椿油は良いものなのじゃ
本日三話目(3/3)。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
夜半、見張りが交替する物音でわらわも目を覚ましたのじゃ。大して使ってはおらぬのじゃが魔力を回復させるためとっとと早寝をした所為なのじゃ。あるいは交替して寝る双子たちが騒がしいゆえ目が覚めたと言うべきかの。
双子たちは年齢的に見習いではあるし、二人で夜番は不安と言うことでガントと兄妹三人で夜番の見張りにあたっておったのじゃ。その分の人数調整としてジーダルが先頭の方の見張りを一人でしておったはずなのじゃ。
ご苦労なことなのじゃ。
目が覚めてしまったゆえ、代わりに見張りの番となったオルンとモリエの兄妹コンビとしゃべりながら朝を待つ、あるいは眠くなったら寝る、と言うことで夜番におつき合いなのじゃ。
茶、とは言っても相変わらずのフレッシュハーブティーを淹れておったら寝る準備を手早く済ませた双子たちも欲しがったゆえ追加なのじゃ。蜂蜜もちょっとだけ入れてやる。おそらくこれが目当てであろうからの。
カフェインは入っておらぬゆえ構わぬじゃろう。
「おねしょするでないぞ」
「しないよー! おやすみー」
「ごちそうさまー。おやすみー」
寝るときまで騒がしい子等なのじゃ。
「おう、すまねぇな」
「お茶ありがとう」
オルンとモリエにもお茶を渡す。この兄妹は双子と絡まないと落ち着いた感じなのじゃ。特にモリエは双子と遊んでおると幼い三人娘って感じなのじゃが、一人でおると歳相応な十六、七のこの世界であれば大人へなりかけておる少女に見えるのじゃ。
「モリエは大した狩人よな」
「そうたいしたものじゃないよー」
「俺たちの親父は猟師だったんだ」
焚き火を囲んでぼそぼそとしゃべる。武器なぞの整備もするのじゃが、そんなに手間をかけるものでもないゆえ夜番の仕事は寝ないことなのじゃ。
「村ではそろそろ早咲きの椿の花が咲き始めてるかな」
「ほう、椿かえ」
「冬から春の間、沢山咲くから村を囲んでる林が真っ赤になるぞ」
「真っ白な雪の中真っ赤な花がきれい」
ここらへんではティウラと呼ばれておる椿について知ってはおるのじゃが、主な植生地が海の近くであるため内陸のイセンキョーでは見たことがないのじゃ。
「では晩冬から春にかけて椿の油を採っておるのじゃな。髪油なぞにも良さそうゆえ、其方らの村の油を売っておる店があれば教えておいて欲しいのじゃ」
「自分らで使う分くらいしか絞ってねーんじゃねーかな。売ってると聞いたことはないぞ」
「えっ。勿体ないのじゃ、相当の椿の木があるのじゃろ」
マインキョルトではちょっと椿油の扱いを調べることも脳内予定表に入れておくのじゃ。めもめも。
「待って。静かに」
モリエが森の方を見ながら姿勢を低くし、弓と矢を持ち直したのじゃ。そして小声で注意を喚起する。この野営地から森まで二百メートルはあるゆえ小声なのは気分の問題なのじゃろう。
「なにか動いた。一体じゃない」
「<猫目>」
わらわも小声で暗視魔法をかける。うむ、ちょっとばかり騒がしい夜になりそうなのじゃ。
お読みいただきありがとう御座いました。
なんとか年内は二話更新を維持したいものです。
と言いつつ今日から30までの短期のバイトが入ってて少しハード。
とりあえず頑張ります。