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夢から醒めてもファンタジー世界なのじゃ

本日三回目の更新です(3/3)。

読んで少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


「はっ、なんじゃ夢であったのか。なのじゃ」

 言ってみただけなのじゃ。長くてリアリティに溢れた夢であると言う一縷の望みにかけて目覚めと同時に言ってみたのじゃがやはりわらわがおるのは三千香の部屋の柔らかいベッドの上ではなく、孤児院の一室の木箱の上に寝藁と布が乗っただけの寝床の上なのじゃ。

 この部屋はわらわの部屋というわけではなく、いなくなったマードが使っておった少し上等な部屋なのじゃ。うむ、入り口に扉もなく木箱がベッド代わりじゃがそれでも上等なのじゃ。

 熱を出して倒れたゆえここに寝かされておったのじゃな。


「そう言えばマーリィは女官服の方が似合っておったのじゃ」

 夢の中で見た謎の記憶を忘れてしまわぬよう感想を呟きつつ暗い部屋の中でもぞもぞと動き始める。流石に一日半以上寝てたのじゃからもうごろごろしておきたくはないのじゃ。

 第一わらわは生命の危機に晒されておるらしいからのう、あまりのんびりとは出来ぬのじゃ。その状況で強制的に一日半以上寝込んでおったのじゃが!

 明かりを採るために窓にはまっておる小さなかんぬきを外し、窓、と言うか窓枠の形に枠をつけた木の板を外す。蝶番ちょうつがいが高いのが扉もない理由なのじゃ。

 とは言え神殿の礼拝所や男性聖職者達が暮らしておった司祭館にはガラスはないものの二つに開く普通の窓がついておるゆえ極限まで孤児院の経費が削られておったようなのじゃ。アーネとしてはなんとも思っておらなんだが神殿組織や領主さまなどから助成金が出ておった場合は横領犯がおる気がするのじゃ。まあ今となってはどうでもよいのじゃ。


 窓の外はまだ薄暗く日の出の一つの鐘が街の正神殿の鐘楼塔で鳴らされるちょっと前と言ったところかのう。秋も深まって来ており空気は冷たく感じられるのじゃ。このまま地上げで孤立したまま冬支度ができなければもうそれでジ・エンドなのじゃ。が、確かにおかしい所の多い地上げなのじゃがそれくらいで緊急解放のトリガーが引かれるのじゃろうか。それが問題なのじゃ。


 お行儀よく寝ておった寝床を整え直し、お行儀悪く窓を乗り越えて中庭に出たわらわはとりあえず走り出す。アーネにはなかった習慣なのじゃがわらわとしては走らねば納まりが悪いのじゃ。建物の周りを軽く流しつつ軽くワンツーとシャドーも挟む。ただ走るのではなく体を左右に振ったり後ろ向きに走ったりも取り混ぜながら走るのがわらわの通っていたジムのロードワークのやり方なのじゃ。

 む、無論頭の方は今後の方針を考えておるのじゃ。いかん、薄い穀物粥ばかりの食生活の所為で体力がないのじゃ。嗚呼、おなかが減ったのじゃ。


 一つの鐘が鳴ったのでロードワークを切り上げくりやに行くのじゃ。今なら穀物粥もウェルカムなのじゃ。

 朝餉の準備をしておるマーリィに朝の挨拶と昨日の礼を言ってお手伝い、とは言え相変わらずの薄い穀物粥ゆえ配膳くらいしかすることはないのじゃ。起きてきたラーリたちとも挨拶を交わし倒れたことに関して軽く話をしながら皆で手伝うとあっと言う間に朝食なのじゃ。

 どうでもよいが孤児同士で毎朝「神の恩寵溢れる新たな日の出に感謝を。そして良き日が貴方にありますよう」などと挨拶するのは礼儀過剰な気がするのじゃ。神殿の付属である孤児院ゆえなのか世の中皆似たような感じで挨拶するのか、状況を蹴倒して孤児院をバックレた後にはよく周りを見るべしと脳内メモを書き込む。孤児院を出たにーさんねーさんたちはこう言った面で苦労しておるのじゃろうか。


 そう考えながら食前の祈りをすませ薄い穀物粥を行儀よく食べる孤児たちを見渡す。がっつくほど量がないのもあるのじゃが、この行儀良さもマーリィの謎教育の成果なのじゃ。人数はそう多くない。ラーリが孤児の中の最年長、次の新年で十二歳になるのじゃ。ちなみに立春が新年で年齢は誕生日ではなく年明けで一斉に加算される制度になっておるのじゃ。生まれてから年が明けるまでは年数を数えない風習ゆえ誕生日から年末までは実年齢と社会的な年齢が一致するシステムじゃな。わらわをはじめ孤児らの多くは誕生日を知らぬがの。


