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犬耳コントロールなのじゃ

お久しぶりです。

更新の間が開いてしまい申し訳ありません。色々リアルであったのですが言い訳は割愛です。


二話分くらいの文字数になってしまったのですが分割せずに投稿です。よろしくお願いします。


来年はもう少し何とか更新出来るよう努力します。

では良いお年を

「此奴等は素人なのかや?」

 目前の光景に思わずそんな言葉が口をついて出たのじゃ。

 路地からわらわらて出て来おった冒険者、と呼ぶより冒険者崩れと呼ぶほうが相応しい破落戸どもに少々呆れたのじゃ。

 人の潜む気配のある路地を過ぎたところで先の路地と背後の路地から挟み込むのが普通に考える常道としておったと言うに、どうやら此奴等は全員一緒の路地に潜んでおった様子なのじゃ。

 無論わらわ等は此奴等を釣り上げる気で動いておった以上振り向いて逃走はせぬのじゃが、襲撃犯の側は素人との誹りは免れ得ぬのじゃ。


 しかしある意味虚を突かれたゆえ先手をとられたとも言えるのじゃ。不覚なのじゃ。

「挟み込むために人を割くと別働隊がそのままけるかも知れねえですからね」

「或いは一応後ろの路地にも伏せていたけど既に逃げたのかもですぜ」

 わらわが虚を突かれた理由が分かったのかバッジたちがそう解説を入れてくれたのじゃ。

「な、舐めてんのか!」

 ならず者どもの頭らしい男がわらわとバッジ等の会話にキレて騒いでおるのじゃ。おそらくなにやら口上を述べようとしておったのじゃろうの。

 聞く気もあらぬのじゃが。


 しかし、この男がなんとか言うろくでなしの冒険者なのであろうの。だらしない雰囲気の中年冒険者で鉛の首飾りをじゃらじゃらと下げておる、おそらく元は金の鍍金が施された紛い物で安物らしゅう鍍金が剥げておるのじゃろう。冒険者の紛い者らしいアクセサリーなのじゃ。

「ふざけてねえでその餓鬼を抑えろ!」

 紛い物の男はそうバッジ等に怒鳴ったのじゃ。

 ふと目線を横に飛ばすとジーダルが微かに懸念の色を顔に浮かべておるのじゃ。たまにこういう可愛いところがあるのじゃ。


「はっ。何で手前なんぞの指示を聞くと思ってんだよ」

 前面禿、いやバッジは木の棒を構えて一歩前に出つつそう言い放ったのじゃ。同時に犬耳のゴルバはわらわの前に出て護衛の姿勢、まあ意気は買うのじゃ。

「お前等裏切りやがったのか!」

「最初から仲間じゃねえだろ。第一なんだそいつ等はよ。冒険者じゃなくて街の破落戸が混じってるじぇねえか、恥を知れよ」

 髭面のラーリがそう言い返しておるのじゃ。破落戸と同一視されることも多かろうが本当に破落戸と同じでは一応は冒険者であるという矜持が傷つくのであろうの。襲撃者の中の何名かもその言葉に厭な顔をしておるのじゃ。


「手前ぇ、この犬っころが躾られてやがんのかよ!」

「強いほうに尻尾を振るのは別に恥じゃねえさ。特に強いほうに道理や義がある場合にはよ!」

 以前は犬呼ばわりにマジギレしておったというのに人間的に成長しておるのじゃ。ちょっと感心してゴルバの背中を見たのじゃ。うむ、良い背筋をしておるのじゃ。

「お前等こそどうなんだ。破落戸を連れてくるような連中の下っ端として裁きの場に引き出されることになんだぞ。それでいいのか」

 続けるゴルバの言葉で冒険者崩れどもの間に動揺が走っておるのじゃ。


「るせー! この人数見えてんのか! お前等俺にはこの兄さんたちを貸してくれるような後ろ盾がついてんだぞ、気を入れて働け」

 紛い物の男が平静を失って怒鳴り散らしておるのじゃ。後半は及び腰になった冒険者どもへの叱咤なのじゃが、此奴の背後におる黒幕連中は元々地回りどもと冒険者を別に動かしておったのにその余裕が失せてきておるというだけのことでもあるのじゃ。

