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記憶の旅なのじゃ (後編)

いらっしゃいませ。

本日更新二話目になります(2/3)。

長めになっております。申し訳ありません。


次は21時に更新予定です。



 とりあえず夢の身体の統御は取り戻せたゆえ現状について考えるのじゃ。結構動いたのに汗一つかいておらぬ違和感を無視しつつ床に行儀悪く座り直してわらわはそうひとりごちた。

 この状況は記憶の展開や統合がいまだ終了しておらぬと言うことであろうか。丸一日高熱を発して意識を失うほど人様の脳に負荷を掛けておきながらまだ足りぬとは緊急対応とは言葉ばかりなのじゃ。今を含めて二日、正真の緊急事態なら寝込んでる間に終了しておるのじゃ。

 アレに対する疑惑疑念、怒り、そして何故か先天的に感じる嫌悪感、これらに加えて無能のレッテルを貼るのじゃ。ぺたぺた。


 食後すぐに気を失うように眠りに落ちた原因はこの脳内環境の最適化が済んでおらぬこの状況に起因する可能性も高いゆえマーリィに対する疑いを半分だけ取り下げ謝罪するのじゃ。まだ疑ってはおるので半分だけなのじゃ!


 それは兎も角、なのじゃ。

 記憶が人を作る、とも言う以上わらわはわらわの記憶と向かい合わねばなるまい。神さま気取りのアレの作為が感じられて不愉快じゃが已むを得ぬのじゃ。


 アーネの記憶であろうが三千香の記憶であろうが小片に触れれば確信的に己の記憶として取り込めるのじゃ。その周辺の記憶の小片も自然に触れてくる。おそらく記憶の脱落や欠損も多くあろうと思われるのじゃが、それを踏まえてもこれは決して他者の記憶や偽りの記憶などにあらず本物のわらわの記憶であると直感的に断言できるのじゃ。しかし反面、直感的であるゆえ己で疑義を呈することが困難であることが問題となるのじゃ。


 ……。

 ええい、面倒なのじゃ! 今ある記憶を持っておるわらわがわらわなのじゃ。アレの作為によって歪められておることに気づいたらその時改めてアレを殴り倒すだけなのじゃ。

 激情のまま立ち上がり現時点で『コギトエルゴスム(我思う故に我あり)』確定ボタンを押してしまおう、とした瞬間唯一己の記憶として取り込めなかった小片が目に入った。


 唯一の例外、父さまの叫びが聞こえる記憶なのじゃ。これだけはそこに至る記憶もなにもないのじゃ。

 気を落ち着けるためにわらわはまた床に座り直した。何度も立ったり座ったり全くせわしない女なのじゃ。あ、わらわのことか。


 すぅはぁと気持ちの上だけじゃが丁寧に調息してわらわは舞っている小片に向かい合う。三千香の記憶を時系列順に最初から見ていくのじゃ。

 あの記憶が三千香の最期の記憶であるのならばその記憶の塔の天辺に至るまで土台から積み上げてみればよいだけのことなのじゃ。


 ふふん、父さま、そして母さまと二人の弟たちと言うかけがえのない四人の家族達からわらわがどれほど愛されておったかを再確認して悦に入ってやるのじゃ! 謎の上から目線での宣言をすると順番に記憶が来るよう念じてみる、の前にもうちょっと座り心地よく座れる気がするのでもう一回立ち上がって微妙な柔らかさのある床のでこぼこを整えて座り直す。

 よし、では作戦開始なのじゃ!


 と、勢い込んでも単に記憶を見るだけの作業なのじゃ。

 自分の記憶ゆえ完全共感が得られると言う点で動画サイトで動画を見るより気楽な作業なのじゃ。と思ったのじゃが最初の方に解像度が悪くて記憶としてピンと来ない映像があるのじゃ。ふふ、のぞき込んでおる母さまが若いのじゃ。これはおそらく視覚が発達しきっておらぬ幼児と言うか赤ん坊の頃の記憶じゃな。普通に思い出すことはできぬが脳に情報としては残っておったと言うことじゃろう。

 肉体のくびきから放たれた状態ゆえのあり得ない記憶と言うべきかのう。ちょっぴりおもしろいのじゃ。

 ん、アーネの方にもそう言う意識できぬ記憶が、と視線の端を小片が掠めたがとりあえず今は三千香の記憶なのじゃ。


 父さまがパパであった時代。実はこの頃のことも忘却の彼方であったゆえ自分のことをパパという父さまも、ぱーぱと呼ぶわらわ自身もわらわ的には新鮮で驚きじゃったのじゃ。父さまと母さまからも惜しみなく注がれる愛情に目も眩むほどであったのじゃ。


