挨拶回りなのじゃ
本日二話目です(2/2)。
複数人数の会話にもう少し考慮が必要な気がします。
移動しつつも無尽庵でゆったり食事を摂っておったゆえ、何となく物珍しい食事ではあるのじゃが、塩っ辛いのう。乾燥ハーブを背負い袋に入れておるゆえ夕餉は調理を手伝うとするのじゃ。
そう思いつつ、すぐに出立かと座るために地面に敷いておった外套を取り上げ土を払って羽織ったのじゃがエインさんたちは少しまったりしておる。
商人たちは城市内で互いに挨拶を済ませておるのじゃが、護衛の冒険者や傭兵はこの最初の大休憩で顔合わせをして置くものなのじゃそうなのじゃ。
オルンたちと同じくマインキョルトに戻る冒険者もおるであろうから、冒険者になる予定なら紹介しておこうと言うオルンの申し出をありがたく受けて一緒に挨拶回りなのじゃ。
先頭の馬車は商人たちの間で一番道に慣れておる商隊のものになるのが普通なのじゃ、と聞いたのじゃ。ペースメイカーなのじゃな。そういうベテラン商隊の護衛もまた慣れておったり腕が良いものであったりするゆえまず先頭へ行くのじゃそうな。
双子たちと塩漬け肉の塩っ辛さについてしゃべっておるとモリエが野営の準備中に運が良ければ鳥か兎を狩ってくると言い出したり、そこから脱線してマインキョルトの料理がおいしい店についての話を聞いたりときゃいきゃいやっておるとなにゆえかオルンが緊張しておるのじゃ。
「オルン、どうしたのじゃ」
「いや、ちょっとびっくりしただけだ。ジーダルさんがこんなとこにいるとは思わなくて」
ガントが先頭の馬車の横で他の冒険者と話をしておるなかなか風格のある男を示しつつ補足を入れてくれる。
「ジーダルさんたちは実力のある冒険者パーティで人気もあるんですよ。実はオルンの憧れの人なんです」
ほほう、憧れの冒険者を前に緊張しておったのか。パーティのお兄さん役とはいえまだまだ夢見る若者なのじゃ。
「おう、オルンにガントじゃねーか。お前らもいたのか、よろしくな。妹ちゃんたちもな」
と、歩いていくとジーダルの方が先に声をかけてきたのじゃ。使い込まれた皮鎧に剣を佩く装備的にはオルンと似ておるが風格は段違いなのじゃ。厳しさと磊落さを併せ持った荒削りな風貌をしておる。オルンが憧れるのは分かるのじゃ、女性受けはどうか微妙じゃがの。
「ジーダルのおっちゃん、おひさー」
「ひさしぶりー」
むさ苦しい割に子ども受けはよいようなのじゃ。双子が飛びついたり髭を引っ張ったりしておる。人懐っこい子等じゃのう。
「よ、よろしくお願いします」
「こんにちは。お久しぶりです。お前らちゃんと挨拶しろっ」
「よろしくです。サルダンさんたちもよろしくですー」
さ、騒がしいのじゃ。ジーダルは双子を抱えてくるくる回ったりしておる。人のいい子ども好きのおっさんに評価を変更しておくのじゃ。
しかし、オルンのパーティも別の意味で有名パーティなのではないかのう。
その中で兄たちが役に立たんと思ったらジーダルと話をしておった別の護衛パーティにも抜かりなく挨拶するモリエは思っておったより出来る女なのじゃ。
「妹ちゃんが増えた?」
ジーダルのパーティメンバーと思われるお姉さんが騒ぎに乗り遅れておったわらわに気づいてくれたおかげで挨拶と何度も繰り返した身の上話設定をここでも繰り返すことになったのじゃ。
「で、魔法が得意なんですよ。ミチカは」
「ほう、魔術師か」
一応戦力候補と考えられたのか何を出来るかも少し聞かれる。使える魔法の情報は死命を分けることもある大事な情報ゆえ、ふんわりとしか言う必要はない、とガントが小声で教えてくれおる。いつも双子に振り回されておるが気の利く男なのじゃ。
