ボス戦なのじゃ
こんにちは。
今日も二話更新予定です。
こちらは一話目(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
少しでも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
ジーダルたちはようやっとるのじゃ。
豚鬼大尉は体高二メートルに及ぶ巨躯であるゆえ壕と土壁の効果もあまりないのじゃ。見る間にも巨体に裏付けされた怪力で振り回される棍棒が土壁に打ち込まれ土が崩れる。しかし、ジーダルとセイジェは冷静に出来し、カピタンに出血を強いておる。
棍棒が振り下ろされれば確実にその分下がって回避し、棍棒を打ち下ろして体勢が崩れたところへ走り寄って斬撃を加えるのじゃ。そしてカピタンが斜面を登ろうとすれば攻撃できぬ間隙を逃さず体重を乗せた重い攻撃で壕へと叩き返しておるのじゃ。
まさに確実、と言うべき安定した戦い方なのじゃ。
流石は一流の冒険者かのう、と言うところなのじゃがカピタンの棍棒は一撃で情勢をひっくり返しうる威力を持っておるゆえ緊張感があるのじゃ。
いや、違和感があるのじゃ。魔力切れでふらふらしておった所為で頭の巡りもよくなかったのじゃ。
うっかり、周りの雑魚を片づけてカピタンを囲むと言う方針かと思っておったのじゃがそんな訳ないのじゃ。指揮個体が討ち取られると率いられておった集団の士気は下がり、戦況によってはそのまま敗走に移るのじゃ。
ゆえにカピタンを早急に討ち取るつもりでジーダルとセイジェが掛かって、そして予定と違ってそれを果たせておらぬのじゃ。
「再生持ちかえ!」
違和感を確かめるためによく見ておったら、傷が塞がっていっておるのじゃ。再生能力を持った特異個体と言う奴なのじゃ。傷が塞がっても体力を少しずつ削られておることには変わりないゆえそのうちジーダルたちが勝つのじゃ。<賦活>がかかっておるからの。
無論、それまでに一切被弾せぬことが条件になるのじゃが。
「おう、ミチカ。お目覚めか」
「あら、おはようねえ」
思わず声を上げたわらわに振り返りもせず声をかけてきおった。しかし言葉少な目なのじゃ。
そうしつつも棍棒を振り下ろしたカピタンの右腕にそれぞれ斬撃を送り込む。棍棒を落とさせようとしておるのじゃな。流石に歴戦なのじゃ。
「一発程度なら攻撃魔法を撃てるのじゃ。但し火ではないのじゃ」
火は再生封じに使えるのじゃ。最初から特異な個体と分かっておったら色々準備をしておったのじゃろうが言うても詮無きことなのじゃ。
「頼まあ!」
正面の土壁がほぼ崩され、素で斬り結んでおるジーダルは返答は簡潔なのじゃ。ベルゾなりの援軍を呼んだり周りに指示を飛ばしたりする余裕がないまま戦っておったようじゃな。
「我は請願す 天空の女王
我請うは 天地の法を司る御身の裁定
我願うは 雷霆を携えし御使いの裁き
法を乱せし魔性を討つ 御身が御稜威を示し給え」
この<雷弾>の祭文を作り出すにはかなり骨が折れたのじゃ。魔法陣に他の祈祷と共有される部分が少なかったゆえの。威力が必要な場面ゆえこれも短縮発動ではなくきちんと祈祷したのじゃ。しかし、これでも不安ゆえ発射待ちの雷弾に追加で魔力を注ぎ込む。
「行けるのじゃ!」
「応!」
「たのむわー」
わらわの合図に合わせてジーダルとセイジェはぱっと後ろに飛び退る。
雷弾に魔力を注ぎ込みすぎてちょっとやばいのじゃが、外しはせぬ。更にインチキで威力アップなのじゃ!
「<雷弾>! 二連射なのじゃ!」
収納空間から雷弾を一つ展開し、二発まとめて豚鬼大尉にお見舞いするのじゃ!
魔力で出来た魔法陣が収納空間に入ったことに着想を得て、一人旅の間に雷弾や<光明>の光球を収納し魔力消費で複製しておいたのじゃ。発射した雷弾を対象として捕まえて取得し収納するのには結構苦労したのじゃが、その苦労もここで役立つのじゃ。
雷弾の取得に成功したのちに出納口を展開してそこに撃ち込めばよかったのじゃと気づいたのじゃが、まあそういうこともある、という部分も含めて苦労なのじゃ。
二人が退いたことで壕から這い上がって来たカピタンの豚面に雷光きらめく二つの雷弾が光の尾を引いて命中するのをちゃんと見届けたのじゃが、わらわの意識もそのまま遠ざかって行くのじゃ。この感覚には覚えがあるのじゃ。魔力枯渇、そう雷弾の威力強化に魔力を注ぎ込み過ぎたようじゃの。
不覚なのじゃ。
ダブルノックアウトでは締まらぬのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。