踏み台は大切な調理回なのじゃ
こんにちは。
寒いですねえ。皆さまお風邪なぞ召しませぬようお気をつけ下さい。
本日も二話更新予定です。
こちらは一話目(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
さて、調理と行くかの。
厨房に入ったら先ずは一番大事なものなのじゃ。
「そこの木箱を持ってくるのじゃ」
モリエが持ってきた空の木箱をぽんぽんと叩いて強度を確かめる。うむ、よいのじゃ。
「その箱はなに?」
「踏み台なのじゃ!」
極めて重要なのじゃ。動き回るときは<念動>で持って歩くほどにの。
ちなみに無尽庵の厨房は貴族の屋敷のものを流用しておるのじゃが、床はしっかり調整してあるのじゃ。
宴会自体はもう中途ゆえ手間のかかるものをしておる暇はないのじゃ。<着火>と<微風>でいい具合に火を熾して油を熱する。熱くなるまでに他の準備を済ませるのじゃ。
この油は大豆の油なのじゃ。多少癖はあるのじゃが、ここいらでは一番安い植物油なのじゃ。贅沢は言うまいの。
運よく鶏肉は譲ってもらえておるので唐揚げにでもするのじゃ。先ず鶏肉を最良の状態に持って行くため<経時>。ぶつ切りにした鶏肉に塩と砕いたハーブを擦り込み<経時>、手羽や切り分けた軟骨などは調理用に持ち出した葡萄酒と潰したニンニク、乾燥ハーブなぞを入れて作ったつけ汁に漬け込んで<経時>。<経時>祭りなのじゃ。祭りの後は小麦粉を揚げ粉に使って揚げていくだけなのじゃ。
もう少しスパイスの種類があれば揚げ粉の方に味を付けたフライドチキンなどもよいのじゃがの。
<経時>祭りで下拵えは高速で済んでいくゆえ鶏の準備は油が温まる前に出来たのじゃ。さっと塩漬け肉も調理するとするのじゃ。これも<経時>を使って塩抜きをして、余分な水分も拭き取り薄切りにする。小麦粉にエールを貰って少し雑に混ぜる。これは混ぜすぎてはならぬのじゃ。あと冷却する魔法が欲しいのじゃが、<加熱>から研究して作れぬかのう。
薄切りにした塩漬け肉に衣をつけてフリッターにしようという算段なのじゃ。ベーキングパウダーがあればふっくっらした衣になるのじゃが無い物は仕様がないゆえ代わりにエールを使っておるのじゃ。
大量の塩漬け肉に衣をつけた終わった後の衣生地に塩を足し、そう塩漬け肉は自身の塩味が強いゆえ混ぜておらんかったのじゃ、揚げれそうな野菜にも衣をつける。天ぷら風なのじゃ。天ぷらと言い切るにはもうちょっと、なのじゃ。
油はある程度不純物が混じっておるようでバチバチ言うておったがもう良さそうじゃの。
あとは揚げて揚げて揚げまくりなのじゃ!
「ほう、本当に中央風なんだな」
菜箸で二度揚げした唐揚げをひょいひょい取り分けておったら厨房を覗いておるジーダルがそんなことを言ってきおった。キッチンペーパーがないことに気づいたのじゃが、金属の粗い目のザルがあったゆえ油落としに使わせて貰っておるのじゃ。
「ん、なにがなのじゃ?」
「その二本の棒はハジとか言う中央のカトラリーだろ。器用なもんだ」
おおう、なにも考えずに自作の菜箸を使っておったのじゃ。箸を広めておったらしい転生か転移の先駆者に感謝なのじゃ。
箸を使う文化圏が元からある可能性もあるのじゃが、中央に普及しておるのは転生者か転移者の仕業であろうの。
取り敢えずまだ全部は揚がっておらんのじゃが提供開始なのじゃ。
「サーデ、マーセ、厨房を覗いておるその大男を食堂に追い返して、つまみ食いしおえたらこの皿を持って行ってやるのじゃ」
揚げるのにあまり向いてなさそうな葉物を敷いた大皿に鶏の唐揚げ二種と塩漬け肉のフリッター、山菜の天ぷら風と盛り合わせる。そしてそれよりは少な目に盛った皿も作るのじゃ。
「モリエもつまみ食いののち、こっちの皿をエインさんたちに持って行ってくれんかの。リーエさんもわらわの料理を、とか言うておったゆえの。あと、商人たちも飲み会をしておったら食材を提供すれば作り足すと言ってもよいのじゃ」
「つまみ食い前提なのかよ」
「揚げたてが一番旨いゆえの」
「じゃあ俺も」
「其方は大人しく食堂で食らうとよいのじゃ」
犬のように厨房の入り口をうろうろしておったジーダルも双子と一緒に食堂へ行ったのじゃ。よし、ではわらわもっ。
「あふあふ」
熱いのじゃ。しかし美味しいのじゃ。つまみ食い、いやさもう提供した後ではあるのじゃが味見なのじゃ。
レモンの類はなかったゆえレモンかける論争は出来ぬのじゃが、満足なのじゃ。あえて言えばつけ汁を作るのに醤油が欲しかったぐらいかの。
いやほんとに醤油は欲しいのじゃ。
欲しいと言えばしめじとか椎茸があれば天ぷら風にしたいのう。未だに食用の茸は乾物のモルケッラしか見たことないのじゃ。
無い物を考えてもしようがないのじゃ。そんなことよりまだまだ揚げるのじゃ!
お読みいただきありがとうございました。