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ジープラント王国の旅路なのじゃ

本日二話目です(2/2)。

実はまだ料理回増量期間は終わっていないのです。


 しかし、大好評にも程があるということなのじゃ。翌朝わらわは商人たちに取り巻かれるわ、一緒に食べたと言う村人の長役たちからハトシの作り方を教えてくれと持ちかけられるわ、面倒至極だったのじゃ。

 商人たちに関しては取り込まれぬよう重々注意すべしとエインさんとジーダルから言われたゆえ、その二人に対応をほとんど丸投げしたのじゃ。

 そう言うエインさん自体が魔法具作成とかで相談に乗るよう言って来ておるのじゃがの。


 村の方はハトシを名物料理にして国境を越えてきた隊商や冒険者の宴会をこの村でするのを定番にしようというなかなかの野望を持っておったのじゃ。

 成功するかどうかは兎も角、村おこしに一役買うことに異存はないゆえエインさんを通して図解付きで書いたルセットを販売してついでに油についてなぞアドバイスをしておいたのじゃ。


 村から相当の食料を買い入れて宴会料理を作ったのじゃが、この様子ならそれは問題なかったということなのじゃろう。商人たちの方も問題なく支払いをしておったようじゃしの。

 ちなみに村や町を巡って日用品などを商う行商人と国外まで出かけていって交易を行う交易商は資本の大きさや商業組合の鑑札などほぼほぼ全てが違うのじゃそうな。これはいまいち分かっておらんようであったオルン等にリーエさんが教えておったのじゃが、わらわも危うく交易商の娘としてあり得ぬ無知を晒すところだったのじゃ。危ないところであったのじゃ、オルンに感謝なのじゃ。


 そう言うわけで交易商は案外お金持ちなのじゃそうなのじゃ。旅に危険はあるのじゃが、それに見合った取引もあるということなのじゃろう。

 今わらわたちが同行しておるような国外との取引を行う交易商は他国の貴族や有力商人との面会もあるゆえ商会の長や大きな権限を持った番頭とのことなのじゃ。ふむ、エインさんもやり手の商人なのじゃな。

 まあそう言う理由で昨日の宴会料理の報酬は思ったより多額のものであったのじゃ。


「どうしてこうなったのじゃ」

 そしてわらわはこの日泊まる町でも厨房に立っておったのじゃ。無論踏み台付きでの。

「あたしはミチカの料理を見れるからうれしいけどね」

「まあわらわも作るのが厭なわけではないのじゃ。何となく釈然とせぬだけなのじゃ」

 お手伝いは当然モリエなのじゃ。そして双子も主に給仕担当で厨房組なのじゃ。

 毎日あんな人数分の調理なぞやってはおられぬ、しかし商人たちが対価は払うゆえ是非と言っておる、と言う間を取って一組ずつ夕食に招くことになったのじゃ。

 毎回ホストのエインさんに一番得があるゆえこうなったのではないかと疑うのじゃが、まあやり手なのは悪いことではないのじゃ。


 ジープラント王国最初の城市ゴンゼイキョルトで別れることになる商人から招待するのじゃが、今日のお客さまはちょっとお年を召した老夫婦なのじゃ。よく交易の旅を続けるものじゃ、と思うのじゃがエインさん夫婦もそのうちこうなるのであろうかの。

 連日の揚げ物では護衛の傭兵やオルンたちはよくとも老夫婦には少しつらかろう。

 うむ、商人を招くとその護衛の食事も出さねばならぬのじゃ。無論オルンたちも食べるのじゃ。面倒なのじゃが已むを得ぬのじゃ。


 この旅に同行する調理人みたいな仕事の良いところはじゃ、その地の食材を他人の金であがなうことが出来ると言う点にあるのじゃ。町に入ってすぐ地元の小さな市場で色々と買い物したのじゃが、嬉しいことに川に近いこの町では鱒と岩魚の焼き干しが売られておったのじゃ。今日の勝利の鍵はこれなのじゃ。


 どうでもよいのじゃが、前世では鱒、トラウトと鮭、サーモンの分類はかなり混線しておったのじゃ。陸封型、つまり海に降りないのが鱒で降海型が鮭と言うのが基本なのじゃが陸封型と思っておった鱒が海に降りたりもしての。この世界ではどうなっておるのじゃろうな。