 どちらにせよこの男はある程度の内部情報を握っておるは確かなようなのじゃ。うむ、良い獲物が釣れたと言えるのじゃ。

 そう思うてジーダルのほうをちと見やるとジーダルはおそらくはバッジ等が裏切らなんだことに対する笑みを軽く浮かべてわらわに頷き、木の棒を構えなおしたのじゃ。


「人数か。こいつ等程度で俺の相手になると本気で思ってんのか、クグル? それとも路地にまだなんか居るようだがそっちが俺の相手か」

「へへっ、そうですぜ。あの方がジーダルさんのために準備してくれたお相手ですぜ」

 紛い物の男がそう言うと同時に路地から破落戸が麻袋をかけられた男を引きずり出してきたのじゃ。袋の上からも縛られて暴れておるのがわかるのじゃが、これは人質の類かや、と緊張したものの破落戸はすぐに袋と縄を外したのじゃ。

 瞬間、ジーダルが息を呑んだのじゃ。


 冒険者風の男なのじゃが頭には包帯代わりの晒し布を巻いておってその布は血で赤黒く変色しておるのじゃ。その男は常軌を逸した獣じみた目で何か吠えるのじゃが言葉になっておらぬ、のじゃが全く理性があらぬ訳ではのうて破落戸が投げ渡した長柄の武器をちゃんと受け取り、ジーダルへと駆けだしたのじゃ。

「グガガ ずぃいいだぁあある!」

 獣のごとく吠えながら長めの刀身が柄の先についた長巻か大薙刀のような得物を振り回す、まともな情動を失っておるようなのじゃが体に叩き込まれた技術は失われておらぬのか確かな斬撃なのじゃ。


「バルダリ!」

 ジーダルが木の棒で受け流しつつ余裕を失った声で叫んだのじゃ。

 知り合いを刺客に仕立てる、という策なのじゃろう。卑劣な策ではあるのじゃが、味方の顔をしたまま近付いて刺す、という行為をさせ得ぬと言う推測を裏付ける使い方とも言えるのじゃ。

「術をかなりおかしな具合にかけられておるようなのじゃが、何にせよ大人しゅうさせねば治療を試みることも出来ぬのじゃ」

「応、わかった!」

 ジーダルは短くそう言うと赤黒い包帯巻きの男に向き直ったのじゃ。包帯の血の具合から見るに結構な大怪我をしておるようでそれもまた手加減をしにくそうなのじゃが、ま、ジーダルに任せておけば大丈夫なのじゃ。

 さらに横からちょっかいを出す策も講じておるかや、と軽く周囲に気を配りつつ、わらわは雑魚どもの相手と参るのじゃ。


 雑魚ども、冒険者崩れや破落戸も剣や手斧を構えだしておるのじゃ。城市内であることを無視する勢いなのじゃがそれだけ追いつめられておると言うことなのじゃ。

 正直紛い物の男に「抜け」と言われた冒険者崩れの連中の顔色は悪いのじゃ。しかしそれも此奴等自身の選択した結果ゆえ別段手加減してやる必要も感じぬのじゃ。


「バッジ、ラーリ。其方等は二人で互いにフォローしあって身を守ることを優先するのじゃ」

 数だけはおるゆえ三人組がそのまま戦うには荷が勝ちすぎておるのじゃ。ジーダルや、無論わらわには大した脅威ではあらぬのじゃが。

「わかりました!」

「はいっ!」

 うむ、変な矜持を主張せず素直にうべのうたのじゃ。ちゃんと己の分を知っておるのは高評価なのじゃ。


「ゴルバ、其方が彼奴等を叩き伏せるのじゃ」

 わらわは犬耳のゴルバの背中に手を押し当て、そう言うたのじゃ。

「え? ええっ!」

「なに、わらわが戦い方を少々其方に教えてやるのじゃ。懸かっておるのは此奴等の命に過ぎぬゆえ気楽に構えるが良いのじゃ」

「それってどう言うっ」

 慌てる尻尾の動きを堪能しつつ、言うよりやってみたほうが早かろうと背中に添えた手から魔法陣のみの無詠唱発動で祈祷を呼ぶのじゃ。祭文を唱えぬ時点で祈祷ではのうて、かと言うて魔術でもあらぬゆえ、ただ魔法と呼ぶべきかも知れぬのじゃがまあ良いのじゃ。


 <賦活>と幾つかの補助的な祈祷を施すと同時に身体の動きをガイドするための<念動>を紐状にイメージしてゴルバにまとわせたのじゃ。

 その魔法のフィードバックで獣人の骨格や筋肉のつきかたが僅かばかり通常の人間とは異なることがわかったのは収穫なのじゃ。

 前傾姿勢に向いておるゆえうるさく頭を下げろと言わなくとも低い姿勢で入っていけそうなのじゃ。ボクサーに向いておるの。

 そう、木の棒ではのうて手に革の装具を巻いて殴り合う装備をしておったゆえちょっとばかり教練してやりとうなっただけなのじゃ。


「手に負えぬようであらばわらわが代わるのじゃ。しかしの、わらわは結構この連中にご立腹なのじゃ。下っ端どもではのうて裏に潜んでおる屑どもに対して、というのが本当なのじゃが」

