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不穏な気配なのじゃ

こんにちは。

こちらは本日更新二話目です(2/3)。

三話目は21時更新予定です。


 夜番は各護衛パーティごとにする必要もないゆえ、先頭の方、真ん中、しんがりの方の三カ所に二人ずつ。真ん中は森の方を見る係じゃな。で、夜中に交替で計十二人が夜番に就くのじゃが、護衛は全員で二十四名おるゆえちょうど半分なのじゃ。

 何もなければ夜番に就くのは二日に一回でいいゆえこれに関しても交易商が集まって旅をする利点は明らかなのじゃ。

 まあわらわはその数に入っておらぬのじゃが。


 朝にはモリエが仕掛けた罠に大きな野鼠がかかっておったと持ってきたのじゃ。出来る女なのじゃ。

 野鼠の肉はセージっぽいハーブと一緒に煮込んで、スープにして朝餉のメインディッシュになったのじゃ。無論<経時>を用いてよく煮込んでおる。

 野鼠の肉に対する忌避感はないのじゃ。わらわはフレンチレストランでモルモットを食べた前世の記憶があるのじゃ。似たようなものじゃの。


 セージっぽいハーブは小川の方を散策して摘んだのじゃが、ほかにもミントっぽいものなど幾つか入手したのじゃ。そこで食後にミントを中心としたフレッシュハーブティーに蜂蜜をちょっとだけ落として提供したところこれも好評だったのじゃ。双子には蜂蜜が好評なだけかも知れぬが。


 そんなこんなで始まった二日目も、そして三日目も大過なく順調に隊列は進んだのじゃ。魔物は時に全く勝ち目が無くとも襲ってくることがあるゆえ小さい襲撃はあったのじゃが、戦闘より魔漿石回収に時間がかかる程度のものじゃったのじゃ。

 二日目にはセイジェさんとモリエ、そしてリーエさんから話が広まったらしく他にも何人かおった女性の冒険者や交易商にも<洗浄>を頼まれるようになったのじゃ。あとその女性陣からの依頼で汗くさすぎる男連中の丸洗いも行って銅貨がジャラジャラなのじゃ。


 銅貨は真ん中に四角い穴が開いておるゆえある程度の枚数になると紐に通して管理するのが普通なのじゃ。わらわは重いし面倒、と収納空間に収納してしまったのじゃがの。

 貨幣の価値は地金の価値によるゆえ、小銀貨一枚が銅貨八〇〇枚前後に相当するのじゃ。北方諸国群では銀の産出が多く、金は少ないゆえ取引に使われるのは銀が主なのじゃ。ゆえにあまり金貨は出回らぬのじゃがマーリィから聞いたことのある中央の方のレートがターレル金貨一枚で銅貨三〇〇〇枚強程度、北方諸国群でならそれよりさらに高くなるはずなのじゃ。

 どちらにせよ両替しようとしたならば両替商から手数料を取られることになるのじゃ。

 銅貨の重さに苦労させられることのないわらわは恵まれておるのじゃな。収納空間のありがたさを再認識したのじゃ。


 そんなこんなで三日目の夕方なのじゃが、ジーダルたちが各馬車を回って話をしておるのじゃ。要は明日には国境を越えてジープラント王国に入るが気を引き締めようってことなのじゃ。

 どっちの国が魔物の討伐を行った場合でも当たり前なのじゃが国境を越えて追うことは出来ぬのじゃ。ゆえに国境付近には魔物が多くおる場合もあるという訳じゃな。しかも、ジープラント王国の方がそう言う討伐なぞをしっかり行うゆえわらわたちが今おるストールベリ王国側の方がより危険なのじゃそうな。


 しかし、皆を呼び集めて訓示するのではなくジーダルが歩いて回るのはいざと言うときは指揮を執ると言っておっても普段は冒険者同士、と言う考えなのじゃろう。節度のある男なのじゃ。

「なあ嬢ちゃん、昼間やってたありゃなんだい」

 そう思っておったらジーダルがわらわに尋ねてきたのじゃ。なにかしたかのう。別段気にすることがない旅程であったと思うのじゃが。

「妹さんたちと馬車と変わらない速度で走り回ってただろ。あれだよ」

 首を傾げるわらわにベルゾがそう言い足したので分かったのじゃ。ベルゾはジーダルのパーティの一員じゃが残りの二人、ジーダルとセイジェに比べて影が薄いのじゃ。補助的な魔術をそこそこ使える軽戦士なのじゃと聞いておるのじゃが、そのスタイルも器用貧乏そうで影が薄いのじゃ。


「ああ、あれかえ。馬車に乗ってばかりでは身体がなまるゆえちょっと走ろうと思ったら三人娘もやりたがったのじゃ」

「いや、あれも魔法だろって話だ」

「使ったのは<早足>なのじゃ。これも生活魔法ゆえ四人にかけてもさして魔力は使わぬのじゃ」

 ベルゾはわらわの答えを聞いて思案しておる。補助系の魔法を使う軽戦士なら確かに欲しいやも知れぬのじゃ。ベルゾ以外の二人はため息をついて首を軽く振りつつわらわを見ておる。なんなのじゃ。


「ありがとよ。他の生活魔法もいいが、その<早足>は欲しいな。似た効果の魔術を聞いたこともないし」

「まあ余のものが使ってもわらわほどの速さにはならぬかも知れぬがの」

「それでも充分役に立つさ」

 ベルゾも神殿に生活魔法を習いに行く気満々なのじゃ。皆マインキョルトの神殿に行くのであればわらわはマージンを貰うべきではないかの。いや、神殿の上前をはねるような恐ろしいことをする気はないのじゃが。


