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開戦準備なのじゃ

こんにちは。

今日も二話更新予定です。

こちらは一話目(1/2)。

二話目は21時更新予定です。


「<遠声>そして<微風>」

 生活魔法の<遠声>と<微風>を素早く発動する。この組み合わせで大声に指向性を持たせることができるのじゃ。音の伝達についての理解が必要な魔法操作ではあるのじゃが。

「緊急連絡なのじゃ! 小鬼ゴブリン豚鬼オークの混成集団を確認。森の外辺部にて待機中。後続との合流中と思われる。各員起床、戦闘準備をして隊列中央に集合を願うのじゃ!」

 あ、そうなのじゃ。

「この声は魔法によってこちら側だけに大きく聞こえておるゆえ豚鬼オークどもの方にはあまり届いておらぬ。ゆえに集合も静音を維持で頼むのじゃ」


「また便利な魔法だな、嬢ちゃん」

「本来は大声なだけの魔法なのじゃ。声の方向を変化させるのはわらわであってこその技なのじゃ」

 一番に駆けてきたジーダルに胸を張ったのじゃ。ジーダルは夜の前半の夜番に就いておったはずなのじゃが、自主的な不寝番でもしておったのかのう。御苦労なことなのじゃ。


 森の端の影は順調に増えておるのじゃ。もう、そう苦労せずに判別がつくゆえ護衛の冒険者たちの息を飲む音なぞが聞こえるのじゃ。

「確かに沢山いやがるし、散発的に突っ込んで来ねえで森の端で集まるってのはあれよ」

「指揮個体がおるのじゃろうな」

「一応確認を取るが、今急いで馬車を捨てて馬に乗れば、乗った奴の半分くらい生き残るぜ。夜中の森のそばで出逢う別口の魔物次第だがな」

 確認を取るのは商人たちへじゃな。

「馬は準備しますが簡単に荷は捨てれませんな」

 年嵩の商人がニヤリと笑いながらそう言う。交易商のリーダー格なのじゃろう。他の商人たちも硬い表情で頷いたのじゃ。

「命あっての物種さ。どうしようもなくなる二手ぐらい前には合図をすらあ」

 商人たちへの意思確認を終えたジーダルが護衛たちを見渡すが、わらわの仕事が先じゃな。


「わらわの前方へ出るのではないぞ。巻き込んだらどうなるのかわらわは知らぬのじゃ」

 わらわは野営地の森の側に踏み出し、祈祷を始めたのじゃ。作戦の説明だか訓辞だかしようとしておったジーダルが何か言っておるが無視なのじゃ。

「大地の朋輩ほうばい朋類ほうるい

我は地にありて地に祈り地の恩寵を願うもの

地を穿つ兄神の加護を求め祈り

地を築く妹神に祝福を希い祀る

大地の神々に祈りを奉じ請願す

穿ち築く双神の権能ちからの一塊を貸し与え給え

<地回操循>」

 必要な魔力量を考えると効率の悪い短縮発動ではなくちゃんとした祈祷を行うべきなのじゃ。<地回操循>を使うのはなにげに魔法陣の描画力が向上してからは初なのじゃがこういう大物こそ数パーセントの効率化でも効果が大きいのじゃな。無尽庵建設時に比べてかなり楽に発動できておるのじゃ。


 魔力を使い切るわけにも行かぬが必要とされる範囲も広いのじゃ。簡単な形を選び、上から見れば野営地の前面に弧状になるようかなり長く三角に掘った空壕からぼりを延ばす。流石に野営地を完全に囲むと魔力が厳しいのじゃ。

 そしてごうのこちら側には掘った分の土を盛り上げ高さ一メートルを少し越える程度の土壁を築く。低く思えるかも知れぬのじゃが、屈めば身を隠せ立てば剣や槍を振るうに支障のない高さなのじゃ。

 簡単な構造と工程で魔力の消費はある程度抑えたのじゃが掘ったり盛ったりした単純な土の体積は無尽庵に比べて三倍近くはあったのじゃ。しかしぶっ倒れることなく終えれたことに己の成長を感じるのじゃ。自画自賛なのじゃ。


 とは言え魔力をかなり消耗して少しだるいのじゃ。振り向くと冒険者たちの多くがあんぐり口を開いておるのじゃ。うむ、やりすぎたかの。しかし自重はせぬのじゃ。

 真に自重せぬ場合は収納空間にどんどん収納していくことになるのじゃが、うまく社会に溶け込む形を模索して交易商の馬車に同乗させて貰ったあたりからの努力が水の泡なのじゃ。

 それでもエインさん夫婦、オルンたち五人やジーダルたちと言った知り合いになってしまった人らを守るためなら収納空間を使うのも已む無しと思っておるのじゃが、出来るならばそれは避けたいところなのじゃ。