 <賦活>などの効果が身体に行き渡ってちょっとびくっとしたゴルバの姿勢を<念動>のサポートを入れつつ手でも動かして骨格に見合ったインファイターのスタンスに調整したのじゃ。

 よし、良い感じなのじゃ。ぽむぽむと良い筋肉を叩いてわらわは続けるのじゃ。

「ゆえに、わらわが代わると手加減してやれぬやも知れぬの。この連中に顔見知りがおって死なせとうはないと思うのであらばしっかり殴り倒すことで此奴等の身を守ってやると良いのじゃ」


 要はわらわから守ってやれ、という話なのじゃ。実際に代わることとならば手加減くらいはしてやるのじゃがゴルバのモチベーションアップのためなのじゃ。

 三人組の顔が完全に真に受けておるそれなのじゃが、うむ、此奴等はそう言えばうっかりわらわに殺されかけたのであったの。真剣味が増してよいことなのじゃ。

 そ、そう言うことにしておくのじゃ。


「はいっ、姐さん! よろしくお願いします、というか体がほんとに軽いんですが!」

 わらわの内心のやらかし反省は兎も角、ゴルバはやる気になっておるのじゃ。対する冒険者崩れや破落戸のやる気も増しておるのじゃ。

「ざっけんな、小娘!」

「生活魔法のお遊びでバッジ程度を負かせたくらいで調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 自分等の置かれたかなり危うい立場に少々腰が退けておった冒険者崩れのやる気が増してしまったのはどうかとも思うのじゃが良い教練相手になったと見なすのじゃ。


 それにしても此奴等のわらわに対するイメージは生活魔法を使う幼い魔法使い、と言う認識が強いのじゃ。豚鬼オークを狩ったときの祈祷なぞについては伝わっておらぬあたりに冒険者協会ので情報の分断工作の確かさを感じるのじゃ。

 収納してしまえば一瞬ではあるのじゃが、それ(チート)を使うまでものうて街中であることを気にせず祈祷をまき散らせばそれもまた瞬殺出来る相手に過ぎぬのじゃ。わらわのその実力をちいとも把握しておらぬのは可哀想になる、いや、ならぬのじゃ。


 そんなのんきな考えをしておったら破落戸が突っ込んできたのじゃ。ゴルバの頭を下げさせ大振りで振ってきた短刀をくぐり、潜り込んだ懐からショートフック。呆れるほど見え見えの大振りであったゆえ冒険者崩れではのうてプロ破落戸かや。まあ良いのじゃ。

 姿勢の崩れた相手の顔にジャブ、ジャブ、それに対して慌てて身を守ろうとする破落戸なのじゃがガードスタンスをしっかりとるわけでものうてバタバタと武器を振り回すだけの無様な防御の隙間に対して完璧な距離とタイミングで打ち抜いたストレートで撃沈、なのじゃ。


 手際の良さにか破落戸どもが息を呑むのじゃ。舐めてかかれる相手ではあらぬとやっと認識したようなのじゃ。判断は遅きに失しておるのじゃが。

 それでも雑魚とは言え武器を持っておって数がおるゆえゴルバにとってはなかなかタフなスパーリングパートナーなのじゃ。此方も少しは気を引き締めてやるとするのじゃ。


「なんすか、この拳の威力」

「正しいパンチの撃ち方なのじゃ。身につけるが良いのじゃ!」

 蹴り足から腰、そして体幹を経て力を完全に乗せて放たれる拳は手打ちのひょろひょろパンチやバカみたいに振りかぶって反動をつけた当たりもしない大振りテレフォンパンチとは大違いなのじゃ。

 回転をコンパクトにすることでインファイトでも力を完全に伝えることができるのじゃ。

 もともとはゴルバもおそらく力任せに腕を振り回すだけであったのじゃろう。筋肉がそう言っておるのじゃ。


 最初はゴルバの背中に手を当てておったのじゃが背が足りぬゆえ腰のあたりを掴んでコントロールしておるのじゃ。

 だんだん楽しくなってきたのじゃ。

「なんじゃこりゃ!」

「ゴルバがこんな強ええはずがねえよ!」

 冒険者崩れが慌てておるのじゃ。うむ、上出来なのじゃ。これはあれなのじゃ、わらわテイマーという奴なのじゃ。少し違うかや。

 実際の話、今のわらわの美少女ボディよりゴルバのほうが前世のわらわの身体に近いリーチをもっておるゆえ扱いやすいのじゃ。

 そしてゴルバのほうもわらわのコントロールに慣れてきておるのじゃ。


 ダックして躱し、踏み込んでボディ。そしてアッパーでジョーを叩き上げる。と、破落戸よりは少しはましな動きで短剣を突き込んできた冒険者崩れを流れるようなコンビネーションで倒したのじゃ。

