魔法具の研究なのじゃ
こんにちは。
寒いですね~。お風邪なぞひかぬようお気をつけ下さいませ。
自分はちょっと風邪気味です。
しかし今日も二話更新予定です。
こちらは一話目(1/2)。
二話目は21時更新予定です。
さて、夜に森を進むのは流石に危なっかしいゆえ昼に分別したままになっておる魔法具でも検分するかの。そう思い収納空間から魔法具を取り出し始めたわらわなのじゃが、
「なっ!」
いきなり敗北した気持ちになったのじゃ。片っ端から出して調べていこうとした第一番目、混ぜる部分がおそらく<念動>に類する魔法で回転するハンドミキサーなのじゃ。
「うぅ、クレーム・シャンティイを泡立てる前に見つけたかったのじゃ……」
貴族の屋敷の厨房の方が設備がよく見えたゆえそっちを基本に使っておったが商会の厨房の方が便利な魔法具などを積極的に取り入れておったようなのじゃ。貴族の屋敷の厨房は格式が高いゆえ、「本物の調理人は魔法具なんぞ使わねぇんだ!」みたいな愚かな伝統が尊重されておったのじゃろう。罠にかかった気分なのじゃ。
厨房関係の魔法具はハンドミキサーの他、保温板、経時箱、給水の水瓶の三つがあったのじゃ。保温板は温かくなる陶板で火力が足りぬゆえ調理には向かぬがこの板の上に置いておけば料理を温かいまま保持できる優れものなのじゃ。収納空間があれば不要なのじゃが。まあ、長時間弱火で煮込むくらいには使えるかの。
経時箱は<経時>を封じた箱状の魔法具なのじゃ。やはり燃費が悪いらしく小さめじゃが魔漿石が三つも嵌まっておる。これも自分で<経時>が使えるゆえ箱に入るものと言う制限があるこれは不要なのじゃ。
そして給水の水瓶なのじゃ。
これは素晴らしいのじゃ。瓶の内側に魔法陣が描かれ、緑色の魔漿石が嵌め込まれた水瓶で<給水>の魔法によって水が補給されるのじゃ。そろそろ水を汲まねばならぬと思っておったのがこれであわてる必要がなくなったのじゃ。
魔漿石はおそらく水の属性を持った希少な魔漿石なのじゃ。取り回しを考えると自力でも<給水>を使えるようになりたいものじゃ。
厨房関係ではない魔法具はまず生活魔法が封じられたわかりやすいものがそこそこあるのじゃ。光明のランプやカンテラと言った<光明>が封じられたもの、扇風機代わりなのか<微風>が封じられたそよ風の筒箱、そして<洗浄>が封じられた洗浄棒の類じゃな。それぞれ複数あるゆえ後で魔法具の構造を学ぶためにバラすのじゃ。
これらは修得してなくても使えるのじゃが、修得しておれば自分の魔力で増幅したり魔漿石の魔力を節約して使ったりも出来るゆえ便利なのじゃ。<光明>は品質のよい魔法具には持続時間強化が組んであるようなのじゃ。机上用のランプは執務室に、品質のよいカンテラは使う機会があるかどうかは怪しいのじゃが背負い袋にでもぶら下げておくとするのじゃ。
基本の生活魔法以外の魔法具はあまりなく四つだけなのじゃ。
まず注がれたものの毒性を判定する毒味の杯。自動発動ではなく杯の中に対象を入れた後魔法具を起動させるゆえ会食中に使うのははばかられそうなのじゃ。
次に単に台座の上の柱状の水晶がくるくる回るだけの魔法具、いやこのくるくるはハンドミキサーの原型かや。おそらく<念動>の効果を限定した魔法なのじゃ。あー、光明のランプを後ろに置くとキラキラするのじゃ。これだけではホントにお遊び的な魔法具なのじゃが、ハンドミキサーの他紡績や船外機など応用が利きそうな可能性は溢れておるのじゃ。
