紹介状をわらわにくれる流行は続いておったらしく王都まで戻る老夫婦の商人からも、この街の商会の番頭さんからも商業組合宛の紹介状をもらったのじゃ。後商人さんたち自身の名刺のような名前が書かれた薄い木の板ももらったのじゃ。
ありがたいのう。
護衛、はジーダルたちともお別れなのじゃな。
「駅馬車に乗るだろうから俺たちの方が先にマインキョルトに戻ってると思うぜ」
「豚鬼襲撃の報告とかで冒険者協会に顔を出さないといけないけど、それでなんか仕事押しつけられたりしなきゃね。ま、どっちにしてもマインキョルトでまた会いましょうね」
ふむ、駅馬車と言うのは大きな城市間を走っておるのかの。便利な国なのじゃ。
しかし、マインキョルトまでの護衛の仕事なぞは受けぬのじゃろうかの。そう思うとそれを見越したかのようにベルゾが注釈を入れてくれたのじゃ。
「ジープラントの国内では主要街道上だとほぼ安全なんで護衛の依頼はほとんどない。あっても若手向けの安い依頼で俺たち向けじゃないんでな」
街道巡回騎兵のおかげじゃの。流石ハイウェイパトロールなのじゃ。なんとか言うハイウェイパトロールの二人組が主役の古いアメリカドラマを父さまと観た記憶があるのじゃ。うむ、どうでもいいのじゃ。
「こっから南部の方の森の近くを通る裏街道みたいなところだと護衛が必要だがな」
ジープラント王国の国内事情も学んでいかねばならぬのじゃ。そう言った面でもオルンたちだけでなくジーダルたちともよい関係を築いていきたいものじゃ、そう言う打算もありつつマインキョルトでの再会を約して一度のお別れなのじゃ。
あ、セイジェさんには賄賂として何本か作り置きのスティックタイプのチュロスをこっそり渡しておくのじゃ。
「ではまたマインキョルトで、の。わらわに面倒をかけられるのを楽しみにしておるがよいのじゃ」
ジーダルのがははと言う笑い声を残して去っていったのじゃ。街道巡回騎兵から連絡は行ってるはずなのじゃがまず冒険者協会に向かったのじゃろう。
普通はこのゴンゼイキョルトで即席の商隊は解散なのじゃが、今回はマインキョルトまでの道すがらわらわの料理にご招待と言う話がまとまっておるゆえエインさん含め三組の商人は明日一番に連れだって立つ約束をしておるのじゃ。
マインキョルトまでの街道は整備された主要街道ゆえ宿場もしっかりしており水を積んでおく必要がないのじゃ。と言うことで水を降ろした部分に積む荷をここゴンゼイキョルトで調達したりするそうなのじゃ。
ちなみにエインさんは既に途中の村で鱒と岩魚の焼き干しを一樽ずつあがなって積んでおるのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。
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