 とりあえずこの焼き干しの鱒と岩魚は陸封型なのじゃがの。


 そんなどうでもいいことを思いつつ、岩魚の焼き干しで先ずはダシを取ってみる。うむ、悪くないのじゃ。これなら塩を調節して吸い物風スープにしてみてよいかも知れんの。

 となれば麩も欲しいのじゃ。早速小麦粉を布袋に入れて<創水>で水を注ぎ続ける。流れる浮き粉も使い道はあるのじゃが、今回は勿体ないが見送りなのじゃ。

 袋の中に残ったグルテンを蒸して生麩にするのじゃが蒸し器がないのじゃ。考えてみると無尽庵の厨房にもなかった気がするのじゃ。

 モリエに尋ねてみてもあまりピンと来ぬようゆえ、蒸すと言う調理法がここいらでは余り一般的ではないのじゃろう。


 鍋に薄く水を張って沸かし、水に浮かなそうな陶器の器を置き、その上に木の板をおいて丸く形作った生麩の素を置く。あとは鍋の蓋の上に濡れ布巾でも掛けておくのじゃ。

 椀種は山鳥の身を叩いて少しばかりつなぎの小麦粉を混ぜてつくね状のがんを作り、香ばしさを加えるため軽く火で炙る。うむ、面倒ゆえオルンたちや相手方の護衛用のスープはぶつ切りにした山鳥をそのまま煮込めばよいのじゃ。その作業はモリエに頼んで大丈夫なのじゃ。


 市場でだいだいのような果実とニンニクと卵もあがなっておるゆえアイオリソースを作るのじゃ。潰したニンニクと塩と卵黄を混ぜ、混ぜながらひまわり油を加えていく。オリーブオイルの方がよいのじゃがここいらで使うには高級なのじゃ。橙の果汁とあと胡椒をほんのわずか挽き入れる。ちなみに混ぜるのに関しては<回転>を使ったのじゃ。

 アイオリソースはマヨネーズに匹敵する万能調味料なのじゃがマヨネーズほど日持ちせぬのが弱点かのう。まあわらわは自分用途であれば収納空間を使えば問題ないのじゃが。


 ゆで卵と焼き干しを茹でてほぐしたもの、それと茹で野菜にアイオリソースを添えればそれで充分なメインディッシュになるのじゃ。

 しかし、よく食らうオルンや護衛どものことを考えるとまだ足りぬの。麺を打つかえ。焼き干しのだし汁をもう一度使うのも悪くないのじゃ。

 生地を休ませるのは<経時>で短縮し、打ったり切ったりはモリエに概ねやってもらうのじゃ。そしてデザートの準備もしつつ、と行程がだいぶ混線しておるの。反省なのじゃ。


 まず吸い物風スープは焼き干しの二番ダシで別炊きした葉物を一枚木製の椀の底に敷き、山鳥のがんと麩を置いて焼き干しの一番ダシの吸い地を注ぐ。橙の皮を削って吸い口にして完成なのじゃ。

 護衛用は山鳥の身をぶつ切りにしたものと多めの野菜が入ったごった煮風なのじゃ。


 茹でた鱒の焼き干しの身をほぐしたもの、ゆで卵、スープと目先を変えるために塩漬け肉のダシで煮た野菜類を盛り合わせてアイオリソースを添える。卵がある程度高価ゆえ卵黄を使ったソースは贅沢だと思うのじゃ。

 皿に茹で野菜の色味を映えるように盛ったゆえ見栄えも悪くないはずなのじゃ。


 焼き干しのダシ汁と塩漬け肉で野菜を煮た煮汁を混ぜて味を調整し、茹でた麺に注ぐ。少しあっさりしすぎかと思うゆえローストした山鳥の身をスライスしたものを茹で野菜と共に乗せる。替え玉とおかわり用の塩漬け肉で護衛たちを黙らせることも出来るのじゃ。

 料理の名を聞かれたらうどん風パスタでよいかの。以前作ったものより腰があってうどんっぽくなっておるのじゃ。


 これでデザート以外は終わりなのじゃが、商人たちは食後軽く飲んでしゃべるかも知れぬゆえつまみとして炙った焼き干しと生野菜のスティック、そしてアイオリソースを出せるようにしておくのじゃ。


 出来上がった料理を持って行くのは信頼度の差で商人のところへはモリエ、護衛たちへは双子なのじゃ。当然の判断なのじゃ。

 わらわたちも食事をしつつ、デザートも準備しておくのじゃ。何というかなんでこんな忙しいことをしておるのじゃろうかの。


お読みいただきありがとうございました。

明日は大晦日ですね。よい大晦日でありますように。

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