戦い済んで日は明けて、なのじゃ
ご機嫌よう。
本日更新二話目です(2/2)。
よく見知らぬ天井、と言うのじゃがそんなに天井のことを気にかけたことはないのじゃ。リングであればぶっ倒れると天井というよりライトが目に沁みたものじゃがの。
そのどちらもないのじゃ。空じゃの。星空がゆっくり青く染められていく夜明け前の空なのじゃ。
「あ、ミチカおきたー?」
「気がついたー? ミチカちゃんー」
ああ、また魔力枯渇でぶっ倒れたのじゃったの。焚き火のそばに寝かせてくれておったようなのじゃ。それでも身体の奥が寒い気がするのは魔力がまだ充分に戻っておらぬゆえであろうの。それとだるいのじゃ。
双子の他にエインさん夫婦も火のそばにおって、わらわに声をかけてくる。興奮する双子らを抑えつつ謝意を伝えて起き上がり、座り直しておるとジーダル等三人組がこちらにやってくるのが見えたのじゃ。双子の声でわらわが目覚めたのを知ったのじゃろう。
「おう、起きたか。ちっとばかりダメージを入れてくれりゃ後はこっちがやったのに頑張りすぎだぜ。いいところ全部持って行きやがって」
「助かりましたけど、小さいのに無理をしすぎですよ」
ジーダルたちはエインさんたちに軽く会釈をして火の前に座る。上機嫌なのじゃ。
「ええ、無茶すぎです。魔力枯渇で倒れるなんて」
他の焚き火の前でなにやら作業をしておったガントが木のマグカップを持ってきながらそう言い、わらわにそのマグを差し出す。
「これは私の師匠が調合した魔力回復に効果があると言い張っている薬湯です。多分効果はあるはずです。飲んでください」
マグの中にはどろっとした緑色の液体が入っておるのじゃ。
「なにやらイヤな匂いがするのじゃ。それに多分とは」
ガントはいい笑顔なのじゃ。拒否できる気がせぬのじゃ。
「結構な値段で師匠から売りつけられたので多分とは言え効くはずです。あと匂いだけでなく味も酷いですよ」
周りも飲め、と言う雰囲気を出しておるゆえ意を決して口を付けてみるとじゃ、青汁とドクダミ茶をブレンドして煮詰めたものにほんのちょっと甘草が混じったような異様な味なのじゃ。水、口直しの水をよこすのじゃ。
「別の意味でぶっ倒れそうな味なのじゃ。不本意じゃが礼は言うのじゃ」
きっと効果はあるはずなのじゃ。こんなものを飲まされて効果がないなぞ許されることではないゆえの。
ガントはわらわの頭の上にポンと軽く手を置き、マグを持って立ち上がる。
「それじゃ私はオルンたちの手伝いに行ってきますね」
そう言いおいて双子を連れて行ったのじゃ。
オルンたちはなにをしておるのじゃろ、と言う疑問にはジーダルたちが答えてくれたのじゃ。
「ミチカがカピタンを倒したあと、逃げ出した豚鬼どもを追いかけるのは程々でやめさせた」
「森の奥から別の魔物が出てきても困るからねー」
確かに追撃戦は程々で切り上げて正解じゃな。
「けどー、ミチカがかけてくれた魔法の効果はまだ残っててみんな元気だから死体から魔漿石を取り出してるわ」
「あんだけの数だから一仕事だぜ」
そう言うとふっと笑い、ジーダルはいきなりわらわの頭をグシャグシャと撫でた。デリカシーのない撫で方なのじゃ。
「平地でぶつかってりゃ、俺たち三人がカピタンを倒すしか道はなかったけどよ。俺たちは何とかなっただろうが他の連中の半分は雑魚の波に飲まれて死んでただろうさ」
「みんな大した怪我もせず魔漿石取りとかしてられるのは全部ミチカのおかげよ。ありがとう」
ジーダルたち三人、ベルゾはニコニコしながら一緒におるだけなのじゃが、が上機嫌であったのは誰も被害が出なかったゆえか。ふむ、それはわらわも上機嫌になるのじゃ。
「ここらへんは面倒なことになるかもな」
「楽しそうな顔をしてるけどマインキョルトに帰るんですからね」
自分がニヤニヤしておることに気づいたのか渋い顔をするジーダルにセイジェがツッコミを入れる。
「面倒かえ?」
「カピタンなんてのもここいらじゃそう滅多に見やしねぇが、再生持ちの特異個体なんてのは普通あり得ねえ」
魔物に関する知識にはそう詳しくないのじゃ。マーリィも魔物学の講義にはそんなに力を入れておらんかったゆえの。ラーリたち男子の受けはよい講義であったのじゃが。
「森の中にダンジョンが発生して、そこから漏れて来た可能性が高けえ。特異個体だけじゃなく数も流石に多過ぎだ」
「メイゼルキョルトの冒険者協会は調査で大わらわになるでしょうけど、ダンジョンに潜るのはもうしばらくいいやって言って帰ってる途中だからね。調査に参加したいなら一人で行ってよね」
ダンジョン遠征の帰り道で更にダンジョン調査に参加したがっておるのか。元気なものじゃ。
「ダンジョンと言うだけでそこそこ有用ですが、有用すぎると争いの火種になるでしょうな」
エインさんが頷く。ああ、なるほどなのじゃ。面倒とは国境そば過ぎて領有権争いが起きることなのじゃな。
ダンジョンの有用性とはまず魔漿石なのじゃ。この魔漿石の存在が冒険者という胡散臭い職業を成立させておると言って間違いないじゃろう。
魔物から採れる魔漿石は謂わば魔法具の燃料なのじゃ。ゆえに需要が尽きることはあらぬのじゃ。ただ、クズ魔漿石しか採れぬ弱い魔物しか湧かぬダンジョンでは有用性が少し下がるし、逆に強すぎて採るのに苦労するダンジョンも効率性が下がるのじゃ。
ダンジョンが発生するのは高い魔力の影響とされておるのじゃ。ゆえにダンジョンの近く、あるいは内部で魔鉄や魔銀のような魔力鉱の鉱脈が見つかったり魔力が多い土地でしか採れぬ稀少な植物の植生が見れたりするのじゃ。これらが魔漿石以外のダンジョンの有用性じゃの。
「しかし、ちゃんと管理してもらわなきゃ危なっかしくてこの街道を使えやしねぇぜ」
「それは全くその通りなのじゃ」
ジーダルの見立てではわらわがおらねば護衛の半分が死んでおったと言うのじゃ。そんな規模の襲撃が毎回あるような街道は交易路として使えるはずもあらぬのじゃ。
ダンジョンから魔物が溢れぬように中に入って間引く冒険者という職業は中々に重要なものなのじゃな。その冒険者を誘致するにもダンジョンの有用性を活かすにもこの野営地あたりを中心に村か町か、あるいは小さい城市を築き拠点とすることになるのじゃろう。
その帰属がストールベリ王国になるかジープラント王国になるか。まあわらわがかかわり合いになることも無かろうなのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。
戦闘パートがあっさり終わってさびしいです。