 これで五人かの。

 ちなみにゴルバにダックさせるとわらわのほうに短剣が迫るのじゃがそれは軽くサイドステップで避けたのじゃ。

 とりあえず何の戦果も出せぬままはや五人が沈められて冒険者崩れ等の士気は下がって来ておるのが目に見えるのじゃ。


 うむ、バッジ等二人のほうもなんとか身を守れておるのじゃ。無理をせず建物の壁に寄って二人でフォローしあっておるの。思いの外有能な動きと言えるのじゃ。評価をあげておくのじゃ。

 ジーダルは長柄の武器相手に木の棒という不利な状況でも安定感があるのじゃ。しかし術をかけられた旧知のもの相手で手加減も難しくそこは苦慮しておるようなのじゃ。


 破落戸の数はまだおるのじゃが紛い物の男は目に見えて焦ってきておるのじゃ。

「ど、どうなっていやがるんだ! お、おい、どうにかしろよっ!」

 紛い物の男は焦るばかりで全く頭として機能しておらぬのじゃ。なんと言うかなにを以て偉そうに振る舞っておったのか判らぬの。

 しかしその焦った叫びに応じて若手の冒険者崩れがなにやら叫びながらゴルバとゴルバをコントロールしておるわらわに向かって踏み込んできたのじゃ。しょぼくれた中年が多い冒険者崩れ衆の中、数少ない若手なのじゃがその分(すさ)んだ色が深いのじゃ。

 若手の多くは修道会から回しておる仕事を請けて冬を過ごしておるものも多く、盤上遊戯にも積極的で祝聖期のお祭での手伝い仕事に確保しておると報告を受けておるのじゃ。そう言う若手の輪に入り損ねた男なのじゃろうの。哀れを覚えるのじゃが、それはそれなのじゃ。


「うぉおお! 食らえ、【強げッ…」

 若い男が大きく剣を振りかぶってなにやら叫ぼうとしたのじゃが、なにをやっておるのじゃ。敵の目前で。

 ゴルバのジャブが剣の柄を握った若い男の拳を打ち、柄とゴルバの拳の間で骨を痛めたらしい絶句で叫びは止まったのじゃ。

「卑きょッ」

 若い男は剣を取り落としつつ更になにやら言おうとしておったのじゃが剣という間合いを遠ざける障害物が失われたことで軽々と踏み込んだゴルバのワンツーが顔の正面に叩き込まれ鼻血で石畳を汚しながら転がったのじゃ。


「ちっ、役に立ちやしねえな」

 わらわ等が若い男を正面としたときの背後のほうに回ろうとしておった此方は中年の冒険者崩れが吐き捨てながら剣を横薙にする体勢に構えて踏み込んできたのじゃ。

 気合いと共に放たれる剣がなにやら霞を纏ったように見える、いや霞で剣筋が見えぬ、と言うべきかや。

 面白い技なのじゃが剣を合わせて剣戟を交えるつもりのあらぬボクサースタイルには意味があるとも思えぬのじゃ。掴んだゴルバの腰を引きつつ一緒にバックステップ、一応更なる隠し技を警戒して拳一つ分余計に間合いを取って躱したのじゃ。


 その中年は剣を横薙にした勢いのままわらわとゴルバの前で回転し、回転の軸を縦に変化させ二撃目が今度は上からの斬撃として降ってきたのじゃ。回転する都合上斬り合っておる相手に背を見せるというリスクを犯す代わりに遠心力でなかなかの速度とそれによる威力も乗っておる、うむ勇気のある技なのじゃ。

 刀身にかかった霞を吹き飛ばすような勢いで落ちてきた斬撃ではあるのじゃが、所詮想定内なのじゃ。

 勇気はあっても無駄な大技なのじゃ。

 余裕を持ってサイドに避けたわらわ等の目前を勢いが乗った剣が通り過ぎると、大振りで振り下ろしたことでつんのめる中年の横顔が無防備に晒されるのじゃ。


 その中年をストレート一発で沈めて次の獲物を見ると皆完全に及び腰になっておるのじゃ。此奴、此奴等の中では実力者だったのであろうかの。

 まあ剣に霞がかかったのは面白かったのじゃが、あまり意味を感じなんだのじゃがの。若い男もなんぞしようとしておったようなのじゃが、魔法以外の戦士系の技であるとかなのじゃろうかの。気にしたこともなかったのじゃが今度誰ぞに聞いてみようと心にメモをしておくのじゃ。