 そして十二歳で普通見習いとして働き出すので孤児院を出ていくことになる。なのじゃが本来なら信徒さんたちからの紹介で見習いに就くゆえラーリは職の当てもない状態なのじゃ。本人はダンジョンのあるローケンキョーに行って冒険者見習いになるとか言っておるがのう。

 ラーリの次がわらわと他に男の子が一人十歳で、あとは六歳から九歳までの子らが合わせて六人おって合計九人なのじゃ。本当に小さい子がいなくて不幸中の幸いだったと思うのじゃ。


 食後のお祈りの後、食器の片づけも済ませたら皆でまず清掃。ここら辺も神殿付きの孤児院らしいのじゃ。神殿の礼拝所には閉鎖する旨の木札が打たれておるため出入りが出来ぬがそれ以外はがっつり掃除なのじゃ。マーリィも参加するのじゃが<洗浄>の魔法を使わぬのはこう言った清掃活動も修道的な位置づけゆえなのじゃろう。

 手際よく二つの鐘が鳴る前に清掃完了なのじゃ。


 刻を知らせる鐘は日の出に一つ、正午に四つ、日の入りで七つとなっており、昼の時間を六等分しておる計算なのじゃ。昼夜の時間が釣り合う春分や秋分であれば鐘の間、一刻とも表現されるのじゃ、が約二時間なのじゃが実際には昼の長さで長短が生まれるのじゃ。所謂不定時法なのじゃな。

 ちなみに日没で七つの鐘が鳴らされるのじゃが、その後夜の八つの鐘まで鳴らされることになっておるのじゃ。

 アーネにとっては生まれたときからこのシステムで暮らしておったゆえ当たり前以外ではないのじゃが、わらわは暫く違和感と戦わねばならぬようなのじゃ。


 それは兎も角、本当は二つの鐘で礼拝所で朝の礼拝が行われるのでその前の清めの清掃と言うわけじゃ。

 しかし礼拝も絶えて久しく、清掃が終わると消極的な自由時間となるのじゃ。マーリィは子どもしかいない時間に地上げのチンピラの類が来るのを防ぐため出かけることも出来ず礼拝所の参道横の社務所みたいなところで終日書き物をしておる。こうやってマーリィの時間が拘束され自由に動ける大人がいない時点で詰んでおるのじゃ。


 自由時間といえども皆空腹を抱えておるゆえ走り回ったりする元気があるわけもなく、ぼんやり座っておるもの、石ころをいじっておるもの、絵本を眺めておるものなど子どもが九人もおるとは思えぬ静けさなのじゃ。空腹なのに朝っぱらからロードワークしようとしていた愚か者がおるじゃと? わらわには覚えがないのじゃ。

 脳内で不毛な一人問答をしつつ、礼拝所が閉まった後に泥縄気味に耕した家庭菜園的な中庭の畑を見回る。まだ食料があるうちに耕したのでよかったのじゃ。多分、今だとこれだけ耕す気力体力が皆にないのじゃ。

 無論、中庭の畑程度で十人が食べていくことなぞ出来ぬのじゃが、マーリィを含めて誰も農業なぞしたことがないので実ったらよいのう、程度の……

 お、おおぅ、この南瓜かぼちゃっぽい奴、えーっとここではケータとか呼んでおったな。これはもう食べれるのではないかのう。台所で見たことがあるサイズまで育っておるのじゃ!

「のじゃ?」

「うひゃ!」

 一番年下のミニアがいつの間にかわらわの横に来ておった。興味深そうに南瓜を見ておったが小首を傾げてわらわの方を見る。可愛らしいが六歳にしては痩せ過ぎなのじゃ。

「ひゃ?」

「う、うん。このケータはもう食べれそうじゃない? マーリィに収穫していいか訊いてきてくれないかな」

「うん、わかったー」

 ミニアがとてとてと小走りで社務所の方へ向かう。体力の節約が出来ておるのじゃ。

 うっかり口から漏れていたらしい『のじゃ』のことは忘れて欲しいものじゃな。


 この南瓜、ケータか、これは夕方から煮込んで晩ご飯はケータ入りの穀物粥になるって寸法じゃのう。うーむ、つまりわらわはこの南瓜を食べることなくバックレることになるのじゃな。

 がっかりなのじゃ。


 無論一人だけポイッと安全地帯にバックレる気なぞないのじゃ。地上げ関係は平和裡に解決する方法が今のわらわにはないのじゃが、ゆえに土台から思いっきりひっくり返して行くのじゃ。


 じゃから、南瓜を収穫したら気が進まぬがラーリと話をして協力してもらうとするのじゃ。

 ああ食べたかったのじゃ、と南瓜をポンポン叩きながらわらわはそう決めたのじゃ。



読んでいただきありがとうございます。

土日は書きため分を増やせればその分投稿しようかとも思っております。

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