魔法陣の研究なのじゃ
本日二話目です(2/2)。
少しでも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
うむ、よい目覚めなのじゃ。
寝る前は<賦活>切れで体が痛んで来ておったのじゃが、若さゆえと<遮光>の安眠効果ですっきりなのじゃ。寝る前の<遮光>で気づいたのじゃが魔法陣をしっかりイメージすることと魔力の流れを制御するのが上達したことで魔法の行使がより少ない魔力でより精密に行えるようになっておるのじゃ。
マーリィの真意は魔法具を作れ、ではなく魔法使いの基礎訓練として発動させる魔法陣を使いこなせ、であったのかも知れんのう。
さて今日の予定はどうするかの。昨日は<賦活>が半日ほど保っておったのじゃが、既に昨日より今日の方が発動能力が向上しておると自負しておるのじゃ。が、やってみておらんことを予定には組めぬゆえ移動開始は昼餉の後にするのじゃ。
まず朝餉前に石塀の見回りなのじゃ。目隠しの北方檜の壁があるゆえ明かりを派手に漏らしでもせぬ限り小鬼や豚鬼に気づかれることはあらぬし、おそらく石塀を越えれぬと思うのじゃが確認は必要なのじゃ。穴を穿てぬまでも目隠しや石塀に被害が出ておったら補修せねばならぬしの。
森林狼の類はその鼻の良さなどで発見しても進入はできぬゆえむしろ小鬼避けになるのじゃ。
うむ、内側からわかる異変は無しなのじゃ。塀で囲まれておる安心感はいいのう。石造りの建物で戸締まりしておるのと併せて魔物の徘徊する土地での寝所たるに適しておるのじゃ。
無尽庵は広すぎるゆえ狭いテントサイズのシェルターも考えたのじゃが安全性を考えると結局面倒な仕掛けを設置したりせねばならぬのじゃ。ゆえに少なくとも森を出るまでは無尽庵で暮らすことになろうの。
さて朝餉なのじゃ。
収納空間から取り出した卵を毒味の杯に割り入れる。そしてこの魔法具を起動すると、じゃ、うむセーフ! 毒ではないのじゃ。
どこまで対応しておるのかはわからぬが食中毒を起こすようでは毒味の杯として役目を果たせぬじゃろう。信じたぞえ、毒味の杯よ。
湯を沸かして酢を落とし、この卵を入れる。ポーチドエッグなのじゃ。
ポーチドエッグを塩抜きして焼いた塩漬け肉の細切りと共にサラダに乗せる。後は平焼きパンがあれば朝餉としては充分なのじゃ。
嗚呼、半熟美味しいのじゃ。
よし、美味しく朝餉も摂って気力も充分ゆえ今度は魔法具の魔法陣から魔法を修得できぬか検証なのじゃ。
先ずは壊れても構わないアレな効果の閨神の像を魔法陣が見やすいよう収納空間でバラすのじゃ。うむ、解体の設定を調節しつつよいバラし方をじゃな、これじゃな。って、閨神の像と命の魔漿石、そして魔法陣とは望み通りなのじゃが魔法陣を転写したものではのうて魔法陣そのものかえ。
予想外のことに驚いたのじゃが、解体を実行した結果、やはり転写する前の魔力で出来た魔法陣の状態で収納されておるようなのじゃ。これを取り出して木の板にでも焼き付ければ最初に想定したのと同じことなのじゃが、だ。
ぽちぽち。うむ、収納内の魔漿石の魔力を利用して複製できるのじゃ。
―魔力収納庫の機能が拡張できます 拡張しますか(Y/N)
これって魔漿石じゃなく自分の魔力で出来ぬのかのう、そう思った瞬間に視界の外側にメッセージと確認のダイアログが表示されたのじゃ。ちょっと心臓に悪いのじゃ。いきなりすぎてドキドキなのじゃ。
まあYなのじゃ。
ふむふむ。確かに魔力を収納庫に注ぎ込むことができるのじゃ。魔力を収納するって塩梅なのじゃな。むう、しかし大した量は注げぬのじゃ。拡張したばかりでレベルが低いと言うことかのう。
