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後始末なのじゃ

あけましておめでとうございます。

旧年中は拙作にお付き合い頂きありがとうございました。

今年もお付き合いしていただけたら幸いです。


では皆様の一年が良いものでありますように

「マーティエー! ご無事ですかぁああ」

 大声と共に走ってくるのは警邏隊の一群なのじゃ。なにやら冒険者風の者も混じっておるのじゃが基本ゲノール隊長と愉快な仲間たちで間違いあらぬようなのじゃ。

「おう、クグルを逃がすなよ。そいつを押さえるのが最優先だ!」

 ジーダルの声に視線を戻すとわらわ等の目が走ってくる警邏隊に向いた隙にへたり込んでおった紛い物の男がそのまま四つん這いで逃げ出そうとしておったのじゃ。見苦しいのじゃ。

 バッジ等がすぐに駆け寄り蹴り飛ばし、転がったところを囲んで蹴り出したのじゃ。容赦はあらぬようなのじゃ。


「こんな輩が重要なのかや?」

 素直な疑問なのじゃ。

「下っ端の元締めみたいなもんでクソの役にも立ちやしねえが、こいつまで押さえりゃあとは下っ端じゃねえ奴が出てくるしかねえのさ」

「人材が貧相な奴儕やつばらじゃの」

 此奴より下はもう本気で下っ端しかおらず、上は上でなんとか兄弟と言う者共と冒険者の頭に元が付く本丸に近いジーダルのライバルしかおらぬそうなのじゃ。もはや冒険者内の勢力に関しては掃除完了に近いの。

 とは言え冒険者協会内のつまりは職員を含めた内部には注意が必要なのじゃが。

 そして、なのじゃ。


「ああ、なんとかパーネじゃったかのことも訊きたいのじゃがまずは治療をやってみるのじゃ」

 紛い物の男の言い方からするに地回りなんぞの親玉やら上位組織やらだとは判っておるのじゃ。話し合いや連絡で聞いた覚えもある気がせぬでもあらぬのじゃ。曖昧な記憶なのじゃが、その曖昧さはわらわにとってその程度のものに過ぎぬものじゃと言うことなのじゃ。

 ジーダルに押さえ込まれた包帯男に近づき治療を開始しようと思うたあたりで駆けてきたゲノール隊長以下の警邏隊が到着し、手伝いに入ってくれたのじゃ。


「出がけに、何故か、非番のはずなのに我々と同じ方向に出動しようとしている隊がありましてね。ちょっと手間取りました」

 何故か、を強調するのじゃが警邏隊への連中の影響はなかなかに根強い様子なのじゃ。しかし、影響力の強さはそれだけ太いラインが後ろにいる者まで繋がっておると言うことで支隊長と密偵殿の良い獲物でもあるということなのじゃ。

「ジーダル推薦の冒険者を協力者に雇っていますんで首尾は上々です。倉庫街の外周に網を張ってから走ってきましたんで逃げた連中もしっかり捕らえられているはずです」

 つまりはわらわとジーダルが餌となって釣り出した相手を一網打尽とするために警邏隊と協力の冒険者等で囲んでから来たという話なのじゃ。本人等としては出がけにゴタゴタせねば戦闘に間にうたのにと悔いておるのじゃがむしろいいタイミングであったのじゃ。


 何はともあれ奇声を上げる包帯男を体格の良い警邏隊の隊員が三人掛かりでしっかりと拘束してくれたゆえ治療の開始なのじゃ。

「まず頭の傷なのじゃ。ジーダル、いやだれぞ多少でよいゆえ魔力の扱いが出来るものがおれば魔漿石を押し当てて魔力を押し込むのじゃ」

 単に持たせるだけでもなんとかなるはずなのじゃがちと厳しい治療になると見て魔力の供給をしっかりしておきたいのじゃ。

 はい、と名乗りを上げて前に出てきた冒険者に魔漿石を三つばかり渡して頼むのじゃ。

「クシシュ、頼む。ミチカもな」

 魔力扱いから戦力外通告されたジーダルがそう言うて来るのじゃ。任せておくがよい、と言いたいところなのじゃがまずは負傷具合の確認からなのじゃ。


 まず包帯を、うむ、乾いた血で貼り付いておって離しにくいのじゃ、少々痛そうなのじゃが我慢してもろうてバリバリと剥がすのじゃ。かなり酷い傷でしかも包帯を巻いただけでまともな治療を施されておらぬのじゃ。傷が腐っておらぬのは寒冷地ゆえの僥倖と言ったところかや。

