開戦なのじゃ
いらっしゃいませ。
こちらは本日更新二話目です(2/2)。
小鬼の金切り声は空壕に落ちた悲鳴だったようなのじゃ。夜目がある程度利くからこその夜襲なのじゃろうが日中と変わらぬ、とまでは行かぬようじゃの。
まあ見えておっても小鬼どもは豚鬼から弾除けがわりに押し出されておる立場ゆえ大して変わりはせぬか。
わらわは座って目を瞑ったまま音から戦況をみておるのじゃ。
ボクサーは一分間のインターバルでコンディションを整えるものなのじゃ! と思っておったが無理なのじゃ。ちゃんと動かぬ自分の身体に過剰な焦りが溜まるのを軽減するため戦況分析なぞをして気を散らしておるのじゃ。
このラウンドはアウトからロングジャブを打って判定を守りつつ体力回復に努めるラウンドなのじゃ。そう考えるのじゃ。
小鬼の悲鳴は登ってきたところを切り倒されるものだけでなく壕の底で後続に踏みつぶされるものも混じっておるようなのじゃ。
あっという間に死体で埋まると良くないのう。少し浅すぎたかえ。
壕の深さは一メートル半程度で土壁と併せて二メートル半を少し越える程度の高低差があるのじゃ。土の斜面ゆえ登れなくないのじゃが、登れるという希望が奴らの行動を絞るのじゃ。
が、死体で高低差が埋まりすぎるとそれが本物の希望になりかねない危険性があるのじゃ。
「すげー、小鬼っつてもこんだけ殴り倒したらいつもなら息が上がるのに全然平気だ!」
うむ、<賦活>はすごいのじゃ。こちらの手が回る範囲で攻めてくる限り早々崩れはすまい。疲労しない守勢なぞ攻め手にとっては悪夢以外のないものでも無かろう。
問題は相手が陣を左右に広げて包み込んで来たとき手が足らぬようになる可能性があることじゃの。
「小鬼どもが尽きたようだ。主力が突っ込んでくるぞ!」
考えすぎじゃったか。真っ直ぐ突っ込んでくるようなのじゃ。
「先頭がおそらく豚鬼大尉だ。俺とセイジェでカピタンを相手取る! 魔術師と弓使いは豚鬼軍曹を優先的に狙え!」
ジーダルの指示が飛ぶ。指揮個体が真っ先に突っ込んでくるのかえ。率先垂範とは愚物に過ぎるのじゃ、所詮豚鬼なのじゃな。
いや、正面突破しか考えぬのであれば最強の戦車である己を先頭にするのが正しいとも言えるのじゃな。指揮個体とは名ばかりと言うことになるがの。
「いいかい三千香ちゃん。指揮官の仕事は指揮を執ること、指揮を執り続けることなんだ」
「指揮を放り出すことは許されぬと言うことなのじゃな」
「そうだね。指揮官が死んでしまうのは無責任なことなんだ。勝手に死なれると迷惑だからね」
「わかったのじゃ」
わらわはなにを想定して分かったと言ったのであろうかの。率先垂範を批判する父さまの話をふんふんと聞き流しておっただけなのじゃろうがの。
自分の魔力の流れに意識を集中しておるつもりが父さまとの会話を思い出しておったのじゃ。ふむ、悪くない気分なのじゃ。
身体の動きはまだ重いのじゃが、なんとか立ち上がれるのじゃ。魔力は攻撃魔法、<雷弾>しか攻撃魔法は知らぬのじゃが、一発は撃てるじゃろう。
取り敢えず音だけではなく目で戦況を確認なのじゃ。
目立つのは豚鬼大尉とそれを相手取るジーダルとセイジェなのじゃが、気になる双子等から確認なのじゃ。オルンはわらわの近くで迎撃しておるゆえ既に確認済みなのじゃ。
皆、登ってくる豚鬼を剣で斬りつけたり槍で突いたりして壕に叩き返しておる。余裕があれば落ちた豚鬼に石なぞを投げつけておるようじゃが、大抵は余裕なぞなくどんどん登ってこようとして来る豚鬼を押し戻すのに必死なのじゃ。しかし、<賦活>のおかげか破綻しそうな場所はないのじゃ。
双子等もその中で堅実にやっておる。動き回って連係攻撃をするのが本来のスタイルなのじゃろうが、土壁に張り付いて短槍を振るっておるのじゃ。槍は登ってきた豚鬼を突き戻すのも登ろうとする途中の豚鬼を突くのにもよい、今の状況にあった武器じゃの。
傭兵は槍を持っておるが冒険者は槍が少ないのじゃ、ダンジョンのような閉所に入ると取り回しが難しいゆえと道中ガントが世間話で言っておったのじゃ。
少し安心して全体を見回す。まだ<猫目>の効果が残っておるゆえよく見えるのじゃ。敵の後方もよく確認したのじゃが予備隊なぞはおらぬようで戦力集中で正面突破、以外の考えはなさそうなのじゃ。
一応、豚鬼大尉がこちらの戦力を正面に拘束して予備隊が後ろから回ってくる可能性も考えたのじゃがやはり考えすぎじゃったのじゃ。
腹いせに収納空間に収納して間引くのじゃ。他の者に気づかれぬよう気をつけつつ、となると後詰めから減らすだけになるのじゃがまあよいのじゃ。ざっと十数体収納したのじゃ。
双子等の割り当て範囲を中心に間引いたゆえ雑魚戦はまあこれでよかろうなのじゃ。
お読みいただきありがとう御座いました。
#オークなどの呼称は本来各地方のものがあったのですが冒険者が協会の資料準拠の呼び方をするため画一化されています。協会の立ち上げに尽力したのは転生者疑惑の古代帝国の建国者となっております。