収納空間を確認すると下の方に魔力のバーが表示されておるの。そしてこれは収納空間内の作業に使えるだけでわらわに魔力を戻すことは出来ぬのじゃな。便利なような用途が限られておるゆえ微妙なような、まあ使っておるうちに判断できよう。
想定外の出来事で一瞬頭から吹っ飛んでおったのじゃがとりあえずチャージした魔力で魔法陣を複製なのじゃ。魔力のバーが減るのじゃが数値化されておらぬゆえ感覚的に注いだ少な目の魔力のうちの三割程度かな、と言う魔力量のスケールの大小がわからぬのじゃ。
まあよいのじゃ。ここから更に容量が育つともっとわからなくなるしの。
複製して予備を作ったところで収納空間から展開して木の板に転写する。魔法陣の構成要素は<賦活>や<早足>と共通する部分があるゆえ、パーツに分解するのもそう難しくはないのじゃ。変な特化をさせておる部分も何となくわかるのじゃ。それを取り除いた原型の魔法陣をパーツ分けして頭の中で組み立てる。あとはこれを呪文か祭文に対応させて作ることができれば魔術なり祈祷なりの魔法になるのじゃ。
まあ呪文はわからぬゆえ祭文となるのは当然なのじゃ。覚えておる祈祷の中から相応しい祭文を選び片っ端から試していけばよいのじゃ。
「生命の神の眷属にして 生けるものの活力の源泉に御座す御方よ
萎れた草花が再び天を向くが如く 地に伏せし獣が立ち上がり吼えるが如く
我らは生命の賛歌を声高く歌わん 生命の活力の滴よ いざここへ!
<強壮>」
で、できたのじゃ。
結構手間がかかったのじゃ。少し甘く見ておったの。試した祭文が適応しておらなんだら、それでも魔力が流れ出る上にそれまでに祈祷していた分の魔法陣も消えてしまうのじゃ。失敗しても魔力は消耗するゆえかなりしんどい作業となったわけなのじゃ。
出来上がった<強壮>はスタミナ回復効果のある治癒系の祈祷であった。付与効果の強い<賦活>に比べるとあっさりしておる。初級の祈祷と言ったところじゃろうか。<賦活>の効果切れの疲労に対して<強壮>を使い、再度<賦活>と言うブラック企業式の運用をする以外で使う当てはない祈祷なのじゃが、目的は魔法陣から魔法を修得することゆえ問題ないのじゃ。
他の魔法具もバラし、魔法陣を複製して修得していく。魔力を消耗するゆえ休んでお茶を飲みつつなのじゃが。
ついでにお茶休憩中にバラした魔法具を合成で戻せることも確認済みなのじゃ。
成果は<加熱><保温><創水><回転>そして<雷弾>なのじゃ。保温板が<加熱>と<保温>の二個の魔法陣で出来ていたのは驚きなのじゃが、それなのに魔漿石から魔力を引き出す魔力経路が一本であったゆえ余り温度が上がらなかったのではないかのう。そこを補強すると魔力燃費が悪くなるのじゃろうがの
おそらくなのじゃが、魔法具を作るのはほとんど魔術師ゆえ本来は魔術を封じてあったのじゃと思うのじゃ。しかしわらわは呪文を知らぬゆえ全部祈祷として修得したのじゃが、こうして修得できたのはそれだけ多くの祭文を知っておったゆえなのじゃ。マーリィに多くの神の、北方諸国群ではほとんど信仰されておらぬような神に捧げる祈祷まで学ばされた理由がこれとなるであろう。
ありがたく思うべきなのじゃ。とんだスパルタなのじゃが。
その他、効果時間を延長する魔法陣の追加要素も光明のランプの類に組み込まれておったのを学べたのじゃ。<雷弾>に含まれる魔弾射出の仕組みも理解したゆえ<光明>の光の玉を発射する照明弾みたいなバリエーションの<光明>を作ることにも成功したのじゃ。
なかなか有意義であったのじゃ。
読んでいただきありがとう御座いました。
益々寒くなるかと思いますが皆さまお気をつけて下さいませ!
#三千香が余り注意を払っていないため本編中で表記されておりませんが、機能拡張に収納空間の経験値やポテンシャルが消費されています。確認ダイアログが表示される理由ですね。