そして特殊な体力増強の魔法具。<強壮>と言う体力増強の魔法をじゃな、そのじゃ、あれなのじゃ、まあ男性の夜の生活に特化した形で封じてあるのじゃ。閨の神の神像が魔法具になっておる。閨の神とは言え神像を破壊するのは気がひけたゆえバラすのは保留しておくのじゃ。
最後に<雷弾>が封じられた短杖。攻撃魔法は魔力の消費が大きいゆえ魔法具としては効率が悪いと聞くのじゃ。少し大きめの魔漿石を竜の爪が握っておるようなデザインなのはそれゆえじゃろう。
そして攻撃魔法の魔法具は製造や所持に制限を設けておる国や城市が多いゆえ余り出回っておらぬそうなのじゃ。これもダンジョン産かも知れぬのう。
魔法具をじっくり見てみるとじゃな、基本の構造は簡単なのじゃ。魔法陣と魔漿石が組み合わされておるだけなのじゃ。魔法具の品質としては素材の属性やらを魔漿石の質やらが関係するようではあるのじゃがな。
生活魔法であれば魔法陣も気にせずそのまま刻まれておるが、それ以外は余計な装飾の線が引かれてわかりにくくされておったり魔法陣が魔法具の内部に入ってしまうように隠されておったりするのじゃ。
正直わらわでも簡単なものなら作れる気がするのじゃ。問題は魔法陣を写すのが手作業なのか魔力的なことなのか、じゃな。これはまあおそらく魔力的なやり方なのじゃ。
マーリィがわらわに<賦活>の魔法陣を見せてくれたのは単に<賦活>を目で盗ませてくれたに留まらず、魔法陣に魔力を多く注いで見やすいように光らせた技術も伝えようとしたのではないかの、と思うのじゃ。要はあの要領で魔法陣の性質を転写用に変化させられるのではないかのう。
思い立ったらやってみるのじゃ。実験ゆえまずは害のなさそうな<光明>なのじゃ。
祈祷とともに魔法陣を意識する。形成される魔法陣のパーツに魔力を注ぐ、その流れを意識して更に魔力を流し込む。うむ、魔力の消費が高いわ集中力が必要じゃわで疲れるのじゃ、これ。
しかし、おかげで魔力の流れとか細部の魔力調整がわかってきたかもなのじゃ。マーリィがやったように魔法陣を光らせるのは簡単なのじゃが、どう転写するのかのう。焼き印を押す感じで、ほりゃ!
木の板に魔法陣を押し付けると魔法陣の型が木の板の上に残る。成功じゃが失敗なのじゃ。焼き印のイメージと考えたのじゃが別に焼けてはおらず魔法陣が描かれておるのじゃ。ここまでは成功なのじゃが、魔法陣の細部が潰れておるゆえこれでは使い物にならぬのじゃ。
光ってぼんやりしておる部分はぼんやり焼き付くのじゃ。細部までしっかりイメージを持って魔法陣を完成させる必要があるようなのじゃ。
「うぬぅ。魔力の扱いが格段に上達した気がするのじゃ」
何度目の挑戦であったか、遂に満足の行くクリアな魔法陣が木の板に転写されたのじゃ。集中力を要する作業の連続でぐったりなのじゃ。
あー、ジャム入りのお茶が美味なのじゃ。
気を取り直して軽くその木の板に描かれた魔法陣に魔力を流すと<光明>が無事発動したのじゃ。続いて収納空間からクズ魔漿石を取り出して魔法陣の上に置き、起動するためのほんのちょっとの魔力を流すとクズ魔漿石の魔力でもきちんと発動したのじゃ。うむ、魔法具作成の基本構造はこれで成功なのじゃ。基盤の回路図が出来ただけのようなものなのじゃが魔漿石を埋め込めばそれで一番簡単な魔法具が出来上がるのじゃ。
完成して気が抜けたのかちょっとぐったりなのじゃ。いやこれは魔力の使い過ぎと<賦活>の効果切れが近づいておるのじゃろう。
戸締まりを確認してとっとと寝るのじゃ。
お読みいただきありがとう御座いました。