「そう言えばなのじゃが、歴史の話で帝国が東方征伐の折りに疾走歩兵と言う足が速くなる魔法を使った歩兵の奇襲や陽動に苦戦したと言うのを聞いたことがあるのじゃ。東方魔術はよく分からぬのじゃが、探せば魔術にも同じようなものがあるのではないかのう」

「興味深いですね」

「マインキョルトに戻ったら調べてみるか」

 魔法の話をしておったらガントも興味を示したのじゃ。そしてガントとベルゾで色々話し合っておる。影が薄い同盟じゃな。


 わらわがそう思っておるとモリエがぽつりと言ったのじゃ。

「影が薄い同士気が合ってるみたいだね」

「わらわも思っておったのじゃが、思っておっても口に出すべきではないのじゃ」

「思ってるじゃん」

「魔法のことは分かった。ただ、さっき言ったようにこの辺りは危険だ。いざと言うとき魔力切れだ、なんてヘマは打たんようにな」

 ジーダルがそう言って話を打ち切ったのじゃ。

「まあそんなタマじゃねーだろうがよ」


「ふむ、なにやら感働きでもあったかえ?」

「嬢ちゃんのカンの方がこええな」

 わらわの問いにジーダルがぶつぶつ言いながら答える。

「出逢わな過ぎだ。国境辺りには大概魔物がたまってんのに今日の午後は一切出逢っていねぇ」

「強い魔物が雑魚を周囲からおらんようになる勢いで食い散らかしておる場合、影響力がある個体が雑魚を糾合し群を形成しておる場合、どちらかかも知れんの」

「俺たちより先に街道を通った奴が大概討伐しちまってるってこともあり得るさ」

 全然信じておらぬ表情でジーダルは肩をすくめた。


「なんにせよ注意しろってことですね」

「おう、頼むぜ」

 オルンがそうまとめるとその背を叩きながらジーダルも頷く。

「一応先に通達しておいたが今日は狩りも禁止で頼む。帰ってこない奴を捜しに行くなんてのは二次被害の基本だからな」

 最後にそう注意して連絡回りに戻っていったのじゃ。


 と言うわけで今日の夕餉は数日ぶりに塩漬け肉なのじゃ。しかし、わらわももう何度も塩漬け肉を調理しておるゆえコツはつかんでおるのじゃ。

 <創水>のおかげで水を気にせず塩抜き出来ると言う祈祷ありきの手順をコツと言って良いものかは悩むのじゃがの。<経時>で塩抜きを手早く終え、ハーブ類をもみ込んでまた<経時>。うーむ、マジカルクッキングなのじゃ。

 塊のままローストし、焼いた肉を休ませておる間に戻した乾燥野菜とフライパンの肉汁と脂でソースを作る。厚めにスライスした肉にソースをかけハーブをちょっと散らしてメインは完成なのじゃ。


 数食モリエが穫ってきたジビエで過ごしたゆえ塩漬け肉の余裕があるのじゃ。と言うことでスープも塩漬け肉なのじゃ。

 脂身の多い部分を選び、これも程良く塩抜きをした後食感を変えるため角切りにする。乾燥野菜やハーブと一緒に鍋にぶち込み<経時>をぎっちりかけ続け、スープと言うより脂でねっとりした角煮のような煮物になったのじゃ。うむ、<経時>をよくかけたゆえいい塩梅の柔らかさでプルプルなのじゃ。

 まあ調味料がもう少し欲しいところなのじゃがの。


 さてお口に合うかの。

「おいしー、肉だぁ」

「肉肉、おいしーね。ミチカちゃん料理上手」

 双子には好評のようなのじゃ。他のものもハイペースで食べておるのじゃ。

 やはり塊で焼いたものを切り分けるとかなり肉感が強くて満足度が高いのじゃ。双子たちもそこが気に入ったようなのじゃ。

 プルプル豚の煮物も濃厚な脂の旨味なのじゃ。しかし、これは醤油に類する調味料が欲しいのじゃ。そして固い平焼きパンではのうて柔らかいふんわりパンが欲しいと言う段を飛び越してご飯が欲しいのじゃ。無い物ねだりに意味はないのじゃが。


「塩漬け肉なんてそのまま削いで食べることしかなかったけど手をかけると旨いもんだな」

「手って言うか魔法をかけてるけどね」

「魔法の代わりに時間をかければ同じように出来上がりそうだけど、塩漬け肉を食べるのは旅の間だしね」

「冒険者は冬支度をしませんからね。冬の間家で結構食べますよ」

 しゃべりながらも皆よく食べておるのじゃ。ふと思いついたのじゃが、頑丈な鍋を作って<念動>で蓋を押さえつけることで圧力釜にならんかの。今度無尽庵で実験してみるのじゃ。


 皆食べ終わって満足したいい気分になった後は<洗浄>なぞを済ませて見張りに立たぬものはお休み準備なのじゃ。

 これまでの道中交易商は天幕を張ったりもしておったのじゃが、今日は他の馬車を見渡しても天幕を張っておるものはおらぬのじゃ。皆すぐ動けるよう心がけておるようじゃの。感心なのじゃ。


お読みいただきありがとう御座いました。


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