さて馬車の旅なのじゃ
こんにちは。
こちらは本日二話目です(2/2)。
少しでも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
朝、一つの鐘で起き出して子ども等と一緒に神殿の清掃を行い、朝の礼拝にも参列してから辞去なのじゃ。ほんの一晩おっただけなのに別れを惜しんでくれる子もおって嬉しい話なのじゃ。
名残を惜しんでおったらリーディンが慌てて出て来おった。
「あ、まだおられましたね。よかった」
そう言いながら封書をわらわに差し出してきた。ロリコンの恋文でないことを祈るのじゃ、と失礼なことを考えつつ受け取るとマインキョルトの正神殿のリーディン宛の紹介状のようなのじゃ。貧乏そうでも司祭同士となれば木札ではなくきちんと紙の封書なのじゃな、と余計な感想を抱いたのじゃ。
それにしてもこの城市ではわらわに紹介状を出すのが流行なのじゃろうか。無論ありがたいのじゃが。
「教区が違うので紹介状に余り意味はないのですが、一応あそこの神殿長とは面識がありますのでなにかあれば力になってくれるはずです。面白い男ですので用が無くとも一度会いに行かれるといいと思いますよ」
「わざわざ丁寧にありがたく存ずるのじゃ。祈祷書にも興味があるゆえ必ず一度伺ってみるのじゃ」
深く礼をして別れの挨拶をする。子ども等やマードたちも見送りに来てくれておって、きちんとした別れが出来なかったイセンキョーの孤児院を懐かしく思い出したのじゃ。
次からは孤児院になぞ泊まらぬのじゃ。泣いてしまうかも知れぬゆえ。
朝の賑わいを見せておる市場で肉を商っておる店を見かけたゆえ、塩漬け肉を一樽あがなう。ゴドノローア卿の屋敷を解体したとき相当な財貨が手に入ったゆえわらわは案外金持ちなのじゃ。
その樽を孤児院に配達してもらうようその分の駄賃も渡して市場を後にする。わらわはこういう偽善が大好きなのじゃ。ふんっだ。
約束の時刻まではまだ少々あるゆえ荷物を整えながら時間を潰すのじゃ。枕を入れておった背負い袋には塩漬け肉や平焼きパン、調味料、木の食器なぞを収納空間から取り出して詰め込む。布やら小物も適当に入れておくのじゃ。そして背負い袋の上に丸めた毛布をくくり付け、スキレットや小さい鍋をぶら下げる。うむ、ちゃんとした旅人っぽいのじゃ。
肩掛け鞄の方には紹介状や筆記用具を入れてっと。これで旅支度完成かのう。
いやさ自分の交易品を積んでいいと言われたのじゃった。市場でなにやら買ってもよいのじゃが、森の中で相当数収納した森林狼を解体して森林狼の毛皮にしてじゃな、まあこれでよいのじゃ。袋に十枚ほど詰めて、重いのじゃ。六枚ほど詰めて持って行くのじゃ。
一応商業組合に顔を出して、まだ混んでおらんかったゆえノイテさんにも世話になった挨拶をしてエインさんたちの馬車が停めてある門近くの停車場へ行くのじゃ。
「エインさん、リーエさん。おはようございますなのじゃ」
「おう、おはよう。ミチカちゃんは何を積むんだい」
すぐに見つけることは出来たのじゃが、エインさんの馬車以外も出立の準備をしており停車場はかなり混雑しておるのじゃ。何はともあれ挨拶をして自分の荷物を載せてもらう。
「森林狼の毛皮なのじゃ。フォ・ミーネ、いやさマインキョルトはここより大分北にあって森と離れておると聞いたゆえ、少し珍しいかも知れぬと思っての」
「悪くない考えだの。皮細工の店に持ち込んでもよいが冒険者ギルドでも良い値で買い取ってくれるだろう」
ふんふんと話を聞く。ついでに周りも皆出立準備であることについて聞いてみたのじゃ。
「隊商を組んでる訳じゃないのだがね、同じ方向で同じくらいの速度で進むんだから大体まとまって行くのさ。その方が安心というわけだ」
「なるほどなのじゃ」
「で、たまに自前の護衛を雇わずに寄生する奴もいるんだが同業者から嫌われた商人なんてその行く末は惨めなもんさ」
後ろからそう言い足しす若い男の声がしたのじゃ。振り向くと二人の若い男とその後ろから様子を窺う三人の女の子がおったのじゃ。
声をかけたらしい若い男は二十歳前くらいの年齢じゃろうか、皮鎧を着込んで皮の外套を羽織っておる。剣を佩いており、道具入れのついた革帯には投擲短剣やフラスコのようなものが見える。まさに冒険者って格好なのじゃ。もう一人の男は皮のジャケットのような上着を着ておるがもう一人より軽装なのじゃ。まっすぐな棒状の杖の先端に魔漿石がついておるゆえ魔術師なのじゃろう。魔術師なぞ滅多におらぬゆえワクワクするのじゃ。
「護衛は雇い主を守るもんだから、やばい魔物が出たときなんかはそう言う寄生している奴らを囮にして雇い主を逃がすこともある。そう言うわけでちゃんとした交易商は護衛を雇うのさ。と言うことで俺たちがエインさんに雇われた冒険者パーティだ」
そう言って冒険者はニヤリと笑い右手を差し出してきたのじゃ。