 その結論が魔法を使うことには自重せぬ、と言う方針なのじゃ。


「ありがてぇ、大分楽になったぜ」

「野営地を囲むほどには出来なんだのじゃ。端から回られると意味はないゆえ気をつけるのじゃ」

 堂々とした態度のジーダルに注意事項の伝達なのじゃ。普段より落ち着いた雰囲気なのは他のものの士気を揚げるためなのじゃろう。不安そうにしておる指揮官なぞむしろ害悪じゃからの。

 ジーダルの態度や動きを見ておると元は軍人の類であったのかも知れぬの。戦地を前にして堂々としておるだけでなく生き生きとしておるのじゃ。


「真ん中で火を焚いて迎え撃つさ。指揮個体がいるっつっても所詮は豚鬼オークだ、正面から誘引すればあまり逸れねえ」

 他の護衛たちへの説明を兼ねてジーダルが答える。

「一応遊撃対策でベルゾが左、モリエが右で回り込もうとする奴らを見つけたら弓で対応してくれ。数が多いときは声を出せ」

「応」

「了解ー」

 ベルゾは弓も使えるのか。便利な男なのじゃ。


「モリエ、これを」

「ん、なにー?」

 ふと思い出したゆえすさびに作った射出型<光明>の魔法具を肩掛け鞄から取り出したように見せかけながら収納空間から展開し、モリエに投げ渡したのじゃ。<雷弾>の魔法陣構造から魔法の弾丸を射出する仕組みを抜き出して<光明>に組み込んだ改造魔法陣の実験の産物でこの状況において有用なものなのじゃ。

「棒の、魔漿石が付いておるのと反対側の先端から光の球が飛び出す魔法具なのじゃ。こちら側よりあちら側に光源があった方が良いであろ」

「ありがとー」

「まあ一つしかないのじゃが」

「こっちは最初に光の魔術を矢にかけて打つから大丈夫だ」

 ベルゾはそう応える。流石いろんな工夫があるものなのじゃ。


 準備と確認をしておると小鬼ゴブリン豚鬼オークの雄叫びが響く。確かにまっすぐ突っ込んできそうなのじゃ。指揮個体がおるとはゆうても音を殺して奇襲させることも出来ぬのじゃからの。

「わらわの周りに集まるのじゃ。活力を付与する祈祷をかけるゆえ!」

 わらわは収納空間から取り出した命の魔漿石を手に持ちそう声を上げた。


「強靱なる生命の源 戦い続けるものの守護者

絶えることなく燃えさかる炎よ 命を守り育み給う大地よ

生命の秘力を司る力の神よ その恵みを与え給え

<賦活>」

 <賦活>の祭文は短いのじゃが、生活魔法とは比べものにならぬほどの魔力が魔法陣に奪われるのじゃ。しかし、今回はそれを更に魔力を流し込み魔法陣を拡大する。範囲や対象を拡大する魔法陣の構成要素が存在するのじゃろうと思うのじゃが、知らぬものは仕様がないゆえ力業なのじゃ。

 属性が適した魔漿石があったのはラッキーなのじゃが、それを加えても限界すれすれと言ったところなのじゃ。

 祈祷が光となって皆に降り注ぐ。よし、出来たのじゃ。


「すっごーい! ミチカ、ありがと」

「すっごいねー、ミチカちゃん。がんばるよー」

 双子が抱きついてくる。いやすまぬ、休ませて欲しいのじゃ。

「なんだこれ、力がわいてくるぞ」

「これならやれる!」

 冒険者たちも大騒ぎをしておるのじゃが、あっちも雄叫びをあげておったゆえさっさと働くとよいのじゃ。そう思っておるとジーダルが声を上げる。

「これなら必ず勝てる! だからこの祈祷で調子に乗って無駄に大怪我とか負うんじゃねーぞ。配置に就け!」

 うむうむ。全くなのじゃ。


「わらわは気絶するほどではないのじゃが、魔力切れで身体が動かぬ。しばし座っておくのじゃ」

 わらわは地面にそのまま座り、土壁に寄りかかって目を閉じたのじゃ。

「こんだけ役だってくれたんだ、そのまま寝てても文句はねーさ。オルン! ミチカの休んでいるとこに敵が抜けねーよう気をつけろ」

「了解です!」

 お、ジーダルの呼び方が嬢ちゃんからミチカ、と名前呼びになったのじゃ。そんなことを魔力切れの倦怠感の中思ったのとほぼ同時に、小鬼ゴブリンどもの金切り声が開戦を告げたのじゃ。



お読みいただきありがとう御座いました。


#命の魔漿石は夜の生活用強壮魔法具から取り出したものです。

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