 父さまを父さまと呼び始めた時代。この時期は一言で表すならば広がる世界なのじゃ。母さまのママ友のお家でそこの子と遊ぶとか公園デビューだとか、幼稚園だとか十八歳の自我を持つ今となっては家の近所と言う程度の狭いものじゃが子どもだったわらわにとっては世界は広かったのじゃ。

 父さまっ子であった為意識から抜けがちじゃったが母さまの愛情も深く優しい。今更気づいて何じゃがわらわは少しでもこの愛情を返すことが出来ておったのかのう。いやいかん。この夢の世界で内省的になるのは危険ゆえ愛情には喜びをもって感謝するのじゃ。

 泣いてなぞおらぬのじゃ。夢の身体では泣くことも出来ぬゆえに。


 弟たちが生まれてきた時代。弟たちは双子で区別を付けるのが面倒なゆえ弟たち、一人しかいないときには弟、と呼んでおったが弟たちからは不評だったのじゃ。機能的なのにのう。

 ちなみに名は九十九つくも十三じゅうそう。父さまは八十彦やそひこで母さまは八重やえなので三千香とあわせて数字だらけ家族なのじゃ。

 わらわは子どもらしく生まれる前は弟たちに愛情をとられるのではとか悩んだりしてたようじゃが生まれたら双子の弟たちにめろめろじゃったのじゃ。そして母さまは凄い。二人の赤ん坊なんて世話をするのも大変じゃろうにわらわに対する愛情も減ずることなどなかったのじゃ。

 二人の赤ん坊にまだ有益なお手伝いをしてくれるわけでもない面倒な長女を抱えて愛情深く育てるなんて、わらわが大人になってもとても出来そうにないのじゃ。やっぱり八重はすごい、なのじゃ!

 あ、父さまは相変わらず父さまだったのじゃ。


 そして小学校時代。記憶の小片に頼らねば思い出すこともなかった幼少期に比べて色鮮やかな思い出であるのじゃ。高校までずっと続く友だちとなるあーちゃんやカッコとの出会いであるとか集団登校で手を繋いでくれる上級生の男子が同級生の男子と違って落ち着いててかっこいいと言うことを晩ご飯の時しゃべったら父さまがブンむくれたこととか大小いろんなことがらがあったのじゃ。


 正直この女子小学生は落ち着きがなく好奇心でいろんな所に顔をつっこむわ思いがけないことをしでかすわで危なっかしくて見てられないのじゃ。あ、わらわのことじゃった。

 心労をかけた母さまには深く謝罪と感謝をするのじゃ。ここでの願いや祈りが届くのならよいのにのう。っといかんいかん。ここで落ち込むのは危険じゃとわかっておるのに我ながら学ばない奴なのじゃ。


 中学時代。楽しい思い出がいっぱいなのじゃが、せめて中学時代にのじゃ語尾がおかしいと気づいておれば、と言う悔いが第一なのじゃ。おかしいからなおした方がいいと言ってくれる人もおったのじゃが父さまがかわいいと言ってくれるゆえこのままで正しいのじゃと思っておったのじゃ。

 父さまとわらわどっちもバカやろうなのじゃ。


 それさえ除けばオシャレに目覚めて服や小物、化粧品に気を使うようになったのも楽しかったし部活で始めたバドミントンも楽しかったのじゃ。同級生には言えなかったのじゃが小学校に比べて多少高度になった勉強も面白かったのじゃ。

 あー、楽しかったのじゃ。今生のわらわはアーネとしてまだ十年しか生きておらぬゆえこの時の三千香の年齢にまだ達しておらぬのじゃ。

 今生でも同じように楽しい時を過ごさねばならないのじゃ。無論万難を排しても、なのじゃ。


 最後に高校時代。中学時代にちょっと頑張った為進学校に進んだのじゃ。制服が地味で野暮ったいチェックの上下でこれは可愛らしいわらわとしては痛恨事だったのじゃ。地元の高校に進学したあーちゃんやカッコと放課後遊ぶと制服のかわいさに圧倒的な差があって悲しかったものじゃ。

 いろいろ手を加えて改造はしたのじゃが元が違いすぎたのじゃ。


 進学校らしく部活は盛んではなかったゆえ部活はせずにダイエットと言うよりは体調管理のためのボクササイズのつもりで家の近所のジムに通い始めたのじゃが、わらわにあっておったのかトレーニングに熱中してしまいそのまま本気でボクシングをすることになったのじゃ。