 誰ぞ、の候補者ジーダルのほうを見やると包帯男の長柄の剣槍を木の棒で打ち流し、うむ正面から受け流すには木の棒では役者不足であるゆえ振り下ろしてくる刃の横腹を棒で打って剣槍の軌道を逸らしておるのじゃ。言うは易しなのじゃが普通あり得ぬ呆れた反射速度なのじゃ。

「悪く思うなよっ!」

 そしてこれまでは無傷で捕らえるために時間を食っておった様子なのじゃがついに諦めたらしゅうそのまま木の棒で殴り倒したのじゃ。

 そのままジーダルは剣槍を取り落としても奇声を上げつつ暴れて組み付こうとしてくる包帯男を地面に抑えつけ制圧したのじゃ。


「な、なんだ。どうなってんだ。なんでやらねえんだ!? おいっ、逃げるな、手前等!」

 紛い物の男が喚いておるのじゃ。残っておった冒険者崩れが逃げ出し、破落戸等はきょろきょろと左右を見て行き惑っておるのじゃ。

 冒険者崩れの判断が速いのではのうて破落戸はおそらく属する組織的なものからの指示に従って来ておるゆえ勝手に逃げ出せずにおるのじゃ。つまり判断が遅いのじゃ。


「やるやらぬ、と言うはそこの路地に暗殺者でも潜んでおって包帯男と争っておる背後からジーダルを襲ってくれるとでも思っておったのかや」

 そんな横槍を入れたところでジーダルに通じることもあらぬと思うがの。そう言い添えながらわらわは薄く笑んでゴルバの後ろから進み出たのじゃ。

 破落戸どもは今更逃げることも出来ず、かと言うて戦意も砕けてしもうたまま建物を背に集まっておるのじゃ。攻守が逆転した格好でバッジとラーリがそれを牽制しておるのじゃ。

 それで全く自分を守ってくれる者がおらぬ状態になった紛い物の男は驚愕やら絶望やらの混じった顔で足を震わせながら立っておるのじゃ。

 此奴自身も冒険者のはずなのじゃがの。


「ば、バカな。やそんな。ネ、ネストル・パーネから貸してもらった暗殺者だぞ!?」

「おい! クグルを殺されるな!」

 紛い物の男がなにやら聞いた気もするのじゃが覚えておらぬ名前を出した瞬間ジーダルが包帯男を押さえ込んだままそう警告を発したのじゃ。

 それは慌てた風に刃物を構えなおして紛い物の男へ走り寄ろうとした破落戸の初動よりも早く、ジーダルの声に反応したバッジとラーリの二人によってボコボコに棒で殴られ沈没したのじゃ。自分等に向かってではのうてその横を走り抜けようとしておった相手ゆえバッジ等も余裕を持ってボコボコなのじゃ。

 そのボコボコにされた一人以外の破落戸は其奴がやられておる間に走って逃げ出したのじゃ。どうしようもあらぬ連中なのじゃ。


「暗殺者が逃げるはずがねえ。まさか最初から俺をはめるための罠だったのか」

「其方に罠にはめるような価値はあるまいの」

 わらわはへたり込んだ紛い物の男にそう言い放ったのじゃ。

 実際には暗殺者は逃げたわけではあらぬのじゃが、それを説明してやる気もあらぬのじゃ。包帯男が出てきた時点で他の仕込みを確認しようとわらわは索敵を行っておいたのじゃ。


 収納空間の取得範囲を広げてそこから選択的に収納しようとすれば範囲内の収納可能物を判別できるのじゃ。例えば部屋で行えば机や椅子、戸棚、机の上のペンや紙、などといろいろなものが選択できるのじゃが、それを利用したチートで周囲を索敵できるというわけなのじゃ。

 索敵の結果収納可能なオブジェクトに倉庫や石畳に混じって暗殺者の名前が含まれておった時点で既に収納してしまっておるのじゃ。無慈悲な行いではあるのじゃが、暗殺者なぞにかける慈悲は初めから持ち合わせておらぬのじゃ。


 さてなんとかパーネとか言うものについて訊いてみるかや、と思うたあたりでガヤガヤと騒がし音が近づいてきたのじゃ。



お読み頂きありがとうございました。


説明されることが先の展開でもあまりなさそうなので無駄解説。

荒んだ雰囲気の若い冒険者崩れは修道会メンバーのパードとレイデの元パーティメンバーのひとりです。

仲違いした後の転落具合がひどい。

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