旅は道連れ世間話なのじゃ
こんにちは。
本日も二話更新予定です。
これは一話目(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
五つの交易商の隊が連なっておるのじゃ。馬車の合計は十輌、平均二輌ずつじゃが実際は三輌のものと一輌のものがおるのじゃ。エインさんの隊は前から四番目、後ろの方なのじゃ。
馬車は幌があるわけではない普通の荷馬車で積み荷の上に防水布を張ってしっかり綱で固定しておるのじゃ。そしてわらわたちは御者台や荷台の隙間に座るのじゃが、わらわは自分の積み荷の毛皮の袋に寄りかかることでかなりの快適性を手に入れたのじゃ。
それを加味しても乗り心地は当然悪いのじゃが覚悟しておったゆえ耐えられる程度なのじゃ。
御者をオルンに代わったリーエさんやモリエと世間話をしながら結構まったりした旅なのじゃ。
エインさん夫婦もオルンたちパーティもわらわの目的地マインキョルトで暮らしておるそうなのじゃ。エインさんはマインキョルトに店を構えておるのじゃが店は息子夫婦に任せて自分らは交易を続けておるのじゃそうな。エインさんは交易の旅が性にあっておるらしく、息子夫婦が勧めておる楽隠居はまだまだ先の話になるであろうとリーエさんは言っておるのじゃ。
オルンたちは一緒の村から出てきた二組の兄妹の幼なじみでマインキョルトを拠点に活動しておる冒険者パーティなのじゃ。今回はメーセルキョーへの護衛任務を受けてやって来て、マインキョルトまでの護衛任務を受けて帰還中。こうした護衛任務は冒険者の仕事の中では堅実な部類だそうなのじゃ。
舌を噛まぬよう気をつけながらおしゃべりをしておるうちに昼の休憩なのじゃ。大凡同じ速度で行き来しておるゆえであろう、休憩の地点は馬車の列が優に並んで停めることが出来るほどの空き地になっておる。長年休憩するものが馬の蹄と馬車の車輪とで踏み固めた結果なのじゃ。
こういう休憩地点は出来る限り水場が近くにあるところが選ばれるのじゃが、どこでもそうというわけではいかぬものでここは水場がないのじゃ。
「す、すごい魔術ですね」
「いやこれは祈祷なのじゃ。魔術も習ってみたいと思っておるのじゃがのう」
<創水>で桶に水を注ぎ馬たちにやっておったらガントに驚かれたのじゃ。見回すと水を出せると言っておったはずのエインさんもそんなに出せるのかと驚いておったのじゃ。
「ジープラント王国では神殿が少ないと聞いておるのじゃ。それゆえ祈祷を行うものも珍しいのかのう」
「それはそうかも知れませんが、多分同じ魔法陣を私が修得しても同じ量の水は出せませんよ」
かなり魔力を絞ったのじゃがの。まあとりあえず困ったような顔をして答えておくのじゃ。
「あー、それがあって身の危険を感じたゆえフォ・ヒセンからは急いで逃げてきたのじゃ」
ガントだけでなくオルンもエインさんたちも「ああ」と納得のため息をつく。
これは孤児院で子どもたちに院を出る年齢になるまで魔法を扱わせない理由でもあるのじゃ。人も魔物と同じく死ねば魔漿石を残すのじゃが多くの人はクズ魔漿石しか残さぬのじゃ。しかしなのじゃ、より高い魔力を帯びた強力な魔物がより大きな魔漿石を残すように魔力が高い魔法使いはそれに見合った魔漿石を残すのじゃ。
魔物や鉱山、ダンジョンからと産する魔漿石より魔法使いの方が稀少であるゆえ普通はそれに危機感を覚える必要はないのじゃ。まあ金貨を懐に入れておるくらいの気持ちは持つべきじゃろうがの。
なのじゃが孤児院の孤児が高い魔力を持っておるなぞと知れれば危険を感じるべきであろう。無論、身よりのない交易商の娘もなのじゃ。
「生活魔法の他こうした祈祷をいくつか知っておるゆえフォ・ミーネ、いやさマインキョルトで冒険者登録をするつもりなのじゃ」
ゆえに冒険者の話を聞かせて欲しいのじゃ、と言うわらわに冒険者たちは相好を崩したのじゃ。
「わーい、ミチカも冒険者仲間だー」
「うちの兄とミチカちゃんを交換しよう」
「おいっ」
騒がしい兄妹なのじゃ。しかし、こう言うのもよいのじゃ。一人旅も一人旅の良さがあるのじゃがの。
「生活魔法か。<洗浄>は便利だな。魔法具の洗浄棒はマインキョルトでも高く売れてるがメイゼルキョルトではあまり扱ってなくてね」
エインさんは生活魔法の方に興味があるようじゃの。
「生活魔法は神殿に行けば幾ばくかの喜捨で教えてもらえるゆえ、あまり魔力が高くなくとも覚えておいて損はないと思うのじゃ」
「えーっ、そうなんだー」
「<洗浄>ってどんなのー?」
「あとで見せてやるのじゃ」
夜の野営ではなく昼の大休憩ゆえ火を焚かず、即ち火を使う調理もなしの塩漬け肉と旅行用に堅く焼き上げた平焼きパンを水で流し込む食事なのじゃ。手間を惜しんでおるのではなく魔物や獣を呼ばぬ用心じゃな。
この食料はエインさん持ちなのじゃが、護衛のオルンたちは兎も角わらわは自前で出すべきかと思ったのじゃが「水の残量を気にせず飲めるのはありがたい」と言ってくれておるのでまあよいのじゃろう。
読んでいただきありがとう御座いました。