「エインさんから同行者がいるのは聞いている。よろしくな、俺はオルンだ」
「わらわはミチカなのじゃ。よろしく頼むのじゃ」
挨拶と握手を交わすと他の四人も名乗ってくる。と言うか後ろから窺っておった女の子たちが一斉に飛びついてきたのじゃ。
「私はガントと言いますって、おい」
「あたしはサーデ! 金髪!」
「マーセ! 初めて見た!」
「モリエだよ、よろしくね」
自己紹介しようとした魔術師っぽい男が押し退けられサーデとマーセがわらわの両サイドから手をとり、少し出遅れたモリエもぐっと顔を寄せてくる。近い、近いのじゃ。
サーデとマーセは同じ顔をしておるゆえ双子なのじゃろう。わらわよりは年上なのじゃがおそらく十五にはなっておらぬのじゃ。モリエはそれよりはちょっとだけ年かさなのじゃがおそらく十五、六と言ったところかのう。
三人とも簡単な皮鎧を身につけておる。サーデとマーセは短槍を背負っておってモリエは弓じゃな。
双子はちょっと勝ち気そうな整った顔立ちで茶色っぽい髪の毛をお揃いのポニーテール、見分けがつきやすい様片方ツインテールにでもして欲しいものなのじゃ。モリエはかわいい系じゃの。黒みが強い長髪を首の辺りで簡単にくくっておる。
「短い髪型でもかわいくできるんだね」
「うん、かわいい」
「ミチカちゃんはいくつ?」
きゃいきゃいと言う三人娘に圧倒されておるとオルンが流石に止めてくれたのじゃ。いやかわいいのじゃがちょっと圧がすごいのじゃ。
「おい、ミチカさん驚いて固まってるじゃねーか。てゆーかお前が止めろよ」
そう言いながらモリエに拳固を落としておるのじゃ。
「ミチカと呼び捨ててよいのじゃ。三人も、えーっとガントさんもよろしくなのじゃ」
「私の方もさん付けは不要で……っ」
「あたしたちも呼び捨てでいいよっ」
「えーっ、ちゃんづけしたい」
ガントはまたも話しておる途中で押し退けられたのじゃ。双子のガントに対する扱いはひどいと言うより身内かのう。
「オルンさん、この中にリリエレがおるのかえ?」
「うぇ。俺も呼び捨てでいいぜ。モリエは俺の妹でサーデとマーセはガントの妹だ。俺とガントが冒険者を目指して村を出たらなぜだか着いてきてたんだよ」
わらわが半笑いで訊くといやそうな顔でそう答えたのじゃ
「うぇとかひどいー」
「あたしたちがいるおかげで兄ちゃんたちは潤いある生活が送れてるんだよー。感謝が足りないー」
オルンがブーブー言われておるが肩をすくめただけなのじゃ。これがリーダー格の余裕と言うものかのう。
リリエレと言うのは北方諸国群で人気のある『オルンと氷の魔竜』と言う英雄譚の登場人物で主人公のオルンの恋人なのじゃ。人気が高いゆえオルンとリリエレと言う名前を子どもにつける親も多いのじゃ。リリエレの兄でオルンの親友のラーリも人気が高く、ラーリという名前もありふれておるのじゃ。ラーリは元気にやっておるかのう。
「仲良くなるのはよいことだが出発だ。ミチカちゃんはリーエの方の馬車に乗りな」
エインさんの指示でささっと乗り込む。エインさんの奥さんのリーエさんは穏やかそうなおばちゃんじゃが交易商の妻として旅空で暮らしておるのじゃからきっと強い女なのじゃ。と言うか馬車二輌じゃったのか。見落としておったのじゃ。
エインさんの馬車とリーエさんの馬車で連なって進む。まだ城内ゆえゆっくりしておるのじゃ。
護衛チームは護衛という風ではなく馬車の左側に一列に並んでおる。見回すと他の交易商の所の護衛も同様に左側に並んでおるのじゃ。
ちょっと訊いてみたくなったのじゃがわらわも交易商の娘、と言う設定ゆえ交易商の常識であった場合誤魔化すのが難しくなるのじゃ。
ああ、衛兵たちがなにやら控えておるのじゃな。入ってくるものだけではなく出て行くものもチェックしておるのは、おそらくなのじゃが盗賊対策なのじゃ。
考えておったらリーエさんが教えてくれたのじゃ。ジープラント王国のやり方なのじゃがここでも採用されておるのじゃそうな。
魔物がおるゆえ人里離れたところにアジトを作っての盗賊働きなぞ難易度が高いのじゃ。ゆえにこの世界の盗賊は城市や村の住人がその近所でやらかすのが主なのじゃ。
そのなかでも隊商の護衛として城市を出たものがその日のうちや翌日程度に帰ってきおったら盗賊働きして戻ってきた可能性が高いのじゃな。ゆえに護衛の出入り管理をしておるそうなのじゃ。
手続きが済んだら護衛も馬車に乗る。よく考えたら当たり前じゃな、徒歩と馬車を並べて進める意味などないのじゃ。<早足><跳躍><賦活>で森の中を馬車より速く進む人間なぞ普通おらぬのじゃ。
人数の配分でわらわの乗るリーエさんの馬車にオルンとモリエの兄妹が乗り、エインさんの方にガントと双子なのじゃ。
さて、馬車の旅の始まりなのじゃ。
読んでいただきありがとう御座いました。
登場人物が増えてちょっと嬉しいです。
森の中一人旅で全く他の人が出て来なくて辛かったので。