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メーセルキョーの商業組合を訪れるのじゃ

こんにちは。

本日二話目です(2/2)。


森を出たのでこの話から新章となります。


 孤児院は夜明けの一つの鐘から動き出しておったが、城市が目覚めるのは二つの鐘からと言ったところなのじゃ。外套のフードを目深にかぶったわらわはメーセルキョーの朝を見物し、働きに出る単身者狙いなのか朝から屋台を出す店を見つけて穀物粥の朝餉を摂ったのじゃ。無論、穀物も具も入っておるのじゃ。味は大したことがないのじゃが、なにやら感動したのじゃ。


 さてと、混雑する前に商業組合に行くのじゃ。商業組合は城市内の各職人の匠合ギルドを取りまとめたり交易関係を扱ったり、あるいは広場など城内で露天や屋台を出店するに当たっての許認可を行ったりと商売に関する諸々を管轄する所なのじゃ。通常、領主さまから委託されて商業関係の徴税の代行も行うゆえどこの城市にもあるのじゃ。


 城市自体はイセンキョーよりふたまわりも小さいのじゃが、ジープラント王国と国境を越えた交易をしておるだけあって商業組合は立派な石造りの建物なのじゃ。建物の前面に石造りのアーチを連ねた回廊のようなスペースがあるのはジープラント風であろうかの。ちょっとした異国情緒なのじゃ。

 入り口は開け放たれ、小綺麗なお仕着せを着た背の高い衛兵が立っておる。おそらく背が高くて見栄えがよいと言うだけの衛兵なのじゃ。


 その衛兵の横を涼しい顔をして通り、建物の中に入ると受付のカウンターテーブルが並び内側では沢山の職員が忙しなく働いておる。前世の役所か銀行と言った雰囲気なのじゃ。カウンターのこっち側にも結構な人数が既におる。混む前の早い時間に手続きをしようと言う人々であろう。

 どの手続きや問い合わせがどの窓口、と言うルールがあるのじゃろうがわらわは知らぬゆえ手近な所へ行くのじゃ。

 皆が最初から知っておるわけではない以上、一番手近なカウンターのものは案内を兼ねておるはずなのじゃ。受付におるのは仕事が出来そうなお姉さんじゃな。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。メイゼルキョルトの商業組合に何のご用かしら?」

「すまぬのじゃが、ジープラント王国、出来ればフォ・ミーネまで行くか戻るかする交易商でわらわ一人を相乗りさせてくれそうなものはおらぬかの。それを紹介してくれおるような窓口があらばそれを教えてくれぬかのう」

 わらわの背丈を見てか、えっと言う疑問の顔をして受付嬢は問い返してくる。

「あの、親御さんは? あなた一人って言ったみたいだけど」

「ああ、最初から説明せねばならぬの」

 そう言ってわらわはフードをはらう。露わになった金髪にちょっと驚きの顔になる受付嬢に苦笑しつつ考えておいた設定を説明するのじゃ。


「わらわは中央の方を回る交易商人の娘じゃったのじゃ。父は普段山越するような商売はしておらんかったのじゃが、山越する商人が減っておるゆえ新たに参入するならいろいろ便宜を図ると言う話に乗っての。それでヤーガトウムを越えてフォ・ヒセンまで来たのじゃが無理が祟ってか病に倒れ亡くなってしもうたのじゃ」

 フォ・ヒセンと言うのはイセンキョーの中央での呼び方なのじゃ。わらわの話に家出娘ではないと判断したのか受付嬢は真剣な目でこちらを見てくる。


「父の持ってきた交易品があれば戻り荷が無くとも他の交易商に相乗りさせてもらって中央に戻ることも出来たのじゃが」

 ここで一拍置くのじゃ。

「なんとか交易監督官の部下とやらが何の権利があってか父の馬車を丸ごと接収していきおったのじゃ。文句を付けようとも思ったのじゃが、わらわ自身の身の危険を感じたゆえ父の葬儀すらまともに執り行えぬまま逃げ出すことになったのじゃ」

「ゴドノローア卿ね。全く碌でもない」

 受付嬢が忌々しげに吐き捨てる。ゴドノローア卿の評判は悪いようじゃな。それと同時に消え去ったと言う噂はまだ届いておらぬ様なのじゃ。

 ちなみに完全な創作ではあらぬのじゃ。イセンキョーで噂話として聞いた実際にあった出来事を元にしておるゆえゴドノローア卿に関しては言われ無き風評被害ではないのじゃ。

 いやほんと碌でもない奴であったのじゃ。


「交易商仲間からジープラント王国のフォ・ミーネまで行けば西方域への船があると聞いて向かっておるのじゃ。まあ船代もそこで稼がねばならんのじゃが」

 はあ、と受付嬢は溜息をもらした。

「ゴドノローア卿に関しては遠回りになってもイセンキョーを通らない別の交易路を選ぶ交易商が増えているほどなのよね。あそこに入ってくる中央の交易品はまだまだ高い価値があるのだけど」

 受付嬢は愚痴じみたことを言いながら木札になにやら書き込む。


「そう言う事情ならちゃんと紹介できるわ。ちょっと待ってね。えっと名前は?」

「ミチカ、ミチカ=アーネヴァルトなのじゃ」

 違う名を名乗ろうかとも思ったのじゃが、呼ばれたときに反応できぬ可能性を考えてそのままなのじゃ。アーネヴァルトはマーリィが最後に呼んだ名ゆえアーネの正式な名なのじゃろう。面倒ごとと紐付いておる名かも知れぬのじゃがわらわはアーネでもあるのじゃ。

「わかったわ。少し待っててね、ミチカちゃん。あ、私はノイテよ」


 そう言ったノイテは他の部署っぽいところへ行ってなにやら話したり書いたりしたあと戻ってきたのじゃ。

「はい、紹介状よ」

 そう言って三枚の木札を重ねて置いて、三組の交易商についてどこに馬車があるかやどういう商人なのかを説明してくれる。

「上からお勧め順だから上から行ってみてね。全部マインキョルトまで行くわ。そして話が付いたらここに一回戻ってきて頂戴。えーと、混んでたら案内係が立ってるからこれを渡してね」

 紹介状の上にノイテの名前が書いてある木片を重ねながらそう言う。なかなか手間をかけてくれて感謝しかないのじゃ。

「ありがとうなのじゃ、ノイテさん。では行ってくるのじゃ!」


 早速行ってみた一番上の紹介状の交易商はエインと言う初老のおじさんじゃった。リーエと言う奥さんと一緒に話を聞いてくれて過剰に同情されてしまったのじゃ。

 ちょっと騙しておるようで心苦しいのじゃ。いやよう、ではなく騙しておるのじゃ。交易商の話と言うことで他人事ではないのじゃろうな。

 乗せてもらう交渉ではなくただでいいと言うエインさんに「商人の娘として相応の対価を支払わぬのは亡き父に怒られる」と言う理論で支払いを受け入れてもらう交渉が必要じゃったのじゃ。ちょっと気疲れなのじゃ。


 話がまとまったゆえ「魔法で水を出せる」と言うことを伝えたのじゃが大分驚かれてしまったのじゃ。これに関しては水を全部は降ろせぬが水樽を二樽降ろすゆえ、一樽分はわらわの交易品を乗せてよいと言うことになったのじゃ。ありがたい話なのじゃ。

 出発は明日で丁度よいタイミングじゃったのじゃ。護衛の冒険者とはそのとき顔合わせとなったのじゃ。これもちょっと楽しみなのじゃ。



お読みいただきありがとう御座いました。

少しでも楽しんで読んで頂けたら幸いに存じます。

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