ジープラント王国に入ったのじゃ
ようこそいらっしゃいませ。
今日も二話更新予定です。
こちらは一話目です(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
少しでも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
「そろそろ明るくなってきたな。魔漿石取りやらの後始末はもうちょいかかるからミチカはもう少し寝ておけ」
「うん、やっぱりまだ顔色悪いわよー」
「あとで俺の師匠の薬湯も持ってきてやろう」
三人組はそう言いながら立ち上がる。魔術の師匠は薬湯を売りつける風習でもあるのじゃろうか。
「大人しく寝ておくゆえ、薬湯は遠慮するのじゃ」
ジーダルは笑いながら去っていったのじゃ。ジーダルがなにやらメイゼルキョルトに早馬を出すとかいろいろ指示を出しておるのをうとうとしつつ聞いておるうちにわらわはまた眠りに落ちたのじゃ。
ん、目覚めると見えるのはまた空なのじゃ。今度は青空なのじゃ。ガタガタする揺れから見て誰かが馬車に乗せてくれたようなのじゃ。
「おはようなのじゃ。まあもう昼のようじゃが」
「あは、そうだね。おはよう」
馬車のメンバーはいつも通りリーエさんとオルン、モリエの兄妹なのじゃ。
朝いつ出発したのかは分からぬがそう経ってはおるまい。伸びをしつつ軽く状況を尋ねるのじゃ。
「もうすぐジープラント王国の国内に入るから道がよくなるわよ」
そう告げるリーエさんにモリエも頷く。わらわ以外は自国に戻ると言うことゆえ安心感が出ておるのじゃ。
「護衛は油断しちゃいけないけど、街道の危険度も全然違う」
「ほう、そこまで変わるのかえ」
「中央の道を知ってるミチカちゃんは驚かないかもだけど、ストールベリ王国から来た人はだいたい驚くわね」
「あたしたちは今回初めてジープラントから出て逆の意味で驚いたよ」
苦笑気味のモリエに御者をしてオルンも同意する。まあ、設定上とは異なり実際はストールベリ王国の道しか知らぬゆえボロを出さぬようにせねばの。
少し経つと道の先に小さめの砦のようなものが見えてきたのじゃ。戦争状態でもなければあまり国境の関なぞ設けぬものなのじゃ。土地があるならば今通ってきたストールベリ王国のように無人の地域にしておる位なのじゃ。
代わりに城市で入城税を取ったり人別改めを行ったりするゆえ関を必要とせぬ、と言うわけなのじゃが。
「あれは街道巡回騎兵の砦だよ」
不審に思っておるわらわにモリエが教えてくれる。王国が街道の治安維持のために騎兵隊を配しておるというのじゃ。それはストールベリ王国とは全く違って当たり前なのじゃ。
しかも、このハイウェイパトロール制度は有事にはそのまま騎兵隊として軍の兵力に数えることが出来るのじゃろう。国の規模も違うのじゃが、ストールベリ王国に比べて圧倒的強国感があるのじゃ。
「商業組合が街道巡回騎兵の運営経費を一部割り当てられているから組合費はちょっと高めなのよ」
リーエさんがそう教えてくれる。まあそれも納得なのじゃ。
馬車の車列は砦のそばに止まる。普通はそのまま通り過ぎるそうなのじゃが、今回は豚鬼の襲撃について報告をするそうなのじゃ。当然じゃな。
こうしてわらわはジープラント王国に足を踏み入れたのじゃ。馬車の上ゆえ本当には踏んではおらぬがの。
「確かに驚きなのじゃ。国境なぞという国の果ての道まで舗装されておるとはの」
そう、石葺なのじゃ。馬車の揺れも違いがあるというものじゃ。と言うかじゃの、この馬車にはきちんと板バネが入っておったのじゃ。これまで実感されておらなかったのじゃが。
「しかもおそらく帝国式街道じゃな。よい道なのじゃ」
帝国式街道は有り体に言えばローマ街道の作りなのじゃ。これもわらわが転生者か転移者であったのじゃろうと思っておる帝国創始者由来の技術なのじゃ。無論、同じような技術が自然発生することもあり得るのじゃがまあ間違いはないのじゃ。本物のローマ人に比べて根性なしであったのか帝国時代に敷設された帝国街道は中央から西方域にかけてのみで北方諸国群には敷設されておらぬのじゃがの。
リーエさんやモリエは道を褒めるわらわに自慢そうな顔をしておるのじゃ。帝国の遺産ではなくジープラント王国は自力でこの街道を敷設したと言うことを考えればそれは褒めて当然、自慢して当然ゆえどや顔ぐらい許すのじゃ。
「街道沿いには宿のある村があるから今日からは野宿じゃなくて寝台で寝れるわよ」
「それはうれしいのじゃ」
「でも宿だとミチカの料理が食べれないから少し寂しい」
モリエがかわいいことを言っておるのじゃ。
「それはわたしも残念だわ。宿の厨房が借りられるところがあったらミチカちゃんにお願いしたいわね」
「その時はわらわも焚き火で出来る料理ではなく厨房で作る料理を出すのじゃ」
リーエさんの無茶ぶりに取り敢えず応えておくのじゃ。実際にやることがあるのかどうかは知らぬがの。
「ただのう、わらわはジープラント王国の料理を楽しみにしておるのじゃ。食べ物もまた国や街で変わるものじゃからの」
うむ、楽しみなのじゃ。街道沿いの宿に期待をしすぎてはならぬが、港町であるマインキョルトはホントに楽しみなのじゃ。
こうしてわらわのジープラント王国の旅は始まったのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。