 それだけではのうてなにやら不自然さを感じたゆえチート対応なのじゃ。

 不必要なのじゃがぱっと見の説得力を持たせるために傷に手を当て、そして引いた手には指に摘ままれた釘が現れるのじゃ。

「こんなものが傷から頭にねじ込まれておったのじゃ。よく生きておったの」


 やり方は収納空間の応用的使用法なのじゃ。

 林檎が入った木箱を収納すると、収納空間内で林檎と木箱に分離解体できるのじゃ。

 これを応用して取得を選択するときに『林檎の入った木箱』から林檎だけを取得収納してしまうことが出来るのじゃ。これはなかなか難しゅうてこの技術を修得するのにはかなり手間取ったのじゃ。

 最近あまり使っておらぬとは言え大事な能力チートゆえ発展上達の労は取っておるのじゃ。

 それは兎も角、包帯の男から『呪いの鉄釘』なんぞというろくでもあらぬものを収納して展開して魔法か手業かで指で摘まんで取り出したかのように見せかけたわけなのじゃ。


 鉄釘には魔法陣やら文様が刻んであるのじゃが、正直無意味そうなブツなのじゃ。使つこうた奴は釘の呪力を信じておったのやも知れぬが、これは単純に正気を失うほどの痛みを与えて生まれた思考の空白に無理矢理歪んだ思考をねじ込むという術の使い方になっておるのじゃ。

 麻薬のような薬物も使っておるのであろうの。残念ながら向精神性の物質を血中から収納するのはわらわにもまだ出来ぬのじゃ。普通に<解毒>と<平穏>の出番なのじゃ。

 しかし本当に生きておるだけで運がよい、と言うしかない乱暴な処置を受けておるのじゃ。


「ただ、頭の中に相当な傷を受けておるゆえ傷を治せても元通りの人物に戻れるかどうかは運任せになるのじゃ」

 言外に最悪の事態を覚悟せよと告げて包帯の男に向き直るのじゃ。まずは麻薬の効果を消し、傷を消し、痛みを緩和し、そして認識を歪ませる要因を取り除いてから<平穏>で洗脳の術をふるい落とす、手順をそう確認し魔漿石を使う担当に合図をして取りかかるのじゃ。

「頼む」

 釘を受け取って握りしめたジーダルの声を聞きつつ魔法陣に集中なのじゃ。


「ふん。リーディンやわらわに解呪されておることが伝えられておるのか術阻害の陣立てが追加されておるのじゃ。しかしこの術師には才能が足りておらぬのじゃ」

 老リーディンが<解析>しながら祈祷しておった理由がよう判ったのじゃ。わらわも気をつけることにするのじゃ。

 しかし言うた通り下手くそな陣立てなのじゃ。元々の陣は術の邪悪さを横に置けばなかなかに洗練された完成度の高い魔法陣なのじゃがカスタマイズを施した者の腕前は二流といったところなのじゃ。無駄に中心部に割り込ませておったりする要素から己の実力に見合わぬ自信の過剰さとそれに伴う自己顕示欲の強さを感じるのじゃ。

 無論、わらわの偏見なのじゃ。


 渡した魔漿石は皆割れてしもうて更に追加を渡したのじゃが、追加が割れるよりははよう祈祷治療は完了したのじゃ。

 わらわのほうの魔力には問題あらぬのじゃが、かなり集中したゆえ精神的には疲労感があるのじゃ。

「しかし、予後のことは判らぬのじゃ」

 穏やかな呼吸音で気を失ったままの包帯男、いや元包帯男を見やりながらそう言うのじゃ。

「ああ、頭の負傷が危険なことは判っている」

 脳への損傷は祈祷で形を治しても後遺症が残る可能性が高いのじゃ。


「バルダリはよ、足が速えだけじゃなくて長時間走るのも得意でさ近くの村やら隣の城市やらまでの簡単な届け物なんかをよく請け負ってる奴なんだ。何日か前にそう言う依頼で雪が積み出す前に行って帰ってくると言ってたんだ」