 女子が珍しかったのかトレーナーもかなり熱心に指導してくれたことと、わらわ自身のやる気が重なった結果学校には男子のボクシング部すらないのに高校総体に個人戦で出場するまでになったのじゃ。


 ちょっとした自慢じゃが三年の時には準決勝まで進めたのじゃ。競技人口が少ないとは言えようやったのじゃ、と自画自賛する前に父さまに絶賛されて嬉しかったのじゃ。

 あーちゃんとカッコと一緒に応援に来てくれた父さまは応援の声や悲鳴が大きすぎて少し恥ずかしかったのじゃが、同時に高校生になって以前より距離をとるようになっていてもやはり変わらず愛してくれていることがわかって嬉しかったのじゃ。


 いや、わらわ騙されておるのではないかの。

 少しばかり仲違いしたのは高校生になって流石に『のじゃのじゃ』言っておるのはおかしいと気づいたわらわが父さまに訊いてみたからなのじゃ。それに対して父さま曰く「確かにもうロリって年齢じゃないかもだけど三千香ちゃんかわいいしギャップ萌えも狙えるからこのままでもいいと思うよ。でも気になるならこれからはスタンダードなツンデレとか目指すのもいいかもだね!」じゃと。このとき初めて父さまのことを「クソ親父」と呼んだのじゃが「あ、ちょっとクソ提督みたいで嬉しいかも」などと言っておったのじゃ。あんなのエロ親父のクソ親父なのじゃ!


 怒りを込めて立ち上がりはしたもののわらわは「ふふっ」と笑いをこぼした。

 こう言うところも含めてやっぱりわらわは父さまっ子なのじゃな。


 立ち上がったわらわの周りを残りの小片が流れていく。

 受験勉強が主になる進学校とは言えいろんな思い出があるものなのじゃ。同級生たちは友だちと言うより受験戦争の戦友なのじゃが、いい奴ばかりだったのじゃ。

 ちなみに女子ボクシングで高校総体に出る、なんてことが許されたのは成績が充分以上によかったからなのじゃ。厳しい校風に見えて成績が優秀でさえあればなにをやっていても別段文句を言われぬと言う進学校らしいシビアさの結果なのじゃ。


 教師等も皆優秀な上に受験対策には本当に親身だったのじゃ。ゆえにわらわもそれは逃れることが出来ず面接対策、要はのじゃ語矯正講座が実施されわらわの精神は大分削られることとなったのじゃ。

 結局面接のない試験だけの大学ばかり受験したのじゃが、これは逃げたのではないのじゃ。わらわはちゃんとのじゃなしでしゃべれるのじゃ。


 合格発表後、既に推薦で合格しておったあーちゃんやカッコと遊ぶ約束をしておったが遊んだ記憶があらぬのじゃ。ここら辺でわらわと言うより三千香の記憶は途絶えておるのじゃな。


 一通り記憶を辿って、結局行き着かなかった悲嘆の小片を見やる。

「父さまを悲しませた記憶は思い出せなんだが、わらわはわらわの思っていた以上に家族や友だちに愛され育ってきたことを知れて満足なのじゃ。もらった愛情をもはや返せぬことは悲しきことなのじゃが、もらった愛情もわらわが皆に抱く愛情も大事に胸にしまって異世界、いやもうわらわの住む現実の世界じゃな、うむ、この世界で生きていくのじゃ」

 アーネとして産まれ生きてきたわらわはもう三千香そのものではない、アレとは違いわらわはそう思うのじゃ。しかし、それでも三千香としての思い出と愛情は掛け替えのない宝物として持って行こう。


「……。ここらへんのいいタイミングで目が覚めるべきじゃと思うのじゃがのう」

 体感で三分間立ったまま目覚めを待っていたわらわはもう一度座る。締まらないのじゃ……。ちなみにわらわの、と言うよりボクサーの体感三分間は機械のように正確なのじゃ。

 っと、さっき少し気になったアーネの赤ん坊時代の記憶が視界の端を掠める。む、あれは


ー機能拡張型収納空間の最適化が完了致しました。強制的な再起動を実施します。


 えっ、まだそれ終わってなかったのかえ? と言うかタイミング悪すぎなのじゃ!

 いきなり夢の空間に響いた合成っぽい声にわらわの動きが止まる。


 そして暗転。



お疲れさまです。

キャラ設定を書き出すだけの話となっており少々反省しております。

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