「魔術ではのうて祈祷なのじゃ。まあ生活魔法の他はいくつかの祈祷が使える程度であるのじゃが」
「生活魔法! ローゲンキョルトでも使える人が多かったのよねー」
最初にわらわに気づいたお姉さん、セイジェが食いついてきたのじゃ。セイジェはウェーブのかかった赤みの強い茶色の髪の大人の女性なのじゃ。元々美人なのじゃろうが冒険者家業の長さゆえか少々きつめに見えるのじゃ。細剣と小剣の二振りを提げておるゆえ二刀流かの。オルンたちに比べて立ち居振る舞いに隙がないのじゃ。
ローゲンキョルトはローケンキョーのことなのじゃ。ジーダルたちのパーティはローケンキョーまで遠征に来て、ダンジョン攻略をしておったそうなのじゃ。そして一頻り満足するまで潜ったゆえジープラント王国へ帰ろうと護衛任務を受けておるところなのじゃそうじゃ。
「生活魔法、と言うより<洗浄>かの。興味があるのは。なんなら夕食後にでも<洗浄>をかけに来てもよいのじゃ。幾ばくかの対価はいただくがの」
「もちろん払うわ。お幾らかしら」
やはり<洗浄>なのじゃ。<洗浄>で身体を洗うことを知ってしまっては<洗浄>なしの生活に不満を覚えるものなのじゃ。特に女性はの。
「まあ銅貨三〇枚と言ったところかの」
「安すぎない?」
「うむ、嬢ちゃん。技術の安売りはいかんぞ」
セイジェとジーダルにツッコミを受けたのじゃが、うーむ。
「生活魔法は神殿で喜捨をして教えてもらうことが出来るのじゃ。修得すれば魔力が足りぬでもクズ魔漿石で行使可能、まあクズ魔漿石で十回発動できるとしてクズ魔漿石十分の一個分なのじゃ」
「魔力は安売りするものではありませんよ、ミチカ」
ガントからも注意が入る。魔術師のガントが言う以上おそらくそれが正しいのじゃ。
「クズ魔漿石は小鬼からでも取りゃーするが、まあこの近辺にダンジョンはねえ以上その計算でも銅貨六〇枚だ」
「利益を乗っけて八〇枚から百枚ってとこかしら」
「そうですね」
そうなのか。なのじゃ。実際はなかなかの小金持ちになっておるのじゃが基準が孤児ベースゆえなんか高すぎて怖いのじゃ。わらわたちにはご馳走であった塩漬け肉の固パンのせが銅貨六枚じゃったのじゃ。
「では八〇枚での。夕食後に来るゆえ食器も一緒に<洗浄>するのじゃ」
「ありがとー。待ってるわー」
喜色を露わにしたセイジェからかいぐりされたのじゃ。周りの冒険者たちは<洗浄>のありがたみがいまいち分かっておらぬものが多いようで微妙な反応なのじゃ。
「しかし、どう考えても勿体ないゆえ神殿で習うことをお勧めするのじゃ。冒険者であったらクズ魔漿石を手に入れることも多いであろうしの」
「うん、でも神殿で習えるなんて知らなかったわ」
「神殿がちゃんとしておる地域であれば誰でも知っておることゆえ逆に余所者には伝わらぬのかも知れぬのう」
「興味深いですね」
ガント他魔術師っぽい数人も同じように頷いておる。祈祷と魔術で違いはするものの興味はあるようなのじゃ。
「よし、じゃあそろそろ出発だ。これ以上遊んでいたら雇い主に渋い顔されちまう」
そんなこんなでジーダルに挨拶に来ておった他の護衛パーティや傭兵とも顔を繋いだりし終わったあたりでジーダルが声を上げる。挨拶に回らなくても結局全員先頭の馬車あたりに集まっておるのじゃ。
「悪りいが全員でかからなきゃいけないようなことが起こったら俺が指示を出させてもらうぞ。かまわねーか?」
「まかせたぞー、おっちゃんー」
「ジーダルのおっちゃん、がんばってー」
「ひゅーひゅー」
「お前らやめろ!」
オルンパーティーから騒がしい野次が飛ぶのをジーダルが大笑いする。
「がはは。文句がねーなら散れ散れ、すぐ出るぞ!」
改めて出発なのじゃ。
読んでいただきありがとう御座いました。