「その依頼が最初から罠だったのか、その依頼の情報を元に帰り道で網を張られたのかどっちにしろ調べる必要がありますね」

 バッジが真面目な顔をしてジーダルの言葉を受けてそう言うたのじゃ。なんとのう真面目に頭を使つこうておるのが似合わぬのじゃ。

「とりあえずコイツから聞き出せるものは全部聞き出しておくさ」

 元包帯男、バルダリを運ぶために担架代わりの戸板や毛布を調達してくるよう部下に指示しておったゲノール隊長がむすっとした顔で拘束されて転がされておる紛い物の男へと顎をしゃくったのじゃ。


 バッジもなのじゃが、ゲノール隊長もジーダルとかなり打ち解けておるのじゃ。食事会が初対面であったようなのじゃがいろいろと情報の交換をした結果仲良うなったのじゃろうかの。

「そう言えば其奴がなんとかパーネとか言うておったのじゃが、聞いた気がせぬではないのじゃが」

 と覚えておらぬことを言葉を濁しつつ言うと紛い物の男が拘束されたまま暴れ出したのじゃ。

「し、知らねえ! 俺は名前なんて出してねえから!」

「さっきの破落戸の動きからしても関係を匂わせるだけで始末されるようじゃの。虚仮威しが激しいものなのじゃの」


「そうですね。そう言う過剰な恐怖で統制できるような屑連中を束ねている組織です。元々は地回りやヤクザ者の間の利権の分配や調整をする上部組織ってところですが、暗殺者を囲っているという噂があります」

「要は子どもを脅す連中と味方の振りをして騙す連中が裏で繋がって役割分担しているって話の、その裏だ。何度か話をしたぞ」

 ゲノール隊長は既にバッジ等に結構踏んだり蹴ったりされておる紛い物の男に更に蹴りを入れて黙らせそう説明してくれたのじゃ。捕虜や虜囚の権利についてはこの世界では文化的に未発達な分野なのじゃ。

 そして説明をしたことがあるとジーダルがジト目で言い足したことはスルーておくのじゃ。


 利権を分配することで抗争を予防し、抗争に発展した場合も適当なところで手打ちを斡旋し調停する、と言う機能が昔は必要悪と見なされて権力とも裏で通じていたそうなのじゃが、それも今は昔、中央集権化が進む前の地方領主が城市を支配しておった頃の話なのじゃ。

 体制の変化と共に治安は改善し、領主や貴族の息のかかった密輸なんぞというものものうなってヤクザどもの生存環境は大幅に縮小し当然裏のフィクサー組織も廃れたのじゃ。


 そう言えばその昔は領主の旗を掲げた船が抜け荷をしておった流れから港湾協会は旧領主系の貴族の影響力の残る城市の行政府より国官の支配する総督府とのほうに近い立場をとっておるとかタンクトップおじさんが言うておったような気もするのじゃ。

 それはどうでも良いとして、権力を減じておる旧領主系の貴族がその何とかパーネとの繋がりを持っておりそこで行政府の変な動きをする連中ともラインが通じておると言う絵図面が見えてくるのじゃ。

 どうであっても叩き潰すのみゆえ気にかけるほどのことはあらぬ、つまりは聞き流しておったわらわは正しいのじゃ。うむ。


「時代の変化について行けぬと言うことは悲しいことよの。同情はせぬのじゃが」

 ゴルバが殴り倒した者の他、結局逃げ出しても警邏隊の網に掛かり捕らえられた者等も連れてこられ警邏隊に連行されていく光景にわらわはそうこぼしたのじゃ。

「そうですね」

 バッジ等三人組もあるいはそちら側であったやも知れぬと言う立場ゆえか少し浮かぬ顔をしておるのじゃ。


「なんにせよ、冒険者のほうは残った下っ端も少ないがそれを動かすにも上の連中が直接出張るしかないとこまで狩った。そして地回りだとかのチンピラ連中も裏の構造まで知られたことを自覚したはずだ」

 即席担架に乗せられて気を失ったままのバルダリが運ばれていくのを見送ったジーダルが強い意志を潜ませた声色でそう言うたのじゃ。

「つまり、次が本番、と言う準備は整ったというわけじゃの。ゆめ油断はせぬのじゃ」

 なんとのう首を突っ込んでいつの間にやら抜き差しならぬ深みまで踏み込んでおる気がするのじゃが、しっかりと決着をつけてやるのじゃ。

 わらわもそう決意を込めたのじゃ。


お読み頂きありがとうございました。

あと誤字報告などもありがとうございました。更新が滞っている間で対応が遅くなりましたが深く感謝いたします。


次からちょっと閑話とか掌編じみたものを数話挟むかもしれません。

よろしくお願いします。

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